〖act.15〗オペレーション「ブルズアイ」ーsideBー
前回と同じ『砂の薔薇』へのオマージュとなっております。
*引き続き残酷な表現がありますのでご注意ください。
偵察ドローンから刻々と送られて来る映像。使われているドローンは直流モーターと静音性が高い特殊な回転翼で音を立てる事無く飛行出来るので、こうした偵察には打って付けである。
「──こちら側は入口付近に防塞を多数敷設、PK機関銃4丁と射手8人と──」
「それと画像から視認出来るのはAK47アサルトライフル20名、RPK軽機関銃6名、UZIサブマシンガン8名、と言う所かしら? まだ奥の方に結構な数が居そうだけど」
ドローンからの画像が映し出されているモニターを覗き込みながら話し合う栗栖とアンネリーゼ少佐。
「──慌ただしくしているみたいね」
「恐らくは他の2地点から突入した第二部隊と第三部隊への対応に追われているんじゃないかと──」
「クリス中尉」
不意にアンネリーゼ少佐が栗栖の名を呼び彼が顔を向けると、見つめるアンネリーゼ少佐と視線が重なった。
「今でこそ私の階級の方が上だけど、貴方だって本来は少佐クラスの士官なんですよ? せめて以前の様にフランクに話してくれないかしら?」
そう言うと少佐──アンネリーゼは少しむくれた顔を向ける。それを見た栗栖は少し頭を振ると
「わかった──アンネリーゼ。これで良いか?」
苦笑いを浮かべ堅苦しい物言いを止める。
「ええ、それで結構よ」
それを聞いて満足気に頷くアンネリーゼ。そのやり取りを見ていたルーツィアは怪訝そうに「どういう事?」と栗栖に訊ねる。
聞かれた栗栖は、アンネリーゼがA・C・Oの訓練所を一緒に卒業した同期である事、自身は上層部に掛け合い立場的に今の階級に留まっている事を明かした。
何の気負いも無く答える栗栖にルーツィアが更に質問を重ねようとするとインカムから通信が聞こえて来る。
《こちらは第二部隊、目標地点に到着。直ちに戦闘可能態勢へ》
《こちら第三部隊、敵と交戦突入》
その通信を受けアンネリーゼは即座に指示を出す。
《こちら第一部隊、第二部隊は即座に突入。第三部隊を援護》
《第二部隊、了解》
そこまで言うとアンネリーゼは栗栖達に向かい
「第二部隊と第三部隊が交戦している隙にこちらも突入します、散開隊形!」
『了解!』
全員が短く答えると各々一斉に作戦行動を開始した!
敵のPK機関銃が一斉に火を噴き、併せてAK47(アサルトライフル)も射撃され7.62×54mmR弾と7.62×39mm弾が嵐の様に打ち込まれてくる! 遮蔽物の影に伏せ伏射で応戦する栗栖達の部隊!
「【岩之槍衾】!」
ルーツィアがコンクリートの床に手を置いてそう詠唱すると、テロリストの機関銃が置かれている4ヶ所の床に円環が4つ現れた!
次の瞬間、床が隆起したかと思うと無数の石の鋭い棘が生まれ、機関銃を操作していた射手達を見境無く串刺しにした!
何が起きたのか気付く間もなく絶命するテロリスト達! それはさながら磔に処された罪人達の様に凄惨な光景であった。
あまりの出来事に言葉を失う双方だったが、栗栖とアンネリーゼの「撃て!」の号令にいち早く我に返ったマリルー達がM27IARで銃弾をテロリスト達に叩き込む! 程なくしてテロリスト達の抵抗が無くなると
「突入!」
アンネリーゼの声が短く響き、栗栖達部隊は次々にテロリストが護っていたドアに飛び込んでいった。
栗栖達が突入した部屋はこの元ビジネスビルの会議室だった。本来100人規模の会議を行える部屋が廊下を挟んでふたつ続きになっていて、内部は開けている筈なのだがテロリスト達はあちこちに壁や防塞を築き、内部はさながら迷宮と化していた。そして内部に突入した栗栖達を激しい銃撃が出迎える!
防塞に身を低くして隠れながら伏射や膝射で応戦する栗栖達!
「【風塊衝弾】」
片やルーツィアは積極的に魔法術を行使していた。この緊迫した状況では銃器での射撃より手慣れた魔法術の方が効率が良いからである。
敵に向けて差し出した掌から拳大の空気の塊を次々撃ち出すルーツィア! 撃ち出された空気の塊は相手に当たると、さながら擲弾の様に爆散し次々とテロリストを吹き飛ばす! そのルーツィアの横合いにいきなり現れるテロリスト!
