〖act.52〗魔法使いと傭兵、聖夜騒乱再び
*一部残酷な描写があります。
クリスマスイブの紐育、その大通りに有る料理店での正餐を終えて店の外に出てきた栗栖とルーツィア、そしてニューヨーク市警のマサキ刑事とジーナ巡査の4人だが、店を出た早々、ルーツィアの【環境甦生装置】等の『魔法科学』の技術を狙う米国国外の間諜達に追われる事に!
栗栖らはレストラン前の車道を横断し、スパイが居ないと思われる路地へと向かって行く! ついさっきまで居たレストランはクリスマスイブで無関係の一般市民が多く集まる場所、そんな所で騒動が起きればその被害は想像に難くない。
先程ルーツィアの魔法【付印】には、この路地に他のスパイの印の反応は無かったが、油断は禁物とばかりに急いで移動しつつも、周囲への警戒は怠らない4人。そして少し奥に進むと
「ッ?! 待ってッ!」
風雲急を告げるかの様なルーツィアの緊迫した声が響く! 彼女の声に足を止める栗栖とマサキ達!
「正面12時から【付印】の反応! 距離は200m、数は──3人ッ! 後方8時からも3人!」
「しまった! 挟まれたかッ?!」
ルーツィアからの報告に思わず焦りの声を上げる栗栖! この路地は曲がりくねってはいるが唯の一本道なのだ。
「緊急! こちらニューヨーク市警マサキ・エドワーズ! 現在西区36番地通りから37番地通りへ抜けるセントスイート604,西区36番地の路地! Code3! どうぞッ!」
マサキもルーツィアの報告を聞くが早い、外套の懐から延びて来ているイヤホンヘッドセットに向かって緊急通報する!
ジーナもショルダーバッグから情報端末を出すと、同様のコールをニューヨーク市警へとしている様である!
だが果たして応援が間に合うかは不明であるが。
「!──距離100mッ! まだ接近して来るわッ!」
そうしている間にも敵との彼我の距離が急速に縮まって行く! 栗栖の眼にも街灯とネオンサインの灯に微かに浮かぶ、黒い人影が複数人近付いて来ているのが見えた!
「くッ!? 仕方ない、全員ここで邀撃するぞッ!」
栗栖はそう言いながらトレンチコートの内側、ズボンの腰に板取付銃鞘から愛銃である自動拳銃のSIG SAUERP320M18を、ルーツィアもハンドバッグからヒップホルスターに収まっていたBerettaPX4 ” ストーム ” サブコンパクトを抜くと、遊底を引いて初弾を薬室に送り込んで直ぐに撃てる様に準備する!
それを見たマサキとジーナもそれぞれに自分の銃を手に取る!
マサキがトレンチコートの内側、ヒップホルスターから抜いたのはS&WM&P40C、栗栖のP320と同口径の40S&W弾を使用するオートマチックだ。
一方ジーナがショルダーバッグから取り出したのは一見するとGlock19だが銃把前面に切削加工が無く、遊底止が両側であり、スライド先端は角が落とされて丸みを帯び、ホルスターへの出し入れが楽になっている事からGen5(第五世代)である事が見て取れた。此方の口径はルーツィアのPX4と同じ9×19mmパラベラム弾である。
マサキとジーナもそれぞれに安全装置を解除し、来るべき銃撃戦への準備を取る!
「全員ビルの壁を背にして一箇所に固まれッ! ルーツィアは俺達全員の前に【魔法障壁】を展開準備ッ!」
「了解クリスッ! ──敵との距離、50mを切ったわ!」
栗栖の指示に急ぎ全員で傍のビルの外壁を背にし密集すると、それぞれ左右前方に銃を向けて構えられる様な体勢を取る!
そこに姿を現した黒いトレンチコートを着た目付きの鋭い6人の男達! そのうちの30代ぐらいの男性に見覚えがある栗栖!
(此奴は──最初に尾行していた男だな。やはりコイツらはスパイって訳か)
ディナーを楽しんだレストランの前に小売店で尾行を躱した男の顔を改めて思い出す。そんな栗栖の思考を断ち切る様な言葉が1人の男から発せられた。
「異邦人のルーツィア・ルードヴィヒ──だな? 大人しく我々に付いて来て貰おうか。言う事を聞かないとお仲間共々、少々痛い目を見る事になる」
少し独特な訛りのある英語での台詞と同時に、6人はトレンチコートの懐から銃を抜くと、栗栖達へ銃口を突き付けてきた!
