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転生者なんか送ってくるな! ~看板娘(自称)の異世界事件簿~  作者: 榊 謳歌
Case2 『月ヶ瀬、漫画やめるってよ』

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9 『そんなオカルトありえません!』

「こっちですねぇ、花子先生」


 ワタシの前を、リリスちゃんが歩く。

 短めのスカートは以前と同じだが、リリスちゃんは、今日はフードを頭にかぶっていた。

 そんなリリスちゃんとワタシが歩いているのは、鬱蒼(うっそう)とした雑木林の中だ。背の高い木々やそれほどの高さでもない樹木などが乱雑に生えていて、統一感はない。それら常緑樹なのか落葉樹なのか、ワタシにはそれすら判別できなかった。

 …あんまりお外で遊べなかったからね、ワタシ。

 だから、今もリリスちゃんからちょっと遅れ気味だった。


「大丈夫ですか、先生」


 リリスちゃんはワタシを気遣って振り返る。この子は自分のことを探偵助手だと名乗り、ワタシのことを先生と呼んでいた。つまり、その探偵はワタシだということになる。


「とりあえずは大丈夫だけど…ワタシ、どこに連れて行かれるの?」


 せっかくの休日に、まさかこんな雑木林の中に連れ込まれるとは思わなかった。なんか、変な虫とか出てきそうで怖いのだ。


「ふっふっふ、いいところですねぇ」

「…まさか、変なところに私を連れ込んで変なこととかしないよね?」

「私の好みは巨乳ですのでぇ」

「それはワタシがカテゴリエラーだということかぁ!?」

「まあまあ、豆腐に旅をさせちゃいけないって言うじゃないですか」

「言ったとしてもそれがなに!?」


 先生とか呼ぶ割りに、この子、ワタシのことまったく尊敬してないな!?

 そんな不毛なやり取りを繰り返しながら、ワタシたちはさらに林の中に入って行く。


「ここですねぇ、花子先生」


 目的地に着いたらしいことをリリスちゃんが教えてくれたが…そこは、教会だった。

 いや、廃教会というべきだろうか。

 木造だったその教会はあちこちに穴が開いていて、今にも倒壊しそうだ。


「…こんなとこに入るの?」


 うそでしょ?

 お化け出るヤツじゃん。


「いえいえ、中には入らないんですよねぇ、これが」


 リリスちゃんは教会の中には入らず、教会の入り口付近に近づいていった。


「ここを目的地とする!」


 そして、リリスちゃんは元気に指を差した。

 教会の入口にあった、古びた郵便受けを。


「え…これって」


 ワタシとしては、他に言葉がない。こんな倒壊寸前の廃教会まで連れてこられた上、こんな古びた郵便受けが目的地などと言われても、リアクションのとりようもない。


「ふっふっふ、先生はご存じですかねぇ」

「今更…なんだけどさ」


 ワタシは、そこでリリスちゃんの言葉を遮ってしまった。


「ワタシがリリスちゃんの先生って…本当にそれでいいの?ワタシが探偵役ってことなんだよね?」

「役ではなくて探偵ですねぇ」


 リリスちゃんは、そこでくるりと回る。短めのスカートも、ふわりと回る。


「探偵ごっこがしたいなら、リリスちゃんが探偵役をやればいいんじゃないの?」

「ごっこではないですし、だからこそ、私に探偵はできないんですよねぇ」

「え、なんで?」


 問いかけるワタシに、リリスちゃんは陰のある表情で答えた。


「膝に矢を受けてしまってな、ですねぇ」

「…キレイな膝小僧してるけど」


 それが言いたかっただけのヤツじゃねえか。


「それで、花子先生はご存じですか?」

「何を?」


 ワンピースの正体なんて、ワタシは知らないよ?


「『願い箱』というモノの存在を、ですねぇ」

「『願い箱』…ああ」


 その言葉には、聞き覚えがあった。

 確か王都で噂になっていたはずだ。


「その箱に願いを書いて入れれば、悪魔がその願いを叶えてくれる…という噂なんですよねぇ」


 リリスちゃんは、そこで小悪魔っぽく笑った。

 …くそ、かわいいな、この子も。

 今まで、ワタシの周りにはいなかったタイプだ。

 と、それはどうでもいいか。


「もしかして、リリスちゃんが言いたいのは…この郵便受けが」

「さすが先生、察しがいいですねぇ。そう、これがその『願い箱』なんですよねぇ」


 リリスちゃんは、またくるりと回ってから古びたポストを指差した。


「ワタシには…ただの妖怪ポストみたいにしか見えないけど」

「何か言いましたか、先生?」

「ううん、なんでもないよ」


 ワタシは、ほぼ朽ちかけただけの郵便受けを眺める。そして、その背後にあるのは倒壊寸前の廃教会だ。こうした雰囲気が後押しをして、『願い箱』なんて胡乱(うろん)な噂が流れたのだろうか。


「ワタシには、こんな辺鄙(へんぴ)なところまで足を運ぶ人たちの気持ちは分からないけど」


 ワタシとして、はちょっと辟易(へきえき)としていた。

 しかし、リリスちゃんはそうではなかったようで、嬉しそうにポストを眺めている。


「じゃあ、リリスちゃん、そろそろ帰る?」

「何を言っているんですか、花子先生!」


 やや大声を出しながら、リリスちゃんは郵便受けを開けてしまった。


「ちょっと…リリスちゃん?」

「今日の私たちの調査は、この『願い箱』の噂が真実かどうかを確かめることなんですよ…ほら、こんなにありましたねぇ」


 リリスちゃんは開けたポストから、大量の手紙を取り出した。

 …てか、手紙とか入ってるの?

