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転生者なんか送ってくるな! ~看板娘(自称)の異世界事件簿~  作者: 榊 謳歌
Case3 『リアルかくれんぼ』

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5 『繭ちゃんVS白ちゃんVSパン屋のおじさんVSダークライ(意味深)みたいな展開にはならないよね?』

「…………」


 ワタシは、街角の物陰で新聞を読んでいた。

 いや、読んでいたフリをしていただけだ。新聞の文字を目で追う素振(そぶ)りをしながら、視線は別の場所に向けられていた。ワタシは、忍んでいた。こうして物陰で息を潜め、新聞で顔を隠して機を窺っていた。対象に接触するための、機を。気分はまさにハードボイルドだ。


「…今だ」


 そして、その機会は訪れた。対象が一人になった瞬間、読んでいた新聞をたたんで小脇に抱え、ワタシは歩を進める。靴音を立てず、それでも、風を切るように素早く(当社比)。


「おや、どうしたんだい、花子ちゃん」


 対象に近づいたワタシに、対象の方から声をかけてきた。その声は男性らしく低音ではあるが穏やかで、丸みを帯びている。ついでに、この人はシルエットも丸みを帯びている。そして、誰に対しても、この人はこんな感じだ。だから、この人は王都の誰からも親近感を持たれている。


「買いたいものがあります」


 簡潔な言葉で要件だけを告げた。

 しかし、対象から帰って来た言葉は…。


「…ガーリックトーストなら、普通のしかないよ?」

「え、にんにく三倍マシマシのスペシャルガーリックトーストは!?」


 ワタシのフェイバリットトーストなのに!?ハニートーストより映えるのに!?

 しかも、店頭から消えるのは二度目なのだ。前に消えた後、頼み込んで…いや、拝み込んで復活させてもらったのだ。


「いや、あれやっぱり不評だったから…店には置けないかなって」


 対象は…パン屋のおじさんは、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。ワタシは、カウンターの向こうにいるおじさんに問いかける。もはや、ハードボイルドごっこなどやっている場合ではない。


「そんな…いったい誰の評判が悪かったんですか!?」

「繭ちゃん」

「繭ちゃんかー!」

「あと白ちゃん」

「白ちゃんもかー!」


 あの二人からの評判が悪かったらそりゃ出せないよね…と、今はそうじゃない。そうじゃないこともないんだけど、そうじゃない。ワタシは、パン屋のおじさんに切り出した。


「あの…買いたいものがあるっていうのはそっちじゃなくて」

「ああ、今日はいらないんだね」

「後で買います。普通のガーリックトーストでいいので」


 仕方がないので、にんにくは自分でマシマシにすることにした。思いっきり映えるデザインにしてやるのだ。


「ええと、ちょっとおじさんに教えて欲しいことがあるんですよ」


 スパイの真似事はやめて普通に尋ねることにした。ちょっと『情報の売り買い』ごっこがしたかっただけなのだ。


「え、何かな?おじさんが結婚できない理由とかは聞かないでおくれよ」

「…聞きませんよ、そんなこと」


 というか聞けないよ、そんなこと…。

 とんでもないことを告白とかされてもワタシ受け止めきれないよ?


「去年、パン屋さん…ジャックさんは王さま主催の『ゲーム』に参加されたんですよね?」


 ワタシは、ようやく本題に切り出した。ワタシが…いや、ワタシだけでなく繭ちゃん、そして最近では白ちゃんもお世話になっているこのパン屋さんのおじさんはジャックさんという名だ。


「ああ…そういえば、今年もそんな時期だね」


 そこで、ジャックさんの声が1オクターブほど下がった。その表情も、少しだけ陰る。『いつも明るいパン屋さん』のこの人からすれば、珍しい表情だった。そこに違和感のようなものを感じたが、ワタシはさらに尋ねた。


「しかも、けっこういいところまでいったって聞きましたよ。具体的には、もう少しで優勝できるところだったとか」


 つまりは、もう少しで百万円に手が届くところにまで肉薄したということだ。


「…昔の話だよ」


 パン屋のカウンター越しに、ワタシとおじさんは対峙していた。そんなワタシとおじさんを、ガラスケースの中のパンたちが物静かに眺めていた。

 …ガーリックトースト以外のパンも買って帰ろう。ここはおやつパンも美味しいのだ。


「その時のことを教えて欲しいんです…どんなゲームだったのか、とか」


 兎に角、ワタシとしては情報が欲しい。去年のゲームを知らないワタシからすれば、その情報があるかないかで状況が大きく変わる。


「といっても…ね」


 珍しく、パン屋のおじさんの口が重い。この人はけっこうお喋りで、ワタシだけでなく、他のお客さんたちともよく楽しげに談笑していた。特に、繭ちゃんと仲がいいんだよね、この人。なんか波長が合うのかな?ただ、そんな感じだったからフィーネさん(雪花さんの同人仲間)に、『繭ちゃんVSパン屋のおじさん』とかいう一目で分かる頭の悪い本のネタにされそうになっていたけれど。


「まあ、鬼から隠れてお題をクリアしていくって感じのゲームだったよ」

 

 パン屋のおじさんは、そう言った。軽く瞳を逸らしながら。


「ええと、そういうのは聞いたんですよ…できれば、そのゲームの中で感じた印象とかを聞かせてもらいたんですけれど」

「もしかして…あのゲームに参加するつもりかい?花子ちゃんが?」


 パン屋のおじさんの問いかけに、ワタシは頷いた。


「ん、んんー…やめておいた方がいいんじゃないかな」

「え、どうしてですか?」

 

 意外な答えが返って来た。

 まさか、『ゲーム』の参加そのものを反対されるとは思わなかった。


「そうだね…その、参加者同士で小競り合いが合ったりもするから、女の子は危ないかもしれないよ?」


 パン屋のおじさん…ジャックさんは、親切そうな声でそう教えてくれた。ワタシのことを案じてくれていることが伝わってくる。

 …けど、ただのゲームだよね?


