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転生者なんか送ってくるな! ~看板娘(自称)の異世界事件簿~  作者: 榊 謳歌
Case 4 『駄女神転生』 1幕 『祭りの支度』
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2 『これ、通算100話目のお話なんだよ!?』

「これでやっと…まともに話ができますね」


 慎吾とワタシの二人がかりで、ようやくシャルカさんの吐瀉物(としゃぶつ)の清掃が終わった。

 …いや、さすがにきつかったよ?

 何度かもらいゲロしそうになったけど、なんとか耐えたよ?

 ワタシ、『看板娘』だからね。

 こんな意味不明なところでゲロインにはなりたくないからね。

 というか、ゲロから始まる100話目ってなに?

 そして、その吐瀉物の生産者であるシャルカさんは繭ちゃん白ちゃんに別室に連れて行かれた。今頃は、繭ちゃんからありがたいお説教を喰らっているはずだ。いや、繭ちゃんに禁酒の誓約書を泣きながら書かされているだろうか。


『お話…ですか』


 アルテナさまが、小さく呟いた。一応、天使であるシャルカさんは女神のアルテナさまの部下なのだそうだ。さすがに、部下であるシャルカさんが嘔吐(おうと)してからはこの人も申し訳なさそうにしていた。


「はい…ワタシとしても、アルテナさまに、聞きたいことがあります」

『聞きたいこと…『るろうに〇心』が再アニメ化されるなんて、ワタクシは知りませんでしたよ?』

「…そんなことアルテナさまから聞こうとは思ってないですよ」


 ワタシとしてもビックリだったけどさ。名作って時を超えるんだね。


「ワタシが聞きたいのは、白ちゃんのことですよ」


 先ほど、アルテナさまは白ちゃんを見て、こう呼んだ。『大神(おおかみ)族』と。

 アルテナさまは、白ちゃんのことを知っていたんだ。ワタシたちや、天使であるシャルカさん、それに、地母神さまのティアちゃんですら知らなかった白ちゃんのことを、この人は知っていたんだ。なら、それは蜘蛛の糸だ。その糸を手繰(たぐ)れば、帰ることができるかもしれない。白ちゃんが。自分の世界に。


『ああ、あの『大神族』の女の子ですね』

「…白ちゃん男の子ですけどね」

『ええっ!?』

「…詳細は省きますけど、白ちゃんが女の子の格好をしているのは繭ちゃんの影響です」


 本題に入る前に余計な寄り道はしたくないので(すでに手遅れだけれど)、その辺りの説明はちゃちゃっと済ませたいところだ。アルテナさまはその衝撃を引きずっていたけれど。


『え、ですが…ええ?』

「とりあえず、いつまでもそこを気にしてたら話が進まないので」

『ですが…下着などはどうされているのですか?』

「一番どうでもいいところに喰いつくのやめてもらえます!?」


 これ、通算100話目のお話なんだよ!?

 それなのに、ゲロから始まってずっとどうでもいい話しかしてないよ!?


『そうですね…ワタクシが『大神族』のことを知ったのは』


 ようやく、アルテナさまは語り始めた。(おごそ)かな、声で。

 ワタシだけでなく、雪花さんと慎吾、ティアちゃんも口を(つぐ)んで女神さまの言葉に耳を傾ける。


『あれは、そう…ちょうど、ワタクシの初潮が始まった頃だったでしょうか』

「ワードのチョイス!ワードのチョイスぅ!」


 なんちゅうセンシティブな単語をぶち込んでくるんだよ!?

 100話目だっつってんだろ!?


『その頃はまだワタクシも女神ではありませんでしたし、こちらの世界にもそれほど詳しくはありませんでした…先代の女神さまから話を聞いただけなので、直接ワタクシが見たわけではないのですが』


 ようやく、まともに話し始めた女神さまだった。

 そして、先代の女神さまという気になる言葉も出てきたが、とりあえずそこは後回しにすることにした。


『昔、このソプラノが滅亡しかけたことがあったのです』

「めつ…ぼう?」


 穏やかではない言葉が、何の前触(まえぶ)れもなく聞こえてきた。

 その響きが、見えない(かいな)でワタシの心臓を鷲掴(わしづか)みにする。

 滅亡と聞き、とある存在を想起したからだ。


「もしかして、『邪神』…ですか?」


 思わず、口を挟んでしまった。

 しかし、その『邪神』がこのソプラノという世界を滅ぼしかけたという話を、ワタシたちは聞いていた。いや、その断片を、体感した。


『いえ、『邪神』とは違う脅威だったそうですよ』

「『邪神』とは…別の?」


 あの『邪神』だけでも、この世界が何度も傾いたというのに?

 そして、アルテナさまは口を開いた。

 その脅威を、口にするために。


『このソプラノ世界を滅ぼしかけたのは、『魔女』と呼ばれた存在です』

「…魔女、ですか?」


 身構えていたワタシは、少しだけ拍子抜けしてしまった。

 だって、『魔女』だ。

 ならば、それは『人間』ということではないのか?

