プロローグ 『立てよ町民!!』
「文明とは、定住から始まったんだよ」
小さく拳を突き上げると、ワタシの上半身が軽く揺れた。その揺れに連動し、ワンピースの裾も遅れて揺れる。
木目がはっきりと浮かぶ木造の小屋の中には、二十人ほどの大人がいた。男女比は男が七、女性が三といったところだろうか。その人たちは、ワタシのような小娘の言葉にも真剣に耳を傾けている。
そんな人たちを前に、ワタシは『演説』モドキを続ける。これが本当の演説なら緊張するだろうけれど、あくまでもこれはモドキでしかないし、ここにいるのはワタシと面識のある人たちばかりだから多少は気楽だった。
…この時までは。
「なら、文化の起こりってなんだろうね?」
問いかけるような形だったけれど、返答は待たずにワタシは続ける。
「この定義は難しいかもしれない。文化というのは、人が安心して暮らせるようになってから生まれたものだからね。なので、文化というのは多岐にわたるよ。芸術や宗教、化学や教育にスポーツ…定義が難しいというよりも形を定めることができないのかもしれない。いや、それぞれが文化として他の文化と連動していることも多いんだから、そもそも文化の出発点を定めることなんてできないのかもしれない」
もっともらしい台詞を、もっともらしい舌先三寸で語る。文化の定義なんてワタシは知らないし、文化人というわけでもない。それでも、現在のワタシにはその『お役目』が求められている。なら、操り人形だろうがなんだろうがやってやるのだ。
「だから、文化の起点なんてワタシみたいな若輩には分からない。だけど、一つだけ分かるよ。色々なモノやヒトが集まるこの場所こそが、文化の集約点なんだってことは!」
このあたりで、ワタシは声を徐々に張り上げ熱を込める。クライマックスでは演出が過剰でもご愛敬なのだ。
「そして、その文化の集約点で働くみんなこそが、文化の担い手なんだよ!もっと誇りを持っていいんだよ!」
ワタシの熱が、場に溶ける。小屋の中、壁の木目に反射してこの場にいる人たちにも染み込む。全員の目が、キラキラ、またはギラギラと光を帯びる。男の人も、女の人も、全員が均一に。この場にいる人たち全員が知っている。ワタシの言葉がどれだけ薄っぺらなものであるか。それでも、この人たちはワタシの言葉に乗っかっている。そのくらいには、ワタシの言葉を信じてくれているんだ。
「というわけで、この場所を守るために…立てよ町民!!」
ワタシの咆哮は、小屋の中の隅々にまで響き渡った。
元々はその場しのぎの神輿として担がれたワタシだけれど、それでもこの商店街のためだからね、なくなったら困るからね、神輿だろうが旗印だろうがなんだってやってやるのだ!




