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異世界~果てなき迷宮と記憶の系譜~  作者: トキア
一節【異世界より】
7/12

【5】



そんなキティカは一応自分達の進んで来た方向を確認してくれたらしく、「後ろは大丈夫だ。安心しな。一応、音だけは気を付けておいて、何かあったら直ぐに叫ぶんだ。解ったね?」と耳打ちしてくれる。


頷くと、頭を優しく撫でられた。こんな状況なのにちょっと身を任せたくなってしまう自分がいる。直ぐに終わってしまったけれど、気持ちは少し落ち着いた。



「じゃあ、いくぞ」



「ああ、先ずあたしがスニークで近付く。足元は気にしなくていいから、あんたは壁伝いに着いて来な。転ばないようにだけ注意しなよ」



「言っておくけど全然面白くないよ、それ。まったく、僕をなんだと思ってるんだ」



ぶつぶつ言いながら、センシェルがキティカに続いてゆくのが解る。



「待って」



と、二人の背中に静かに声を掛けて引き留めた。恐らくどうしてそうされたのか解らないだろう二人に、



「手を、出して」



と、続ける。センシェルはかなり不満そうな顔をしてるだろうけど、意外にも素直に従ってくれたことがちょっと嬉しかった。暗闇の中から手探りで二人の手を掴んで、そしてふうっと軽く息を吸い込む。



「おい、一体何して・・」



「神より授けられたこの力に感謝致します。願わくばわたしの大切な仲間を御守り下さい──エル、トゥ、レィリア」



目を閉じてそう唱えると、自らの掌に柔らかな温もりを感じ始める。それが指から指先へとすうっと移動する感覚があって、やがて無くなってゆく。恐らく、二人の方には指先から掌へと同じ様な現象が起きている筈だ。



「──はい、終わり。後は頑張って」



それだけ言って、手を離した。それは只のエールの為の行動じゃない。【聖なる光】と呼ばれる、産まれた時に神様から授かった才能の一種だ。一種の中のひとつ、って表現した方が正しいのかもしれない。


他にも色々出来るからだ。人を助け、人を守る力──自分は【これ】を幸運にも授かってしまったから、兵団から従軍の誘いが来てしまったのだけれど。



「って、何?」

「どういうこと?なんか手があったかいんだけど」



二人で殆ど同時に尋ねて来た。【ソレ】を知らないことに少し驚いたけれど、一応説明しておく。



「少しの間、えっと・・手の甲に青い光が灯ってる間は、身体に受ける攻撃の威力を軽減してくれるの。でもあてにし過ぎないで。威力によっては、全然効かない時もあるから」



自分は戦えないから、これくらいしかしてあげられない。戦うのは嫌だけれど、命を賭けて戦うということがどれだけ大変かを自分なりに知っているつもりだ。だから味方をそうやって送り出す度に嘆かわしくなる。申し訳なくなる。


しかし二人はほんの少し間を置いてから、



「ありがとね。やっぱりあんたは面白いよ」



「まあ、その・・助かるかな、一応。これは僕の光魔法の知識には存在していないけど、信じるよキミを」



と、言ってくれた。二人が離れて行った後ろ姿に、小さくありがとうと声を掛けた。



背中をぴったりと壁にくっ付けて、ただ待つ。もう全く二人の位置は視認出来ない。オレンジ色の灯りの中の二人の人間と何かの戦闘は、激しくなっているようだ。男性の切迫した声が響いて来る。



「もう少し、見える位置まで」



やっぱりただ待っているだけなんて出来ない。せめて戦闘の様子が解るところまでは近付いてみようと、壁伝いに歩き出した。息を殺して、ゆっくり、ゆっくりだ。



「うおわっ──ちょ、やばい登ってくる。助けて、ロザリーちゃーん!!」



男性の声がはっきり聞き取れた。大きな虫の様なシルエットが人影にしがみついているみたいだ。それも脚の辺りに、解るだけで三つ。


もうひとりが男性を助けようとしているのか、たぶんロングソードだろう武器を振り回していた。頼みのキティカ達は未だ闇の中を移動しているようだ。



更に近付く。魔物・・だと思われる虫型の生物の輪唱も段々と大きくなる。鬱陶しくて不快な音、耳を塞ぎたい。


それでも少しずつ近付く。オレンジ色の灯りは半分近く地面を照らしているから解り難いけれど、二人の実際の姿がようやくぼやあっと見えてきた。何度か瞬きしてから、目を凝らしてじいっと見詰めた、その時だ──



ぱあっと、真っ白な光によって視線の先が鮮明に写し出された。これはセンシェルの──まほうだ。



「だああああ──ッ!!」



と、途端に雄叫びに似た声を上げながら、キティカが猛突進している姿が目に入った。甲冑姿の赤髪の女性の足元に群がる、側部から無数の脚を生やした黒い虫型の生物の一匹に急接近して、その胴体にダガーの尖端を突き立てる。



