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〖act.56〗魔法使いと傭兵、浅春の地再び

 

異世界人(ストレンジャー)』ルーツィア・ルードヴィヒが自分の居た世界に帰還する──この事実は発表後直ちに全世界を駆け巡った。彼女の『置き土産』とも言える『とある魔法機械(マギアマシン)の【言霊回路(ランゲージ・サーキット)】』の公開された名と詳細な情報と共に。


 その魔法機械(マギアマシン)の名は【再創造装置(リクリエイター)】。不要な物質から必要な物質を再創造(リクリエイト)する、【神】の領域に「手」を掛けた夢の魔法機械(マギアマシン)である。


再創造装置(リクリエイター)】の情報がその名と共に公開されると同時に、地球上は文字通り大混乱に陥った。より正確には狂乱と言うべきか。


 世界各国政府の諜報機関の動きが急激に活性化し、如何(いか)にして他国を出し抜いて自国を優位に立てられるか、他国に贈られる『至宝』の欠片(ピース)を如何にして自国の物に出来るか、それこそ「強奪」と言う手段も視野に入れて、等と最早(もはや)一国家がする様な事では無い犯罪(まが)いな行為まで活発に検討されたらしい。中には隣国に対して電撃的宣戦布告しピースを奪い取る、と言った事すらも政府内部で真剣に検討されていた国もあったらしい。


 人と言う種の何と浅ましい事か。


 当然ながらルーツィア個人、そして彼女が身を置いていたA・C・O(エコー)間諜(スパイ)標的(ターゲット)となった。


 彼女から直接【再創造装置(リクリエイター)】の情報を聞き出す為のスパイと思しき者達からの様々な接触の急増加に始まり、A・C・O(エコー)本社に於いては何かしらの情報が保存されているのでは無いかと、本社が管理するコンピュータからデータを窃取(せっしゅ)するなどの不正行為(クラッキング)なども増加の傾向が見受けられた。


 だが元々【再創造装置(リクリエイター)】の【言霊回路(ランゲージ・サーキット)】のデータはルーツィアの頭の中にだけあり、また彼女の傍では常に栗栖(クリス)が目を光らせて、そうした不逞(ふてい)(やから)の接触をFBIとも協力して阻止していた事もあり、これまた急激に落ち着きを取り戻して行ったのである。


 それに何よりもルーツィアが実際にピースに掛けている魔法術(マギア)呪術(カース)】の効果を全世界に向けて公開した事が大きかった。国際連合(UN)で無作為に選ばれたとある人物により、彼女の持つ見本のピースを盗ませた所、そのピースが一瞬にして崩れ去るのを全世界に向けて生中継したのだ。


 これにより世界はそうした(はかりごと)を企てるよりも、互いに手を取り合って協力し合う方へと方針を変更せざるを得なくなったのである。


 それがここ3日間の世界の動向である。





 そしてルーツィアの発表から4日後、彼女の宣言通り世界196ヶ国に『至宝』のピースは国連を通じて贈られたのであった。国連加盟国193ヶ国には国連本部の総会議場にて、非加盟国にはそれぞれ国連職員が派遣され、各国の代表者に()()手渡された。非加盟国の数ヶ国と加盟国の数ヶ国からはルーツィアに直接手渡して欲しいとの打電があったが、彼女本人が毅然(きぜん)とした態度で断ったのは言うまでもない。


 純度99.999999999パーセント、イレブンナインのシリコンウェーハで出来たピースは特殊強化可塑物(プラスチック)保存処理(モスボール)され、カプセルトイの様なチタン合金のカプセルに封入されている。因みにこのチタン合金のカプセルもルーツィア謹製であり、生活魔法術(リビング・マギア)の1つ【工学術(エンジニアリング)】で作り出された代物で、カプセルには補助魔法術(アシスト・マギア)の【保存(ストレージ)】が付与されているのだ。ファンタジー小説等で言う所の【魔法付与(エンチャント)】である。これにより中のピースの数百年単位での保存が可能となっているのだそうだ。


 こうしてルーツィアから地球人類に手渡されたバトンは、数度に渡る国際間紛争を経て地球統合政府へと姿を変えるのだが、それはまた別の話。





 ルーツィアの『帰還』が確定してから11日後── 。


「なぁルーツィア、向こう(リヴァ・アース)に還る前に何処(どこ)か行きたい所とか無いのか?」


 (ようや)く日常生活が落ち着きを取り戻した彼女に、それとなく尋ねる栗栖。ここは栗栖とルーツィアが住むアパートメント、そのルーツィアの自室である。栗栖にそう聞かれた彼女は絶賛自分のベッドに突っ伏していたりする。


