表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

65歳まで出られない駅 ~出口はいつも隣に~

 気が付いたら、歩いていた。

 周囲に目を向けると沢山の人が同じように歩いていた。


 階段をのぼったり、おりたり。

 どこまでも続く道を歩いていた。


 誰かがつぶやいた。

 ここは、どこだろう。


 誰かが返事をした。

 駅に決まっているじゃないか。


 そうか、駅なのか。

 随分と広い駅なんだね。


 そろそろ疲れた。休みたい。

 誰か教えてくれ。出口は、どこにある?


 返事はない。

 いつまで待っても聞こえてこない。


 きっと誰も出口の場所を知らないのだ。

 それでも休まずに歩くのは、どうしてだろう。


 みんなが歩く先に出口があるからだろうか。

 このままみんなと一緒に歩いていれば、出口に辿り着けるのだろうか。


 ならば、もう少し歩いてみよう。

 歩き続けて……やっぱり、出口は見えない。


 もう疲れた。少し休もう。

 腰を下ろすと、無数の人が左右から通り過ぎて行くのが見えた。


 悠々と歩く若者。

 杖をついて歩く老人。


 いろいろな人がいる。

 みんな疲れた顔をして歩いている。

 

 ふと右側を見るとエレベータがあった。

 特別なカードを手にした人だけがエレベータを使っている。


 エレベータは遥か高いところまで続いている。

 そこに何があるのかは、分からない。どれだけ見上げても、先が見えない。


 あの先に、出口があるのだろうか?


 ぼんやりと上を見ていた。

 ふと、空に浮かぶエスカレータに気が付いた。


 気が付いた瞬間、エスカレータは透明になった。


 小さな子供が、立派なスーツを着た親と手をつないで、のぼっていく。

 エスカレータの隣には階段がある。二十歳くらいの青年が、年老いた親を背に、同じくらいの速さで、必死にのぼっている。


 みんなが上を目指している。

 出口はきっと、上にあるのだろう。

 気が狂うほどのぼり続けた先に、出口はあるのだろう。


 足を止めて、座り込んで、考えていた。

 立ち上がるのは億劫だ。歩くのは疲れる。


 だから、このまま座っていよう。


 ――ドドドド、ドドド。


 音が聞こえて、振り向いた。 

 背後には道があった。今まで歩き続けた道が、続いていた。


 遠くの方、道が消えていくのが分かった。


 ――ドドドド、ドドド。

 

 崩れた先には闇がある。

 落ちたら、きっと助からない。


 闇はどんどん近付いてくる。

 どんどん、どんどん近付いてくる。


 怖くて飛び上がった。

 前を歩く人の肩を掴んで、かき分けて、上を目指した。


 体が重い。つらい。くるしい。

 いつまで歩いても出口は見えない。


 見えるのは同じような景色。

 朝も夜も、春も冬も、ずっと変わらない。


 だけど、立ち止まれば闇に飲み込まれる。怖い闇に飲み込まれる。

 だから、歩き続けるしかない。悲鳴をあげそうなくらい重たい身体を引きずって、歩くしかない。


 もう無理だ、もう疲れた。

 出口はどこ。出口はどこ。


 ふと光が見えた。

 光は、直ぐ隣にあった。


 目をこする。

 やっぱり、見える。


 出口だ。出口だ。

 気が狂うほどに求めていた出口が、直ぐ隣にある。


 おいみんな、ここに出口があるぞ!


 周りに声をかける。

 誰も振り返らない。みんな疲れた顔をしているのに、歩き続けている。


 聞いてくれ! ここに出口がある!

 みんな疲れただろ? あんたなんて、もうボロボロじゃないか。


 なあ、どうして無視するんだよ?

 ほら見てみろ、ここに出口があるじゃないか!


 誰も目を向けない。

 肩を掴んでも、迷惑そうに振り払われる。


 ……もしかして、自分にしか見えていないのか?


 そうか、これは自分にしか見えていないんだ。

 自分だけに用意された、特別な出口だ。


 ……やっとだ。

 ようやく、ここから出られる。


 やっと、楽になれる。

 笑みを浮かべて、出口に足を向けた。


 




 ――またか。

 とある駅員は、呟いた。





 駅員が見下ろす先には青色のシートがある。


 っち、ふざけんなよ。

 すみません、時間に間に合わないかもしれません。

 SNSにアップしよ~。いいね増えるかなあ?


 誰も、シートの先には興味がない。

 誰かが手足が千切れるほどの苦痛の果てに辿り着いた出口には、興味がない。



 ――何分かかる?

 ――二十分くらいですね。



 やがて青いシートは消えた。

 何もかも元通り。まるで最初から何もなかったかのように。


 また誰もが、出口を求めて歩き始める。

 そしてまた誰かが、すぐ隣にある出口に気が付いた。 


読了ありがとうございます。

よければ広告下の★ボタンをポチっとお願いします。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 因みに、仕事場だと人間だと30近くになる迄は人間として認識されてなかったと気付いた今日この頃。 過去の自分は出口を指差して困らせてたと、10代20代前半の理論値は時々あってるけど筋諸々が通…
[良い点] 65歳迄出られないのタイトルだけで震える怖さですね。((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル すぐ隣の出口とみんなが向かっている出口(?)は、心身が元気だと辿り着けないリアルホラー? 青い…
[一言] 残念ながら、今は65歳でも出られない件。 75までは無理やんなぁ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