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転生者なんか送ってくるな! ~看板娘(自称)の異世界事件簿~  作者: 榊 謳歌
幕間 『どっちの花×花ショー』

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2 『煽りは淑女の嗜みでして!!』

「『どっちの花×花ショー』開幕だよ!」


 天井に向かって、右のこぶしを突き上げた。

 元気に大声を上げるワタシに、繭ちゃんはため息を隠そうともしなかった。


「どうしてそんな無駄にテンションが高いの、花ちゃんは…」

「だってお祭りみたいなものだからね、(すこぶ)(たかぶ)るよね」

「こんな奇祭(トラブル)に巻き込まれるボクの気持ちはどうすればいいの…」


 繭ちゃんはさらにため息をつくが、さっそくゲームを始めよう。言質さえとれてしまえばこちらのものなのだ。ワタシは、雪花さんに言った。


「じゃあ、記念すべき一発目のお題は雪花さんが決めていいよ」

「お、そうでござるか…では、お言葉に甘えて」


 雪花さんは人差し指で軽く顎に触れた後、お題を決定した。当たり前だが、雪花さんのテンションも高い。


「記念すべき最初のテーマは、無難なところで…『身長』でござるよ!」

「『身長』って…それで何がどう『花』の字に相応しい乙女ってことになるの?」


 愚痴りながらも繭ちゃんは真面目に考えてくれている。基本いい子なんだよね、この子。だから元気づけてあげたいんだけど…。

 そんな繭ちゃんに、ワタシは不敵に笑って胸を張った。


「ふっふっふー、それがこの『どっちの花×花ショー』の肝なんだよ。繭ちゃんが身長の高い方が『花』の乙女に相応しいと思えば雪花さんをを選んでくれればいいし、逆に背が低い方がいいならワタシの方が『花』があるってことになるんだよ」


 雪花さんはけっこう長身なんだよね。けど、背が低いからってワタシの方がちんちくりんというわけではないのだ。ワタシがずん胴というわけではけっしてないのだ!


「それだと完全にボクの主観になるけどいいの…?」

「勿論でござるよ」


 そう言って頷いた雪花さんを見て、繭ちゃんは考え込んだ。そして、答える。いつもと同じ、鈴の鳴るような声で。


「それじゃあ、背が…低い方が『花』に相応しいかな?」


 疑問形ではあるが、繭ちゃんはそう口にした。

 それを聞いたワタシは、小さくこぶしを握る。背が低いのは、ワタシの方だ。


「よし、じゃあワタシが一ポイント先取だね」

「く…先行されてしまったでござるか」


 雪花さんは軽く唇の端を噛んでいた。といっても、雪花さんだって本気で悔しがっているわけではない。お祭りにはこういうノリが必要なのだ。


「ちなみに、選考の基準を聞いてもいい?」

 

 ワタシは繭ちゃんに問いかけた。


「別に大した理由はないよ…ただ、ボクが小さくて目立たない花が好きってだけかな」

「なるほど、小さくて可憐な花であるワタシなら、繭ちゃんの言う『花』にぴったりだね」

「…そういえば態度の大きさを考慮に入れてなかったから物言いをつけてもいいかな?」

「物言いは他の人からつけられるものだよ!?」


 なんで自分で自分に物言いをつけようとしてるの!?