「ルーツィア! 3時の方向!」
いち早く気付いた栗栖がルーツィアに叫ぶのと、テロリストがUZIサブマシンガンを向けるのがほぼ同時であったが
「【魔法障壁】」
ルーツィアは慌てる事無く既に詠唱し終えていた! 次の瞬間火を噴くUZI! 9mmパラベラム弾が連続して撃ち込まれるが、全てルーツィアの手前50cmで止められてしまう! 信じられない光景に茫然とするテロリストに向けて
「【風塊衝散弾】!」
魔法術を解き放つルーツィア! 翳した掌に生まれた無数の空気の塊が高速で撃ち出され、テロリストの体を文字通り粉砕して行く! それはさながら至近距離で散弾銃を撃たれた様に、機関銃の集中砲火を浴びた様に見えた。
(本当にルーツィアには躊躇いが無いな)
凄惨な光景を目の当たりにして絶句する一同の中、栗栖はルーツィアの覚悟を見た気がした。
銃撃戦の応酬をしながらも奥に進む栗栖とアンネリーゼの部隊。既に部隊員の7名が負傷後退していた。前方に立ち塞がるテロリスト達を退け先に進む。そろそろ位置的にも敵の指揮統制中枢かと思われた時、栗栖達は今までに無い苛烈な攻撃に晒される事になった── 。
激しい音を立て7.62mm弾が絶え間なく撃ち込まれる! あまりの激しさに盾にしているコンクリートの壁が抉れて行く!
間隙を縫って栗栖達もM27 IARアサルトライフルやMDRアサルトライフルで応戦する!
(なかなか抵抗が強い……!)
栗栖はMDRを撃ちながら軽く舌打ちをする。ルーツィアも【風塊衝弾】をテロリストの陣地に撃ち込んでいたが、やはり間隙を縫う様に攻撃していた。
【魔法障壁】を使えば飛び交う銃弾など脅威にはならないが、如何せん【防御魔法術】を使いながら【攻撃魔法術】を同時発動させる事は出来ないのである。
そんな中アンネリーゼが「あと2分戦線を維持して!」と全員に檄を飛ばす! その言葉に悟る栗栖達。そして長い2分間が経ち、突然テロリスト達の攻撃が弱まった!
インカムから聞こえるのは《第二部隊及び第三部隊、敵指揮統制中枢に到達。交戦突入》の通信。第二部隊と第三部隊の二部隊がテロリスト達を背後から強襲したのである!
「撃て!」
この機を逃さず号令を下すアンネリーゼ! M27 IARから5.56mm弾が、栗栖のMDRから.300AAC Blackout弾(7.62mm弾)がテロリスト達に向かい撃ち込まれる!
「──突入! 目標を制圧する!」
今度は栗栖が号令を発し、散発的になった敵の銃撃の間隙を縫って次々に突入して行く栗栖の小隊! 突入してくる小隊員を敵の銃撃が襲うが後方支援に付いたアンネリーゼの小隊からの援護射撃により即座に沈黙する! 奥から現れた増援はルーツィアの【風塊衝弾】を連続で叩き込まれ出る間も無く爆散した!
それを超え突入した奥には10人ほどのテロリスト達が無線機やノートパソコンが無造作に置かれている部屋に、ひと塊になってAK47やUZIを構えていた! 1人のテロリストだけはステアーAUGアサルトライフルを構えて栗栖達を睨み付けていた。
「動くな!」
油断無く銃口をその人物に向けながら警告する栗栖。小隊員達も各個照準を合わせている。テロリスト達も栗栖達に銃口を向けて正に一触即発の様相を呈していた時、テロリスト達の背後から銃撃音が聞こえ、続けてM4A1やM27 IARを構えた兵士達が駆け込んで来た! 別の地点から突入して来た第二部隊と第三部隊である!
その状況にステアーAUGを構えていたテロリストが急に左腕を目前に掲げる! その手には何かが握られており、細い電線が繋がれていた!
(──!? しまった!)
