エピローグ 『うわーん、もう『乙女を決める対決』なんてこりごりだよー!!』
「まったく、花ちゃんたちはまったく…」
「ごめんよ、繭ちゃん…もうしないから」
「はい、二度とあんな勝負はいたしませんので…」
プリプリと怒る繭ちゃんを、ワタシと雪花さんが宥めていた。
まあ、さすがに繭ちゃんももう本気で怒っているわけではない。これは、ある種のお遊びだった。ロールとルールを決めたごっこ遊びだ。
と、そんな予定調和なやり取りをしていたところに、慎吾が…桟原慎吾と地母神のティアちゃんが帰って来た。今日はティアちゃんの姿を見ないなと思っていたら慎吾と一緒に出かけていたようだ。
ワタシは、いつもの『おかえり』で出迎える。
「お帰り、慎吾、ティアちゃん…」
『なんじゃ、妙に疲れた顔をしておるな、お主らは…』
ワタシたち三人の疲弊した表情を見たティアちゃんは言った。
「ええと、ちょっとね…」
詳細は語りたくないので語らなかった。慎吾に知られたら怒られるからね、絶対に。
『まあどうでもいいのじゃ』
ティアちゃんはソファにぴょこんと座った。地母神さまといっても見た目は幼女なので動きがいちいちぴょこぴょこしているのだ。
で、ソファに座ったところでティアちゃんがワタシの名を呼んだ。
『ああ、そういえば花子…』
「…何、ティアちゃん?」
疲れた表情のままのワタシに、ティアちゃんは言った。
「そろそろ、アレを決める時ではないか?」
ティアちゃんの言葉に全員が小さく反応していた。当然、声をかけられたワタシも反応していたけれど…アレってなんだっけ?
…いや、ちょっと待てよ。
ワタシは、そこで思い出した。
「ええと、ティアちゃん…というかティアさん?」
…今その話題はマズいのだ。
全員の視線が、ワタシとティアちゃんに集まっていた。他に注目することもないからだ。
「あのね、ティアちゃん、その話はまた今度に…」
言いかけたワタシを遮るように、ティアちゃんは口を開いた。しかもちょっとテンションが高めに。
『ほれ、この間から言っておったじゃろ。どっちが『大地に選ばれし乙女』なのか決めよう、と』
「…花ちゃん?」
そこで、繭ちゃんの表情が訝しげになる。
「だから、ティアちゃん…その話はまた後日に、ね。あ、そうだ、ドーナツ食べようか?ドーナツおいしいよねー」
『ふふん、絶対にわらわ様は負けぬぞ。というか負けたら大変じゃからなぁ。負けられぬのじゃ』
必死に話題を逸らそうとするワタシだったけれど、テンションの上がったティアちゃんにワタシの言葉は届かない。ウォーミングアップのつもりなのか、ティアちゃんは短い手足でシャドーボクシングなどを始めている。
「花ちゃん…『大地に選ばれし乙女』って、何?」
繭ちゃんは、ワタシの肩に手を乗せた。刑事ドラマなんかでよく見るシーンである。しかも、それは刑事さんが犯人を連れて行くラストシーンでポンと乗せるやつだ。
『なんじゃ、知らぬのか?それはな、わらわ様と花子でどちらが『大地に選ばれし乙女』に相応しいかを決めるための勝負…言わば決闘なのじゃ』
気分が高揚しているのか、ティアちゃんはほっぺを赤くしながらペラペラと喋っていた。
そんなティアちゃんに、繭ちゃんが問いかける。
「もしかして、その勝負に負けたら罰ゲームとかあるの?」
『当然なのじゃ』
「それってどんなの?」
『それはな、負けた方が…ふふん、この先は言えないのじゃ。何しろ、負けた場合はとんでもない罪を背負うことになるからなあ』
ティアちゃんは、そこで腰に手を当てて得意満面といった笑みを浮かべていた。
…ほぼ自白してるんだけどね、それ。
というわけで、繭ちゃんの血相が変わった。
当然、繭ちゃんの雷も落ちる。
勿論、ワタシの頭上に。
「他にも何かやらかしてたんだね、花ちゃん!」
「うわーん、もう『乙女を決める対決』なんてこりごりだよー!!」
リビング中に、ワタシの情けない叫び声が響いていた。




