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〖act.22〗魔法使いと技術者と趣味人の狂宴

 

「──【魔力変換機(マギア・コンバーター)起動(スタートアップ)


 ルーツィアの言霊(ことだま)に反応する様に、彼女の胸元の真新しい【魔力変換機(マギア・コンバーター)】が(ほの)かに輝くと複雑な紋様の円環(サークル)が彼女の頭上に浮かび上がる。


 ルーツィアは目を閉じ(しばら)独言(どくげん)していたが、(おもむ)ろに目を開けると


「うんっ、これは良いわね!」


 このうえなく上機嫌な様子で言葉を(つむ)ぐ。いつの間にか頭上に浮かんでいたサークルは消えていた。


 この新しい【魔力変換機(マギア・コンバーター)】はシモーヌ・ヘルベルク博士がルーツィアに依頼した字母(アルファベット)とリヴァ・アース言語との符号表(コードテーブル)(もと)に、シモーヌの知り合いの設計技術者(エンジニア)が文章作成ソフトと電子機器設計自動化(EDA)ツールを活用し再設計したのを、ルーツィアが改めてシリコンウェーハを用いて製作したものである。勿論シリコンウェーハはイレブンナイン(純度99.999999999パーセント)のを使っている。


「従来型の【魔力変換機(マギア・コンバーター)】より断然効率が良いわ!」


 少し興奮気味に話すルーツィアに栗栖(クリス)が素朴な質問を投げ掛ける。


「大体どのくらい効率が良くなっているんだ?」


「んーと、約三倍ぐらいかしら?」


「そんなにか?!」


 自身の想像よりも高い数値に驚く栗栖。


「そうすると【セラフィエルの瞳(賢者の石)】に魔力が蓄えられるまで早そうだな」


「そうね、単純に言えば三分の一になるわね」


 続けての栗栖の質問に律儀に答えるルーツィア、そして続けて


「まあ、具体的には計算し直さないと何とも言えないんだけど……少なくとも何日何十日の話じゃないわね」


 そう付け加えるのも忘れていない。その言葉を聞いてホッとしている自分が居る事に栗栖は驚いた。


(まさか俺はルーツィアが帰れない事を望んでいる……のか?)


 だがそれは有り得ない、有ってはいけない事だと栗栖は思う。


(全く……彼女が早く()()()()に帰れる事が出来る様になったと言うのに……な)


 そう思い思わず苦笑する栗栖。それを見てルーツィアは不思議そうに


「どうかしたの? 何か気になる事があったかしら?」


 と真っ直ぐな視線で栗栖に尋ねてくる。栗栖は(わざ)とらしい咳払いをひとつすると


「いやなに、あまりの性能に驚いただけだよ」


 ()(きた)りな感想を述べる。確かにそうも思っていたのだから嘘ではない。それを聞いたルーツィアはやや不満げに両目を細めて栗栖を見つめていたが、「まあ、良いか」と折れてくれて栗栖は内心ホッとするのだった。





 ルーツィアの()()についてはまた後でと言う事になり、栗栖とルーツィアは目の前で意味深な笑みを浮かべるシモーヌに向き直る。今日は研究(ラボラトリー)区画(セクション)のシモーヌの所を訪れていた2人であった。


「あー、もう良いのかな、お二人さん?」


「あ、ああ、悪かったなシモーヌ」


「何なら席を外しても良いんだけど……ねぇ?」


「そんなに(いじ)めないくれ……」


 意地悪なシモーヌの物言いに両手を上げてギブアップする栗栖。するとシモーヌは満足したみたいに言葉を発する。


「まあ、こんなものかな? これ以上(いじ)るとこっちが悪者扱いを受けるからね!」


「勘弁してくれよ……」


 胸を張るシモーヌに対してげんなりする栗栖。実に対象的な2人であった。


「ありがとう、シモーヌ! お陰で『最高の逸品(いっぴん)』が出来上がったわ!」


 一方のルーツィアは素直な気持ちでシモーヌに感謝の言葉を述べる。


「どういたしまして。ライアンにも伝えておくよ、『白金(プラティニク)の姫様(・プリンセス)』が感謝していたってね」


 シモーヌの言うライアンとは()()()()で【魔力変換機(マギア・コンバーター)】を設計した技術者の名前である。本名はライアン・ライト、40半ばのミドルエイジで気さくな感じのおじさんだったとは、一度モニター越しに対面した事のあるルーツィアの弁である。


 因みに『白金(プラティニク)の姫様(・プリンセス)』とはライアンが付けたルーツィアの愛称(ニックネーム)である。


「ライアンは当然、私はシモーヌにも感謝しているのよ! 貴女のお陰でライアンに【魔力変換機(マギア・コンバーター)】を設計してもらえたんですもの、本当にありがとう!」