 流石にここ数日の間走り回っていた事もあり、ぐったりしているルーツィア。少々はしたないのはご愛嬌である。


「んぁ? んー、そうねぇ……」


 栗栖に聞かれたルーツィアは身体はそのままに首だけ前に投げ出すと、目を閉じて思案すると一言


「……(サクラ)が見たいわね、日本(ニホン)の桜が」


 何やら懐かしむ様に声に出す。


「……日本の桜、か」


 ルーツィアの言葉を此方(こちら)も何やら懐かしげに反復する栗栖。去年の今頃は栗栖の仇敵であるテロリスト『深緑の大罪(グリーン・シン)』絡みで日本を訪れていた事が、改めて脳裏に鮮明に思い出される。同時に懐かしい顔ぶれも。懐かしの地への想いが、彼の秘めたる望郷の念が、彼から一言言葉を(つむ)がせた。


「……よし、行こう日本(ニホン)へ」





 日本を再訪する事を決めてからの栗栖の行動は早かった。先ずA・C・O(エコー)のグエン大佐に日本に旅行に行く旨を伝えると、次に航空会社のホームページにアクセス、翌日以降の座席の空き状況を確認しチケットを2人分手配した。()()()いつでも直ぐに住処(すみか)を留守に出来る様に準備しているから出来る事である。


 そしてその夜8時、とある所に情報端末(スマホ)で国際電話を掛ける栗栖。その相手とは──


『お久しぶりですッ、黒姫さん』


 日本(ニホン)警察庁警()備局国際()テロリズ()ム対策課()所属、管理官の藤塚 妃(フジツカ ヒメ)警視正その人であった。


「久しぶりです藤塚さん、それとおはよう御座います」


『はい、おはよう御座います。それで今日はまた一体どの様なご要件ですか? もしかしてルーツィアさんに関係する事でしょうか?』


「あ、ああ、その通り、実は──」


 栗栖は先に言い当てられた事に内心驚いたが、気を取り直して、ルーツィアを伴って日本を再訪する事、その目的が日本の桜や風景を彼女の想い出に残させる為である旨を藤塚警視に何偽る事無く全て話して聞かせた。スマホの向こうで話を聞いていた藤塚警視は全てを聞き終えると


『やはりそうでしたか。それでしたら案内等は私達に是非お任せください』


 と何やら彼等の行動を予想していたかの様な答えを返してくる。


「まぁ案内は兎も角として俺が頼みたいのはルーツィアの警護もなんだけど……」


 スマホから聞こえる藤塚警視の台詞に思わず苦笑いを浮かべる栗栖。


『それも直ぐにでも出来る手筈が整っていますので御安心下さいッ』


 片やスマホの向こうの藤塚警視の答えは随分手際が良過ぎる感がある。やはり此方の考えを読まれている気がするな、と疑問に思った栗栖が尋ねると、全ては栗栖からの連絡をいち早く予想していた神村 信之介(カミムラ シンノスケ)警視長からの指示なのだと、藤塚警視は(ほが)らかな声で教えてくれたのである。


 それを聞いた栗栖は、神村警視長の人情味溢れる厚意にただただ深く感謝するのだった。





 そして翌日、米国(アメリカ)ジョン・F・ケネディ国際空港から14時間余りのフライトを経て、日本の成田国際空港の到着ロビーに栗栖とルーツィアの2人の姿はあった。今回は前回とは違い任務抜きの観光目的であり、2人は普通に検疫と入国審査を終えたあと、手荷物を受け取り税関検査を経て、(ようや)くの入国となったのである。


「うーん、また日本に来れるなんて良い思い出になりそうだわ! 有難うクリスッ!」


 全てのチェックを終えて漸く入国出来たルーツィアは、誰憚(だれはばか)る事無く栗栖に抱き着いてやたらご機嫌である。


「此方こそどういたしまして、さ。俺もまた()()()が出来たんだからな」


 そんなルーツィアを受け止めると優しい笑みを向ける栗栖。


 一方で周りにいる他の観光客や出迎え見送りに来ている人達はその様子にざわめいている。それはアメリカからの航空便の中でも同じで、ルーツィアはかなりの数の人から握手やサインを求められていたりする。


 彼女がテレビ中継に出たのはこの前とその前々の2回だけなのだが、その前にここ日本から彼女の様々な画像込みの詳細な情報がネットで全世界に流出しており、その絶世の美貌(びぼう)と相まって、ルーツィアと言う存在は全世界に広く認知されているのであった。


 それと実は常にルーツィアの(そば)で彼女の警護(ガード)をしている栗栖も注目の的となっており、彼の顔写真画像が簡単なプロフィールと共にやはりネット上に流れていたりする──秘匿名(コードネーム)黒雪姫(スノウ・ブラック)】と共に。


