16 『誰だよ、異世界に『きのこたけのこ戦争』の火種をまいたヤツは!?』
「なんていうかね、ここって異世界だよね?」
ワタシは、隣りにいた繭ちゃんに語りかける。
疑問形で。
「そう…だよ?」
繭ちゃんは相槌を打った。
疑問形で。
「今までね、ワタシは異世界で色々なモノを見てきたよ?」
「奇遇だね…ボクもだよ?」
ワタシと繭ちゃんは、ひそひそ話をしていた。ひそひそ話とは、第三者に話を聞かれたくない時に行うものだが、正直お行儀がいいとは言えない。本来なら重篤なマナー違反であり、目の前にいるこの人に対してはかなりの失礼にあたる。けれど、ワタシと繭ちゃんはその不躾な行為を継続していた。
「エルフちゃんたちも、ワタシは見たよ?遠目にだけど、オークさんたちも見たんだよ?」
「そうだね…ボクも、ライブの時とか色んな人たちを見たよ?」
「だけどね、繭ちゃん…?」
「うん…花ちゃん?」
ワタシと繭ちゃんは、そこで同時に目の前のこの人に視線を向けた。
「「アフロは初めて見たよ?」」
ワタシと繭ちゃんの声は、ユニゾンしていた。二人の意識が、完全に同調したからだ。
けど、そりゃするよね?
だってアフロだよ?あのボアボアヘアだよ?
「ワタシの中の『異世界ビックリランキング』がアフロで更新されたんだけど…」
なんで異世界にアフロがあるんだよ?
いや、知らないだけで元々あったのだろうか?
でも、今まで一回も見たことなかったしなぁ。
そんなワタシたちの視線に気付いたのか、目の前のアフロの人が口を開いた。
「おいおい、そんなに俺の帽子が気になるのかい?」
「気になってるのは帽子じゃないよ!?いや、帽子も気になるけどさ!なんでアフロの上から帽子かぶってるの!?」
反射的にツッコんでいた。けど、こっちに来てからかなり鍛えられたはずの花子ちゃんのツッコミ力をもってしても、この人に対して適切な返しが浮かばなかった。本当に、なんでこの人、アフロの上から帽子とかかぶってんの?というか、かぶれてないんだよ。頭にのっけてるだけなんだよ。というか、よく頭にのせられたね?アフロの高さけっこうあるよ?アフロ込みだったら身長いくつなの?
「いいだろう?最近のお気に入りなんだ」
アフロの人は平然としていた。どうやら、こちらのリアクションなどは意に介さないお人のようだ。強敵なんだよなぁ、この手のタイプは。ワタシの周りそんな人ばっかりだけど。
「でもさ、アフロの人がボクたちに何の用なの?」
繭ちゃんの言葉で、ようやく本題に入れた。この人がワタシと繭ちゃんの前に唐突に現れ、先ほどのやり取りがあった、というわけだ。
「ああ、君たちもこのゲームの参加者だろ?」
アフロの人は真顔で問いかける。いや、よくその頭で真顔とかできるな。
「そういうあなたも…参加者なんですか?」
「ああ、見ての通りだよ」
アフロの人は自信満々でそんなことを言うが、ワタシとしては「見て分からないから聞いてるんだよ!?」とツッコミたくなる。かくれんぼに参加するのに、「その頭でっかちはおかしいだろ!」って、言いたかったよ。でも、我慢したのだ。なんでもかんでもツッコむわけではないのだ、ワタシだって。
「…でも、開会式の時にいなかったんじゃない?」
繭ちゃんがアフロの人に尋ねた。そう、それはワタシも気になっていた。こんな目立つ人があの場にいたら、ワタシたちが気付かないはずはない。
「ああ、俺はちょっと遅刻しちゃってね」
アフロの人は、また平然と言ってのけた。アフロにばかり気に取られて、この人の容姿はあまり気にしていなかったが、どうやらそこそこ若いようだ。それでも、雪花さんよりは年上のようだったけれど。それに、意外と端正な顔立ちをしている。いや、サングラスをしてるから目の奥はよく見えなかったけどさ。というかサングラスにアフロかよ。サングラスは真っ黒というほどじゃなかったけど、怪しさトライアングルじゃないか。
「まいったよ、時間がないっていう時に限って、俺の子猫ちゃんたちが放っておけない状態なんだよね」
アフロの人は、プレイボーイ御用達みたいな言葉を口にしていた。あ、この人、繭ちゃんの教育に悪いだ。
「けどさ、仕方ないだろ?うちの子猫ちゃんたち、俺の膝の上で『へそ天』して寝てたんだぜ?」
「それはしょうがないですね。人類なんて結局はお猫さまの下僕ですから」
「花ちゃんがボケに回ると話が進まないって、ボク何度も言ってるよね?」
繭ちゃんのお陰で、この場は何とか軌道修正された。
