〖act.18〗魔法使いと傭兵、新装備と聖夜について語る
栗栖の両手に握られた自動拳銃から発火炎が迸り、40S&W弾が撃ち出される!
ステンレス鋼の遊底は小気味よく反動利用して排莢口から空薬莢を排莢し、スムーズに次弾を給弾口に装填する! 一連の動作を合成樹脂製の枠から射撃の反動として感じ取る栗栖!
放たれた初弾は20m先にある人型標的に着弾し、それを確認した栗栖は今度は連続して引金を引き絞る! 続けて撃ち出される弾丸は全てマンターゲットに吸い込まれていった。
「20mで集弾率4cmか、相変わらずの良い腕だ」
単眼鏡を覗いていたA・C・O装備管理官のディーノ・ダスティンが栗栖の腕前をそう評価する。ここは装備管理局の試射室、試射している栗栖の傍にはD.Dとルーツィアが、その様子を見ていた。
「どうだクリス、ソイツの使い心地は?」
「ああ、以前のP229Rより軽くて扱い易いな。スライドが少し固い気がするが」
全弾14発を撃ち終えスライドストップが掛かりホールドオープンしたオートマチックから、空の弾倉を外し台の上に置く栗栖。
「まあなんと言っても下ろし立てだからな、そいつは」
「まぁな、しかし良い銃ではある」
栗栖の感想を聞き少し苦笑気味に答えるD.D。
栗栖が今撃っていたのはSIG SAUER P320M18、今まで使用していたシグザウエルP229Rの装備改変として栗栖に新たに支給されたオートマチックである。
P229Rとの相違点は後部に露出している撃鉄が無く、スライド内部にある撃針で弾丸を撃ち出すのと、銃枠が軽量の合成樹脂で出来ていて重量がP229Rより軽い点である。
「何れにしてもこれで引き渡しは完了だな、大事に扱ってくれよ。まぁお前さんならそんな心配は無いんだがな」
そう言うとD.Dは笑顔を見せながら引き渡し表を差し出し、受け取りのサインを書き込むとP229Rをテーブルに置く栗栖。
「終わったのかしら?」
それまでずっと黙って様子を見ていたルーツィアが手続きを終えた栗栖に声を掛けてきた。
「ああ、こっちは終わったよ」
「じゃあ次は私の番ねっ! よろしくD.D!」
「おう、ちょっと待ってろ」
ルーツィアの台詞に苦笑混じりに答えるD.Dはコンテナを開けるとルーツィアに支給される銃に手を掛けた。
「さてと、ルーツィア。コイツはベレッタARX-160A2自動小銃だ。A1と言うスタンダードモデルより全長が140mm短く580mmになっていて取り回しがし易い」
そう言いながら右に折り畳まれていた銃床を延ばし
「こうストックを延ばすと100mm延ばせるので安定した射撃が出来るし、このストックは更に75mm調整出来るから自分に合わせられる。重量はM27 IARより軽く3,000gで5.56×45mm NATO弾がSTANAGマガジンで30発。オプションとしてCompM2が装着されている」
そのまま弾倉をガチャッと嵌め込むと槓桿を操作しチャンバーに一発送り、マガジンを外して再び薬室装填しチャンバーから排莢させるD.D。そこまですると自動小銃をルーツィアに手渡す。
ルーツィアは手渡されたアサルトライフルの銃把を握ると色々構えたり確認してから、マガジンを差し込むとコッキングし耳当ても無しに20m先にあるマンターゲットに狙いを定め、操作切替を安全から単発に合わせるとトリガーを引き絞り発砲する!
消炎器からマズルフラッシュと共に撃ち出された小口径高速弾は20mの距離を翔び、マンターゲットに吸い込まれる! 見事マンターゲットの頭部に命中させたルーツィアは続けてセミオートで胸部を撃ち抜き、最後はセレクターレバーを連射に切り替え全弾をターゲットに向けて叩き込んだ!
