表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/62

〖act.2〗 銃声と雷声

 

『──栗栖(くりす)


 ──夢を見ている。


『栗栖。あなたは生きなさい。()()()()()あなたの人生はあなた自身で決められるものなのよ』


 ──手を伸ばす。例え届かなくても。


『お願い。私の分まで生きて──栗栖』


 ──最後に見たのは血と涙に濡れた顔だった。


 ────


 ──────詩月(しづき)姉さん。





 目を覚ます。


 目覚めの悪い夢に黒姫(くろひめ)栗栖(くりす)()め息を吐いて、思わず顔に手をやると自分が泣いていた事に気付いた。涙を(ぬぐ)って腕時計を見ると06 : 00になる所だった。


「久しぶりにあんな夢を見たな……」


 ベッドの上で天井を見上げながら誰とは無く(つぶや)く。


 ()()()()から三日、色々()()()()はあったものの栗栖達【A・C・O(エコー)】の隊員達は無事に本社に帰還を果たしていた。因みにトラブルとはあのルーツィア・ルードヴィヒだったのは言うまでもない。


 あの作戦での撤退戦時にルーツィアが()()()()()()(おも)な原因なのだが、本社(エコー)ではルーツィアを超能力者(サイキックス)として認識し最重要人物扱いをしており、現在絶賛本社のメディカルセンターで精密検査を受けているのだった。


(まぁ、そうなるよな……)


 ()()()()()()そうであった事を思い出して苦笑する栗栖。今頃ルーツィアは辟易(へきえき)としている頃だろう。


 栗栖は身体を起こすとベッドから降り、テーブルの上に置かれているインスタントコーヒーの瓶の(ふた)を無造作に開けると、スプーンでコーヒーの粉をカップに入れポットのお湯を注ぐ。そして(かぐわ)しい香りを楽しむ事無く、濃いめに()れたコーヒーを一気に(あお)った。コーヒーの苦味で少しぼやけていた意識がはっきり覚醒する。


 そのまま窓に近付くと(おもむ)ろに締め切られていたカーテンを開け、まだ昇りたての朝日を部屋に取り込む。


「さて、と」


 栗栖は差し込む朝日に目を細めながら机の上に置かれているパソコン(PC)に目をやるとボソリと呟く。


「様子を見に行ってやるか……」





 本来なら作戦後は原則最低一週間の休暇を与えられるので、休暇中は本社に顔を出す事はあまり無いのだが、栗栖は何時(いつ)もの出勤時間前には本社を訪れていた。


 社員証(ID)を入口に立つ警備に提示して社屋に入り、エレベーターでディビジョンSの事務室(オフィス)に向かう。オフィスのドアにある読取機(リーダー)社員証(ID)(かざ)すと開錠(アンロック)され、オフィスの中に入る栗栖。何人か居る当直の隊員達に挨拶を交わしながら士官室(オフィサーズオフィス)に直行する。


 ドアをノックすると「入れ」と短い返答があり「失礼します」と栗栖がドアを開けて中に入ると、短く()り込んだ金髪の大柄な男性が執務机で書類に目を通していて、栗栖が入室してくると顔を上げ「クリスか?」と少し驚いたみたいな、そして何となく安堵したみたいな顔をした。


「おはようございます、グエン中佐」


 一方の栗栖は男性に敬礼をしながら名前を口にする。この男性こそ栗栖達A・C・O(エコー)デビジョンSの指揮官(コマンダー)、サミュエル・グエン中佐であった。


「丁度良かった、このあと君に連絡を入れようと思っていたのでね。それで今日は何か用かね?」


「今回の作戦の報告書(レポート)が出来たので」


 グエン中佐の問い掛けに栗栖は手にしていた角形封筒を差し出した。


「相変わらず早いな」


 受け取ったグエン中佐は封筒の中からケースに収められた光ディスク(DVD)を取り出すと、執務机の上のパソコン(PC)にセットしてディスプレイを見つめる。


「ふむ……しかし君の報告書(レポート)を読むにつけて()()()()()は極めて異質だとしか言いきれないな」


 報告書(レポート)を一通り読み終えたグエン中佐は椅子の背もたれに背中を預けると、栗栖の方に向かいそんな言葉を口にする。


「本社への帰還時に簡潔に報告は受けたが、この報告書(レポート)を読む限り(にわか)には信じられないな。他の者から受けた報告でも彼女の()は我々が認知している超能力者(サイキックス)とは明らかに違うものだ」


(まぁ、あんなのを見せられたら皆んなそう言うのも当然か)


