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転生者なんか送ってくるな! ~看板娘(自称)の異世界事件簿~  作者: 榊 謳歌
Case3 『リアルかくれんぼ』

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11 『なんですか、これ』

「何人たりとも、ワタシの前は走らせません!」


 クレアさんの手を引き、気合を入れるためにそんなセリフを小声で叫びながら駆け出した。いや、かけっこじゃないからこのセリフはおかしいんだけどね。テンション上がってたからね、しょうがないよね。しかし。


「…数珠の振動が」


 走りだして数秒もたたないうちに、数珠の振動が強くなった。

 …という、ことは。


「鬼に、追い付かれて…る?」


 ワタシの声に焦りが混ざる。鬼との距離が近くなれば、それだけ数珠が強く震えるという説明は事前に受けていた。


「鬼は…待ち伏せができない、はずだ」


 ゲーム前に『鬼は移動し続けないといけない』という縛りがあると、ワタシたちは聞いていた。そうでなければ、鬼はお宝の近くで参加者を待つだけでいいことになってしまう。そして、鬼は一定時間が経過する前に別の場所に移らないといけない、という制約もある。これも、鬼がお宝の傍に張り付くことを禁じたルールだ。理由は先ほどと同様だ。


「…待ちガイルは悪い文明だからね」

「待ち…なんですか?」

「気にしないでください、クレアさん」


 かなり小声で呟いていたはずだけれど、クレアさんには聞こえていたようだ。

 いや、そもそもそんな戯言を吐いていたワタシが悪いのだけれど。そして、そんなことをしている間にも、数珠の振動は、増していた。


「…………」


 前方に鬼の姿は、ない。

 けれど、後方にも、鬼の姿はなかった。

 背後の曲がり角の先、死角になっている場所から鬼はこちらに向かって来ている…と、ワタシは考えていた。だから、ワタシたちは前に進んでいる。それなのに、数珠の振動は増していた。

 …これは、どういうことだ?


「鬼がワタシたちの後ろにいるなら、距離は開いていないとおかしい…」


 こちらがX軸で移動しているとすれば、鬼はy軸の移動をしていることになる。距離をつめられる道理はない。寧ろ、その距離は開いていなければならない。

 それなのに、数珠の振動は強くなっている。


「やっぱり…前には、鬼はいない」


 前方はかなり先まで見通せる。そちらに鬼の姿はない。

 この通りの左右には、隠れられる場所などない。そもそも、鬼は隠れてはいけない。

 なら、鬼がいるのはワタシたちの後方しかない。

 それなのに、数珠の反応は激しくなっていく。

 それに呼応するように、ワタシの心臓も早鐘を打つ。

 その早鐘が、ワタシの混乱に拍車をかける。


「…!」


 そこで、ワタシは(つまづ)いた。転倒してしまった。無様にすっ転んだ。途中でクレアさんの手を離したので、辛うじて二次災害は防げたが。


「…何をしているんだ、ワタシは」


 クレアさんを守ると言ったのに、これでは、ワタシがこの人の足を引っ張ってしまっている。


「大丈夫ですか、花子さん?」

「…ワタシは、大丈夫です」


 足を(くじ)いたりもしていない。けれど、これでは文字通りの足手(まと)いだ。


「クレアさん…クレアさんだけでも逃げてください!」


 大声にならない声で、クレアさんに叫ぶ。

 こうしている間にも、数珠は壊れたアラームのように振動している。


「花子さんを置いてはいけませんよ」

「そんな、でも…」


 それでは、共倒れだ。しかも、その原因はワタシだ。ワタシの所為で、クレアさんまで鬼に捕まってしまう。それは…駄目だ。ワタシは、ダレカの負担にはなりたくない。

 けれど、クレアさんは言った。


「もう少し、楽しみませんか?」

「…何を、言って」


 いるんですか?

 こうしている間にも、鬼が近づいてきているんですよ?

 けれど、クレアさんはほっこりとした笑みを浮かべていた。


「これはかくれんぼなのでしょう?でしたら、もう少し笑いましょう?」

「で…も」


 それでは、捕まってしまう。

 ワタシがドジを踏んだせいで、クレアさんまでリタイアにされてしまう。ワタシはいい。ドジを踏んだのは自業自得だ。


「うちの子たちは、いつも楽しそうに遊んでいましたよ」


 焦燥でまともに思考もできないワタシに、クレアさんはそう言った。そして、続ける。


「ゲームというのは、みんなで楽しく遊ぶものですよ。でなければ、それはゲームではありませんから」


 そこで、クレアさんは両手でワタシのほっぺたをぷにっと引っ張った。ワタシに笑顔を作らせようとして。


「ふレあ…ひゃん」


 ほっぺを引っ張られたままなので上手く発音できなかった。


「いいじゃないですか、ゲームは失敗するものですよ。その失敗は、笑いの種に変えればいいんですから」


 クレアさんは、微笑んだ。多分それは子供たちに向けている笑みと同じものだ。


「…情けないですね、ワタシは」


 勝手に熱くなって、周りが見えなくなっていた。これがゲームだということを忘れてしまっていた。賞金は少し惜しいけど…ちょっと惜しいけど、かなり惜しいけど、忘れることにしよう。忘れられなかったら、慎吾ににんにくチャーハンを作ってもらおうかな。すっごく美味しいんだよね、慎吾のにんにくチャーハンって。「繭ちゃんが嫌がるから」って理由であんまり作ってくれないんだけど。


