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〖act.31〗臨戦 〜傭兵の元に集いし戦力〜

 

 特別対策本部での藤塚(ひめ)警視らとの打ち合わせの翌日早朝、東京都福生市にある横田空軍基地(ヨコタエアベース)栗栖(クリス)とルーツィアは居た。そして06:35(マルロクサンゴー)──上空にエアバスA400M(アトラス)が姿を現し、滑走路に見事な着陸(ランディング)を決める。


「思ったより随分早かったわね」


 格納庫(ハンガー)前の乗降場(エプロン)着陸(ランディング)の様子を見ながらルーツィアが感心したみたいに言葉を発する。


「距離が距離だからな、時間的に考えても途中で空中給油して来たと思う」


 それに対する栗栖の答えは極めて単純明快(シンプル)であった。A・C・O(エコー)航空機動軍(AMC)は本部の置かれている紐育(ニューヨーク)に近いドーヴァー空軍基地(エアベース)に配置されており、即応部隊もそこに待機していた筈であると栗栖は記憶していたからである。


「即応部隊が居るドーヴァーからこの横田まで約10,950Km余り、アトラスの航続距離が即応装備を搭載だと(およ)そ6,400Kmになるから、布哇(ハワイ)近くの太平洋上で空中給油機(タンカー)から空中給油して来ると記憶している」


 栗栖がそう言っている間にもアトラスは滑走路(ランウェイ)から誘導路(タクシーウェイ)地上走行(タキシング)して栗栖達の居るエプロンへと向かって来る。


 やがてエプロンまで来ると四発のTP-400(ターボプロップ)-D6(エンジン)に取り付けられた八枚のプロペラブレードが逆進角度(リバースピッチ)へと変わりエンジンが(うな)りを上げ機体を停止させる。そしてプロペラブレードが中立(ニュートラル)位置(ポジション)になるとそれまで騒がしかったエンジンが停止した。


 静かになると機体後方の傾斜台(ランプ)がゆっくり開きアスファルトに接地し、中からは完全装備をしたA・C・O(エコー)の隊員達が機敏な動作で降りて来る。先ず降りて来たのは栗栖の見知った顔、彼の小隊(プラトゥーン)の隊員達であった。





注目(アテンション)!」


 小隊員全員が栗栖の前に三列横隊で整列すると、先頭に立つ隊員の声が響く。


「クリス中尉。コナー・オーウェル以下、中尉麾下(きか)小隊(プラトゥーン)30名、06:45(マルロクヨンゴー)合流しました!」


 先頭の隊員──コナー・オーウェル中尉が隊員達の前に立ち栗栖に向かい敬礼をして申告する。それに答礼で答える栗栖。


「長旅御苦労、派遣された部隊は君達だけか? 90名規模だと連絡を受けているんだが?」


 答礼を解きながらコナー中尉に尋ねる栗栖。


「はい、私達以外に別のディビジョンの部隊が一中隊参加しています」


 同じく敬礼を解いたコナー中尉の返答に「何処のディビジョンだ?」と聞こうとする栗栖に


「──私のディビジョンよ」


 ランプが開いた貨物室から()んだ声が聞こえ、中から見知った顔が降りて来る。その顔を見て驚く栗栖。


「!──アンネ、君達か!?」


「ええ、お久しぶりね、クリス中尉、ルーツィアさん」


 降りて来たのはA・C・O(エコー)訓練所(センター)の同期であるアンネリーゼ少佐、そして彼女のディビジョン「(アンネリーゼ)」の隊員達。


 その思わぬ援軍に驚きを隠せない栗栖とルーツィアなのであった。





 クリスとルーツィアの前に並ぶコナー中尉の小隊(プラトゥーン)の横に、きびきびと三列横隊で整列するアンネリーゼ少佐麾下のディビジョンAの隊員達。


「良く来てくれた。まさか君達が即応部隊だとは思っていなかったよ」


 その隊列の前に立つアンネリーゼ少佐と改めて言葉を交わす栗栖。


A・C・O(エコー)上層部からの指示(オーダー)よ。何でもグエン中佐が直談判したらしいわ」


 そこまで言うとアンネリーゼ少佐は不意に姿勢を正しながら「注目(アテンション)!」と号令を掛ける。それと同時に背筋を伸ばすディビジョンAの隊員達。


「アンネリーゼ・シュターゲン少佐以下、ディビジョンA第一中隊総勢60名、現時刻を持って指揮官(コマンダー)クリスの指揮下に入ります」


 そう言うと敬礼をするアンネリーゼ少佐とディビジョンAの隊員達。


「貴官らを歓迎する。頼りにさせて貰うよ」


 そう言いながら答礼を返し、互いに礼を解くと改めてアンネリーゼ少佐と固い握手を交わし、早速最初の指示を伝達する栗栖。


「では──各自装備を確認後、直ちに迎えの人員輸送車(中型バス)三台に分乗、特別対策本部がある警視庁まで移動する──アンネリーゼ少佐、コナー中尉、2人は俺達と同じバス(1号車)に、車内で今回の事件の概要を説明する」


