〖act.41〗突入戦 〜傭兵、強攻す〜
栗栖達A・C・Oのテロ対応部隊にとって最大の障害であった多脚戦車は、【アパッチ・ガーディアン】と言う思わぬ援軍により排除された。
あとは多脚戦車が横付けしていた大型貨物船へ乗り込み、中に居るであろう『深緑の大罪』テロリスト達を叩き伏せる──場合によっては徹底的に殲滅させる。今回の一戦は『深緑の大罪』を弱体化、若しくは潰滅させられる可能性が高い、と栗栖は考えていた。
その為にも万が一、億が一にも不測の事態になっても対処出来る様にと部隊の隊員達も準備に余念が無い。全員戦闘服の上に防弾衣を着込み、携帯端末やヘッドアップディスプレイ(HUD)付きのヘルメットを装備、栗栖はデザートテックMDR自動小銃と自動拳銃SIG SAUER P320M18、ルーツィアはCZ SCORPION EVO3A1短機関銃とBeretta PX4 ” ストーム ” サブコンパクト、部隊員達はB&T APC-9 PRO K.サブマシンガンとH&KHK45Cの動作をそれぞれ確認し、マガジンをセット、各々の予備マガジンをマガジンポーチやプレートキャリア背面のアモバック・ストライク(背面式弾倉ディスペンダー)に収納する。
因みにA・C・Oの隊員は一回の戦闘に常に予備弾は150発から200発、マガジンにして5つから7つ携帯する様にしている。それ以上は単なる重しになってしまうからだ。
「全部隊に通達、こちらはクリス。全部隊、準備良いか?、どうぞ」
準備が整ったのを見計らいインカムで全部隊に確認する栗栖。その声に第二部隊から第五部隊の各部隊長が「準備良し」と短く答える。既に大型貨物船の接岸している係留岸は小型遊撃車と人員輸送車により封鎖されていて、蟻一匹通さない態勢を取っている。栗栖達の準備が整ったまさにその時、戦闘指揮所から新たな情報がもたらされた。
《こちらは戦闘指揮所。第一部隊クリス中尉、山下埠頭の入港管理記録が確認出来た。目標の貨物船「ビスカリア」の船籍は哥斯達利加。船舶所有権登記はAION商社代表「Robert・Tylor」。なお「ビスカリア」の船内図を入手、其方に転送する。どうぞ》
ロバート・タイラー、そしてアイオンと言う名に既視感を感じつつも、戦闘指揮所から全員の携帯端末に転送されて来た貨物船「ビスカリア」の船内図を確認し、突入の最終手順を確認する栗栖とA・C・Oの全部隊員。
「全部隊に通達、こちらはクリス。全部隊、舷梯を昇り第一部隊及び第二部隊は船尾側、第三部隊及び第四部隊は船首側に別れて各々の突入地点から突入。第一部隊及び第二部隊は階最下階から船橋に向かって各階を、第三部隊及び第四部隊は船尾側に向かって11個ある船倉を、それぞれ虱潰しに当たれ。第一目標は『好電性金属腐食菌』の捜索と奪還、第二目標はテロリストからのあらゆる抵抗の徹底的排除。第五部隊は後方支援しつつ周辺を警戒。船外に脱出する敵対勢力を発見次第排除。送れ」
栗栖がウェアラブル端末に映る船内図を見ながらインカムで各部隊に指示を飛ばす。その指示に対しどの部隊からも「了解、全て準備良し」と言う短い返答が。其れを聴いた栗栖はひとつ小さく頷くと
「では30秒後に作戦開始。時計を合わせる……3……2……1」
左腕に嵌めた腕時計を見て秒針を合わせる。
《揃え》
そして栗栖のカウントに合わせて各々カウントを合わせる隊員達。秒針は刻一刻と時を刻み、そして──
「……26……27……28……29……作戦開始!」
予定行動開始時刻になり、栗栖の声がインカムで各部隊、各隊員へと伝達される! その声に即座に行動に移る第一部隊から第五部隊までの全部隊!
先頭の隊員2人が防弾盾を構え、残る全員が縦一列となり速やかに貨物船「ビスカリア」の左舷に設置されているタラップを一気に駆け上がるのだった!
タラップを昇り切ると作戦通りに第三部隊と第四部隊は船首側に、栗栖達第一部隊とアンネリーゼの第二部隊は船尾側へと別れて船内へ突入する!