瞬時にそれが起爆スイッチだと理解した栗栖は
「自爆攻撃だ! 退避!!」
と大声で叫びながら全員に退避を促す! スイッチを握るテロリストは歯を剥き出しにした顔で勝ち誇った様に顔を歪ませる。
それを見た栗栖は覚悟を決め──
『思考行動加速』
そう頭で念じると、彼の周囲の動きがひどく緩慢になった。
『思考行動加速』──それは栗栖のみに使える超能力である。能力の発動中は思考と肉体の行動が通常より約100倍に加速、能力も倍加され、常人の目には捉えられないほどの速度で行動出来るのである。これは彼が自らの姉の失われた生命と引き換えに得た力である。
兎に角『思考行動加速』を発動した栗栖は腰からファイティングナイフを抜くと、今にもスイッチを押そうとしているテロリストの傍に速歩で近付き、スイッチを持つ手の手首に向けてナイフを無造作に振るった。ナイフは電線を切断し、熱したナイフがバターを溶断するみたいに何の抵抗も無く手首を切断する! そしてそのまま手首を切断したナイフでテロリストの頸動脈ごと大きく切り裂く!
そこまでの行動を行い元の場所に戻る栗栖。やがて栗栖の周りの動きが元の速度を取り戻すと──
「ぇ……」
起爆スイッチを持つ左手首がゴトリと言う音を立て床に落ちるのと同時に、首から噴水の様に鮮血が噴き出すテロリスト! 本人は何が起きたのかわかる間も無く微かな呟きを漏らすと絶命したのである。
茫然とする他のテロリスト達をいち早く我に返ったアンネリーゼの部隊が前後から攻撃する! 反撃する間もなく身体を蜂の巣の様に撃ち抜かれ斃れ伏すテロリスト達!
テロリストが起爆スイッチを押そうとして僅か数秒の出来事だった。
「?! クリス!?」
傍に居たルーツィアが悲鳴にも似た声を上げ、何事かと栗栖の方を見やるアンネリーゼの目に、両眼を充血させ身体から湯気を上げ苦悶の表情を浮かべる栗栖が映ったのである!
それだけで栗栖が何をしたのか理解したアンネリーゼは栗栖の近くに行くと
「貴方、あの能力を使ったのね?!」
と少し咎める様に栗栖に確認しながら肩を貸す。
「ああ……他に手段が無かったからな」
少し苦しげに答える栗栖。
「何せ久しぶりに使ったから身体中が悲鳴を上げているよ」
そう言う栗栖の言葉を聞いて仕方ないなと苦笑いを浮かべるアンネリーゼ。事実、栗栖がその力を振るわなかったなら自分を含め、今頃無事では済まなかった事は明白なのである。だからアンネリーゼは一言「ありがとう」と栗栖に告げる。
「ねぇ! 本当に大丈夫なの、クリス?!」
一方のルーツィアは今にも泣き出しそうな顔でもう片方の肩を支える。
「ああ、ありがとうルーツィア」
そう礼を言うと栗栖はルーツィアに、今まで話していなかった自身の超能力について話し始めた。
「──つまりあなたは思考と行動を短時間だけ加速出来る超能力を持っていたと言う事ね?!」
「ああ、普通の人の体感で約10秒──俺の感覚だと16分が限界だけどな」
「それでも凄いわよ! 私だってあなたの傍に居たのに何が起きたのか気付く事も出来なかったんだから!」
説明し終える栗栖を今度は興奮気味に賞賛するルーツィア。
「ルーツィアさん、とりあえずこの話はここまでと言う事で……マリルー、どうしたの?」
興奮するルーツィアを宥めながら、アンネリーゼは報告に来たマリルーに尋ねる。
「第二、第三部隊から報告。制圧完了との事です」
「わかったわ──クリス、貴方が撤収の号令を」
マリルーの報告を聞いたアンネリーゼは肩を支えている栗栖にそう告げる。
「ん? この場合は上官であるアンネリーゼが──」
「でも特殊作戦部隊を指揮したのは貴方でしょう? 貴方が号令を掛ける権限があるわ」
「そうか、なら──」
アンネリーゼに促され栗栖が声を上げる。
「作戦完了、08:20。撤収する」
ここに作戦『正鵠』は幕を閉じたのであった。
マシンガン PK機関銃
全長1173mm/銃身長658mm/重量9000g/口径7.62mm/使用弾7.62×54mmR弾/装弾数ベルト給弾式
サブマシンガン IMI UZIウージー
全長470mm/ステック延650mm/銃身長264mm/重量3800g/
口径9mm/使用弾9×19mmパラベラム弾/装弾数20/25/32/40/50発
アサルトライフル ステアーAUG
全長790mm/銃身長508mm/重量3600g/口径5.56mm/使用弾5.56×45mmNATO弾/装弾数30/42発
リーコンスカウト/コールドスチールシースナイフ
次回更新は二週間後の予定です。
お読み頂きありがとうございます。