 指示を聞くと「了解です、指揮官(ヤー・コマンダー)」の声を発し、一斉に待機していた三台のバスへと分乗する隊員達。バスは警視庁機動隊から今回特別に借り受けた物である。


 乗車が開始されたのを確認すると栗栖とルーツィアは自身の装備を揃える為にアトラスへと駆けて行くのであった。





 ルーツィアと共にアトラスの貨物室に急いで駆け込む栗栖。中には2人の戦闘服(ACU)と装備一式が積まれており、手早くそれ等を身に着ける栗栖達。自動拳銃SIG(シグ) SAUER(ザウエル) P320M18(キャリー)Beretta(ベレッタ) PX4 ” ストーム ” サブコンパクトは入国時に手荷物として持ち込んでいたので既に装備しており、持ち込めなかったデザートテックMDR自動小銃(アサルトライフル)とベレッタARX-160A2アサルトライフルをそれぞれ改めて携行する2人。


 装備を整えつつ整然と並んだ武器保管庫(ウェポンストレージ)の隅に目をやると、エンプティ・シェル製のXM556マイクロガンが置かれているのが目に止まる。


(あれは──うちの小隊(プラトゥーン)のでは無いな。アンネの部隊の装備か?)


 恐らくは市街地作戦(OBUA)を想定しての装備かと思う栗栖。そうしている間にも準備が全て整うと、栗栖とルーツィアはアトラスのランプを駆け降りて全員が分乗したバスの1号車へと駆けて乗るのであった。





 栗栖達を乗せたバスの車列は横田空軍基地(ヨコタエアベース)のゲートから国道16号を左へ──南へと向かう。


「しかし、アンネ達が来てくれるとはな……」


 バスに揺られながら栗栖はそう沁々(しみじみ)(つぶや)く。


「ええ、まあ。先程も言ったけど、グエン中佐がジョシュア最高経営責任者(CEO)()()直談判したらしいわ」


 隣りの2人掛けの座席にコナー中尉と共に座るアンネリーゼが若干苦笑を混じえながら再度答える。ちなみに今回に限り栗栖は指揮官(コマンダー)なので腰掛けている座席は上座に当たる運転席の直ぐ後ろである。


「それだけグエン中佐は貴方の事を気になさっているのよ。勿論ジョシュアCEOを初めとする一部の上層部の人達もだけど」


 そして私もだけど、とアンネリーゼが小さな声で呟くのを栗栖の隣りに座るルーツィアは聞き逃さなかった。その呟きを聞いて何故か胸の奥にもやもやとした(よど)みを感じるルーツィアは少し複雑な表情を浮かべる。


「そうか……何にせよ助かった。うちの小隊(プラトゥーン)だけなら兎も角、ルーツィアの件を知らない他のディビジョンだとその説明だけで苦労するのが目に見えているからな」


 一方その呟きやルーツィアの些細(ささい)な変化に気付く事無く、笑顔を見せながら改めてアンネリーゼに「本当にありがとう」と軽く頭を下げる栗栖。


 そんな栗栖にルーツィアとアンネリーゼ、そしてアンネリーゼの横に座るコナー中尉はただ曖昧(あいまい)な笑みを浮かべる事しか出来ずにいた。





 そんな一同を乗せたバスの車列は国道16号を2Km余り走ると、新奥多摩街道へ左に曲がる。少し走ると今度は中央自動車道へと向かう為に右へ──八王子バイパス方面へと折れる。3Kmほど走ると中央自動車道のランプが見えてきて、分岐を左方向へと進み中央自動車道に乗る。


 中央自動車道にバスが乗ったのを見計らい栗栖は、タブレットPC(パソコン)にアップロードした資料を見せながらアンネリーゼとコナー中尉に、今まで掴んだ『狂気の番人(マッド・キーパー)』と『深緑の大罪(グリーン・シン)』の情報を掻い摘んで説明していた。


 そんな事をしている間にもバスの車列は中央自動車道40Km足らずを右車線で進み、中央自動車道から千代田トンネル/首都高4号新宿線(ルート4)へと向かう。


 首都高4号を1Km弱進み、霞ヶ関出口を六本木通り(都道412号)方面へと向かい首都高を降りると、左車線を利用し六本木通り(都道412号)に入る。六本木通り(都道412号)を僅かに進んで「財務省上」交差点で左へと曲がり、少し進んで「霞ヶ関二丁目」交差点を左折、桜田通り(国道1号)に入り(しば)し走り、左手に警視庁本部庁舎が見えて来ると、庁舎前を左折してバスの車列は特別対策本部がある警視庁本部庁舎へと吸い込まれていったのであった。