 そう言って(こぼ)れんばかりの笑顔をシモーヌに向けるルーツィア。その仕草を見てシモーヌは


「いやはや参ったね、ルーツィアさんの笑顔は破壊力抜群だよ。女の私でも一瞬胸がときめいた」


 と栗栖を近くに手招くと小声で話し掛け


「そうなんだよ。お陰で俺も困っているんだ」


 その台詞に同じく小声でそして真顔で答える栗栖。


「? 2人で何をこそこそ話しているのよ?」


「「いや、別に」」


 笑顔から一転、怪訝(けげん)な面持ちになったルーツィアから詰問(きつもん)された栗栖とシモーヌの声が見事にハモるのだった。





「【重力弾(グラビ・バレット)】」


 ルーツィアがそう詠唱すると、(かざ)した右掌(みぎてのひら)の前に真っ黒な小さな球体が生まれ、20m先に置かれている標的人形(ダミー)に向かって放たれる。放たれた黒球(こくきゅう)がダミーに接触した瞬間、接触した点を中心にダミーの(ボディー)表面で直径20cm程に黒球が(ふく)れ上がり、黒球が消えた後にはダミーのボディーが()()()()穿()()()()()()()()()()()()()


 ここはA・C・O(エコー)屋内(インドア)射撃場(シューティングレンジ)、栗栖とルーツィアはシモーヌの所を辞した後、ルーツィアのたっての願いでここに来ていた。


「これはまた……凄まじいものだな」


 ダミーに起きた惨状を見て栗栖がそう(つぶや)く。


()()()『マナ』を魔力になる寸前まで励起(れいき)させたのを魔法術(マギア)で圧縮した物よ」


 一方のルーツィアは先程の魔法術(マギア)を栗栖にそう解説する。聞けば魔力(マリョク)に変わる寸前まで励起させたマナを急激に圧縮し高密度にすると、質量と重力が極大化して云わば『ブラックホール』みたいな振る舞いをする様になるらしい。それを聞いた栗栖は


(つまりアレは『マイクロブラックホール』と言う事になるのか? すると先程のダミーの()()()()はマイクロブラックホールが蒸発する際の反応と言う事か……)


 と一応の仮説を立ててみたりしていた。それを確かめる(すべ)()()()()()()、恐らくはそうなのだと言う確信を持つ栗栖。


「それにしてもどうして、今までこの魔法術(マギア)を使わなかったんだ?」


 そして確信と共に浮かんだ疑問をルーツィアに投げ掛ける。


「うーんと、理由は2つあるわ。まず第一にこの魔法術(マギア)は魔力を馬鹿食いするの。だからリヴァ・アースと違ってマナの密度が()()()()この世界だとおいそれと使えなかったの。第二にそれを制御する【セラフィエルの瞳】が今まで魔力不足で上手く制御出来ない事が想定されたからよ」


重力弾(グラビ・バレット)】は【言霊(ランゲージ)回路(・サーキット)】のかなり複雑な計算と制御が必要だからね、と言って話を締め(くく)るルーツィア。


「こちらの世界のマナの割合が低い話は初耳だな」


 話を聞き終え、そう言葉を発する栗栖。確かに最初に話した時にはルーツィアはその事に一言も触れていなかったのである。


「それに気付いたのは【魔力変換機(マギア・コンバーター)原型機(・プロトタイプ)】が出来て実際にマナを魔力に変換した時だからね」


 栗栖の指摘に若干苦笑気味に答えるルーツィア。何でも普通に魔法術(マギア)を行使するのと違い、高密度の魔力を()()()生み出そうとしないとわからない事なのだそうだ。


(いず)れにしても新しい【魔力変換機(マギア・コンバーター)】のお陰で高位の魔法術(マギア)もこれからは行使出来るわ。まあ今日はその確認をしに来たんだけどね」


 そう言いながら別のダミーに向かい再び右掌を翳すルーツィアであった。





重力弾(グラビ・バレット)】以外にも(いく)つかの魔法術(マギア)を使用し、期せずしてルーツィアの欲求不満(フラストレーション)の解消になったシューティングレンジを後に、A・C・O(エコー)本社ビル地下一階にある装備管理局に来た2人。装備(イクイップメント)管理官(マネージャー)D.D(ディーノ・ダスティン)が2人を出迎えた。