 その事実をA・C・O(エコー)情報部より知った時の栗栖は、何とも言えない微妙な顔をしていたらしい。





「黒姫さんッ! ルーツィアさんッ!」


「いやぁ、2人とも待たせちまったか?」


 到着ロビーに声が響き、向こうから駆け寄って来るのは懐かしい顔ぶれの2人。


 胸元まである(からす)の濡れ羽色(ばいろ)の様な(つや)やかな黒い髪と、意思が強そうな切れ長の目の日本美人──藤塚警視ともう1人、少し白髪混じりの髪を脇から後にかけて刈り上げてツーブロックにし、トップでボリュームを出した独特の髪型で飄々(ひょうひょう)とした顔付きの中年男性──警視庁公安部外事三課、国際テロ第二第3係係長の長村 直生(オサムラ ナオキ)警部の2人である。


「いや、ついさっき税関検査を終えてロビーに出てきたばかりだから、そんなに待ってないよ」


 そんな2人に笑顔でそう言うと


「改めて──久しぶりだな、藤塚さん、長村さん」


 改めて藤塚警視ら2人に右手を差し出す栗栖。そして


「あっ、えと、藤塚さんに長村さん、本当にお久しぶり!」


 栗栖に少し遅れて同じ様に右手を差し出すルーツィア。


「本当にお久しぶりですッ!お2人ともッ!」


「はははっ、良く俺なんかを覚えていてくれたな、お2人さんッ。久しぶり!」


 差し出された栗栖らの右手をしっかりと握り締めて挨拶を交わす藤塚警視と長村警部。


 ここにほぼ一年振りとなる、()()()()()チームメンバーが一堂に会したのであった。





 この場で立ち話も何だと言う事になり、藤塚警視らが出迎えに乗ってきた車を停めている駐車場へ移動する栗栖達。周りの人達の視線がロビーを出るまでずっと栗栖らに注目していたが。


 兎に角案内された駐車場の駐車スペースには1台の青い電気自動車(EV)が留め置かれていた。


「さぁさぁ2人とも、コイツに乗ってくれ」


 そう言いながら電気自動車に近付く長村警部。するとクルマからはガチャリと言うドアのロックが解錠される音が聞こえる。


「へぇ、リーフAUTECH(オーテック)の新型か」


 後ろから付いて来た栗栖が案内されたクルマの車種を言い当てる。


「おっ、流石黒姫さん。その通り、コイツは公安に配備された新車でな。今回のルーツィアさんの警護の為に借りてきたんだ」


 そんな栗栖に嬉しそうに話し掛ける長村警部。


 日本は2020年に国会に()いて「脱炭素社会実現(カーボンニュートラル)」宣言が成され、ハイブリッド車やEV車の普及が徐々にではあるが拡がって来ていた。聞くと今回は藤塚警視ら公安警察を含む公的機関が使用する公用車をハイブリッド車等に置き換える法令が制定されたばかりらしい。


「まぁただ単に長村さんが新車に目が無いだけなんですけどね」


 そう栗栖とルーツィアに笑って説明する藤塚警視。


 長村警部のカーマニア振りが発覚した瞬間である。





 そんな事もあったが、無事に栗栖らを乗せた青い車(リーフ)は空港の駐車場を後に、国道295号線を南東に向かう。


「兎に角今回は私達に案内は任せて下さいねッ」


 走り出した(リーフ)の中、助手席に座る藤塚警視が何やら意気込んでいる。長村警部は勿論運転手である。


「それは任せるとは言ったが……今は何処に向かっているんだい?」


 そう言っている間にも車は車線を右へと移し、やがて国道295号線を右へと折れる。


「黒姫さん、あんたルーツィアさんに桜を見せるのが目的のひとつだって言ってたろ? 意外とここ成田の近場に格好の場所があってな、そこに向かっているのさ。ここからなら、そうさな10分ぐらいか?」


 そこでハンドルを握る長村警部が栗栖の疑問に答える。そう言っている間にも車は今度は左車線へと進み入る。そのまま暫く進むと道路の上に案内標識が姿を現す。その標識を見た栗栖は


「……成田山新勝寺方面? すると行先は成田山公園、か?」


 この車の行き先を予測して(ひと)()ちる。それを聞き付けた藤塚警視は振り返ると一言


「流石は黒姫さん、正解です。私達は成田山公園に向かっているのです。昨日ニュースで桜が満開だと言っていましたので」


 そう言ってにっこりと笑うのだった。



次回投稿は二週間後の予定です。


お読み頂きありがとうございます。

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