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3話「新しい両親の仲の良さと強くなるための訓練」

この親は一体どうなっているのだろうか?



 俺が異世界に転生してから半年経った。

 相変わらず、体の自由も効かず言葉も話すことができないことが歯痒いが、この世界で生活を始めてわかったことがいくつかある。



 まず俺が今生活の拠点にしている場所だが、どうやら深い森の中らしい。

 いつだったが、気分転換にと新しく母親となった女性が俺を連れて家の外に出たことがあった。その時見た光景は森の中にポツンと建てられた家だったのだ。



 俺としては、村の中にある一軒の家を予想していたのだが、どうも人里離れた森の中に無理矢理家を建てたといった印象を受けたので、両親は何か事情があってここで生活しているらしい。

 尤も、言葉を話せない今の俺ではそのことを聞き出せないため今は保留とした。



 そして、現世の両親だが新婚ホヤホヤといった感じに仲睦まじく、その仲の良さときたら異常という表現を使っても差し支えないほどだ。だがしかし、そうだがしかし、それは百歩譲っていいとしよう。両親が異常なまでに仲が良い、それは決して悪いことではなく寧ろ現代から転生した俺から見れば理想的な夫婦の形と言えるのだが……。



「あっ、あん……ウォ、ウォルトちゃん、いいわぁー、もっと、もっと吸って! ママをめちゃくちゃにして!!」


「……」



 俺の名誉のために言っておくが、俺は決していかがわしいことをしているわけではない。生まれたばかりの赤ん坊にとって生きていく上で必要な行為……そう、授乳しているだけなのだ。平たく言えば、母親のおっぱいから出る母乳を頂いているだけなのだ。その行為は決して卑猥なものではなく、母と子がスキンシップを図る上で重要なものだったりするのだが、何故かうちの母親は俺が母乳を頂いている時に艶のある声でよがり始めるのだ。



(これは精神的に来るものがあるな……いくら母親とはいえ元おっさんの俺からすれば赤ちゃんプレイ甚だしいぞ。まあ、今は赤ん坊だからいいかもしれんが……)



 この行為が半年に渡って繰り広げられているので、最早慣れ始めている自分が恐ろしくもあるが、さらにもう百歩譲ってこれも良しとしよう。これも最早いつものことなのだが、俺が母親から母乳をもらっていると決まって現れる人物がいる。その人物とは……。



「ああー、ウォルトばかりズルいぞ。マリアンナ、俺も吸いたい!」



 何を言っているんだと半ば呆れを含んだ視線を向けるものの、それに全く気付かないのがこの父親である。そんなアホみたいな要求をうちの母親が呑むわけが……。



「わかったわ、今夜ね」



 ……はい、これが呑んじゃうんですよ。こういったやり取りが連日続いており、さらに俺の精神がゴリゴリと削られているという悪循環に陥っていた。さらに辛いのが、俺は両親の寝室に設置された赤ちゃん用のベッドで寝ているのだが、当然その寝室は両親も一緒に眠るわけだ。理解が早いやつはもうわかっているだろうが、夜になると両親のベッドがギシギシと音を立て始めるのだ。そして、極めつけが母親のこの一言がかなりキツイ。



「あん、やんっ……もう二人目が欲しいのぉ~?」



 俺は結婚というものを経験することなく二度目の人生を歩むことになったのだが、一つ問いたい。結婚して数年が経過し子供もいる夫婦とはこうも仲が良いものなのだろうかと……。






 



 という具合でここ半年の出来事を説明したわけだが、ここからは異世界転生でよくある赤ん坊の頃から鍛錬をして強くなります的な話をしよう。



 結論から言えば、まったくと言っていいほど進展がない。確かに、以前地球でいた頃とは異なる違和感が体にあり、最初は戸惑いを覚えた。そして、それが自分の体内にある魔力だと予想してそれを操作する訓練を開始したのがこの世界に転生して一か月の頃だった。



 よくラノベで描かれているのが、へその下に位置する丹田と呼ばれる部位に意識を集中させるということなのだが、これが思いのほか難航している。そもそもの話として、俺はこの世界の魔法の訓練法を知らない。当然といえば当然のことなのだが、俺がこの半年間でやってきた訓練自体が無意味なものである可能性もある。



(まだこの世界の情報を手に入れてない現状では魔力の訓練は厳しいか)



 ひとまず、この世界での魔法の訓練方法がわからないため、丹田法――俺の中での呼び方――を実践しつつ、長い目で見ていくことにした。



 次に体力を付けるため、無理をしない程度に寝返りを打ち少しでも筋力を鍛えるような訓練も続けている。だが、赤ん坊の体では満足に動けないためそれも効果が期待できるものではない。



(もしかしたら、あのピザ伸の言ってた【才能】が普通っていうのも関係してるのかもな)



 人は努力によって様々な分野の知識や技術を修得しそれを活かしてきた。だが、そんな努力も才能というものの前では水泡に帰してしまうことだってある。プロのスポーツ選手などは努力によってその技術を日々研鑽し自分のものとして手に入れてきたかもしれない。だがしかし、そこには純然として才能という生まれながらに持った資質というものが存在する。プロになれるか否かはこの才能が八割以上を占めているといっても過言ではないほどに重要なものだったりするのだ。



 そして、ピザ伸とはいえ仮にも神と称する者にはっきりと才能が普通と言われてしまっては、その言葉を無視できるほど俺は図太い人間ではない。とにかく今は自分にできることを無理せずにコツコツとやっていこうと思う。まさに“小さなことからコツコツと”である。

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