「──お前達は──露対外情報庁だな?」
銃を突き付けられても尚、冷静に声を掛けて来た男に何者かと尋ねる栗栖。男の台詞回しがロシア独特なのに気付いたからである。
「──お前達に答えるつもりも教えるつもりも無い」
尋ねられた男の答えは予想通りに鰾膠も無い。そして黙って銃口を栗栖の脚に向けると、引金に掛けた指にゆっくり力を込め始める。他の男達も同様にマサキやジーナの腕や脚へと銃口を向ける。その距離は5mも無い。
彼等が持つ銃はロシア兵器メーカー・ロステックのツニートチマッシ社で開発された9mmオートマチックUdav。ロシア語で【アナコンダ】と言う名の拳銃だ。
無骨で堅牢な作りの連射撃のハンマー方式で、弾倉止、セイフティーなどは両側から操作できるアンビタイプである。
使われている弾丸はロシアが独自開発した9×21mmギュルザ弾と言う、世界的に流通している9x19mmパラベラム弾よりも大きく強力な弾丸で、それによりグリップは幅が広くなっており、銃口下にはレーザーサイト等を取り付けるためのスモールレールがある。
この銃には弾丸が尽きた時のスライドストップを戻すレバーが無く、装填済弾倉を再装填すると自動でスライドが戻り、チャンバーに弾丸を送り込む仕様になっているのだ。
一瞬で彼等の銃種をそう見取った栗栖は
(全く……これは「銃は口ほどに物を言う」と言うべきか……いや、最初から身元は割れているがな……)
と簡単に口を割らない割には、ちょっとした言葉遣いや獲物で既に身元が凡そ割れているスパイに妙な感心をしつつも
「──ルーツィア」
そう一言だけ短く声にする! その声に反応し
「──【魔法障壁】!」
ルーツィアが防御魔法術【魔法障壁】の言霊を口にするのと、男達がトリガーを引く動作が重なる!
一瞬、路地に気鳴楽器の重奏の如き銃声が響き渡る! だが!
「な、なにぃーッ?!」
栗栖と言葉を交わした男が驚きの声を上げる!
彼等が至近距離で発砲した9×21mmギュルザ弾は、栗栖達の手前50cmで空中にピタリと静止したのである!
ルーツィアの魔法術【魔法障壁】の効果であるが、他の男達も唖然としている様子から、どうやらルーツィアの魔法術についての予備知識が不足していたか、過小評価していたみたいである。
「良しッ! 撃ち方始めッ!」
相手の動揺を見て取った栗栖が、ルーツィアとマサキらにA・C・Oの任務の時の様に号令を掛ける! ルーツィアの魔法術で止められた弾丸にやはり唖然としていたマサキとジーナは、栗栖の発破となる号令に気を取り直して反撃に転ずる!
M&P40CとP320の40S&W弾が、Glock19とPX4の9×19mmパラベラム弾が、周りを囲む男達の銃を持つ腕や脚を次々に撃ち抜いて行く!
幾重もの銃声が連続して鳴り響き、瞬く間にアスファルトに出来た血溜まりに膝を付き、或いは倒れ伏す男達の姿が!
薄汚れた路地に撃たれた男達の弱々しい呻き声だけが聞こえていた。
それから間もなくして、栗栖達の元に応援が駆け付けた。但し駆け付けたのはニューヨーク市警の警官達だけでなく、連邦捜査局の捜査官達もであるが。彼等が駆け付けて来るまで栗栖達は路面に伏したスパイ達に銃口を向けて反抗出来ない様にしていたのは言うまでもない。
「ニューヨーク市警は兎も角、なんでFBIの人も居るのかしら?」
栗栖らに撃たれたスパイ達が警官や捜査官に武装解除させられ、市警が手配した救急車に次々と警官の監視付きで担ぎ込まれて行く様を見ながら、ルーツィアが疑問を口にする。
「それは──ジーナが教えてくれるさ。なぁジーナ?」
ルーツィアの至極真っ当な疑問にそう答えた栗栖は、視線をジーナへと向ける。
「えっ!? な、何の事ですかッ?!」
一方話を振られたジーナはしどろもどろになって栗栖に返事を返す。
「君なんだろ? あの時FBIの捜査官に連絡をしたのは? 正確に言えば俺達をずっと離れて警護していた捜査官達に、だがな」
そんなジーナに笑みを浮かべつつ、そう問い質す栗栖。
「…………」
彼の言葉に沈黙を返すジーナ。だがそれに構わず話を続ける栗栖。
「俺がそれに気付いたのは──正確には可能性に過ぎないけどな。兎に角だ、最初にスパイを撒いた直前に君が出身地について話した時になんだ」
