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転生者なんか送ってくるな! ~看板娘(自称)の異世界事件簿~  作者: 榊 謳歌
Case 4 『駄女神転生』 1幕 『祭りの支度』
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10 『慎吾とワタシ、時々リリスちゃん』

『花子先生。そっちのピーチ、一口くださいですねぇ』

「いいよ。じゃあ、ワタシにもリリスちゃんのチョコをちょっとちょーだい」

『どうぞー、ですねぇ』

「ありがとねー、リリスちゃん」


 ワタシが手に持っていたピーチ味のソフトクリームをリリスちゃんの口元に持っていくと、リリスちゃんは小さく舌を出して軽く舐める。その後、リリスちゃんも同じようにチョコアイスをワタシに食べさせてくれた。


『ううむ、そっちのピーチもさっぱりした甘さがあっていいですねぇ』

「でも、リリスちゃんのチョコも美味しいよ。カカオが濃厚でさ」

『後でまた一口くれますか、先生。勿論リリスちゃんのもあげますのでぇ』

「うん、後でまた交換しようね」


 ワタシとリリスちゃんは互いのアイスの交換を約束し、きゃっきゃとはしゃいでいた。なぜなら、ワタシたちはうら若き乙女だからだ。


「…………」


 そんなワタシたちを、慎吾は無言で眺めていた。あ、慎吾もバニラのアイスを食べてたよ?ハブにしてたわけじゃないからね?


「オレの記憶が確かなら…花子たちはさっきまで取っ組み合いの喧嘩をしていなかったか?」


 いや、それほど無言でもなかったわ。慎吾もここで口を挟んできたわ。


「あんなのはいつものコミュニケーションだよ。でも、そうかー。慎吾には大人女子のコミュニケーションはまだ難解だったかなー」

「アレが…大人女子の、姿?」


 慎吾は軽く眉をひそめていたので、ワタシが続けて言った。


「そういう大人の女の機微が分からないとね、モテないんだよ?」

「…オレの目には、園児の小競(こぜ)り合いくらいにしか見えなかったんだが」

「慎吾は知らないかもしれないけど、あんなのは乙女にとっての日常茶飯事(さはんじ)なんだよ」

「あんな外聞の悪いことを、日常茶飯事レベルで…?」


 慎吾は()に落ちないといった表情だったが、ワタシは気にしない。なぜなら、こんなのは日常茶飯事だからだ。

 そんな感じで、ゆったりと淡く流れる温和な時間だった。

 ソプラノアワー。慎吾とワタシ、時々リリスちゃん。といった三人組で歩いていた。響きだけなら『東京タワー』みたいだね。


『お、あっちのドーナツ屋さんも美味しそうですねぇ』


 リリスちゃんが、道の向かいのドーナツ屋さんを指差していた。


「ああ、あそこのお店も美味しいよ。ワタシはオールドファッションが好きかな、生地がサクサクしてるんだよ」

『なるほど、それは是非とも一度は味わっておきませんとですねぇ』

「…というか、リリスちゃんも虫以外のオヤツを食べたりするんだね」

 