「おお……こっちも凄いもんだな」
モノキュラーを覗き込んで確認しながら唸るD.D。流石にこちらの世界に来て、銃器に触れてから九ヶ月経とうとしているだけの事はあるな、とルーツィアを見てそんな事を思う栗栖。
「どうだったクリス!?」
「うん、これなら俺がもう教える事は無いかな。満点の出来だよ」
「うふふっ、それは先生が良かったからよ♡」
そう言いながらD.Dから差し出された引き渡し表にサインを済ませるルーツィア。
「よし。手続きも済んだしそろそろ辞去するか……もう昼時だし、何か食べてから射撃場に向かうとしよう」
「うんっ! そうしましょ!」
栗栖の言葉に満面の笑みで答えるルーツィア。
「そんじゃあまた来いよ、おふたりさん」
2人のやり取りを聞いていたD.Dはニヤニヤしながら茶化して来る。
「あ、ああ、また来る」
「じゃあね、D.D!」
にやけるD.Dに見送られ装備管理局を後にする栗栖とルーツィア。何となく照れくさかったのは秘密である。
すっかり馴染みになった射撃場に向かう前にA・C・Oの社員食堂で昼食を摂る事にした栗栖とルーツィア。勿論ルーツィアのアサルトライフルは保管庫に仕舞って来てある。
「何だか今日もずいぶん賑やかね。確か感謝祭とか言うのは終わったんでしょ?」
チキングリルとパンとサラダのプレートを持ってきながらルーツィアがそんな事を栗栖に言ってきた。
「ん? ああ、次はクリスマスがあるからな」
シンシナティ風チリの3-way(スパゲティとチリコンカーンと刻みタマネギトッピング)をテーブルに置きながら、確か今日は11月29日だったなと思い出す栗栖。
「それって確か、キリストとか言う聖人の生誕祭だったわよね?」
「生誕じゃなくて降誕と呼ばれているな。より正確にはキリスト教の祭儀なんだけどな。それが巡り巡って家族全員でプレゼントを贈り合う習慣になったんだよ」
「へぇー、それも素敵な習慣ね♡」
「クリスマスは「キリストのミサ」という意味で、キリスト教の一部の分派が行うイエス・キリストの降誕祭の事よ。12月25日はあくまでも誕生を祝う日であって、イエス・キリストの誕生日ではないわ。毎年12月25日に祝われるんだけど、一部では1月7日にクリスマスを祝う所もあるわね。それでも世界的に行われる一大イベントになっているわ」
後ろから声が聞こえ振り返るとそこにはディビジョンAのアンネリーゼ少佐と副官のマリルーが盆を手に立っていた。
「やあ、アンネリーゼ。君達も来たのか」
「こんにちは! アンネリーゼ少佐!」
「はい、こんにちは。クリス、ルーツィアさん」
「こんにちはっ! 前回はありがとうございました」
栗栖とルーツィア、アンネリーゼとマリルーはお互いに言葉を交わす。
「相席しても宜しいかしら?」
「ああ、どうぞ」
にこやかに許可を求めるアンネリーゼに笑顔で手を向ける栗栖。アンネリーゼ達は栗栖達に対面して座るのだった。
「でもなぜクリスマスの話なのかしら?」
トレイに載せて来たローストビーフのサブマリンサンドウィッチに手を掛けながらアンネリーゼが尋ねて来る。マリルーはカニかまとアボガドのカルフォルニアロールを器用に箸を使い食べていた。
「ああ、実は──」
栗栖はルーツィアにはこの国での行事は説明してあるが、彼女にとって初めて経験するクリスマスである事を2人に話して聞かせた。
「成程、そう言う訳なのね……ルーツィアさんの世界にはこうした一大イベント的なお祭り行事は無いのかしら?」
納得したアンネリーゼはサンドウィッチをひと口齧り、ふと感じた疑問をルーツィアに尋ねて来る。
「んーそうねぇ。こうしたお祭り自体はあるけど、特定の人を祝う為の祭りと言うと国王や皇帝の生誕祭ぐらいしか無いわね。私の世界だと聖人や偉人と呼ばれる人達は先ず国家で認められるから明確な記録が残っているんだけど、こんな風に宗教の対象にはなり得ないわ。そもそも伝説上の人物が宗教の対象になる事自体有り得ない事だから……」
饗される七面鳥が二羽放免される感謝祭のイベントも有り得ないんだけどね、と素直な感想で締めるルーツィア。勿論その間チキングリルをナイフで切り分ける作業は止めている。