 本当に物言いをつけられても困るので、さっさと次のテーマに行くことにした。


「じゃあ、次のお題も雪花さんが決めていいよ」

「お、いいのでござるか?」

「まあ、勝者の余裕ってやつですよ」


 出題者の順番などは決めていなかった。だけど、それでいい。この『ゲーム』はあくまでも茶番でなければならない。そして、雪花さんは二問目のテーマを発表した。


「では、『どっちの花×花ショー』お次の勝負課題は…『体重』でござるよ」

「なんでそんなひどいこと言うのぉ!?」


 まさか、雪花さんが序盤からそんな禁止カードを切ってくるとは思わなかった。


「いや、身長の次なら体重も妥当だと思われるのでござるが…」

「プロレスにもブックってものがあるんだよ!?」

「その発言には信憑性がないと思うでござるが…あと、審判を下すのは繭ちゃん殿でござるし」


 そこで、ワタシと雪花さんは同時に繭ちゃんの方に視線を向ける。

 …繭ちゃんは、これまでで最大級に面倒くさそうな表情をしていた。

 あ、これガチのやつだね…とりあえずワタシは猫撫で声になる。


「繭ちゃんはいい子だから、こんなお題には答えないよね?」

「そうだね、答えたくないね…というか巻き込まないで欲しいってボク何度も言ったよね?」

「逃げるのでござるか、花子殿は?」


 そこで、雪花さんの声が響いた。リビングの高い天井に、その言葉がぬるぬると染み込んでいく。


「逃げる…ワタシが?」

「まさか、花子殿がここまで腰抜けだとは思わなかったでござるよ」

「ワタシはね…誰にも、腰抜けなんて言わせないんだよ!」


 腰に手を当て、不退転の覚悟を決めた。

 こうなりゃやってやるのだ!


「じゃあ、繭ちゃん…答えを聞かせてよ」

「ボクもう帰っていいかな…」

「繭ちゃんのお家はここだよ?」


 何を言っているんだろうね。

 そして、ため息と同時に繭ちゃんは答えを吐き出した。


「ええと、やっぱり軽い方かな…」

「ガッデム!!」


 ワタシは、膝から崩れ落ちた。

 …オーバーリアクションのつもりだったのにちょっと痛かった。自重の所為だろうか。


「いや、そりゃそうなるでしょ、花ちゃん…だって『花』のイメージなんだから」

「でも、ワンチャンくらいあるかなって…」

「ごめんね。ボク、ラフレシアを『かわいいね』とか言ってカマトトぶったりしないから」

「ワタシの存在ラフレシアほどじゃないよね!?」


 世界一、大きな花だよね!?


「これで、拙者が一ポイント取り返して同点でござるな」


 ワタシと繭ちゃんのやりとりをよそに雪花さんは背筋を伸ばして微笑んでいた。というか、煽り偏差値の高い笑みを浮かべていた。くそ、腹立つなぁ腐女子のにやけ面は。

 と、第二課題では一応の決着を見せたのだが、繭ちゃんが首を(かし)げていた。


「花ちゃんの方が雪花お姉ちゃんより重いの?」

「…………え?」

「いや、雪花お姉ちゃんの方が大きいからさ、色々と」

「悪かったね、色々と小さくて!?」


 でも、待てよ…。


「そういえばワタシも、雪花さんの体重までは知らないかも」

「拙者も花子殿の体重は知らないでござるな」


 そこで、雪花さんと二人で顔を見合わせていた。一緒に暮らしていても、お互いの体重なんて知らないよね。本来なら、だけど。

 …けど、ちょっと待てよ、この展開はちょっとマズいのでは?

 ワタシたちの身長差は明白だった。それなのに、ワタシの方が重いとなれば目も当てられなくなる。

 しかし、本当にマズいのはそこじゃない。

 ワタシは、ここでとある『失態』を思い出していた。あれが露見することだけは是が非でも避けたい。

 いや、それなら誘導すればいいだけだ。ワタシは雪花さんに言った。


「じゃあ、雪花さん…『せーの』で言い合いっこしようか」

「了解でござるよ」

「待って」


 ワタシたちは二人で『せーの』の体勢に入っていたのだが、そこに繭ちゃんが割って入ってきた。

 

「何かな、繭ちゃん…」

「花ちゃんは読むでしょ…サバ」

「…何ば言っとるのかな、繭ちゃんは」

「自己申告はダメだよ。ちゃんと体重計で量らないと」


 …マズい、この展開は想定外だよ。


「で、でも…ワタシの体重なら繭ちゃんは知ってるよね?」


 実は、繭ちゃんには定期的にダイエットをさせられている。乙女の最重要機密である体重も繭ちゃんには把握されているのだ。ワタシの乗った体重計をチェックされているのだ。しかも、そのお目付け役は慎吾に命名されたものなので、ワタシに逃げ道はない。

 繭ちゃんは、さらに詰め寄る。


「そうだね、でもついでだから測定しておこうよ。いつもやってることじゃない」

「けど、量ったのって二日前だよね…それに、雪花さんが嫌がるんじゃないかな?かな?」

「嫌がってるのは花ちゃんみたいに見えるんだけど?」


 ワタシと繭ちゃんが問答している間に、雪花さんがお風呂場から体重計を持ってきた。

 …持ってきたぁ!?