 ワタシは、ふとそのことを思い出していた。この子、前にハチの子とか食べてたんだよね。


『リリスちゃんだって普通のお菓子ぐらい食べますねぇ。というか、女の子成分が減ってきたら食べるという感じでしょうかねぇ』

「ああー、なるほどね。確かに、女の子成分が減ってくると無性に女の子っぽい物が食べたくなるよねー」


 分かるー。

 だが、分かるーが分からない慎吾が口を挟んだ。


「その女の子成分とかいうのを、オレは普段の花子からは微塵も感じたことがないんだが…」

『ダメですねぇ、慎吾おにーさん。そんな乙女心が分からないことを言っているとモテませんですねぇ』


 リリスちゃんが溜め息交じりにそう言った。

 いいよ、リリスちゃん。もっと言ってやって。

 あ、ちなみに、リリスちゃんと慎吾の自己紹介は先ほど済ませておりました。


「いや、でもよ…」

「そうだよ、慎吾ー。これがガールズトークってやつなんだよ」

「ガールズトークってこんなにエキセントリックなモノだったか…?」


 と、慎吾はそんなことを呟いていたが、ワタシたちは気にせず歩き続けていた。

 そして、ワタシたちがどこに向かっていたのかというと、センザキグループの新作発表会の会場を設営していたというイベント会社だ。


「けど、リリスちゃん…そのイベント会社がセンザキグループの新作発表会を妨害をしてたって証拠はないんでしょ?」


 ワタシは、桃のアイスをぺろりと舐める。

 リリスちゃんもあの新作発表会の現場にいて、あの時の異変に立ち会っている。

 …あの時の、異変。

 異変その一。全ての照明が消え、夜が真の暗闇を取り戻した。

 異変その二。センザキグループが満を持して発表するはずだった『テレプス』が、まったく起動しなかった。

 異変その三。ワタシの中から奪われた、おばあちゃんの記憶…。


『証拠なんて勿論ありませんねぇ。だから調べるんじゃないですか』


 堂々と、リリスちゃんはそう言ってのけた。

 そんなリリスちゃんに、ワタシは尋ねる。


「でも、なんでそんなことを調べるの…って、リリスちゃんに聞くのは野暮(やぼ)なんだよね」

『当たり前ですねぇ。リリスちゃんは、この世界の全ての謎を解き明かす系女の子ですからねぇ』

「だったらリリスちゃんが『探偵』をやればいいのに…」


 なぜか、この子はワタシにその『探偵』をやらせようとする。


『それは、リリスちゃんが陰の実力者になりたいからですねぇ』

「…つまり、ワタシはリリスちゃんに担がれてるだけの神輿(みこし)ってわけだね」

『どちらかというと案山子ですかねぇ』

「リリスちゃんホント、ワタシのこと軽視してるよね!?」


 この子から敬意なんて感じたことなかったけどさぁ!?


『まあまあ、どうぞ、センセー』

「そんなものじゃ誤魔化されな…はい、こっちもあげる」

『ありがとうございますねぇ』


 リリスちゃんがチョコアイスを食べさせてくれたので、ワタシも桃のソフトクリームを食べさせてあげた。

 なんだかんだで、これがワタシとリリスちゃんの適切な距離感だったのかもしれない。だって、やたらと心地いいんだよね。

 と、そこで。


『…あぁ、すみません』

 

 ダレカが、ワタシにぶつかってきた。


「あ、いえ…ワタシはなんともなかったですけど、そちらは大丈夫ですか?」


 ワタシはその場で直立不動だったけれど、ワタシにぶつかってきたその少女は尻もちをついていた。


『さすが花子先生。ちょっとぶつかられたくらいじゃビクともしていませんねぇ』

「それ絶対に褒めてないよね…リリスちゃん」

『いえいえ、褒めてますねぇ。さすが先生。密度が違う、と』

「よーし、表に出ろお!」


 ここは既にお外だったけれど。

 と、リリスちゃんを軽くにらんだ後、ワタシは尻もちをついていたその子の手を取り、立たせてあげた。


『ありがとうございます…私の方がぶつかってしまいましたのに』

「ううん、不注意はワタシの方かもしれないから…」


 確かに、ぶつかられたのはワタシの方だ。

 けれど、この少女は、杖をついて歩いていた。瞳を閉じたままで。この街の中を。

 きっと、この子、目が見えていないんだ。


『いえ、不注意はやはり私ですよ」


 杖の少女は、そこで瞳を開いた。

 そして、真っ直ぐな瞳でワタシを見ていた。

 …見ていた?