「おうクリスとルーツィアか? 我が城にようこそ……と言ってもこんなむさい所だけどな」


 いきなり訪れた栗栖とルーツィアを笑顔で迎え入れるD.D。


「やあ、D.D」


「こんにちは、D.D!」


「それで今日はどうしたんだ?」


 2人の挨拶を受けると至極真っ当な疑問を口にするD.D。


「いや何、少し気分転換に来たんだが……」


 そう言ってルーツィアを横目で見ながら苦く笑う栗栖。正直に言ってルーツィアの出鱈目(でたらめ)魔法術(マギア)を見て食傷気味だったりする。


 実の所、栗栖はA・C・O(エコー)に入社した時から気分が晴れない時は良くここを訪れていて、最古参であるD.Dに色々愚痴を聞いて貰っていたりしていた。


「そうか、ならちょっと待ってろ」


 それだけで栗栖の気持ちを察したD.Dは、カウンターの上のディスプレイでロボット棚を操作する事無くカウンターの横に置いてある保管庫(ガンロッカー)に行き、ゴソゴソと中を(あさ)ると一丁の銃を取り出して来た。


「ひとつこいつを撃ってみるか? I (イスラエル)W(・ウェポン・)I(インダストリーズ)のダボールTS12Bと言うのなんだが……」


 そう言ってカウンターの上に置く。


「これは?」


 一見すると取り付け台(ピカティニーレール)CompM2(エイムポイント)が装着された大口径の自動小銃(アサルトライフル)にも見える銃について質問する栗栖。ルーツィアも興味深そうである。


「コイツは散弾銃(ショットガン)さ。ガス圧作動(ガスオペレーション)方式の半自動(セミオート)のな」


 そう言っていつの間にか手元に出していた散弾実包(ショットシェル)が入った散弾弾箱(ショットシェルケース)からショットシェルを取り出すと、カウンターに置いた銃を手に取り銃身下部の膨らみ(バルジ)にシェルを押し込んで行くD.D。


「こいつはロータリー切替式チューブラーマガジンと言ってな。ひとつのチューブマガジンに2.75インチ(7cm)のシェルなら5発、3インチ(8cm)シェルなら4発装填出来る」


 そう言いながら5発を装填し終えると、3本の(チューブ)が束ねられた形の前床(フォアエンド)を三分の一回転させる。


「こう言う風に3本のチューブマガジンを持っていて回転(ロータリー)して切り替えるんだ。なので総装弾数は2.75インチなら15発、3インチなら12発装填出来る事になる」


 そして5発装填をあと2回繰り返すと槓桿(コッキングレバー)を動かし薬室(チャンバー)に1発を装填し安全装置(セイフティ)を掛け


「これで何時(いつ)でも撃てる様になった訳だ。(あらかじ)めチャンバーに1発装填しておけば装弾数は更に1発増える」


 そう言うとダボールTS12Bを栗栖の前に差し出すと


「さて……と撃って行くんだろ? 試射室(ファイアリングレンジ)は空いているぜ」


 ニヤリと笑ってそう告げるD.D。


「相変わらずの銃器収集家(ガンコレクター)振りだな」


 そんなD.Dに半ば感心し半ば呆れる栗栖。実はD.Dはかなりのガンコレクターで、A・C・O(エコー)に入ったのも「ここなら様々な銃器を思う存分に(いじ)れるから」と(かつ)て栗栖に豪語していた程である。そして案の定、職場である装備管理局にはA・C・O(エコー)の隊員が使う銃器とは別に、彼の個人コレクションも置かれる事になったのである。当然このダボールTS12Bも彼──D.Dのコレクションの中の1つになる訳だ。


「一体何(ちょう)有るんだ? コレクション」


「ふむ……去年の暮れに手に入れたので丁度100挺目だな」


 更に言えば栗栖のMDR(アサルトライフル)もルーツィアのSCORPION(サブマシンガン)も、D.Dのコレクションの中から栗栖とルーツィアの2人が選んだのをA・C・O(エコー)に専用装備として()()()取り寄せて(もら)っていたりする。


「そんな事よりどうだ?! 試射して行くんだろ?」


 ガンコレクションの話を切り上げ、再度確認して来るD.D。


「全く……また撃ち応えとかの感想を聞きたいだけだろ?」


「まぁな」


 少し呆れ気味に話す栗栖に「それがどうした?」と言わんばかりのD.D。その様子に苦く笑いながらダボールTS12Bとショットシェルケースを手に取ると


「それじゃあ少し撃たせてもらうよ」


 とルーツィアを(ともな)い隣りのファイアリングレンジへと消えて行く栗栖であった。


 実の所、こうしてD.Dのコレクションを試射させてもらうのを楽しみにしていた事は秘密にして。



IWI(イスラエル・ウェポン・インダストリーズ)ショットガン

ダボールTS12B

全長720mm/銃身長470mm/重量3600g/口径18.5mm/

使用弾12ゲージ散弾/装弾数12〜15+1発



次回更新は二週間後の予定です。


お読み頂きありがとうございます。

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