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転生者なんか送ってくるな! ~看板娘(自称)の異世界事件簿~  作者: 榊 謳歌
Case 4 『駄女神転生』 1幕 『祭りの支度』
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11 『なんで偽名がエフ〇ォーみたいなのばっかりなんですかね…』

「イベントの設営中に、なにか変わったことがなかったかって?」「いやー、おっちゃんは今回から入ったスタッフだったからちょっと分からないなー」「変わったことって、たとえばどんな?」「特におかしなことはなかった気がするけど、俺の班では」「そういえば、センザキの担当者がいつもと違っていたような?」「仕事中に妙なことがなかったかって?いつもより支給された弁当が美味かったことくらいかな」「これっぽっちも心当たりはないなあ」「え、もしかして照明が落ちたのってうちの会社の落ち度だったのか?」「いや、何も問題なんてなかったよ?」


 センザキグループからイベント会場の設営を委託されていた運営会社のスタッフに、ワタシと慎吾、そしてリリスちゃんは話を聞きに行った。新作発表会が行われたあの夜、もしくはイベント会場の設営中におかしなことはありませんでしたか、と。

 けれど、大体はこんな感じの当たり障りのない返答が大半だった。


 あ、聞き込みの許可はちゃんと運営会社の社長さんにもらったよ。

 その時に、この王都の騎士団長であるナナさんの名前を出したけど。

 でなければ、ワタシやリリスちゃんのような一介の小娘の相手を、真面目にしてくれるはずはないもんね。一応、ワタシが冒険者ギルドの職員だって知ってくれてる人がいたのもプラスに働いてくれたよ。

 それと、ナナさんの名前を出すことも、本人から事前に許可を取ってあったよ。やっぱり便利だね、『念話』は。

 …ただ、ワタシが『念話』で話しかけた時、ナナさんはまたダレカに結婚を申し込んでいる最中みたいだったけど。それを、半ば腕尽(うでず)くで阻止しようとする騎士団の人たちとの攻防を繰り広げている最中みたいだったけれど。


 そして、スタッフの人たちから聞いた話は、その大半が先ほどのような返答だった。

 けど、中には「変わったこと、か…そういえば妙にこそこそしてる三人組がいたような」とか、「昼休みになると、どこかに消えるヤツがいたな」とか、「なんだか、指示とは違う機材を取り付けようとして班長に怒鳴られてるやつがいたよ」とか、「イベントが終わった後に給料をもらうことになってたんだけど、その時に現れないヤツらがいたって聞いたな」とか、「その消えた三人を「魔石を捨てろ!」って騒いでる連中の中で見た気がする」という話を聞くことが、できた。


「…………」


 先日、ナナさんは、ワタシに教えてくれていた。

 あのイベント会場で照明が落ちたのは、ナニモノかの作意による作為だ、と。

 そして、リリスちゃんは、イベントの設営に関わった運営会社が何か関係しているのではないかと、勘繰(かんぐ)っていた。


「…………」


 聞き込みを終えた後、リリスちゃんが口にしていたその可能性は、否定できないものとなった。

 あのイベントの設営中に、何らかの仕掛けをした人物が、本当にいたのかもしれない。

 しかも、その人物たちが『源神(げんしん)教』などという新興宗教の信徒だったという目撃証言を、聞くことができた。

 そして、その『源神教』が崇拝(すうはい)している神さまは、『邪神』だ。


「…………」


 ワタシには、理解が、できなかった。

 どうして、あんな恐ろしいだけの存在を(あが)めることができるのか。

 どれだけ(おぼ)れていようと、あの(わら)だけは掴んではいけない。

 …()してや、アレは、興味本位で人が触れていいモノじゃあ、ないんだよ?