歩廊を注意深く速やかに抜け、階段は2人の隊員がバリスティック・シールドを前に構え、その後ろから一列縦隊で四方に銃を向けつつ、これまた迅速に降りていく栗栖達第一部隊と第二部隊! そのまま最下階の発動機室に到達した栗栖は
「こちらは第一部隊クリス。第三部隊、第四部隊、これより電源を遮断する。どうぞ」
別行動の二部隊にそう連絡するとディーゼルターボエンジンの燃料バルブを閉め機関制御室の非常停止システムを作動、エンジンが掛けられない様にしてから陸上電力供給システムを遮断する。同時に船内の全ての室内灯と通路灯の灯りが一瞬消え、すぐさま非常灯の灯りへと変わる。
それを確認すると第一部隊と第二部隊はそれぞれ四班と五班に分かれ、虱潰しにエンジンルーム以外の船室を片っ端に開けて調べて行く。全長200m超の貨物船「ビスカリア」はエンジンだけでも5階建てのビルに相当する高さがあり、その上にはブリッジまで更に11階もの高さがあるのだ。迅速にそして抜かりなく調査しなくてはならない。
なお実際に船室に突入する際は各班の隊員はドアの陰や戸口の陰から交互に交差する様に部屋に突入して行く。所謂X字突入法と呼称されている突入方法である。
全員が船室に突入する度にインカム越しに「確認! 安全確保!」の声が聞こえてくるのを聴いていた栗栖は、その階全てを調べ終えるとまたひとつ上の階へ向かう様に指示を出す。そうして全ての船室に突入を繰り返しながら、ひとつまたひとつと上階へと向かう栗栖達第一部隊と第二部隊。
やがて中階層付近までに到達した時、インカムに船倉を調べていた第四部隊から連絡が入る。
《第一部隊クリス。こちらは第四部隊ジェイソン少尉。第五貨物倉にて敵と交戦突入。 繰り返す、敵と交戦突入、どうぞ》
第四部隊が敵と交戦に突入の報に緊張が走る栗栖達の部隊! 急いでインカムで指示を出す栗栖!
「こちらは第一部隊クリス。第三部隊は第四部隊の支援。第三部隊、何分で第四部隊に合流する? 送れ」
《こちら第三部隊、確認した。1分で合流する、どうぞ》
指示に答える第三部隊の通信に
「第一部隊クリス、了解。其方は任せた」
と其方の恃みとして、自身の率いる第一部隊と第二部隊に更なる注意喚起を促しつつ、更に上階へと歩を進める栗栖達。すると昇り切った階の通路で彼等も敵テロリストに遭遇した!
通路の先の船室の陰からAK47アサルトライフルを発砲してくるテロリスト達! 栗栖達はバリスティック・シールドを文字通り阻塞として、その陰から応戦しつつ手前の船室に突入、安全確保をしてから同じく船室の陰から応戦をする! 激しく撃ち込まれる7.62×39mm弾と応戦する9×19mm弾、そして.300AAC弾!
「【鉄之槍衾】ッ!」
ルーツィアが通路の壁に手を置いてそう詠唱すると、テロリストが遮蔽物に使っている壁や床から鋭い鉄の棘が槍の様に生えて来て、隠れていたテロリスト達をも文字通り串刺しにする!
微生物化学研究所内での戦闘ではルーツィアに極力魔法術を使わせなかった栗栖だが、それは飽くまでもルーツィアと言う異能の存在を敵になるべく隠す為であり、切り札として取っておきたかったのだ。しかし状況が変化に変化を遂げた今、もはや出し惜しみする必要は無いと、ここで魔法術の完全解禁に踏み切ったのである。
《効果確認。敵対勢力無力化》
ルーツィアの【鉄之槍衾】により敵からの攻撃が止み、その機に乗じて速やかに突入した先遣隊からの報告がインカムで伝えられる。
「良し──第一部隊、第二部隊、前進する」
報告を受けた栗栖は先に急ぐべく、部隊に短く指示を与えるのだった。
《こちらは第三部隊。第一部隊クリス、どうぞ》
船尾側の区画を最下階から上甲板の構造物──船橋へと、船室を調べつつ向かっている栗栖達第一部隊と第二部隊。またひとつ階段を昇りFデッキに到達した時に入る第三部隊からの通信。
「こちら第一部隊クリス。第三部隊、どうぞ」
《第九貨物倉にて10名の民間人救出。繰り返す民間人救出。どうやらテロリストが偽装の為に雇い入れた乗組員の模様。指示を請う、どうぞ》
直ぐに返信を返した栗栖に指示を請う第三部隊。栗栖は一瞬考えると
「第三部隊は民間人を防護しつつ速やかに下船、バースで待機している第五部隊に引き渡せ。補給地点にて弾薬補給後、直ちに第一部隊及び第二部隊に合流、第四部隊も全船倉を確認後サプライポイントで補給合流せよ。サプライポイントは上甲板、合流地点は船橋Fデッキ。送れ」
