19 『メタ〇ギアの敵兵よりアホな捕まり方しておいて孔明の所為にするのやめてもらえます!?』
『何が、あったん…ですか!?』
ワタシは、『念話』を飛ばしていた。
その相手は、雪花さんだ。
逸る心を抑えつけるので精一杯になりながら。
『おや、花子殿でござるか?』
焦るワタシとは対照的に、雪花さんはのんびりとしたのものだ。ティーブレイクの最中というわけでもあるまいに。対して、ワタシは呼吸も整っていない。鬼から逃げ切るために全力疾走をしていたからだ。そして、呼気が整わないまま雪花さんに問いかける。
『大丈夫なんで…すか!?』
『なんだか花子殿の息が荒いようでござるが、もしかして、美少年にいたずらしている最中でござるか?』
『そんなセクハラしながら『念話』なんか使うかぁ!』
ワタシのことなんだと思ってんだよ!?
いえーい、雪花さん見ってるー?とか言うと思ったのか!?
『でも、花子殿の鼻息が荒いから「お嬢ちゃんどんなパンツはいてるの?」って聞かれるのではないかと思ってドキドキしてしまったでござるよ』
『雪花さんのパンツなんて今さら知ろうと思いませんよ!』
一つ屋根の下で暮らしてるからそこそこ把握してるんですよ!
…いや、このツッコミは違うな。
そもそも、こんなテレパシーコントがやりたいわけではないのだ。
『だって、雪花さん鬼に捕まっちゃったんでしょ!?』
ワタシは、ようやく本題に入る。
つい先ほど、雪花さんが鬼に捕まったというアナウンスが流れてきた。
この人は、『隠形』という完全ステルスのユニークスキルを持っている、というのに。
なら、何らかのアクシデントがあったとしても不思議ではない。
『ああ、そのことでござるか』
『そのこと以外でこんな時に『念話』なんて飛ばしませんよ…』
これでも、けっこう心配したのだ。
現在、ワタシは物陰に隠れて雪花さんに『念話』を飛ばしていた。『念話』はけっこう集中力を使うので、安全が確保されている場所以外では使用を控えている。
『いやあ、面目ないでござるな。せっかく、みんなで頑張ろうって約束していたでござるのに』
雪花さんは、申し訳なさそうに謝った。
『あ、いえ、謝らないでください。雪花さんに怪我とかなかったならいいんですよ…でも、どうして雪花さんほどの人が捕まっちゃったんですか』
『いやあ、拙者にもよく分からないのでござるが…』
…雪花さんにもよく分からない?
どういうこと?このゲーム、まだ何かあるっていうの?
『なんか、道に美少年の転写画像が落ちていたから、それを拾ってたらいつの間にか捕まっていたでござるよ。不思議でござるな』
『一刻も早く謝ってください!』
どこが不思議なんだよ!?自明の理じゃねえか!
ちなみに、転写画像というのは『転写』の魔石…映像を記録してそれを別の物体に映すことのできる魔石を使用した画像のことだが、今はどうでもいい。どうでもいいのだが、雪花さんはさらにのたまう。
『きっと、ヘンゼルとグレーテルが目印の代わりにあの転写画像を落としていったのでござろうな」
『じゃあ拾っちゃダメでしょ!?ヘンゼルとグレーテルが迷子になっちゃうでしょ!?』
そもそもそんなヘンゼルとグレーテルがいるわけないでしょ!?
『狡猾な仕掛けに、拙者も思わず唸ってしまいましたぞ。「しまった、これは孔明の罠だ」と』
『メタ〇ギアの敵兵よりアホな捕まり方しておいて孔明の所為にするのやめてもらえます!?』
IQ23くらいの罠に引っかからないでよ!?
真面目にやってるワタシが惨めになるのですが!