 栗栖は心の中で独り()ちる。


「──君は一体()()()()()()? 君は彼女を間近で見たんだろう? 私は君自身の口から君が見たモノを聞かせて欲しい」


 机の上で両手を組んでグエン中佐は栗栖を見据(みすえ)えながら詰問(きつもん)してくる。栗栖は軽く咳払いをして姿勢を正すと


「私の私見が入りますが、それでも(よろ)しければ」


 そう前置きして話し始めた。





 あの日──── 。


 集結地点(A.A)玄関(エントランス)ホールのロビーで小隊と合流した栗栖とルーツィア。


「ギリギリでしたね【黒雪姫(スノウ・ブラック)】、いえクリス中尉。その()お客さん(ゲスト)ですか?」


 小隊(プラトゥーン)の小隊長であるコナー・オーウェル中尉が栗栖達を目にすると声を掛けて来た。


「ああ、望まない客だがな」


 栗栖はルーツィアを降ろしながらコナー中尉に軽口を言い、コナー中尉はルーツィアに「宜しくお嬢さん」と話し掛け、ルーツィアは怪訝(けげん)そうな顔をしていた。


「それで状況は?」


 N I J(国立司法省研究所)規格レベルⅣと言うライフルの徹甲(AP)弾も止められるボディアーマーをルーツィアに急いで羽織(はお)らせながらコナー中尉に確認する栗栖。


(おとり)の分隊があと8分で合流します。問題は玄関(エントランス)の外にいるテロリスト達ですね。どうやら付近を巡回(パトロール)していた奴等で、こちらの予想より速く拠点(ここ)に戻ってきたみたいで現在2分隊で応戦中です」


 丁寧な言葉で状況を説明するコナー中尉。彼は栗栖と同じ中尉だが、入隊は栗栖の方が早く年功(ねんこう)序列(じょれつ)から言っても栗栖が先輩である為だ。


「敵の戦力は?」


 ルーツィアに身を潜めて待機している様に念を押すと、ロビーの無駄に大きい受付カウンターを遮蔽物(しゃへいぶつ)に自分も隠れながら更に確認する栗栖。


「人数は(およ)そ30、使用しているのはAK47とRPK軽機関銃。あとはKPV重機関銃の存在も確認しました」


 あとから来たコナー中尉もカウンターの影にしゃがみ込みながら端的に答える。


「対するこちらは2分隊20人、M4A1(アサルトカービン)M249SAW(分隊支援火器)か……」


「囮の2分隊と合流するまで無駄弾を撃たない様に周知徹底していますが……なにぶん重機関銃が厄介(やっかい)です」


 散発的な銃撃音の中、栗栖は軍用双眼鏡(シュタイナー)を覗くとKPV重機関銃を積んでいるピックアップトラックを後方に()えて展開しているテロリスト達の布陣を確認する。


「確かに少し厄介だな……」


 今のところ使用されていないが、これ以上戦線が膠着(こうちゃく)状態になると何時(いつ)使われるかわからない重機関銃の存在を改めて確認すると、栗栖は憂鬱(ゆううつ)そうに呟く。


「合流する分隊にはM203(グレネード)装備のM4A1が3名いますので、合流出来れば一気に掃討出来るのですが──」


 カウンターに身を(かが)めるコナー中尉が希望的観測を述べるが、その前に(しび)れをを切らしたテロリストがピックアップトラックに向かうのが見えた。


「不味い!」


 そう言うが早い栗栖は、急いでピックアップトラックの荷台に乗ろうとしているテロリストにFN F2000(アサルトライフル)の照準を合わせる!


 火器統制装置(FCS)が素早く照準(エイミング)し、栗栖は全自動射撃(フルオート)のまま引き金(トリガー)を引くと5,56×45㎜弾が連続発射され、照準器(サイト)の中に映るテロリストに吸い込まれていく!


 鮮血を撒き散らして荷台からテロリストが地面に落ちると一斉にお互いの銃が火を噴き、激しい銃撃戦が始まった!


「くそ!」


 遮蔽物(カウンター)に身を屈めFN F2000の弾倉(マガジン)を素早く交換しながら


(このままでは消耗戦になるな)


 栗栖はうんざり気味に独り言ちた。





 遮蔽物(カウンター)に身を隠しながら応戦する栗栖の肩をポンと叩く者がいた。


「ねぇ、栗栖(クリス)。なんだか大変みたいね?」


 この緊迫した状況とは対象的にのほほんとしたルーツィアである。


「ルーツィア!? 危ないから下がっていろ!」


 慌てて退避を(うなが)す栗栖にルーツィアはとんでもない言葉を発した。


「私が何か()()()()()()


「手伝うと言われても君に銃器を使わせる訳には……」


 保護対象であるルーツィアを戦闘に参加させる訳にはいかないと逡巡(しゅんじゅん)する栗栖に、ルーツィアは更に予想の斜め上を行く言葉を投げ掛ける!


