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〖act.13〗魔法術と銃器、戦端の幕開け

 

「【狂飆霹靂(ボルティクテンペスト)】!」


 ルーツィアの(つむ)言霊(ことだま)射撃場(シューティングレンジ)に響き渡り、彼女の前に雷光を(まと)った渦が現れる! 渦は徐々に膨張すると前方に解き放たれ、置かれていた幾つもの標的人形(ダミー)を巻き込んで行き、巻き込まれた標的人形(ダミー)達は激しい雷撃を浴びて粉砕されて行く!!


 ここはA・C・O(エコー)野外射撃場(フィールド・シューティングレンジ)、ルーツィアの魔法術(マギア)の鍛練(と言うストレス発散)をしている最中である。やがて雷光の渦が消え去ると、あとに残されたのは無残にも破壊し尽くされた標的人形(ダミー)達の残骸だけであった。


「ふぅーっ」


 魔法術(マギア)を解いて大きく息を吐くルーツィア。その顔は満足そうである。


「相変わらず凄い破壊力だな」


 片や一連の出来事を傍観していた栗栖(クリス)魔法術(マギア)出鱈目(でたらめ)な破壊力に驚いていた。


「うん? まあそうね、今のは攻撃魔法術(アサルト・マギア)でも中範囲殲滅魔法術(ミドルレンジ・アナイアレイション・マギア)よ。風と雷の複合属性なの」


 聞かれたルーツィア(本人)はあっけらかんと答えているが、戦場でこんな攻撃を受けたらひとたまりもないと改めて実感する栗栖。


(ルーツィアが()()()()居てくれたのは本当に幸運だったな)


 そんな事をふと思う栗栖。だが()()()、何かの加減でルーツィアはテロリストの側に居た可能性があった事を考えると幸運の一文字では片付けられない話なのだ。


 栗栖がそんな事を考えている等とは露知らず、ルーツィアは職員達がセットし直した標的人形(ダミー)に向かい、次の魔法術(マギア)を行使しようとしていた。


「【氷柱投擲槍(アイシクル・ジャベリン)】」


 ルーツィアの言霊に呼応して彼女の目の前の空中に、直径10cmはあろうかと言う氷柱(つらら)が何本も産み出される! そして!


射抜け(シュート)!」


 ルーツィアの掛け声と共にそれぞれが別々の標的人形(ダミー)に向かい飛翔し、深く穿(うが)つと同時に瞬時に凍らせた! これもまた()()()()()()()だと、凍りつく標的人形(ダミー)を見て思いを新たにするのと同時に、本当に楽しそうに魔法術(マギア)を行使するルーツィアを見て


(これは……今後もこうしてルーツィアに発散させないとな)


 と思う栗栖であった。





「あーっ、楽しかった!」


 射撃場(シューティングレンジ)からの帰り、久しぶりに思う存分魔法術(マギア)を行使してルーツィアは御満悦であった。その胸元には【セラフィエルの瞳】とは別に、銀色のペンダントトップが輝いていた。


「どうだルーツィア。【魔力変換機(マギア・コンバーター)】の調子は?」


「ええ、調子は上々よ! まぁ【原型機(プロトタイプ)】だけどね」


 4WD(ハマーH3)のハンドルを握る栗栖からの問い掛けに、ルーツィアは先程のペンダントトップに手を掛け笑顔で答える。このペンダントトップこそ、ルーツィアがシモーヌから渡されたシリコンウェーハを使い創り出した【魔力変換機(マギア・コンバーター)原型機(プロトタイプ)】なのである。


 地球の技術である集積回路(IC)の回路図を参考に新たに設計した【言霊回路(ランゲージ・サーキット)】で構成されていて、この【原型機(プロトタイプ)】は新設計の【言霊回路(ランゲージ・サーキット)】の効率を確認する為のテスト機である。


変換機(コンバーター)としては及第点(きゅうだいてん)かな? 次作はその辺を改良したのを創るけど、とりあえず今はこれでも十分ね。まあ少なくとも自分が手を掛ける物に関しては ” 次が一番 ” だと何時(いつ)も思うんだけど。現状維持は衰退と思わないとね」


