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転生者なんか送ってくるな! ~看板娘(自称)の異世界事件簿~  作者: 榊 謳歌
Case3 『リアルかくれんぼ』

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17 『まだ慌てるような時間じゃないもん!』

「肩透かしというか…拍子抜(ひょうしぬ)けというか」


 ホッとしたような物足りないような、そんな相反する感情が入り混じる不完全燃焼なワタシは、小さく呟いた。


「でも、結果的にはよかったんじゃない?」


 ワタシの呟きに反応してくれたのは繭ちゃんだ。


「まあ…そうなんだけどね」


 ワタシは、手の中の新しい『お宝』に視線を落とす。それは、赤い色をした珠だった。

 結論から言えば、ここでのお宝の入手は楽勝だった。アフロの人…アイギスさんが「手を貸して欲しい」と言ってきた時は、どれだけ難易度の高い課題なのかと思ったけれど。いや、確かに『協力』は必要だった。アイギスさん一人ではクリアできない『課題』だったことは間違いない。


「なんかこう…最初の『課題』とは全く別物だったから面食らったんだよね」


 ワタシとクレアさんが出くわした最初の『課題』は、少し底意地(そこいじ)の悪い問題だった。出題者の心がひねくれていたからだ。

 けれど、ここで出会った『課題』はあんなにひねくれたものではなかった。そもそもの装いからして、最初の『課題』とは違っていた。


「まさか、ウサギさんたちがお出迎えしてくれるとは思わなかったよ」


 とは言っても、本物のウサギがいたわけではない。書き割りにウサギの絵が描かれていたのだ。


「しかもあれ、子供が描いた絵だよね?」


 ワタシは、先ほど見た光景を思い返していた。道路脇にテーブルが置かれていた光景は最初の『課題』と同じだった。けれど、そのテーブルの背後にはかわいらしいウサギが描かれた書き割りが立っていた。


「それに、明らかに『課題』のテイストも違ってたよ?」


 そこで出された『課題』は、一人がウサギの置物に触れている間に、残る二人がウサギ跳びでその周りをくるくる回る、という子供じみたものだった。


「…けどさ、ああいう時って普通、女の子に楽な方を選ばせてくれるものじゃないの?」


 ワタシ、くるくる回ったよ?

 ウサギ跳びで。

 どういう理屈かは分からないけど、それでクリアできちゃったけどさ。

 そんなワタシに、繭ちゃんは言った。


「ちょうどよかったじゃない。花ちゃん、カロリーの消費したかったでしょ?そろそろ本格的にヤバいでしょ?」

「まだ慌てるような時間じゃないもん!」

「傍から見ても花ちゃんけっこうきてるけど…というか、じゃんけんに負けたんだからしょうがないでしょ」

「そりゃそうだけどさ…」


 結局、ウサギ跳びはワタシとアイギスさんの二人でやることになった。こういう時の花形は繭ちゃんだって相場は決まってるんだろうけどさぁ…。


「あのウサギの絵を含めて、『課題』は子供たちが作ったんだろうな」


 アフロのアイギスさんは、楽しそうに笑っていた。いや、この人は、ウサギ跳びをやらされていた時も楽しそうにしていた。けど、ワタシとしては気になった。『子供たちが作った』という部分が。


「このイベントの運営って、子供たちも参加していたんですか?」


 ワタシとしては初耳だった。


「そうだよ、孤児院の子供たちが手伝ってくれてるんだ。というか、このイベント自体、あそこの子供たちのために開催されてるようなものだよ」


 アイギスさんはまだ微笑んでいた。微笑みながら、ゲットした赤色の『お宝』を嬉しそうに眺めていた。ちなみに、その『課題』では三つの『お宝』が手に入った。なので、みんなで山分けをした。どちらにしろ、このゲームで勝ち残るためには三種類のお宝を手に入れなければならない。同じ色の『お宝』を集めても、それは一種類としかカウントされない。と、そこでワタシは、『お宝』の話よりもアイギスさんが先ほど口にした言葉が気になった。ので、そのまま問いかける。


「このゲームって、子供たちのために開かれたものなんですか?」


 アイギスさんはそう言っていたが、ワタシとしてはやや()に落ちない。そもそも、このゲームには子供は参加できなかった。参加には年齢制限があり、繭ちゃんでギリギリだったのだ。それに、今回の『課題』なら兎も角、最初の『課題』などは子供向けとは言えない。鬼だってかなり本気で追いかけてくる。子供の足では逃げ切れないはずだ。何より、賞金の額が百万円だ。大人の目の色が簡単に変わる額だ。となると、子供たちが気軽に参加していいものではない。


「え、ああ、まあその…ほら、子供たちなら観客席で楽しんでるから」


 それまでの微笑みとは違い、アイギスさんは苦笑いを浮かべていた。


「子供たちが楽しんでくれてるなら、ボクも嬉しいな」


 繭ちゃんは、普段の繭ちゃんスマイルで笑っていた。それにつられたように、アイギスさんの笑顔も戻る。


「お、繭ちゃんはいい子だな」

「そうでしょ?繭ちゃんはワタシの子供だからね」


 ワタシは、自慢の繭ちゃんを自慢した。


「ボク、花ちゃんの子供になった覚えはないんだけど…」

「え、でもこの間、雪花さんにかけっこで勝ったから繭ちゃんの親権は今はワタシが握ってるんだよ?」

「なんでボクの知らないところでボクの親権を花ちゃんが握ってるの…?」

「そのかけっこで勝つまでは雪花さんが繭ちゃんの親権を持ってたからね。あそこで取り返せてよかったよ」

「ボクの親権をメンコみたいに賭けるのやめてくれないかなぁ!?なんでボクの知らないところで親権が行ったり来たりしてるの!?」


 繭ちゃんは割りと本気で驚いていた。となると、あのことはもう少し黙っておかなければならないかもしれない。次は、白ちゃんの親権も賭けようかと雪花さんと話し合っていることを。