『ギュイイイイイ』



と、血液なのか、緑色の液体が飛沫となって飛散する。左右に開閉する口から叫び声のようなものを上げて、半分程度刺さったナイフを引き抜こうと暴れ出した。


赤髪の女性は、急に現れた助っ人に呆気に取られたように動きを止めたけれど、直ぐに状況を察したみたいだ。更にこの光が眩しくは無い事を知り、翳していた手を早々に下ろしてロングソードを振るう。柄に派手な装飾が施された、随分と高価そうな剣が虫生物の一匹を捕らえる。



『キュグイッ』



短く鳴いて、液体を飛ばしながら壁に激突した。引っくり返って起き上がれないのか、そもそも重傷で【最後のあがき】を見せているのか、無数に生えた脚をがむしゃらに動かしている。



この位置からでも背筋がぞくぞくっと震えた。やっぱりあのタイプの魔物は苦手だ。気持ち悪い。



「誰かは知らないが、助太刀、感謝する!!」



赤髪の女性は虫生物に囲まれていても凛とした表情を崩してはいなかった。美しく、それでいて格好良い人だ。視界が良くなった事によって、刃を当てる相手がはっきりと解るようになったからか、頭の横で結った長い髪を振り乱して、続け様二匹の虫生物を切り裂いた。


キティカも最初の一匹からダガーを引き抜いて、横に開いた鋭い牙で腕に噛み付こうとした一匹の顎の下辺りに、肘を入れて隙を作る。そのまま口の中に腕ごとナイフを入れて捻ったのか、虫生物はびくびくっと痙攣してから全ての脚をだらりと下ろしてしまった。



「ちょ──っと!!やばやばやばやばやばだって──俺──助けて──」



一方の少し奥。男性の方は三匹──じゃなくて四匹かそれ以上の虫生物に取りつかれていた。今のところ怪我や血を流してはいないように見えるけれど、身軽さを重視したような軽装防具のあちこちに噛み付かれている。それを両手に持った小さなナイフで払い落とそうとしているのか、あまり効果が無いように見える。


がきいっと嫌な音がして、ナイフが一本根本から折られた。虫生物との相性はかなり悪いみたいだ。革みたいな胸部防具にしがみついていた一匹が、ここぞとばかりに顎をガチガチ鳴らしながら這い登ってくる。



「うっひゃ──ッ!!やばい助けて──なんか登ってくるんですけどっ。ロザリーちゃんなんとかして──ッ!!」



「悪いが今は無理だ!!お前も男なら、自分でなんとかしろ!!」



赤髪の女性に叱咤されて「いやむりむりむり絶対むり、俺むりだって、ほんっとむりっ」と、見るからに動揺してナイフを闇雲に振り回す。もちろん当たるわけが無い。


万事休す──と思われたけれど、



「はあっ」



そちらには既にセンシェルが助けに入っていた。接近すると、男性の足元で群れている虫生物が一斉に彼の方を向いて、口を何度も開閉させて威嚇してくる。



杖の先でその中の一匹を殴打して、そのまま払い除けるように別の数匹を巻き込んで杖を振るう。虫生物の体は思いの外軽いのか、それだけで脚をばたばたさせながら1メートルくらい飛んで行った。道、とは言わないまでも地面に【空き】が出来て、センシェルはそこを駆けながら杖の末端を前方に突き出して、叫んだ。



「気合いを入れろ!!」



と。杖の石突き部分を男性の首部分まで登っていた虫生物の背中に衝突させる。黒光りする甲羅の様な部分にめり込む様に入ったかと思うと、『ギュ・・ギイイ』と絞り出す様な声で鳴いた虫生物が、口から大量の液体を吐き出した。


戦闘は不得手とか、そんなことを言っていた筈なのに、センシェルは結構まともに戦えているみたいだ。



「ぐうえっ」



しかしながら、石突きの一撃は味方にもダメージを及ぼしてしまった。ついでに男性の喉にも突きの衝撃が加わったみたいで、虫生物がぽろりと取れた痕を抑えながら、何度も咳き込んでいる。



「悪いな。こうするしか無かったんだ。先に言っておいただろ?気合いを入れろって、ちゃんと」



「い・・や、おっけーおっけーだってー。本っ当に助かった、から、さー・・げほっげほっ」



男性の危機は脱したものの、相手はまだ多数──キティカやセンシェル達四人に対して、倍以上が地面を這ってがちがち顎を鳴らしている。体格は【魔物】にしては小さいけれど、数が厄介なのは流石に解る。今のところ優勢でも、仲間が数匹殺された事で憤りを露にしているようだから、油断は出来ない。



「たりゃああああ!!」



キティカの黒っぽいダガーの刃が、虫生物の片側の腹脚を全て切り落とした。残った脚を目茶苦茶に動かしてみるも、その状態ではろくに体を支える事も出来ない。



キティカもセンシェルも【ソレ】をよく解っているんだと思った。以前兵団のベテランだという男性から教わったのは、自分達より相手の数が多い場合は【弱い者から順に殺していけばいい】だった。それから、とにかく敵の動ける数を減らす事が大事だから、数が驚異となる場合は【殺すんじゃなくて、先ずは片っ端から負傷させてやれ】とも言ってたっけ。



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