ルーツィアが言うには──何でも聖人や偉人となり得たる人物なら、その出生から死没までのきちんとした記録が残されているのだそうだ。勿論何をなし得たかと言う挿話も含めてであるが決して神格化される事は無いらしい。
そもそも魔法や魔法術と言う「奇跡」が間近にある世界であるから当然と言えば当然なのだが。
(まあイエス・キリストも明確な記録が残っていたらまた違ったのかも知れないな)
横で聞いていてそんな事を思う栗栖。勿論こちらの世界にも記録が残されている偉人は数多くいるのだが、とかく聖人と呼ばれる人達は神格化され易い傾向があるのが現実である。
「まあそこは住んでいた世界が違うから仕方ないけど、ルーツィアさん自身はこうしたお祭りは嫌いなのかしら?」
話があらぬ方向に向かいかけてたので、元に戻す為にアンネリーゼは無理矢理話題を変えた質問をする。
「いいえ、嫌いじゃないわよ? むしろ初めて経験するお祭りだから楽しみだわっ! 感謝祭の時は七面鳥の丸焼きにびっくりしたけどね!」
「だそうよ、クリス」
栗栖にいきなり話を向けるアンネリーゼ。2人の話をコーラを飲みながら聞いていた栗栖は思わず噎せ込んでしまう。
「ゲホッ! ゲボッ! そ、それはちゃん、と考えているから、だ、大丈夫、だ」
「だそうよ、ルーツィアさん? 初めてのクリスマスはクリスにエスコートして貰いなさいな」
「えっ?! えっ、あの、その」
栗栖の台詞を受け再びルーツィアに話を向けてくるアンネリーゼ。まさか振られるとは思っていなかったルーツィアはしどろもどろである。
「けほけほ……わ、悪ふざけし過ぎだぞアンネ!?」
漸く噎せ込みが治まった栗栖は、アンネリーゼを昔の様に愛称で呼びながら軽く抗議の声を上げる。だが当のアンネリーゼは
「うふふっ、御免なさい。ルーツィアさんを見ていたらつい揶揄いたくなって」
ニッコリと笑顔を向けて来て悪びれた様子が無い。その様子を見た栗栖は小さく溜め息をつくと
「全く……揶揄わないでくれよ……」
少し咎める様な視線をアンネリーゼに向ける。一方のルーツィアは「え、エスコートだなんて……」とうわ言の様に呟いている。
「さて……あまり揶揄うのも良くないわね。私達はルーツィアさんに怒られないうちに早々に退散するわ」
話し込んでいた筈なのにいつの間にか食事を終えていたアンネリーゼとマリルーは、それぞれのトレイを手に取ると「それでは素敵なクリスマスを」とにこやかに言いながら帰っていった。
「全く、アンネの奴……ルーツィア大丈夫か?」
「えっ? あっ、う、うん、だ、大丈夫大丈夫」
栗栖の問い掛けに我に返るルーツィア。心做しか頬が赤い、ように見える。
「兎に角だ、丁度クリスマスイブの24日とクリスマス当日の25日はシフトも組まれていないから、ささやかなパーティーでもしないか?」
少し落ち着いたルーツィアに栗栖はそう提案する。もちろん異界から来たルーツィアを少しでも楽しませようとする栗栖の心遣いである。それを聞いたルーツィアは再び顔を赤らめながら
「そ、それならクリスマスにお互いプレゼントを交換しない?」
と提案して来る。栗栖はふむと考えると
「そうだな……それじゃあそうしようか?」
その提案を受ける旨を口にする。その返事を聞いて「う、うん! そうしましょう!」と満面の笑みで喜びを表すルーツィア。如何にも嬉しそうである。
(これは気合を入れてプレゼントを考えないとな)
普段の任務より高難度なミッションではあるが、その分やり甲斐があるなと、燥ぐルーツィアの見ながら思う栗栖であった。
自動拳銃 SIG SAUER P320M18キャリー
全長180mm/銃身長120mm/重量740g/口径10mm/
使用弾40S&W/装弾数14+1発
アサルトライフル ベレッタARX-160A2
全長580mm(ストック延680mm)/銃身長304mm/重量3,000g
口径5.56mm/使用弾5.56×45mm NATO弾/装弾数30+1発
次回更新は二週間後の予定です。
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