「やっぱり、子供ってのは笑ってないといけないな」


 アフロのアイギスさんは、ワタシたちのやり取りを眺めながら笑っていた。そして、続けて呟く。


「子供ってのは、笑ってないといけないよ。笑った分だけ立派な大人になるんだ」

「アイギスのおじさんは子供が好きなんだね」

「繭ちゃん…おじさんは、まだおじさんじゃないんだよ」


 アイギスさんは、繭ちゃんの言葉に割りと迫真な顔をしていた。


「けどまあ、子供は好きだよ。誰だって子供が辛い思いをしていたら嫌だろう?」


 アイギスさんは虚空を眺めていた。サングラスの奥の瞳は、寂しげに見えた。そして、続ける。その言葉は、祈りのようにも懺悔のようにも聞こえた。


「子供ってのは守られてなくちゃいけないし、ダレカに(はぐく)まれていないといけない。親がいないのなら、みんなでその子の親になってやればいい」

「それって…孤児たちのことですか?」


 ワタシは、雪花さんと一緒の時に会ったあの子たちのことを思い出していた。


「そうだな…孤児といっても、親がいないというだけの子供だ。区別も特別も必要ない。ただ、普通に接してやればいい」

「普通…ですか」


 それは、とても簡単であり、とても難しいことでもある。

 ワタシは、病に侵されていた。それは、ある意味では特別なことだ。お医者さまでも草津の湯でも治せなかった。

 だから、『普通』に憧れた。何度も泣いて願った。

 ワタシを『普通』にしてください、と。

 結果として、ワタシはソレを手に入れることはできなかった。

 だから、『普通』こそが、ワタシにとってはとても特別なものだった。

 けど、アイギスさんは普通に語る。

 

「ああ、普通だ。普通に接していれば、向こうも普通にしてくれるもんだよ。そしたら普通に負ぶさってきたりするし、普通に蹴りとか入れてくるし、普通にほっぺたにキスとかしてくるんだよ」

「…それ普通なんですか?」


 普通ってなんだっけ?ワタシが小首を傾げている間にも、アイギスさんは話し続ける。


「それくらい普通の子供たちだってことだよ。孤児だとしても、ね。けど、普通だからこそかわいいんだ」

「かわいい…ですか」


 まさか、このアフロはロリのコンという人種ではないだろうか?通報しますた案件ではないだろうか?


「ああ、特にかわいいのは、もらったおもちゃとかで楽しそうに遊んでいるところとか、かな。知ってるか?あいつら手作りのおもちゃとかでもすっげえ大事にしてくれるんだぜ。もちろん、店で売ってる人形なんかも大事にしてくれるけどな」


 アイギスさんは、また快活に笑った。サングラスの奥の目は、無垢(むく)な色をしていた。


「さてと、そろそろ行くとするかな…ちょっと無駄話をしちまったかな」


 アイギスさんは、ワタシと繭ちゃんの肩に手を乗せた。そして、発破(はっぱ)をかけてくれる。


「頑張れよ、二人とも。俺も、このゲームは負けられないけどさ」

「はい、アイギスさんも頑張ってください…ワタシも、負けられませんから」


 クレアさんと約束したんだ。慎吾にも、カッコ悪いところは見せられないんだ。


「それじゃ、またな」


 この場から立ち去ろうとしたアイギスさんの背中に、ワタシは待ったをかけてしまった。クレアさんの時と同じように、名残惜(なごりお)しさを感じてしまったのかもしれない。


「ええと、アイギスさんも、『勇者』さんには気を付けてください」

「…『勇者』?」

「あの人の所為で、ワタシ、鬼に捕まりかけたんですよ」


 アイギスさんは、キョトンとした表情でこちらを眺めていた。

 …そうか、『勇者』と言われても誰のことか分からないのかもしれない。


「あ、ええと…」


 そこで、気が付いた。

 ワタシ、あの『勇者』さんの名前を知らないんだ。

 けれど、アイギスさんはワタシが予想していなかった言葉を口にした。


「アイツ…余計なことを」

「…?」


 余計なこと?

 それに、アイツ?

 ワタシが問いかけようとしたけれど、そこで数珠が振動を始めた。


「残念だがここで解散だな!逃げ切れよ、二人とも!」


 アイギスさんのその言葉を合図に、ワタシたちは蜘蛛の子を散らしたように逃げ始めた。

 ワタシと繭ちゃんは、アイギスさんに声をかけることもできなかった。


「アイギスさん…」


 もしかすると、アイギスさんは、『勇者』さんのことを知っていたのかもしれない。

 けど、ワタシは鬼から逃げながらこうも思っていた。

 …もしかすると、ワタシ、アイギスさんとどこかで会っていたのではないか?と。


「いや、あんなアフロとか忘れられないはずだけどさ…」

今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

前話で花子が『たけのこ派』だったことが判明したのですが…その所為かブックマークが一つ減っておりました。

これは『きのこ派』の方の怒りを買ってしまったからなのでしょうか…。

やはり、迂闊に踏み込んでいい問題ではなかったようですね><

それでは、次回も頑張りますので、よろしくお願いいたします。

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