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転生者なんか送ってくるな! ~看板娘(自称)の異世界事件簿~  作者: 榊 謳歌
Case2 『月ヶ瀬、漫画やめるってよ』

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4 『かしらかしら、ご存じかしら?』

「かしらかしら、ご存じかしら?」

「願いを書いた手紙を入れると、あら不思議、どんな願いも叶うという『願い箱』のことを!」


 街中で、妙な噂話が聞こえてきた。

 どこの世界にもあるんだな、この手の噂は。


「かしらかしら、ご存じかしら?」

「真っ白い犬の耳をした美少女の噂を!」


 また、別の噂がどこかから聞こえてきた。

 というか、もう白ちゃん話題になってるのか。

 まあ、繭ちゃんと一緒にいたら目立つよね。美少女の二乗とか、噂にならないはずがないよね。


「かしらかしら、ご存じかしら?」

「致死量のにんにくを平気で食べる、恐怖のにんにく女の噂、ご存じかしら?」


 最後に言ったヤツ誰だぁ!?

 にんにく様に対する冒涜はワタシが許さないぞ!

 今日の街中は、なんだか妙なテンションに包まれていた。


「…で、ワタシはどこに連れて行かれるんですか?」


 ワタシは、ナナさん…この王都の騎士団の騎士団長と並んで歩いていた。というか、身長差があるのに無理やり腕を組むから、傍から見るとワタシが騎士団長に連行されているようにしか見えないのだ。

 しかもこの人、人見知りだからって真っ赤な鎧に身を包んだまま出歩いている。今日は非番だと言っていたのに。


「今日はね、お花ちゃんとランチをしたいなーって思ってさ」

「ランチに行くなら鎧は脱ぎましょうよ…まあ、今日はワタシも休みだからランチはいいんですけど」


 そして、特に用事もなかったけど。

 あ、いや、繭ちゃんの隠し撮りプロマイドを少し補充したかったかも。

 この異世界に写真機はないが、代わりに、『転写の魔石』という魔力を持った石が存在している。これは、石が記録した光景を別の物体に転写できるという特性を持っていた。これで、アイドルをやっている繭ちゃんのプロマイドなどを作成しているのだ。


「最近ね…騎士団が大忙しでね、私もうへとへとなんだよ」


 鎧兜で顔を隠しているからその表情は分からないが、ナナさんの声はお疲れモードのようだった。

 そんなお疲れモードのナナさんに、ワタシは言った。


「そういえば、どこかで橋の崩落があったとか聞きましたね…あれは東区の方でしたっけ?」


 この王都では、事故の対処なども騎士団の仕事となっている。割りと便利屋な側面もあるのだ、騎士団には。というか、今のところは戦争なんか起こってないから、他にやることがないということかもしれない。いや、それでいいんだけどね。


「うん…夜中だったから誰も怪我とかしなかったみたいで、よかったよ」


 この人が騎士団長になったのはくじ引きで負けたからだそうだが、それでも責任感はけっこうあるんだよね…人との距離感とかが致命的に計れないだけで。


「しかも、橋が壊れたその三日後にはアパートで火事とか…起こったんだよ」


 溜め息交じりに、ナナさんがそう言った。そして、ワタシの腕をさらに引き寄せる。さらに歩きにくくなったのだが、今はそれを言い出しにくい雰囲気だった。なので、ワタシは代わりの言葉を口にした。


「同じく東区でしたっけ…でも、その時も死傷者はいなかったって聞きましたよ」


 ワタシは、記憶の糸を手繰(たぐ)る。ギルドにいれば、色々な話が入ってくるのだ。


「私が火の中に飛び込んで救助者とかを連れ出したからかな」

「…さすがですね」


 この人、人見知りだけど行動力の塊だからなぁ。


「だからね、今日は自分にご褒美をあげるんだよ」


 珍しく、ウキウキとしたナナさんの声だった。その声を聞いていると、ワタシも嬉しくなった。だから、次の言葉を口にした。


「それじゃあ、ワタシからもご褒美ってことで、今日のお昼は奢りますよ」

「いいの!?」

「まあ、ちょっとした臨時収入もありましたから」


 繭ちゃんの隠し撮りプロマイドが、同僚のサリーちゃんに売れたのだ。

 …いや、勿論、友情割引はしてるよ?


「それで、お昼はどこで食べるんですか?」


 今日は、ナナさんがエスコートしてくれるという話だった。


「ええと、西区の運河沿いのサンドイッチ屋さんかな」

「あ、いいですね」


 そういうお洒落なお店でランチというのは、デキるキャリアウーマンという感じで憧れる。ギルドの周りは冒険者向けの安くてボリュームのあるお店が多いのだ。いや、安くて美味しいから懐的にはすごく助かってるんだけどね。

 しかし、騎士団長さまが言い出した。


「あ、そうだ、ごめん…そのお店、出禁になったんだった」

「騎士団長が出禁!?」


 どゆこと!?


「お花ちゃんも知ってると思うけど、ラテアートってあるよね?」

「あります…ね」


 …既に嫌な予感がしてきた。


「あれを頼んだら、店員のお兄さんがハートの絵を描いてくれたんだ」

「定番ですけど、お客さんからは喜ばれるでしょうね」

「だから、次の日そのお兄さんに婚姻届を持って行ったんだよ」

「接続詞の継ぎ目が合ってないんですけど!?」


 接続詞が接続詞してないんですよ!

 そんなに万能じゃないですからね、『だから』って言葉は!


「え、だって、ハートって求愛だよね?だから婚姻届を持って行っただけなのに、なぜか、お店を出禁になったんだよ」

「今度は疑問詞が疑問詞してませんよ!?」


 そこは『なぜか』じゃないんですよ!