 なので、思わず問いかけてしまった。


「もしかして、その目、見えてるんですか?」

『はい…?はい、見えておりますが』


 杖の少女は不思議そうな瞳でワタシを見ていたが、不思議そうな瞳で見たいのはワタシの方なのだ。


「もしかして、目をつぶって歩いていたんですか?」

『はい。そうですよ』

「…どうしてですか?」

『何事も経験ですので』


 少女は、尻もちをついていたことなど忘れたように、笑顔で微笑んでいた。

 …また、変な子と出会ってしまった。

 などと、考えていたワタシの耳に、聞こえてきた。少し、離れた場所から。


「…………!」


 それは、ワタシでもリリスちゃんでも慎吾でもない声。

 勿論、この尻もち少女の声でも、それはなかった。

 声は、徐々に近づいて、来る。

 その声は、叫んでいた。


「魔石は破棄せよ!」


 それは、生々しい怒声だった。

 声は、それだけでは、なかった。

 そこには、十人以上の人間が列をなし、口々に思い思いの怒鳴り声をあげていた。

 しかも、全員が黄色の装束に身を包んでいた。異様で、高圧的な光景だった。


「魔石は人間を堕落させる!」「魔石を捨てることこそが、人理の摂理だ!」「魔石こそが絶え間のない争いを生んでいる!」「魔石こそが(いわ)れなき差別を助長している要因である!」


 と、各々の言葉で魔石を捨てろと大声で叫びながら、黄色い装束の人間たちが練り歩く。

 街の中を、ダレに(はばか)ることもなく。

 デモ行進…というヤツかもしれない。それ自体は、日本にいた頃にも見たことがある。ワタシたちの国だけでなく、それらは世界中で行われていた。

 けれど、自らの主張だけを声高に叫ぶその姿は…あまり言いたくはないが、醜悪(しゅうあく)だった。

 その声の端々に怨嗟(えんさ)が含まれていたことが、声音から察することができたからだろうか。

 彼らは、すれ違う誰彼かまわずに振り撒いている。ひどく身勝手で、汚泥(おでい)のような呪詛(じゅそ)を。


「…………」


 耳を、塞ぎたくなった。

 彼らの主張が、支離滅裂な独善だとしか思えなかった。

 この世界は魔石があるからこそ、今の姿を保っていられるんだ。

 魔石は便利で、暖かくて、楽しいことをたくさん可能にしてくれる。魔石に救われている人間だって、山ほどいる。

 それを一方的に『捨てろ!』などと、口にしていいはずがない。

 だとすれば、彼らのアレは、悪意を抽出(ちゅうしゅつ)しただけの厄介なお節介(せっかい)でしかない。

 魔石を捨てたいのならば、自分たちだけで捨てればいいだけの話ではないか。


「…………」


 いつの間にか、ワタシの呼気が乱れていた。

 心臓が不自然に脈打つ音が、聞こえていた。

 こぶしを握り、爪が皮膚に食い込んでいた。

 溶け始めたソフトクリームが、ワタシの手を伝い、地面に滴る。

 

『あの方たちは、『源神教』の方々ですね』


 デモ集団が通り過ぎたところで、尻もちの少女がそう呟いた。

 ワタシは、自然と問いかけていた。


「知って…いるんですか?」


 本当は知りたくなどなかったのに、どうして聞いてしまったのだろうか。

 そんなワタシに、杖の少女は律儀に答えてくれた。


『私も詳しくは知りません…あの方々が魔石を不浄な物として嫌悪していて、排斥活動を積極的に行っているということくらいでしょうか』


 そこまで言った後で、杖の少女は思い出したように付け加えた。


『ああ、それと…あの方たちが崇拝(すうはい)しているのが『邪神』という名の神さまだと、聞いたことがあります』

今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

つい先日まで寒い日があったりしたはずなのに、もう暑くなってきました…。

4月でここまで暑くなるなら、12月にはどれだけ暑くなっているのでしょうね?(テンプレ)

それでは、次回もよろしくお願いいたしますm(__)m

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