 そう自分の作品を自己採点するルーツィア。その中に彼女の強いこだわり(ポリシー)を垣間見る事が出来て感心する栗栖。


「ルーツィアは本当に自分の作製した物にこだわりがあるんだな」


「そりゃあ、こだわりがあるって事は1つの愛着でしょ? 愛着が無い作品なんてただの駄作よ」


 栗栖の台詞に答えるルーツィア。その顔はまさに技術者の顔であった。


(彼女(ルーツィア)はこんな顔もするんだな)


 そんな彼女の表情を見ながら、珍しいものを見たなと思う栗栖は運転をしながら質問を重なる。


「すると魔法変換機(マギア・コンバーター)の完成は何時(いつ)ぐらいになるんだ?」


「そうね……この原型機(プロトタイプ)でデータを集めて、【言霊回路(ランゲージ・サーキット)】を再設計して……早くて二ヶ月、かな」


 唇に指を当て考えながら答えるルーツィア。その愛くるしい仕草を微笑ましく思う栗栖は再び車の運転に集中するのだった。





 ルーツィアがストレス発散をした四日後──


「【颶風旋弾(テンペスト・ショット)】」


 構えた拳銃の様に差し出した二本の指先に可視化出来るほど()()()、そしてとても小さな渦が幾つも生まれ、(きり)の様に鋭い形を取ると目標の人型標的(マンターゲット)に向かって一斉に打ち出される! ライフル弾の様な空気の錐が複数の標的を穿つと同時に


「──撃て(ファイヤ)!」


 栗栖の号令を受け、小隊員達が射撃を開始する!

 (ヘッケラー)&K(アンドコック) M27 IAR──Infanty(インファントリー) Automatic(オートマチック) Rifle(ライフル)──歩兵用自動小銃が一斉に火を噴き、5.56mm NATO弾が標的に次々と撃ち込まれていく!


 M27 IARは約二ヶ月前からA・C・O(エコー)内部の装備刷新(さっしん)でM4A1と交代されているアサルトライフルで、M249軽機関銃が担っていたSAW─Squad(スクワッド) Automatic(オートマチック) Weapon(ウェポン)──分隊支援火器の役目を担う火器である。A・C・O(エコー)ではM27 IARの射撃精度の高さから来る制圧効果の高さに注目して順次配備しているのである。


 まあM4A1自体、(すで)に配備から半世紀経っている事もあるのだが。


 兎に角いま行われているのは、ルーツィアと栗栖の指揮下にある小隊との連携訓練である。今回は市街地に()ける奇襲戦を想定しており、栗栖はルーツィアに()()()()()()魔法術(マギア)で先制攻撃をして貰っていたのである。


 M27 IARの射撃が続く中もルーツィアは続けて【颶風旋弾(テンペスト・ショット)】で攻撃を継続していたが、やがて「射撃やめ(シースファイヤー)!」の号令で全ての射撃と魔法術(マギア)が停止し、市街地訓練場に静寂が訪れた。


「効果確認!」


 続けて発された栗栖の言葉に標的を確認する小隊員達。そんな中ルーツィアは小さく息を吐くと緊張を解いていた。


「お疲れ様、凄かったな【颶風旋弾(テンペスト・ショット)】は」


 そんなルーツィアの肩を軽く叩きながら声を掛ける栗栖。彼はルーツィアが魔法術(マギア)を行使する様子を見ていたのだが、彼女が放つ空気の錐が目標に向かい()()()()()()()()()()()のを目の当たりにしていたのである。


「あ、クリス。今使った【颶風旋弾(テンペスト・ショット)】は視認した目標を追尾するからね、だから百発百中よ♡」


 聞かれたルーツィア(当の本人)はなんて事は無いみたいに笑顔で答えるが、聞かされた栗栖は栗栖で


(ライフル弾が自動追尾(ホーミング)とか本当に出鱈目だな)


