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転生者なんか送ってくるな! ~看板娘(自称)の異世界事件簿~  作者: 榊 謳歌
case1 『転生者なんか送ってくるな!』

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34 『解答編ex2』

「雪花さんを攫った誘拐犯と慎吾を襲った襲撃犯は同一の犯人グループではありましたが…彼らは、邪教徒などではなかったんですよ」


 ワタシは淡泊(たんぱく)に断言し、続ける。


「そして、邪教徒ではなかったからこそ、雪花さんに逃げられた後、彼らは邪教徒の本拠地が記された地図を、隠れ家の壁に貼ったんです」

『しかし、なぜ、そんなことをした?』


 疑問を口にしていたシャルカさんだったが、その答えには、既に気付いているようだった。


「騎士団に潰させるためでしょうね…本物の、邪教徒を」


 騎士団を邪教徒にぶつけ、その漁夫の利を得るために、彼らは邪教徒たちに濡れ衣を着せた。雪花さんの誘拐、という濡れ衣を。


「犯人たちにとっては、邪教徒も標的だったんですよ…けど、彼らも、邪教徒とは正面切って戦いたくなかった。だから、巻き込んだんですよ。騎士団や、冒険者を」


 実際、ナナさんも邪教徒との戦いは激しいものだった、と語っていた。

 邪教徒たちは、戦いの際に形振(なりふ)りをかまわないからだ。


「そして、犯人たちの思惑(おもわく)通り、騎士団や冒険者たちは、邪教徒の本拠地に踏み込んで…見事に、邪教徒を壊滅させました」

『しかし…ソイツらが邪教徒を潰させたのはなぜだ?いや、元々は敵対していたんだろうが』

「犯人たちは欲していたんですよ。邪神の亡骸を」

『邪神の、亡骸…?』


 シャルカさんの表情が、一気に強張った。

 邪神の亡骸という存在が、シャルカさんを戸惑(とまど)わせる。


『ナナが言っていた、はずだろ…邪神の亡骸は、邪教徒たちの本拠地にはなかった、と』


 シャルカさんが言うように、邪神の本拠地に踏み込んだナナさんが証言していた。

 邪神の亡骸は、その場所にはなかった、と。


「探しても見つからなかったでしょうね…邪教徒の本拠地に踏み込んだ時に、犯人たちがこっそり持ち出していたんですから」

『待て、花子…本拠地に踏み込んだ時に、邪神の亡骸を、持ち出した?』


 シャルカさんは、右手で顔を覆うような仕草を見せた。

 それから、シャルカさんは口を開いた。


『だとしたら、犯人は、邪教徒の本拠地に踏み込んだ、騎士団か冒険者の中にいたことに、なる…いや、少数だが、その中には憲兵もいたはずだ』

「その人たちの全員が、容疑者ですよ」


 ワタシの体は、熱を帯びる。

 その熱を解き放つように、言葉を発した。


「そして、その後、犯人たちはもう一つの邪神の亡骸を…アンダルシアさんが張った結界の中から、盗み出しました」

『邪神の亡骸を、二つとも揃えた、ということか…しかも、あの老人が張った結界の中から?何者なんだ、ソイツらは』


 シャルカさんの表情が、険しくなる。

 眉間にしわを、深く刻む。


「繭ちゃんを襲った夏木くんは…転生者でした」


 唐突に、ワタシは彼の正体を口にした。

 ワタシ以外の全員が、言葉を発するタイミングを失っていた。その間隙(かんげき)を縫い、ワタシは続ける。


「夏木くんが…転生者?」


 繭ちゃんが、小さく、(うめ)くように声を発した。


「このソプラノから、ワタシたちのいた世界に転生した転生者だったんだよ、彼は」


 ワタシは、繭ちゃんに告げた。

 さらに、追い打ちのように、告げる。


「そして、夏木くんは星の一族だよ。だから、『剛力』なんてスキルも持っていたんだ」

「夏木くんが、ソプラノからの転生者で…星の一族?」


 繭ちゃんは、まだ情報の処理が追い付いていない。

 それでも、繭ちゃんはワタシに問いかける言葉を紡ぐ。


「ボクたちがいたあの世界にも、こっちの世界からの転生者が来ていた…て、ことなの?」

「転生は、アルテナさまの専売特許じゃないんだよ…というか、アルテナさまが星の一族の転生スキルを模倣(もほう)したっていう方が正しいかな」


 細かい違いはあるが。


「…どうして、星の一族はオレたちの世界に、転生者を送ったりしていたんだ?」


 次に問いかけてきたのは、慎吾だ。

 ワタシは、その声にも応える。


「星の一族の転生は、生きた人間をそのままワタシたちの世界に送ってくるんだけど…」


 そのまま転生というか、一度その場で死に、転生先で新しい命を得るということだった。