「ありがとうございます、クレアさん」

「いえ、私はただ、花子さんに笑っていて欲しかっただけです」

「いえ、ほんとにクレアさんと一緒でよかったですよ…心の中に『ユリを見守るおじさん』がいるとは思えませんよ」


 …いつから住み着いてるんだろうね、そのおじさん。除霊とかできないのかな。

 などと、鬼に捕まる覚悟もしていたワタシだけれど。


「…来ないですね」


 鬼は一向に現れなあった。

 それどころか、数珠の反応が…。


「…弱くなってる?」


 先ほどまでけたたましく振動していた数珠の反応が、少しずつだが小さくなっていた。


「どういうことなのでしょうか?」


 クレアさんも小首を傾げていた。


「ああ…そうか」


 そこで、気が付いた。ついつい、笑いだしてしまいそうになりながら。いや、ほぼ含み笑いをしてしまっていた。そんなワタシを、クレアさんは不思議そうな瞳で眺めていた。


「鬼がワタシたちに近づいていたんじゃあ…なかったんですよ」


 ワタシは、不思議そうな表情を浮かべるクレアさんに言った。

 分かってしまえば簡単なことだ。トリックでもマジックでも何でもない。しいて言うなら、ただの早とちりだ。


「ワタシたちが、鬼に近づいてしまっていたんです」

「私…たちが?」


 クレアさんはオウム返しでそう口にした。


「ええ、鬼は後ろにいたんじゃなくて、ワタシたちの前にいたんです。そして、ワタシたちはそうとは知らずに鬼に向かって前進していた…そりゃ、数珠だってすごい勢いで警告しますよね。『ちょ、待てよ!』って感じで」

「え、でも…」


 クレアさんは前方に目を向ける。そこには、誰もいない。クレアさんは腑に落ちない、といった面持ちだった。そんなクレアさんにワタシは言った。


「ほら、数珠の振動は弱くなっていますよ」


 これは、鬼との距離が開いている、ということだ。


「でも、花子さん…鬼の姿は、どこにもありませんよ」

「トイレに入っていたんです」

「…トイレ?」


 やや上擦った声を、クレアさんは上げる。


「ええ、鬼はトイレに入っていたんでしょうね。そこに、ワタシたちが近づいてしまっていたんです」


 このまま進んでいたら、そのまま鬼と鉢合わせをしていたはずだ。結果論にしかならないが、さっき転んだのはある種の正解だった。怪我の功名というやつかな。


「基本的に鬼は移動し続けていないといけないはずですが、トイレは仕方ないですよね。そして、用を済ませた鬼は、反対側の出口から出て行ったんです」


 あそこの公衆トイレは、どちら側からも入れるし、どちら側からも外に出られる。


「ということは…私たち、命拾いしちゃいましたね」

「しちゃいましたね!」


 クレアさんは、笑っていた。

 ワタシも、笑っていた。

 緊張から解き放たれ、笑みが込み上げてきた。

 だから、ワタシも嬉しくなった。

 だから、ワタシは叫んだ。


「たーのしー!」


 もちろん、声量は抑えてたよ?


「鬼の反応も消えましたし…お宝をゲットしに行きましょう」


 クレアさんを促し、ワタシたちはクレアさんが見つけたというお宝の場所に向かった。

 幸い、鬼は近くにいなかったようだけれど…。


「なんですか、これ?」

 

 確かに、お宝を手に入れるためには『課題』を達成しなければならないとは聞いていた。

 けれど、これは…。


『以下の三枚のカードの中から正解を選択しろ

 ただし、カードをめくれるのは一度だけ』


 などと、書かれていた。

今回も最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

そして、こんな中身のない後書きを読んで下さり、感謝でございます。

というか、今さらですがこんな後書きに需要があるかどうか心配になってきました。

…いや、需要云々の話をするのなら、そもそもこんな話に需要があるかどうか、という話になるのですが。

考え始めると本気で小説自体が書けなくなりそうなので、この辺にしておきます…。

それでは、次回もよろしくお願いいたします。

頑張って書きますので!

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