 何してくれてんのあのくそ腐女子!!

 こめかみの辺りを冷たい汗が伝っていたけど、それには悟られないようにワタシは言った。


「あの、今回はワタシの負けでいいから次のテーマにいこうよ!さーて、何がいいかなぁ!?」

「さっきから何を焦ってるの花ちゃんは…?」


 繭ちゃんが眉を顰めていた。

 …いや、ダジャレとかじゃなくて。


「では、拙者から乗ってみるでござるよ、と…あれ?」

「どうしたの、雪花お姉ちゃん」


 何の躊躇もなく体重計に乗った雪花さんが怪訝な表情をしていた。

 それを覗き込んだ繭ちゃん…。

 …その二分後、繭ちゃんに叱られるワタシがいた。

 

「後で慎吾お兄ちゃんにもお説教をしてもらうからね」

「それだけはご勘弁を…せめてお慈悲を」


 土下座で平謝りのワタシだった。

 バレてしまったからだ…ワタシが、体重計に細工をしていたことが。そして、その細工を元に戻すのを忘れてしまっていた。なので、体重計に乗った雪花さんが違和感を覚えたんだ。普段より軽すぎる、と。


「まったく…体重計の針を誤魔化して軽く見せるとか、花ちゃんだって子供じゃないんだからさ」

「仕方がなかったんだよ…最近はニンニクが美味しくてさ」

「だから慎吾お兄ちゃんがボクに頼んだんでしょ。花ちゃんが肥え過ぎないように見張ってって」

「追及するにしてももう少しオブラートな言葉でお願いします!」


 前回、繭ちゃんの前で体重を量ったのは二日前だった。その時も体重計の針をマイナスに設定したまま測定したのだ。そして、元に戻すのを忘れたまま放置してしまった…。


「…まさか、こんなことになるなんて」

「それ、ボクの台詞なんだけど」


 繭ちゃんは呆れたように呟く。


「さて、それでは次のお題にいきますか」

「まだやるの、花ちゃん…?」


 繭ちゃんはさらに呆れたように呟いたけれど、ワタシと雪花さんからすればやっとウォーミングアップが終わったところなのだ。

 そして、次々とお題が飛び交い、『花』の字に相応しい乙女の座を巡るワタシたちの戦いも加速していく。


「だから、どうして雪花さんの部屋はあんなに臭いんですか!」

「花子殿が入ると、湯舟のお湯が異様に溢れるの何なのでござるか!?」

「徹夜でBL描いた後にエナドリ飲むのは止めてって言いましたよね!?」

「商店街の飲食店の人たちに大量のニンニクを置くようにプレッシャーかけるのは止めるべきでござるよ!」

「近所の小学校から苦情が来てるんですよ!雪花さんが子供たちの盗撮(スケッチ)をしてるから何とかしてくれって!」

「そんなことだからトルピードバットみたいな体形になるのでござるよ!」

「誰が魚雷バット体形だごるぁああ!!」

「「この…不燃ごみめえぇ!!」」


 ワタシと雪花さんは額がぶつかるほどの距離で魂のシャウトを投げつけ合う。


「なんで花ちゃんたちは『花』の字に相応しい女の子を決める勝負でそこまで罵り合えるの…?」


 問いかける繭ちゃんに、ワタシたちは同時に叫んでいた。一糸乱れぬ声と共に。


「「煽りは淑女(レディ)の嗜みでして!!」」

「ボクの知らない世界線の常識を持ち出すのやめてっていつも言ってるよね…」


 そう呟く繭ちゃんを尻目に、このヤマもオチもイミもないエピソードは続いていく…。

 うん、とっても平和だね!

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