『いえーい、花ちゃん見ってるー?っていうか聞こえてるー?』
『その声…繭ちゃん!?』
予想外の声に、ワタシは驚く。『念話』は、対象者の体に接触していれば、複数の相手とも交信が可能となる。けれど。
『どうして、繭ちゃんがそこにいるの?』
繭ちゃんと雪花さんが同じ場所にいたことを尋ねた。いや、この二人が一緒にいても不思議でも何でもないのだけれど。
『さっきボクも捕まっちゃったんだ』
『それは…アナウンスで聞いたけど』
ワタシを助けてくれた繭ちゃんは、そのまま鬼に捕まってしまった。慎吾に続いて、繭ちゃんまでもがワタシの所為で。
『でね、花ちゃん。捕まった人ってね、『牢屋』って場所に入れられるんだよ』
『え、そう…なの?』
『うん、ボクたち以外にも、そろそろ何人か捕まり始めてるよ』
繭ちゃんは、そう教えてくれた。
鬼に捕まればリタイアだと聞いていたが…いや、その『牢屋』がリタイアした人たちの収容所ということだろうか?でも、何のために?けど、捕まった雪花さんと繭ちゃんが一緒にいるということは、もしかして…。
『勿論、慎吾お兄ちゃんも一緒だよ』
ワタシが考えていたことを先読みするように、繭ちゃんがそう教えてくれた。
『あ、慎吾も…いるんだ』
前述したが、慎吾が捕まったのはワタシを助けたからだ。そんな慎吾に対し、少々の後ろめたさがワタシの中で芽生えていた。
『ほら、慎吾お兄ちゃんも花ちゃんとお話ししようよ』
どうやら、繭ちゃんが慎吾にも『念話』を送らせようとしているようだが、慎吾の声は聞こえてこない。代わりに、繭ちゃんが話し続けていた。
『もー、そんなんだと、花ちゃんだって気にしちゃうでしょ?花ちゃんの代わりに慎吾お兄ちゃんが捕まったんだって』
『分かったよ…繭ちゃん』
そこで、ようやく慎吾の声が聞こえてきた。きたのだけれど。慎吾はこんなことをのたまっていた。
『分かったってば…分かったから繭ちゃん、『ズンドコベ〇ンチョ』だけはやめてくれ』
『結局『ズンドコベ〇ンチョ』ってアレ謎のままだったよね!?』
慎吾と繭ちゃんの会話から聞こえてきた単語に、思わず反応してしまった。
というか、二人とも『ズンドコベ〇ンチョ』の正体とか知ってんの!?
ワタシも知りたいんですけどぉ!?
『よお、花子…まだ残ってるみたいだな』
慎吾は、なんか久しぶりに会ったクラスメイトみたいな反応だった。ちょっとギクシャクしているというか。
『慎吾と繭ちゃんのお陰で何とかね…そっちってどんな感じなの?』
何を話していいか分からなかったワタシは、そんなことを聞いてみた。というか、ワタシもちょっとギクシャクしている。
『こっちは…なんか、脱落者が一カ所に集められてるよ。『牢屋』とか呼ばれてる場所に』
『そうなんだ…』
そういえば、『缶蹴り』なんかでも鬼に捕まったら牢屋に入れられるんだっけ。
…ワタシ、やったことないけど。
『ええと…それじゃあ、そろそろワタシ行くね』
なんとなくバツが悪くなっていたのはワタシも同じなので、ゲームに戻ることにした。というか、いつまでもここで隠れているわけにもいかないしね。けれど、そんなワタシに慎吾が声をかけてきた。
『ああ、気をつけろよ、花子…なんか、このゲームちょっと妙だぞ』
『…妙?』
妙とは、なんだろうか。けど、慎吾が直観でそう感じたのなら、そう的外れでもないはずだ。
『なんていうか…オレたち以外にも鬼に捕まった参加者はいるんだけど、その人たち、やけにあっさりしてるんだよ』
『捕まったのに、まったく気にしてないってこと?』
『そうなんだよ。なんか、子供の運動会に参加した父兄みたいなノリっていうか。「お疲れさまです」とか「今年も無事に終わりましたね」みたいなことを言い合ってるよ』
『そう…なんだね』
確かに、それは妙だ。
このゲームには、賞金が出る。それも、100万円だ。
莫大といえるほどではないが、それでもそれなりに目の色が変わる金額のはずだ。
にもかかわらず、「お疲れさまでした」の一言で済ませられるものなのか?
本気で駆けずり回って、その上で捕まったのではないのか?
『あ、ちょっと待ってくれ』
慎吾がそう言ったので、ワタシは素直に待った。しばらくすると、また慎吾が語りかけてくる。
『なんか、他の人たちが言ってるんだよ…「今年もあの人がいましたね」って。「やっぱりいたみたいですね」って」
『…あの人?』
どの人のこと?
それに、今年もやっぱりいた?
考え込むワタシに、さらに慎吾が伝えてくれた。
『それに、こうも言ってるよ…「あの人を差し置いて優勝なんてできませんからね」って」
『優勝なんて…できない?』
あの人を、差し置いて?
ホント、どういうこと?
今回も最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
『ズンドコベ〇ンチョ』は『世にも奇妙な〇語』に出てくるお話です。
…もしかすると、『世にも奇妙な〇語』を知らない世代とかもいるのでしょうか?
だとすると、時の流れが怖くなってきますね(汗)
そんな戯言だらけのお話ですが、お読みいただき、感謝しかございません。
次回もよろしくお願いしますm(__)m