「…………」


 そして、慎吾とリリスちゃんと一緒に運営会社に聞き込みに行った、その翌日だった。

 ワタシは、一人で木立の中を歩いていた。

 この道は、今までにも何度か通っている。

 廃教会へと続く、あの道だ。

 ギルドのお使いを済ませたワタシは、吸い込まれるようにこの道の中にふらふらと入って行った。

 少しでいいから、一人で静かに考えたかったからだ。


「…………」


 あの『源神教』という新興宗教の信徒たちは、『邪神』を崇め(たてま)っていた。

 魔石の排斥運動なども行っていたが、その本懐(ほんかい)は、『邪神』の復活のはずだ。

 …なら、あの人たちがワタシの中の『邪神の魂』を奪おうと目論(もくろ)んだとしても、不自然ではない。

 そのために、あのイベントで何らかの仕掛けをした可能性は、否定できない。

 だとすれば、次に調べるべきは、『源神教』ということになる。のか?


「…いやだよ」


 原液の本心が、言葉となって零れ落ちた。

 関わりたく、なかった。近づきたく、なかった。

 だって、怖いよ…源神教なんて崇めているあの人たちが。

 あの人たちは、集団で練り歩いていた。

 誰彼かまわずに怒鳴り散らしていたその声が、怖かった。

 節操(せっそう)もなく振り上げていたその腕が、怖かった。

 脈絡(みゃくらく)もなく血走っていたその目が、怖かった。

 …あの人たちが、ワタシたちと同じ人間だと思えなくて、怖かった。


「…………」


 ワタシは、そんなことを考えながら歩く。

 リリスちゃんに連れられて行った、あの廃教会へと。

 リリスちゃんの目的は、その廃教会ではなく『願い箱』などと呼ばれるいわく付きの郵便受けだったけれど。


「…………」


 その『願い箱』に願い事を書いて入れれば、その望みが現実になる…という荒唐無稽(こうとうむけい)な噂が、人知れず広がっていた。

 けれど、ワタシにとっても、それは他人ごとではなくなった。

 雪花さんが自分が描いた漫画をその『願い箱』に入れ、その漫画が現実になったような事件が起こったからだ。

 あの時の雪花さんは、本当に苦しんでいた。自分が漫画を描いたのせいで、人が死ぬかもしれない、と。

 結局、その事件は雪花さんではない人間の手で人為(じんい)的に引き起こされたモノで、雪花さんの漫画が関係していたわけではなかった。当然、『願い箱』というのも巷によくある都市伝説の一つ、という結論に落ち着いた。