「それで、ワタシたちに何か御用でしょうか?」
ワタシは、アフロの人に問いかける。実は、そこそこ警戒はしていた。つい先ほど、『勇者を名乗る不審者』にとんでもない目にあわされたばかりだからだ。
「単刀直入に言うと、少し手を貸して欲しい」
「…手を貸す?」
アフロの人の言葉に、ワタシと繭ちゃんは小首を傾げる。
「このゲーム…基本的に個人戦のはずですけど」
「ああ、その通りだ」
アフロの人はワタシの言葉に頷いた後、こう続けた。
「けど、今回からは『課題』の中に協力しないとクリアできないものが混じってるみたいなんだよ」
「協力しないとできない『課題』…ですか」
ルール説明の時には、そんなことは言っていなかったはずだが。
「俺も見つけて驚いたよ。でも、あっちにあったんだ」
アフロの人は、自分の後方を指差した。そして、ワタシたちに頼んでくる。
「というわけで、きみたちにも協力して欲しいんだ」
「協力…ですか」
ワタシは、そこで口籠る。二つ返事で『イエス』と言えるものでもない。しかし、ワタシが二の足を踏んでいると、繭ちゃんが言った。
「ボクは別にかまわないけど」
「でも、繭ちゃん…」
「この人、罠とか仕掛けて他人を蹴落とすタイプじゃないと思うよ」
繭ちゃんはあっけらかんとしていた。意外とこの子、人を見る目がシビアなんだよね。しかも、その人を見る目がけっこう正確なんだよ。その繭ちゃんが言うのなら、信じてみてもいいかもしれない。
「ああ、そうだよ。俺は争いが嫌いなんだ。平和主義者だからね」
サングラスの奥の瞳が、少しだけ寂しそうに見えた。
「俺は争いが嫌いなのに、争いは、俺の周りからいなくなってくれないんだ…異種族同士の争いも、今は沈静化しているとはいえ、完全にはなくなっていない」
少しだけ空中を見つめ、アフロの人は物憂げに呟く。
「他にも、眼鏡がいる派といらない派の争いも、なくなってはくれないんだ…」
「…眼鏡のあり、なしで争ってるんですか?」
アレか?ヒロインに眼鏡はいる派といらない派のヤツか?
ヒロインが途中で眼鏡をはずしたら戦争になるヤツか?
「ああ、悲しいことにね…俺は眼鏡あり派の原理主義者だけど」
「じゃああなたもその争いの片棒を担いでるってことですよね!?」
よくそれで平和主義者の看板とか掲げられたな!?
アフロの人は、さらに語る。
「他にも、きのこ派とたけのこ派の争いもなくなってはくれないんだ…」
「こっちでも争ってんのかよ!?」
誰だよ、異世界に『きのこたけのこ戦争』の火種をまいたヤツは!?
アレいまだに鎮火してないよね!?そんなに泥沼の争いがしたいのか!?
ちなみにワタシは『たけのこ派』だぁ!
「そんなわけで、ちょっとの間でいいから手を貸してくれないか?」
アフロさんは、そこで快活に笑った。確かに、その笑顔に裏表はなさそうだった。
「ボクはオーケーだよ」
「ワタシとしては胡散臭さが増しただけですが…繭ちゃんがいいなら、協力しますよ」
こうして、ワタシ、繭ちゃん、アフロさんの即席チームが結成された。
「ありがとう、少年少女の諸君…と、すまない、俺としたことがまだ名乗ってなかったな。俺はアイギスっていうんだ。見ての通りの好青年だ、よろしくな」
アフロさん…アイギスさんは、また快活に笑った。好青年は自分のことを好青年とは言わないだろうけれど。
「ボクは繭ちゃんだよ。かわいいんだ。そして、こっちは花ちゃん。最近、お尻にお肉がついてきたんだって」
「ついてないわぁ!」
お肉なんてついてませんー!
むしろ減ってますー!
「よし、こっちだよ」
ワタシたちのやり取りを笑って眺めていたアイギスさんは、そう言って歩き始めた。
鬼に見つからないように、こっそりと。
ワタシたちは、すぐにその『課題』を見つけた。
…けれど。
「これ…ですか?」
え…?
本当に、これが『課題』?
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
世の中には、眼鏡の有無がバフになる派とデバフになる派がおられるようですけれど、今からでも花子に眼鏡をかけさせるべきでしょうか?
そして、花子は『たけのこ派』だったようですけれど、もしかすると、『たけのこ派』のヒロインは嫌われたりするのでしょうか?
世の中は分からないことだらけですね。
それでは、次回も頑張って仕上げますので、よろしくお願いいたしますm(__)m