「大丈夫よ。そんな()()は使わないから」


 そう言って遮蔽物(カウンター)から身を乗り出すルーツィア!


「!? 馬鹿! 危ない!!」


 思わず叫ぶ栗栖の目の前で銃撃が丸見えのルーツィアに集まる! ルーツィアの華奢(きゃしゃ)な身体が蜂の巣に撃ち抜かれるのを幻視した栗栖の目の前で、有り得ない現象が起きる!


 ルーツィアの50㎝手前で全ての銃弾が()()()()()に当たったみたいに潰れボトボト落ちて行くのだ!


(あ、有り得ん! 貫通力が高い7,62㎜弾が?!)


 唖然(あぜん)とする栗栖の耳に届いたのは、更に有り得ないルーツィアの台詞だった!


「ふん……()()()()()()()()ならこんなモノね」


「な……!?」


 驚きに驚きを重ねる栗栖を尻目にルーツィアが遮蔽物にしていたカウンターから出て前に進み出る。そのルーツィアに更に苛烈(かれつ)な銃撃が集中するが結果は同じ、見えない壁に銃弾が(さえぎ)られルーツィアに届く事が無かった。


 そんな中、ルーツィアは両手を左右に広げ「うん大丈夫、いけるわ」と小さく呟くと、不意に彼女の周りに紫電(しでん)(ほとばし)り始めた! 最初は小さかった放電現象は徐々に大きくなり、彼女(ルーツィア)の周りを荒れ狂う!


 ルーツィアは両掌(りょうてのひら)を前に突き出すと


「【雷霆之雨(ボルティックレイン)】」


 と言葉を力強く(つむ)いだ! 次の瞬間、彼女(ルーツィア)の周りを荒れ狂っていた紫電は轟音と共に前方のガラス張りの壁を突き抜け、外にいたテロリスト達の頭上から一斉に降り注いだ! 悲鳴を上げる(いとま)も無く倒れ伏すテロリスト達! 紫電は2秒ほど降り注ぎ、それが過ぎ去った後には沈黙だけがその場を支配していた。


「い、今のは君がやったのか?」


 栗栖達も(しわぶ)き一つせずにいたが、いち早く我に返った栗栖がルーツィアに尋ねる。


「ん? そうだけど?」


 一方のルーツィア本人はあっけらかんとして答える。


「今のは一体……?」


「あれは魔法術(マギア)よ。()()()()()を物理的エネルギーに変換したの。普段は()()を使うんだけどね」


 続けて(たず)ねて来た栗栖に噛み砕いたみたいな説明をするルーツィア。その顔には何かを(さと)ったみたいな表情を(あらわ)して。


「君は一体、()()()()()()


 栗栖は続けて訊ねる。恐らくはと言う考えはあるが一方で、そんな非現実的な事は無いと否定する自分がいる。でももしかしたら── 。そんな栗栖の思いを肯定し否定する答えを彼女は紡ぐ。


「私は「()()()()()()()」の至上之魔導師(アーク・メイガス)、ルーツィア・ルードヴィヒ。信じられないだろうけど、こことは()()()()から来たの」



 あまりの現実離れしたルーツィアの台詞に栗栖は呆然とするのだった。



アサルトライフル AK47

全長870mm/銃身長415mm/重量3900g(マガジン未装填)/口径7.62mm/使用弾7.62×39mm弾/装弾数30発


RPK軽機関銃

全長1040mm/銃身長590mm/重量5000g/口径7.62mm/使用弾7.62×39mm/装弾数30/40/45/75発


KPV重機関銃

全長2006mm/銃身長1346mm/重量49.1kg/口径14.5mm/使用弾14.5×114mm弾/装弾数40発


アサルトライフルM4A1

全長850.9mm/銃身長368.3mm/重量2680g(マガジン未装填)/口径5.56mm/使用弾5.56×45mm NATO弾/装弾数20/30発


M203グレネードランチャー

全長380mm/銃身長305mm/重量1360g/口径40mm/使用弾40×46mmグレネード弾/装弾数1発


M249SAW軽機関銃

全長1035mm/銃身長465mm/重量7500g/口径5.56mm/使用弾5.56×45mm NATO弾/装弾数30/100/200発


次回投稿は2週間後を予定しています。


いつもお読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