 だからこそ、アンダルシアさんは自分の妻を殺してしまったと、苦しんでいた。


「アルテナさまの転生は、ワタシたちの世界で死んだ人間を…未練を持って死んだ若者を、このソプラノに転生させている。そして、その時に、ユニークスキルを与えてくれる」


 ユニークスキルは、世界で一人しか扱うことのできない、特別なスキルだ。


「アルテナさまが転生の際にユニークスキルを授けてくれることは、星の一族であるアンダルシアさんも知っていた。星の一族の間では、けっこう知られていたんだろうね」


 ワタシは、周囲を見回した。

 全員が、ワタシの声に耳を傾けていた。

 

「だから星の一族は、いや、一部の星の一族…復讐者を名乗る星の一族は、夏木くんのような人間を、ワタシたちの世界に転生させていたんだ」

「復讐者…」


 慎吾が、その言葉に反応していた。

 それは、あの老紳士が語っていた、星の一族の中でも過激な思想に染まった異端者(いたんしゃ)たちだ。


「だから、何のために…オレたちの世界に転生者なんて送って来てたんだよ」


 もう一度、慎吾は問いかける。ワタシに。

 その問いに、ワタシは答えた。


「復讐者が転生者を送って来たのは、アルテナさまに、転生者を送らせるため、だったんだ」

「転生者を送らせるために…転生者を送って来た?」


 慎吾は、軽く混乱していた。


「星の一族は、スキルの強奪ができるそうだよ…ただ、強奪なんてしなくても、この世界ではスキルは普通に覚えることができるから、わざわざリスクを冒して誰かから奪う必要なんてない」


 ワタシの声だけが、ラウンジの中を闊歩(かっぽ)する。一人ぼっちで、闊歩する。


「ただ、リスクを冒してでも、奪う価値のあるスキルは、存在しているんだ」


 ワタシが言った後、誰かが息を吞む音が、聞こえた。


「それが、ユニークスキルだよ。アルテナさまから与えられたユニークスキルを奪うことが、星の一族の…復讐者たちの、目的だったんだ」


 ワタシは、テンポを上げた。

 いや、早鐘を打つ鼓動が、ワタシの口調を早くした。


「だから、雪花さんを攫ったし、慎吾のことも襲った」


 それが、転生者を狙っていた理由だ。


「そして、ワタシたちのような転生者からユニークスキルを奪うためには…そのためには、先ずは、アルテナさまに、ワタシたちのような転生者を、このソプラノに送ってもらわないといけない」

「まさ、か…」


 慎吾が、震える拳を握りこむ。

 意図しないまま、壊れるくらいに強く、固く。


「復讐者たちがワタシたちがいたあの世界に転生者を送っていたのは…若くて、希望を持った人間の命を、奪うためだよ」


 死の際に、希望は裏返り、未練となる。

 未練は、転生者を生むための、(かて)となる。


「…繭ちゃんは、そのための、犠牲者だったんだ」


 この言葉だけは、俯き、誰の顔も見ないまま、口にした。

 口にしたく、なかったからだ。


「ふざ…けてる」


 雪花さんが声を荒げる。その瞳が、血走る。

 慎吾と繭ちゃんは無言だったけれど、その感情は、(よど)んでいる。

 ワタシたちのセカイに…ワタシたちが信じていたセカイに、今、ヒビが入った。


『一刻も早くアルテナさまに知らせるべきだ…が』


 場を覆う負の感情を希釈(きしゃく)するため、シャルカさんがそう言った。

 だが、そんなシャルカさんは唇の端を、口惜しそうに噛んでいていた。


『今、アルテナさまと通信するための魔法の鏡は、使えない…魔力がまだチャージされていない』


 あの女神さまとの通信は、いつでもできるものではない。鏡に魔力がたまらなければ、行えない。

 だから、ワタシが言った。


「ワタシが、『念話』を使ってアルテナさまに知らせます」

『無理だ…『念話』じゃ天界には届かない』


 シャルカさんは、ワタシの提案を否定した。

 確かに、ワタシの『念話』では天界までは届かない。

 …ただし。


「届くはずですよ。ワタシの『念話』も、ハイエンドクラスまで成長しましたから…なので、ワタシがアルテナさまにこのことを伝えます」


 ワタシたちに与えられたユニークスキルは、最高レベルまで鍛えれば、『越権付与』といってさらなる特異な能力が付与される。

 だから、ワタシはもう一度、提案した。先ほどよりも、覚悟を込めて。


『確かに、ハイエンドクラスなら、『越権付与』された『念話』なら、世界を超えて話ができる。天界にいるアルテナさまにも、花子の声は届く…けど、それを使えば『念話』は消滅して、花子は二度と、『念話』が使えなくなる』


