16 『結局、黒歴史を生み落とすのって自分自身なんだよね』
「…実は、隠し場所の見当はなんとなくついてるんだよね」
え、何の隠し場所かって?
「勿論、奪われた『秘石』だよ」
そうなんだー、やったね。
そんな感じで、ワタシがワタシに問いかけていて。
そんな感じで、ワタシにワタシが答えていた。
今日、ワタシは一人だった。
シャルカさんに「盗まれた『秘石』の行方に心当たりがある」と言ったら、調べてきていいと許可をくれた。そんなシャルカさんは、今日も今日とて二日酔いだった。
どうして、世の中から二日酔いって言葉がなくならないんだろうねー。
ねー、不思議だね。
そんなこんなで、一人のワタシは、心の中のワタシとワタシでお話をしていた。
何やらかわいそうな人みたいな扱いを受けるかもしれないが、考え事をまとめる時などはけっこう有効な手法なのだ。意外な問題点も浮き彫りになったりするのだ。
昨日、『秘石』と呼ばれる呪いの石が何者かに奪われた。そして、現在もその『秘石』は行方知れずとなっている。
しかし、その『秘石』の所在の目星が、ワタシにはついていた。
…といっても、朝ご飯のガーリックトーストを食べてる時に気付いたんだけどね。
つまりはついさっきだ。
「昨夜、シャルカさんから話を聞いた時、すぐに気付いたらよかったんだけど…いや、でもあの人あの後すぐに酔っぱらっちゃったからなぁ」
四国と鎖骨の区別もつかないほどの泥酔状態だった。とてもではないが、まともにコミュニケーションはとれなかった。
最近、ワタシは、一つの誓いを立てていた。お酒が飲める年齢になっても、飲酒は絶対にしない、と。
…たぶん、シャルカさんや雪花さんとお酒を飲んだ場合、洒落ですまないことが起こる。
「結局、黒歴史を生み落とすのって自分自身なんだよね」
今日は本当に独り言が多いな、ワタシ。
まあ、一人でいるからなんだけど。
そんな箸にも棒にもかからない独り言を呟いている間に、目的地に到着した。
件の呪われた『秘石』は、移送中に強奪された。
けれど、どこか遠くに持ち去られたわけではない。
周囲には、事前に結界が張られていた。
その結界に『秘石』が触れれば、結界は反応を示すという話だった。
だが、結界には一切の反応がなかった。
なら、『秘石』はまだ結界の範囲内にあることになる。王都の外などに持ち出されたわけではない。
そして、その『秘石』は人を呪う。
ずっとずっと昔から、『秘石』は無分別に呪いを振り撒いてきた。
なのに、その呪いの反応が、『秘石』が盗まれた後にぱったりと消えてしまった。
ただ、その呪いの反応が消えた所為で、『秘石』の所在が分からなくなった。
呪いの反応が察知できていれば、ある程度、『秘石』の場所を絞り込むことはできたそうなのだが。
「…けど、これが答えだよね」
呪いを振り撒いているはずの『秘石』から、呪いの反応が消えた。
だとすれば、その呪いを消したダレカ、もしくはナニカがあるということだ。
カギを握るのは、あの人だ。
ワタシは、あの人…セシリアさんの家の呼び鈴を鳴らした。
前に会った時…繭ちゃん白ちゃんと一緒に会った時、ワタシたちはセシリアさんを家まで送ってあげたから場所は知っていたのだ。
「はい…あら、花子さん?」
玄関の扉を開けてくれたセシリアさんは、今日も上品な装いをしていた。しかし、ワタシの顔を見て意外そうな表情を浮かべていた。まあ、当然だけど。
「おはようございます、セシリアさん」
朝の挨拶に相応しい言葉を、ワタシは口にした。
できるだけ元気に、愛想よく。
「どうしたんですか、こんな朝早くに」
セシリアさんが驚くのも無理はない。何度か会っているとはいえ、それほど深い面識があるわけではない。そんなワタシが、こんな時間に訪問してくれば驚くのも当然だ。