「? アレの何処で気付いたと言うの?」
栗栖の台詞に今度反応したのはルーツィア。彼女は首を傾げながら栗栖に尋ねる。
「それはなルーツィア。彼女が言った忽吉尼州のクワンティコって言うのは海兵隊の基地以外にも幾つか重要な施設が置かれていて、じつはFBIの捜査本部もクワンティコに置かれているんだよ」
「ああ、そう言う訳……」
栗栖の説明に得心がいき、大きく頷くルーツィア。マサキはここまで一度も口を挟んでこない。
「それと、だ。マサキがニューヨーク市警に無線機で救援要請をしている傍で、わざわざ彼女がスマホで連絡する必要も無いしな。あとはGlock19のGen5を使っていた事かな。あれはFBI捜査官の標準装備の拳銃だと記憶している」
栗栖はそう自身の推理をルーツィアとマサキ、ジーナに開陳し笑顔を見せるのだった。
「はぁ……全く……クリス少佐は就く仕事を間違えていたのでは無いんですか?」
それまでずっと沈黙していたジーナが大きく溜め息をつくと、ショルダーバッグから取り出したのはIDカードが入ったカード入れ。
そこに収められているIDカードには大きく「FBI」の文字が。ホルダーに付けられているバッヂはハクトウワシと盾の意匠のやはりFBIの物だ。
「流石クリス少佐、中々の慧眼ですね。少佐の推理通り、私は連邦捜査局特別捜査官のジーナ・デイ・ハサウェイ捜査官です。ルーツィアさんの警護と、彼女に接触して来るであろうスパイの検挙が任務でした」
苦笑を浮かべつつ、改めて自己紹介を行うジーナ捜査官。
「すると……マサキ刑事はジーナ捜査官の事は知っていた訳だな?」
「ええ、そうです。この件に関してはジーナ捜査官とトレバー警部から口外しない様に厳命されていたので……申し訳ありませんでした」
続けてマサキ刑事に事実関係を確認すると、マサキ刑事は栗栖とルーツィアに深く頭を下げる。
聞けば今回の件はFBIから指示があって、ルーツィアを囮に活動が活発化しているロシア情報機関──ロシア対外情報庁の、アメリカ国内に潜伏する工作員やスパイの炙り出しと、実行犯の検挙を目的に計画された事なのだそうだ。それは同時に中国や印度、巴基斯坦等の核保有国への牽制も意味していた。
これに関しては国際連合のティム・ヴァン・アレン事務総長からマクシミリアン・レッドフォード大統領へ『依頼』がなされ、マクシミリアン大統領がFBIに指示を出した、と言うのが事の真相である。
こうして栗栖らが実行犯と銃撃戦を繰り広げていた陰では、FBIの別働隊が国内各地に潜伏していたロシア対外情報庁の工作員やスパイを一網打尽にしたとは、栗栖とルーツィアは後日ジーナから報告されたのだった。
勿論彼等4人はこの後、クリスマスを改めて仕切り直して楽しんだのは言うまでもない。それは地球世界のこのイベントがとても楽しみにしていたルーツィアのたっての願いでもあったのだ。栗栖は勿論の事、マサキやジーナにも否はない。
「全くもう……何で私がクリスマスを楽しもうとするといつもこうなるのかしら……サプライズプレゼントにしても度が過ぎるわよ……」
煌めくクリスマス・イルミネーションの中、スパイに邪魔された時間を取り戻すべく、あちこち飾り付けられた店先を覗き込みながら、そうぼやく様に呟くルーツィアに思わず苦笑いをする栗栖。
こうしてルーツィアにとって2年2回目の聖なる夜も、初めての時と同様に思い出深く、そして波乱万丈な一夜となったのである。
自動拳銃 S&W M&P40C (アメリカ・スミス&ウエッソン社)
全長170mm/銃身長89mm/重量620g/口径10mm/使用弾40S&W弾/装弾数10+1発
自動拳銃 Glock19 Gen5 (オーストラリア・グロック社)
全長185mm/銃身長102mm/重量595g/口径9mm/使用弾9×19mmパラベラム弾/装弾数15+1発
自動拳銃 Udav (ロシア・ロステック・ツニートチマッシ社)
全長206mm/銃身長120mm/重量780g/口径9mm/使用弾9×21mmギュルザ弾/装弾数18+1発
次回投稿は二週間後の予定です。
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