「でも、そういう危険行為は騎士団の人たちがちゃんと禁止とか監視をしてるって聞きましたよ?」


 騎士団長であるナナさんが教えてくれた。


「確かに、怪我したりとかはないかもだけど…おじさんとしては、あの『ゲーム』に参加するのはあまりお勧めしないかなぁ」

「え、でも…去年、おじさんは出たんですよね?」


 その時に怪我をした、という話も聞いていない。


「ああ、出ちゃったねえ…空気とか読まずに」

「…空気を読まずに?」


 どういうこと?お祭りの余興に参加しただけだよね?

 ワタシがさらに追及しようとしたところで、意外な声がかけられた。


「何してるの、花ちゃん?」

「え…繭ちゃん?」


 そこにいたのは、繭ちゃんだった。今日はダンスの練習の日だと言っていたか。この子、アイドルだからなぁ、男の子だけど。そして、そんな繭ちゃんの後ろにいたのは白ちゃんだ。この子も、この異世界ソプラノとは別の世界からやってきた。ただし、ワタシたちのように元の世界で命を落としてこの世界で生まれ変わった、というわけではない。生きたまま、こことは違う異世界からこのソプラノに漂着したのだそうだ。こうしたケースは稀なので、シャルカさんでも何も分からなかった。

 この子が、どこから来たのか。

 この子は、元の世界にどうすれば帰れるのか。


「…………」


 現在、行く当てのない白ちゃんはワタシたちと同じ家に住んでいる。元の世界に帰れるその日まで。

 そんな白ちゃんは、同い年である繭ちゃんと一緒にいることが多い。そして、繭ちゃんを真似して女の子の格好をしている。白ちゃんを繭ちゃんとセットで売り出せばとんでもない相乗効果でウハウハとなりそうなのだが、白ちゃんはアイドルには興味はないようで、繭ちゃんのマネージャーのようなことをしている。


「二人してどうしたの?」


 ワタシは、とりあえず繭ちゃんたちに聞いてみた。繭ちゃんと白ちゃんは二人で手をつないで歩いていた。んー、健全なはずなのに垂涎(すいぜん)の光景なんだよなぁ、雪花さんとかには。


「先に聞いたのはボクなのに…まあいっか、ちょっとお腹が空いたから何か食べようかって白ちゃんと話してたんだ」


 繭ちゃんは、そこで「ねー」と白ちゃんに顔を傾ける。白ちゃんも「ねー」と返していた。ホント、これだけでお金とれそうだよ?そんな繭ちゃんにおじさんが声をかけた。


「久しぶりだね、繭ちゃん!」

「おじさん、お久しぶりー」


 繭ちゃんは普段と変わらない笑顔で愛想を振り撒いていた…これはいつも通りなのだが、パン屋のおじさんの方がおかしかった。なんだか、露骨にテンションが上がっている。いや、元々この二人は仲がよかったとは思うけれど。


「久しぶりにおじさんのホットドックが食べたくなったんだー」

「嬉しいこと言ってくれるね、繭ちゃんは…よーし、おじさんオマケしちゃうぞー!」

「わーい、だからおじさん大好きー」

「あはは、繭ちゃんは本当にかわいいなー」


 セリフだけを読んでいれば、商店街の微笑ましい一コマみたいに見えるかもしれないが…おじさんが繭ちゃんにデレッデレだった。

 以前から仲がいいのは知っていたが、こんなだっただろうか?

 おじさんがしてはいけない顔を、おじさんはしているのだが?


「はい、白ちゃんにもオマケしたからね」


 おじさんは、白ちゃんにも同じようないかがわし…妙に頬が緩んだ笑顔でホットドックの入った袋を手渡していた。


「わー、ありがとー」


 と、白ちゃんは無垢な笑顔で受け取ってケチャップのかかったホットドックを頬張っていた。

 …そんな白ちゃんや繭ちゃんを、パン屋のおじさんはもんのすごく緩んだ笑顔で眺めていた。

 

「…………」


 …まさか、ないよね?

 実写版、繭ちゃんVS白ちゃんVSパン屋のおじさんVSダークライ(意味深)みたいな展開にはならないよね?

 いや、ワタシも何を言っているのか分からなくなりそうだけれども。

今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございます!

ちょっと『ゲーム』前に足踏みをしておりますが、そろそろちゃんと始めますのでよろしくお願いいたします。

そして、フィーネ(雪花の同人仲間)は繭ちゃんVSシリーズを幾つか考えていたりします。繭ちゃんVS本屋のおじさんとか…。

まあ、そんな感じでほぼ戯言しかほざいておりませんが、次回もよろしくお願いいたします。

手抜きだけはしておりませんので><

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何も知らないダークライが犠牲に……。
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