 シャルカさんは、丁寧に説明をしてくれた。二度と『念話』が使えなくなるぞ、と。

 世界を超えて話をすることは、ワタシだけでなく、世界そのものに多大な負担をかけるからだ。


「でも、ここで使わないと…ワタシたちがいたあの世界で、また、誰かが死ぬんです」


 今日は死なないかもしれない。明日も死なないかもしれない。

 けど、明後日は誰かが死ぬかもしれない。一人じゃなくて、二人が死ぬかもしれない。それが、三人だという可能性だって、ある。


「繭ちゃんみたいな被害者が、また出るんですよ…それが、慎吾や雪花さん、繭ちゃんの友達の可能性だって、あるんです!」


 星の一族は、組織立って動いている。ワタシたちの世界に、何人もの刺客を送り込んでいる。


「ダメだよ」


 強い言葉で遮ったのは、雪花さんだった。

 仁王立ちで、雪花さんはワタシと対峙する。


「使ったらダメだよ、花子ちゃん。あなたは、その『念話』を使って、話をしたい相手がいるんでしょ?」


 雪花さんは、ワタシの瞳を見つめ続ける。


「世界を超えて話ができるのが、『念話』なんでしょ?」

 

 雪花さんは、一歩、ワタシに近づく。


「だったら…花子ちゃんの家族とだって、お話できるんでしょ!?」


 雪花さんは、声の限りに叫ぶ。


「もう会えないとしても…それでも、向こうの世界にいる家族に、声を届けることができるんでしょ?」


 雪花さんの声に、涙が混じる。


「なら、花子ちゃんは、家族とお話をしないとダメだよ…たとえ、それが花子ちゃんの最後の『念話』になったとしても」


 雪花さんは、ワタシの代わりに、泣いてくれていた。

 …ワタシは、今だけは、泣くことができないからだ。


「それはでき…ませんよ。雪花さんや繭ちゃん、慎吾だって家族とは話したいでしょ?ワタシだけが家族ともう一回、話をするなんてズルは、許されませんよ」


 本当は、声が、聞きたい。お母さんと。お父さんと。そして、おばあちゃんと。

 …本当は、話が、したい。


 ワタシは、ここにいるよ。

 自分の足で歩いているよ。


 届かないはずの声を、届けたい。

 できるだけたくさんの言葉を、聞いて欲しい。


 友達だって、たくさんできたんだよ、と。


「私が許すよ!誰がなんて言ったって関係ない!花子ちゃんにはその権利がある!私があげる!」


 雪花さんは、ワタシを抱きしめてくれた。

 それは強くて暖かくて。ワタシの中に浸透する。

 だから。


「ありがとう…ございます」


 だから、ワタシは覚悟を決めることができた。

 これ以上、雪花さんに抱きしめられたままだと、ワタシの覚悟は、確実に(にぶ)る。

 だからこそ、ワタシは、覚悟を決められた。


「ワタシ…『念話』を使います」

「花子ちゃ…」


 ワタシは、『念話』を発動させた。

 セカイを超えて、アルテナさまに知らせるために。

 

 ワタシには、みんながいる。

 いっつもバラバラで、足並みが揃ったことなんて、一度もないけれど。

 だからこそ、ワタシたちは一つの輪でいられた。

 ここで『念話』を使わなければ、ワタシは、胸が張れなくなる。

 胸を張って、その輪に入れなくなる。


 そして、向こうのセカイにいるダレカにも、そんな仲間が、友達が、家族が、いるはずなんだ。

 そんなダレカの命が、理不尽に奪われていいはずは、ない。

 その痛みは、当人だけのものではない。あちこちに飛散する。

 その痛みは、際限なく伝播(でんぱ)する。


 だから、ワタシは『念話』を使った。

 心の中で、お母さんに。お父さんに。おばあちゃんに。


 …本当の『さよなら』を、伝えながら。

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