と第三部隊と第四部隊に指示を与える。「了解です、指揮官」と短く答えた両部隊はそれぞれ行動に移す。指示をし終えた栗栖は
「良し、第一部隊及び第二部隊、この階の船室を全て確認せよ。取り掛かれ」
今度は自身の部隊へと指示を与え、自分も行動を起こす。第一部隊と第二部隊の隊員達は短く「了解」と答えると、再び小班へと分かれて迅速且つ確実丁寧にFデッキの全船室を調べて行く。
程なくして──この階の安全を確認し終えた小班は通路に集まり、栗栖の指示を待つ。栗栖は黙って指示を待つ部隊員の顔を見やると
「第一部隊及び第二部隊はその場で待機せよ。第三部隊及び第四部隊と合流した後、弾薬を補給、上階へ突入する。この先は恐らく「死の谷」だ。突入準備は入念にしろ」
いつにも増して真剣な面持ちで全員にそう告げるのだった。
それから約7分後、栗栖達第一部隊と第二部隊の元に、民間人を第五部隊に引渡し、補給地点で補給を終えた第三部隊と第四部隊が合流した。特に第四部隊は、サプライポイントから第一部隊と第二部隊の分の予備マガジンを余分に持って来てくれており、其れを速やかにアモバック・ストライクに収納する栗栖達。他の部隊も準備が整ったらしく、改めてインカムで確認する栗栖。
「全部隊に通達、こちらは第一部隊クリス。全部隊、準備良いか?送れ」
それに対し各部隊の部隊長からは「準備良し、どうぞ」と言う返事が返って来る。その返信に傍に居るルーツィア、そして第二部隊を率いるアンネリーゼ・シュターゲン少佐の顔を見やる栗栖。2人共に決意に満ちた瞳を栗栖に向けて軽く頷いてくる。それに頷き返すと
「全部隊に通達。Eデッキには第四部隊が、Dデッキには第三部隊が、Cデッキには第二部隊がそれぞれ突入。第一部隊は俺と共に操舵室があるBデッキにチャージ、第一目標D・S・Mの奪還の為、あらゆる障害を徹底的に排除せよ。良いか?行くぞ!」
これが最後とばかりに檄を飛ばす!
《──突入!》
それに答えるのは部隊長達の檄に応える様かの声!
Fデッキの階段を第四部隊が先頭に第三部隊、第二部隊、そして第一部隊が駆け上がって行く! それぞれの部隊が決められたデッキに到達すると、バリスティック・シールドを持つ隊員数名が先頭に立ち突入して行く! そしてEデッキからDデッキ、DデッキからCデッキへと駆け上がり、そして遂に!
「こちらは第一部隊クリス。Bデッキ、操舵室にこれより突入する!」
栗栖達第一部隊がBデッキへと到達した! 操舵室の扉は固く閉ざされ、内部の様子を伺い知る事は出来ない。だがここに至っても何の抵抗も示さない敵テロリストに若干の不気味さと違和感を誰もが感じながらも、M26 MASSショットガンを持つ隊員が12ゲージ戸口破砕弾でドアの蝶番を破壊し、続けて隊員数名が破城槌でドアを吹き飛ばす! その傍らで万が一に備え身体強化剤の無針圧力注射器を自らに注射する栗栖の姿が!
開いたドア部から交互に操舵室内に突入して行くA・C・Oの第一部隊の隊員達! 操舵室内部には10人程がドアから一番離れた箇所に一塊となっているのが垣間見える!
「動くな!」
その者達にB&T APC-9 PRO K.サブマシンガンとCZ SCORPION EVO3A1、そしてMDRの銃口を突き付けながらそう警告を発する栗栖達! インカム越しに各デッキに突入した部隊からの「チェック! クリア!」の声が聞こえてくる。
長い逃走劇と共に混迷を極めたこのテロ事件も遂に最終局面を迎えようとしていた。
スイス B&T社 短機関銃
APC-9 PRO K.
全長345mm(ストック延522mm)/銃身長110mm/重量2,600g
口径9mm/使用弾9×19mmパラベラム弾/装弾数15/20/25/30発
《APCとはAdvanced Police Carbineの略》
H& K自動拳銃 HK45C
全長183mm/銃身長100mm/重量717g/口径11.5mm
/使用弾.45ACP弾/装弾数8+1発
アメリカ C-MORE社 散弾銃 M26 MASS
全長350mm(ストック延500mm)/銃身長180mm/重量1500g
/口径18.5mm/使用弾12ゲージ弾/装弾数5発
次回更新は二週間後です。
お読み頂きありがとうございます。