そんなセシリアさんが、ワタシに問いかける。
「もしかして、宗教の勧誘ですか?」
「…違いますよ」
ワタシってそんな風に見えるのだろうか。
だとしたらちょっとショックだ。
「てっきり、花子さんはアルテナさまの信者さんかと思っていました」
「なんだったら踏み絵だってやりますよ!」
踏まなくても助かると言われても踏んでしまいそうだ。
あの女神さまの信徒になど、絶対にならない。それなら、ティアちゃんを信じた方がまだマシ…いや、どんぐりの背比べだな。あの子、寝てる時のイビキがすごいんだよねえ。この間は歯ぎしりまでしてたし。
「とりあえず、中に入りますか?」
玄関先で向かい合っていたワタシたちだったが、セシリアさんがそう提案してくれた。
「ええと…ご迷惑でなければ」
優しいセシリアさんの言葉に甘えて、ワタシは家の中に入れてもらった。
セシリアさんの家の中は、質素…ではなかったけれど、豪奢というわけでもなかった。それでも、殺風景というわけでもない。必要以上に飾り付けられているわけではないが、ところどころに花などが飾られていて、バランスのいいセンスの良さがあった。セシリアさんの温厚な人となりをそのまま形にしたような室内だ。
「ええと、宗教の勧誘でなければなんでしょうか?」
セシリアさんは真顔で尋ねる。このままではボケのスパイラルに陥りそうなので、本題を切り出した。品の良さ、センスの良さに反比例してこの人ボケてくるんだよなあ。その分だけ落差もあるし。
「ええと…この間、あの神社で会ったじゃないですか」
ワタシは、そう切り出した。
「ええ、花子さんが若い男の子たちとショタ活をしていたあの時ですね」
「あの子たちはワタシの弟みたいなものなので!」
ほらもうボケてきたあ!
「え、弟とショタ活をしていたのですか?」
「ショタ活から離れてください!」
そんな言葉は存在しませんので。
してはいけませんので。
「あの神社には…小さな祠がありましたよね」
ようやく本題に入れた。
ここからは、ワタシも本気モードだ。
「…ええ、ありますね」
そこで、セシリアさんがほんの少しだけ、瞳を伏せた。
けど、ワタシは大した頓着もせずに続けてしまった。
「あの祠を開けられるのは、セシリアさんだけなのですよね」
「そうですね、私の家系の人間だけで、今、王都にいて祠を開けられるのは私だけですね…私以外の人では、どれだけ力を込めてもあの祠は開きません」
セシリアさんはそう説明をしてくれた。
ただ、ちょっとした間があった。説明をしてくれる、そのちょっと前に。
「セシリアさんは教えてくれましたよね…あの祠は、毒素や呪詛を吸い取って浄化してくれる、と」
セシリアさんは、そう説明してくれた。
あの神社の祠は、周囲の悪いモノを吸い取ってくれる、と。
祠の中で、浄化をしてくれる、と。
毒も、呪いも。
「そして、夕方になると祠は勝手に閉じるんですよね。そして、朝になったら、セシリアさんがまた祠を開くんですよね」
「そうですね…それが、私たちに与えられたお役目です」
セシリアさんは、肯定した。
よし、あとは最後の確認を取るだけだ。
「昨日も、セシリアさんは祠を開きましたよね?」
「…いいえ、昨日は、開けていませんよ?」
セシリアさんは、否定した?
普通の表情で、普通に否定した。
「え、え…?」
これには、ワタシが動転してしまった。
…いや、だって、ダメでしょ?
それじゃあ、このお話が破綻しちゃうよ?
最後までお読みいただき、いつも本当にありがとうございます。
クリスマスですが頑張りました…どなたか褒めてください><
次回もがんばりますので、よろしくお願いいたします!