 みんな、『願い箱』とか信じちゃってるの?


「ええと…なになに?」


 リリスちゃんは、無造作に取り出した手紙を、無作為に読み始めた。


「リリスちゃん、勝手に人さまの手紙を読むのは…エチケットに反するっていうか」

「大丈夫ですよ、花子先生。これは調査です。悪魔が本当にこの中の願いを叶えたら大変じゃないですか。なので、我々にはこれらの手紙を調べる義務があるのです」

「…そういうの、理論武装っていうんだよ」


 しかも、他人のプライバシーに踏み込んでいい理由にはならないんだよ。

 …けど、もし本当に、悪魔がいたら?

 ワタシの脳裏に、その可能性が浮かんだ。


 本来なら「そんなオカルトありえません!」とか一蹴するところではある。

 けど、ワタシが知っているだけでも、アルテナさまという、ワタシたちを転生させてくれた女神さまがいる。ティアちゃんという地母神さまもいる。エルフと呼ばれる存在とだって友達だ。このソプラノは、お伽噺と地続きの世界なんだ。

 なら、悪魔がいても、何ら不思議ではない。


 と、ワタシが考え込んでいる間にも、リリスちゃんは揚々(ようよう)と手紙を漁っていた。

 …嬉しそうな顔をして。

 結局ただの興味本位じゃないの?。


「ええと、なになに…『使いきれないくらいの大金が欲しい』ですか、『こっちは新しい家が欲しい』と、みなさんけっこう俗っぽいですねぇ」


 リリスちゃんは、『願い箱』に入っていた手紙を読み始めた。


「他には…『恋人が欲しい』ですか、これは定番ですねぇ。こっちは、『エルフみたいな魔法が使いたい』ですか。微笑ましいですねぇ、これを書いたのは子供ですかねぇ」


 リリスちゃんは手当たり次第に手紙を読み上げる。


「花子先生もちゃんと調べてくださいねぇ」

「…あんまり気は進まないんだけど」


 ワタシは渋々、『願い箱』の中の手紙を手に取った。

 そこに書かれていたのは『幻のダンジョンに行ってみたい』とか『幻の遺跡が見つかりますように』といったファンタジー世界ならではの願い事があった。『死んだお父さんに会いたい』といったものや『誰々を呪ってくれ』というコメントしづらいものもあり、千差万別だ。当然、当たり障りのない願いの方が多かったけれど。『取り引きがうまくいきますように』とか、『名誉が欲しい』とか、『友達と仲直りしたい』とか、『お母さんに素直になりたい』なんてものもあった。

 と、そこで見つけてしまった。

 ありえないモノを、見つけてしまった。


「…これ」


 それは、手紙では、なかった。

 それは、漫画だった。

 しかも、雪花さんが、描いた漫画だ。

 雪花さんの名前は書かれていなかったが、雪花さんの絵をワタシが見間違えるはずはない。あれだけ手伝ったのだ。


 そして、それは、どこかで見た内容だった…?

 いや、違う。聞いたんだ。

 それは、いくつもの災難に巻き込まれる、青年と少年の逃避行の物語だった。


「でも…どうして?」


 という疑問と同時に、答えが浮かんだ。

 雪花さんは、願ったんだ。

 この物語が、本としてきちんと出版されることを。

 たくさんの人たちに、認めてもらえることを。


 だから、雪花さんはこの『願い箱』と呼ばれるポストに、この漫画を入れたんだ。

 勿論、これは転写の魔石を使ったコピーだった。

 けれど、この漫画に込められた雪花さんのその思いは、コピーでもレプリカでもない。

 雪花さんの根幹から溢れたその願いを、雪花さんは投函(とうかん)したんだ。


「おや、こちらは珍しいお願いですねぇ」


 リリスちゃんはそんなことを呟いていたが、今のワタシはそんな物に反応する気分ではなかった。


「『この王都から全てのにんにくを滅ぼしてください』ですか」

「ワタシの敵はどいつだぁ!?」


 にんにく様を滅ぼせだと!?

 それは、太陽を滅ぼせと言っているのと同じだぞ!?


「他にも似たようなのがありますよ、花子先生」


 リリスちゃんに手渡された手紙を、ワタシは読んだ。

 そこに書かれていたのは『うちの花ちゃんがにんにく離れできますように』という言葉だった。


「これ書いたの繭ちゃんだよね!?」


 何してんのあの子!?


「珍しいのなら、こういう願いもありましたよ」


 リリスちゃんは、さらにワタシに手紙を渡してきた。

 そこには…『夜中にS.Tさんが奇声を上げるので静かにさせてください。あと、ギルドの看板娘を自称するH.Tが勝手に畑ににんにくを植えようとするのでやめさせてください』と書かれていた。


「オカルト相手にイニシャルトークすなよっ!」


 こっちは慎吾じゃねーか!

 何してんのうちの男衆!?


「あと、これはなんだかよく分からないのですがねぇ」


 リリスちゃんは、そう言って最後の手紙をワタシに手渡してきた。

 そこに書かれていたのは…。


『年齢内緒のMの女神です。アカウントが炎上して傷ついたので、どなたか飼ってください』


「これSNSとかで送られてくるエロ垢のヤツでしょ!?」


 てか、これアルテナさまだよね!?

 マジで何してんのあのくそ女神!?

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます!

後半はただの大喜利でしかなかったですが、書いていて楽しかったです。

あと、最後のエロ垢のところは、実際にツイッターに送られてきたメッセージを参考にさせていただきました。

人生って何が肥やしになるか分かりませんね。

それでは、次回も頑張りますのでよろしくお願いいたします!

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