 バスが停車すると乗り込んでいた隊員達はすぐさま離席し、きびきびとそして素早く降車しバスの前に三列横隊で整列をする。


黒姫(くろひめ)さんッ! ルーツィアさんッ!」


 そんなA・C・O(エコー)の部隊を遠巻きに見ていた警視庁の機動隊員や警官、職員の列から栗栖の名を呼びながら駆け寄る人物が2人。言わずと知れた警察庁警()備局国際()テロリズ()ム対策課()所属、管理官そして特別対策本部長の藤塚妃警視正と警視庁公安部外事三課、国際テロ第二第3係係長、そして特別対策本部副本部長の長村直生(なおき)警部である。


「あっ、藤塚さん、長村さん! ただ今戻りました!」


 その声に真っ先に反応したのはルーツィア。盛んに手を振っている。


「ああ、藤塚警視に長村警部。丁度良い所に来てくれた」


 2人の顔を見て安堵の声を漏らす栗栖。そして寄ってきた藤塚警視らをアンネリーゼらを紹介する。


「アンネリーゼ少佐、コナー中尉、紹介しよう。彼女は藤塚 妃(フジツカ ヒメ)、階級は警視正(deputy chief)、彼は長村 直生(オサムラ ナオキ)、階級は警部(captain)、2人とも特別対策本部の本部長と副本部長を務めている。藤塚警視、長村警部、彼等はA・C・O(エコー)から派遣されて来た即応部隊のアンネリーゼ・シュターゲン少佐とコナー・オーウェル中尉だ。コナー中尉は俺の小隊(プラトゥーン)の副官で、アンネリーゼ少佐は応援に駆け付けてくれた師団(ディビジョン)(アンネリーゼ)指揮官(コマンダー)だ」


 何の気負いも無く話す栗栖の台詞に、顔に笑みを貼り付けたまま固まる藤塚警視と思わず「ヒュー」と口笛を鳴らす長村警部。


 何とも対照的な反応を示す2人であった。





 栗栖の台詞を受け藤塚警視はピシッと音が聞こえるかと思えるほどに背筋を伸ばすと


「は、初めましてっ! 警察庁警備局国際テロリズム対策課所属、藤塚妃と申します! 遠路はるばるようこそおいで下さりました!」


 初めて栗栖と対面したのより更に緊張感を感じさせる英語遣いと共に深く腰を折る。国際テロリズム対策に当たっているだけあって流暢(りゅうちょう)な英語である。それは長村警部も同じで


「警視庁公安部外事三課、国際テロ第二第3係の長村直生だ。黒姫中尉のお仲間なら大歓迎だ」


 藤塚警視よりフランクな物言いでアンネリーゼやコナー中尉に手を差し出しながら挨拶をしていた。


「ご丁寧にありがとうございます。A・C・O(エコー)ディビジョンAのアンネリーゼ・シュターゲンです。お2人の事はクリス中尉から(うかが)っております」


「同じくA・C・O(エコー)ディビジョン(サミュエル)所属、コナー・オーウェルです。宜しくお願いします」


 そんな藤塚警視らの挨拶を受け、アンネリーゼとコナー中尉は2人に言葉を返しつつ差し出された手をしっかり握り締める。


「さて、こんな所で話していても(らち)が明かないな──藤塚警視、庁舎内で今空いている会議室はあるかな? そこに戦闘指揮所(CIC)を設営したい。出来れば特別対策本部の間近が良いんだが……」


 お互い自己紹介を終えたのを見計らい藤塚警視にそう申し入れる栗栖。その頼みに「そうですね……」と考えを巡らすと


「……確か、対策本部が置かれている部屋のひとつ隣りに多目的室(マルチパーパスルーム)が空いていたはずなので、そこなら何とかなるかと」


 1つの解を出す藤塚警視。するとそれを聞いていた長村警部が


「うん、彼処(あそこ)は確か今は誰も使ってなかったな。それなら()、あんたが()に許可を貰いに行ってくれ。俺はお客さん達を先に多目的室に案内しておくから」


 そう買って出た。その台詞に「だから私には()と言う立派な名前が……」と言いつつも栗栖達に一礼して庁舎内へと早足で入って行く藤塚警視。


「良し。それじゃあ長村さん、案内を頼む──総員、二列縦隊に整列。速やかにここより移動する」


 栗栖の号令に即座に行動に移す隊員達。アンネリーゼとコナー中尉を先頭に二列に整列すると長村警部と栗栖、ルーツィアの後について庁舎内へと進み入る。


 こうして『狂気の番人(マッド・キーパー)』、そして『深緑の大罪(グリーン・シン)』に対しての戦力が集結したのである。


 ──『狂気の番人(マッド・キーパー)』がテロを決行するまであと3日。



エンプティ・シェル社 XM556マイクロガン

全長560mm/銃身長254mm/重量7.3kg/口径5.56mm/使用弾5.56×45mm NATO弾/発射速度3000/6000発/毎分/

電源DC24V


次回更新は二週間後の予定です。


お読み頂きありがとうございます

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