 スマホを落としただけなのに。みたいな言い方してますけど、真っ当な理由がありますからね!


 …ああ、そうだった。

 この人、婚活とストーキングをはき違えているような人だった。

 名前も知られていない相手に手作りのお弁当を差し入れたり、出会ったばっかりの相手に、次の日に手編みのマフラーを送ったり、知り合った次の日にご両親に紹介したりと、罪状はいくらでもある。たぶん、ワタシが知らない余罪もたくさんある。


「じゃあ、この近くにあるイタリア料理っぽいお店に行こうか」


 ナナさんが「ぽいお店」と言ったのは、この異世界にイタリアはないからだ。ただ、この人もワタシたち同様に転生者だから、イタリア料理っぽいお店で通じるのだ。

 ただ、その前に確認すべきことがある。


「…そのお店には、婚姻届とか持って行ってないですよね?」

「あ、今日ついでに渡しておこうかな」

「回覧板みたいな感覚で渡していいものじゃないんですよ!?」


 危なかったぁ!

 確認しておいてよかった!

 この人、注文のついでに婚姻届を渡してたよ、絶対に!


「ついでで渡すには、婚姻届けは重すぎるんですよ!」


 というか今日も持ってるのかよ!

 ヤバいな、動揺しすぎてツッコミの順番が間違っていたかもしれない。


「そんなに騎士団長やめたいんですか?」


 クールダウンの代わりに、ワタシはナナさんに問いかける。

 たしか、騎士団の副団長さんから、「結婚できたら騎士団長をやめていい」とナナさんは言われているそうだ。

 …なんでそんなこと言ったんだよ、副団長。

 だからこんなことになっちゃってるんだぞ。


「やめたい…騎士団長って色んな人と会わないといけないから緊張するんだ」

「確かに、人見知りのナナさんにはきついですよね」


 そこは同情の余地がある。


「この間も、緊張しすぎて王さまとの謁見の時に吐いちゃったんだ」

「…打ち首とかにされなくてよかったですね」

「うん…王さまが率先して私の吐しゃ物を拭きとってくれたんだ」

「ワタシこの国の国民でよかったぁ!」


 王さまいい人すぎじゃない!?

 絶対、王さまのためなら命も捨てるって人いっぱいいるよ!

 

「あ、あのお店だよ」


 歩きながら、ナナさんが指をさした。そのお店は運河沿いにあり、テラスもあった。運河からの風を感じながらお昼を食べるのは、確かに気持ちがよさそうだ。


「ここ、段差があるから気を付けてくださいね」


 ワタシたちの前方から、そんな声が聞こえてきた。

 ワタシたちの前にいた二人組も、そのお店に入ろうとしていたようだ。店の前には階段があり、一人の女の人がもう一人の年配の女性の手を取って階段を…って、あの年配の女の人は。


「あら…こんにちは」


 向こうもこちらに気付き、先に挨拶をしてきた。

 そこにいたのは、『雪花さんが漫画をやめる』という噂を聞いてショックを受けていらした、あのご婦人だ。


「あ、こん…にちは」


 ワタシも、軽く会釈をして挨拶を返した。


「昨日はありがとうございました。月ヶ瀬先生が漫画をやめるわけではない、と教えてくださいまして」


 ご年配の女性は、丁寧な言葉でそう言った。昨日と同様、この人は貴婦人といって差し支えのない装いで、昨日とは違う色のストールを襟に巻いていた。


「いえいえ、雪花さんが漫画をやめるって言い出すのは、いつものことです…ので」


 とは言ったが、そこで思い出した。

 ワタシ、そのことを雪花さん本人から確認したわけではなかった、ということを。

 …まあ、いつものことはいつものことなのだ。

 ただ、昨日の雪花っさんは普段と様子が違っていたけれど。


「そちらも、このお店でお昼ご飯ですか?」


 ワタシは年配の貴婦人に問いかけた。繭ちゃんほどではないが、ワタシにもコミュ力はあるのだ。


「はい、私がここで食べてみたいと言ったら、こちらのアンさんが連れてきてくれたのです」


 ご婦人に『アン』と紹介された女の人が、小さく頭を下げて挨拶をしてくれた。

 年齢的にはナナさんと同じくらいだろうけれど、この二人はどういう関係だろうか。友人…と呼ぶには年が離れすぎている。それに、あちらの年配のご婦人と違って、こちらの女性は服装も随分とカジュアルだった。親子という雰囲気でもない。

 そんなことを考えていたら、年配のご婦人が問いかけてきた。


「そちらは『連行』ですか?」

「…そうとしか見えないかもしれないですが違います」


 ほらぁ、やっぱり鎧着た人に腕を組まれてたらそう見えちゃうじゃん。

 けど、ワタシさっき「そちらもここでお昼ですか?」って聞いたよね?

 ほぼほぼ初対面の人にはツッコミを返し辛いのだ。


 という、箸にも棒にもかからないやり取りをしながら、ワタシたちは店内に入った。

 ご婦人たちとの席はけっこう離れたので、この日は、ワタシたちはそれ以上の言葉を交わすことはなかった。


 あとは、ナナさんとのランチをのんびりと楽しむだけだった…のだが。

 注文を取りに来たウエイターのお兄さんに婚姻届を渡そうとするナナさんと、それを阻止しようとするワタシとの間で攻防戦が行われたのだが、そこは割愛させていただく。

 ほんっとうにイミなんてなかったからね!

花子は、自分のことに触れられるとツッコミがおかしくなる時がありますが、そこは仕様ですのでご了承ください。

次回も最後まで楽しんでいただけますように頑張ります。

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