 だから、見劣りをしてしまっても仕方がないのではないだろうか?『邪神』などという、この世の理不尽を全て煮詰めたようなあの存在に比べれば。


『ええ、その『魔女』は、この世界を滅ぼしかけたそうですよ』


 半信半疑だったワタシに、アルテナさまは語った。『魔女』の脅威がホンモノであったことを。

 その声に、ワタシの背筋が小さく震えた。アルテナさまの言葉が、真実だと感じたからだ。


「…『魔女』ですか」


 この世界には、魔法が得意な『エルフ』もいる。不思議な力を持った『妖精』もいる。力持ちの『オーガ』さんたちもいる。『人間』の中にも、『スキル』という強力な特異能力を持った人たちがいる。

 にもかかわらず、『魔女』という存在にこの異世界が滅ぼされかけた、というのか。


『ですが、その滅亡の危機は、『この世界にはいないはずの種族』が別世界から現れたことによって、回避されたそうです』

「…それ、って」


 確かに、『その種族』はこのソプラノにはいない。

 いや、いなかった、というべきか。

 猫耳をもつ種族はいたが、犬の耳を持つ種族は、いなかった。


『はい…ふわふわの耳ともふもふの尻尾を持ったその種族により、このソプラノは救われたそうです』

「…救世主の描写にしてはやけにかわいらしいですね」


 ふわふわとか、もふもふとか。


『ですが、『異世界』から現れたその種族により、このソプラノが救われたことは間違いありません。そして、世界を救った後、その種族はこの世界から突如として消えたそうですよ。その後、天界ではその種族のことを『大神族』と呼ぶようになりました』

「それ、が…白ちゃん、ですか?」

『犬のような耳と犬のような尻尾を持つのが、その『大神族』の特徴だそうです…まあ、ワタクシも伝え聞いただけですし、古い話なので天界でもその存在が風化しかけていますけれど』


 なるほど、それでシャルカさんは白ちゃんのことを知らなかったのか。


「じゃあ、その…アルテナさまに、聞きたいのですが」


 …ワタシは今、残酷な質問を口にしようとしていた。


「白ちゃんが、元の世界に帰れる方法…あるんですか?」


 口にはあまり出さないが、白ちゃんは、きっと帰りたがっている。

 当たり前だ。

 そこには、自分の家族がいる。

 …けれど。

 たぶん、繭ちゃんは、悲しむ。

 いや、喜ぶことも間違いないが、それでも、白ちゃんとお別れすることを、繭ちゃんは悲しむ。

 それを知りつつ、ワタシはアルテナさまに尋ねた。


『すみません、ワタクシも詳しいことは本当に何も知らないのです』

「そう…なんですね」


 そこで、ワタシはほんの少しだけ、安堵してしまった。

 …いやな人間だな、ワタシは。

 勿論、白ちゃんが自分の世界に帰ることを、ワタシだって望んでいる。

 帰る家があるのなら、待ってくれている家族がいるのなら、そこには、帰らなければならない。

 だって、家族って、そういうものだからだ。

 白ちゃんのご両親だって、今もきっと、血眼で白ちゃんのことを探している。

 毎日毎日、胸が張り裂けそうな痛みを抱えて、白ちゃんの無事を祈っている。

 だから、白ちゃんは帰らないといけない。

 待ってくれているはずの、家族の元へと。

 それは、家族を奪われる痛みを、誰よりも知っているワタシたちの仕事だ。


「…………」


 なのに、ズルいワタシはそこで、少しだけホッとしてしまった。

 まだもう少しだけ、繭ちゃんが白ちゃんと一緒にいられる、と。

 …本当に、嫌な人間だ、ワタシは。

 そんな自分の嫌なところから目を逸らすように、ワタシはアルテナさまに問いかけた。


「じゃあ、アルテナさま…その『魔女』の脅威って、どんなものだったんですか?」

『それも…分からないのですよ』

「分からない…んですか?」


 ワタシとしては肩透(かたす)かしを喰った感じだった。


『ええ、先代の女神さまが、その件で命を落としてしまいましたから』

「女神…さまが?」


 アルテナさまと同じ、女神さまが?

 …『魔女』に関わり、命を、落とした?


「…………」


 それだけで『魔女』という存在の脅威が、尋常ではないものだということが、理解できた。

 そして、そこで、ふと脳裏に浮かんだ。

 白ちゃんという『大神族』が、突如としてこの世界に『漂流』してきた。

 …ならば、『魔女』という存在が、この世界に突如として現れることも、あるのではないか、と。

 しばし、重い空気が周囲を包んだ。どれだけの時間が経過したのか、していなかったのか、それすら分からなかった。


「あの、アルテナ…さま?」


 しばらくした後、ワタシはアルテナさまに声をかけたのだが、女神さまは少しだけ上の空だった。


『え、ああ…すみません、ちょっとぼーっとしてしまっておりました』

「いえ、アルテナさまもこちらに来たばっかりですし…疲れてますよね」


 もしかすると、天界からこちらに来るためには、大きな力を使わなければならないのかもしれない。それなのに、ワタシはアルテナさまが疲弊(ひへい)しているかもしれないとは、考えていなかった。久しぶりにアルテナさまにあえたことで、はしゃいでしまっていた。


『いえ、それほど疲れているというわけではありませんけれど…ちょっと、ラブコメの波動を感じておりました』

「これ100話目のお話だって言ったでしょ!?」


 言ってないですけどぉ!

今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

投稿直前で気付いたのですが、これが100話目でした。

頑張ったり頑張らなかったりしましたが、なんとかここまでこられました。

これも、読んでくださっている方たちのお陰です。ありがとうございます!

ついでに、お祝いの代わりに評価やブックマークをくださるとめっさ喜びます(笑)

それでは、次回も頑張りますのでよろしくお願いいたしますm(__)m

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