「…そりゃそうだよね」


 その『願い箱』の願いを叶えてくれるのは、『悪魔』なのだそうだ。

 いくらこの世界がファンタジー満載の異世界とはいえ、そんなほいほい悪魔やら神さまやらに出てこられると困るのだ。

 …今朝、ワタシはそんな女神さまとトイレの順番で一悶着(ひともんちゃく)あったところだけれど。


「…相変わらず鬱蒼(うっそう)とした場所だよね」


 常緑樹なのか落葉樹なのかすらよく分からない木々に覆われ、日の光が遮られている場所が多々あった。


「…!」


 不意に、茂みから音が聞こえた。

 枯れ木を踏み砕いたような、乾いた音だった。

 慌てて、ワタシは振り返る。

 この場所は、街中からは離れていた。

 仮に、ワタシが魔物やら不届き者やらに襲われたとしても、ワタシの悲鳴は、ダレにも届かない。


「…………」


 …迂闊(うかつ)、だっただろうか。

 たった一人で、こんな日の光も届きにくいような人気(ひとけ)のない場所に来てしまったのは。

 振り返ったワタシの視線の先にいたのは、人影だった。

 日の光が木々に遮られ、その人物の全体像は見えない。

 けれど、そのシルエットは長身の成人男性のものだった。


「…あれ、これホントに、危ない?」


 小声で呟いている間に、長身の人影はこちらに歩いて来る。

 ワタシに向かって、真っ直ぐに。

 そこで、ようやく身の危険に、ワタシの思考に追いついた。


「…!」


 そこで、(きびす)を返した。

 ワタシが来た道は、人影に塞がれている。

 なら、逃げ道は…さらに、森の奥へと進むしかない。


「おいおい、そっちは危ないぞ」


 人影が声を発した。

 これまでは平面だった影が、そこで音を持った。

 音を持ったことで、影が二次元から三次元へと、変貌(へんぼう)した。

 そして、一瞬で、ワタシは腕を掴まれた。


「慎吾…しんご、しん、ごおー!!!」


 声の限りに、ワタシは叫んだ。『念話』でも何でもない声で。

 当然、その声は木立に吸い込まれ、どこにも届かない。


「あー、すまない、ビックリさせちまったかな、花子ちゃん」


 人影は、再び言葉を発した。

 けれど、その声は先ほどよりもワタシを驚かせた…。


「どうし、て…ワタシの名前、を?」


 木漏れ日さえ少ないこの場所では、人影は人影のままだった。

 けれど、その声を、ワタシはどこかで聞いていた…ような?


「ああ、そうか、分からないか…ええと、俺だよ。オレオレ」

「…詐欺の電話なら間に合っているのですが」

「電話…?何か分からないけど、俺だよ。ツバサ・ドウミョージだよ」

「…どちら様ですか?」


 いや、割りとマジで。

 まったくもって耳慣れない名前なのですけれど?


「あれ、違ったっけ…じゃあ、イル・ハナザワか」

「…………」

「これも違った…なら、ソウイチロウ・ニシカドだ。あ、いや、キアラ・ミマサカだっけ?」

「なんで偽名がエフ〇ォーみたいなのばっかりなんですかね…」


 というか、この人と話しているうちに、恐怖心も少しずつ消えていった。それと同時に、ワタシはこの声に主も思い出し、この名を口にした。


「貴方みたいな人がこんなところで何をしているんですか…アイギスさん」

「あー、そうだ!アイギスだった!」


 アイギスさんは、軽く柏手を叩き、子供のように笑っていた。


「いやー、久しぶりだな、花子ちゃん」


 アイギスさんは快活な笑みを浮かべていた。

 その笑みが、ワタシの緊張を融解させる。


「確かに久しぶりですけど…こんなところで何をしてるんですか、アイギスさん」


 先日、このアイギスさんとワタシはとあるゲームでしのぎを(けず)り合った。

 まあ、どちらかといえば共闘した部分が大きかったけれど、この人とは。

 ただ、あの時はこの人、サングラスにアフロのカツラで変装してたからね。ここで会ったってすぐには分からなかったよ。今日はサングラスなんてしてないし、髪も短めでさっぱりしてたから。


「こんなところで何をしてるんだはこっちのセリフだよ。女の子が一人でこんな森の奥まで来ちゃいけないだろ」

「う、返す言葉もないですけど…貴方だって、一人でこんなところをうろついていい人じゃないはずですよね」


 そう、このアイギスさん(これも偽名だけど)も、一人でふらふらと出歩いていい人物ではない。

 なにせ、この人、この王都の第二王子だからね。


「それを言われたら、俺としても痛いところだけど…」


 どうやら、ワタシがこの人の正体を察していることを、アイギスさんも察しているようだ。

 まあ、あのゲームの時は色んな人にバレてたみたいだしね、アイギスさんの変装も。


「けど、どうしてもここには来ないと行けなかったんだよ」

「アイギスさんが…ですか?」


 王都の第二王子ともあろうお方が、こんな辺鄙(へんぴ)な場所に何の用事があるというのだ。


「どうしても、お礼をしないといけないと思ってね」

「お礼…?」


 先ほどから、ワタシにはアイギスさんの言葉が理解できなかった。

 この場所で、お礼?一体、ダレに?

 ワタシの脳内が疑問符で満たされている間に、アイギスさんはそそくさと移動する。

 そして、その足が止まったのは。


「ありがとうございました…願いが、叶いました」

 

 そして、第二王子は両手を合わせて頭を下げていた。

 あの、『願い箱』に向けて。

今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

もうすぐゴールデンウイークですね。

出かけやすい季節にもなってきましたし、皆さまもよい休日をお過ごしください。

それでは、次回もよろしくお願いいたしますm(__)m

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