 その非常識なまでの攻撃力を再認識していたのである。


 もっとも自身の能力ですら()()()()()()()()()()()()改めて認識をしたのだが。





 連携訓練から十日後。


注目(アテンション)!」


 号令と共に全員が一斉に起立しグエン中佐に傾注する。今日はここA・C・O(エコー)作戦会議室(ブリーフィングルーム)にて発令された作戦の打ち合わせが行われていた。


 グエン中佐は答礼すると「楽にしたまえ」と全員に着席を(うなが)し話し始める。


「それでは今回発令された作戦の打ち合わせ(ブリーフィング)を行う。今回の作戦はテロ組織『深緑の大罪(グリーン・シン)』に対して行なわれる反攻作戦(カウンターアタック)の一手である。今から九ヶ月前に行われた作戦で入手した奴等の行動計画のデジタルデータが(ようや)く解析でき、そこから解った近々(きんきん)に行なわれる予定の奴等の大規模作戦に先手を打って攻撃を仕掛ける。上手くすれば奴等『深緑の大罪(グリーン・シン)』の今後の行動にもかなりの制限を掛けられる筈だ」


 作戦の主眼についての説明を終えるグエン中佐。一人が「はい」と手を挙げ、グエン中佐は「ブラウン少尉」と指差しして発言を促す。


「何故デジタルデータの解析に九ヶ月も掛かったのですか?」


「回収したデジタルデータは高度な防壁に何重にも(まも)られていた。しかもコンピューターウイルスと言うおまけ付きで、お陰で最初にデジタルデータを確認する為に使用した技術部のサーバーがウイルスに汚染され機能停止に(おちい)った。即座に本社のホストコンピューターとは分離隔離されたので被害は軽微だったがな。兎に角そんな事で先ずコンピューターウイルスを駆逐する事から始まり、幾重(いくえ)にも展開されていた防壁を全て解除するのに時間が掛かったのだ」


「わかりました」


 ブラウン少尉が納得しグエン中佐は話を続ける。


「解読された情報によるとテロリスト達は中国(チャイナ)の国際都市で有名な某市で大規模な破壊活動をする為に某市街近郊に分散して戦力を集結しつつあると、先行した偵察部隊から報告が上がって来ている」


「その某市を標的にしたのは何か理由があるのですか?」


 また別の誰かが挙手をして質問する。


「解読された情報では触れられていないが……某市はハイテク産業振興都市として昔から脚光を浴びているが、今回の某市への襲撃はデモンストレーションを兼ねた云わば「狼煙(のろし)」だと言うのが情報部の見解だ。事実、某市の襲撃を皮切りに豪・加の国際都市への同時襲撃が計画されている。其方(そちら)の二市に関しては豪と加の軍とも協力して、別のディビジョンが対処する事になっている。我々は狼煙を上げさせない為にも、この『深緑の大罪(グリーン・シン)』の部隊を秘密裏に()迅速(じんそく)に叩かなくてはならない」


 グエン中佐は一旦話を切り、「ここまでで質問は?」と確認し質問が出ないので話を続ける。


「今回は我々ディビジョンSとディビジョンAとの合同作戦となる。そしてクリス中尉、君はルーツィア嬢と麾下(きか)の小隊を率いて特殊作戦部隊(SOU)として行動して欲しい」


 ここで栗栖とルーツィアの名前が挙がり少しざわめきが起こる。


「わかりました」


 ()えてざわめきを無視して端的に答える栗栖。気負いは感じられない。


「以降作戦名は『正鵠(ブルズアイ)』と呼称する。出発は二日後の20:00だ。各員準備は怠らない様に。解散!」


 中佐の声に起立し敬礼する一同。そしてそれぞれ準備の為に行動を開始する。


(出発が二日後──水曜日の20時だと到着は木曜日の10時か)


 (ただ)し移動時間は十五時間ほどは掛かるのだが、と栗栖は頭の中で考えていた。ルーツィアには(すで)に時差の話をしてあるので問題は無いのが救いである。


「クリス」


 そんな思いを巡らせている栗栖にルーツィアが声を掛けようとして、先にグエン中佐から声を掛けられる。


「はい、何でしょうか? グエン中佐」


 グエン中佐は栗栖の目を真っ直ぐ見ながら話し出した。


「今回、君の小隊を特殊作戦部隊としたのはルーツィア嬢にその魔法(マギ)忌憚(きたん)無く発揮して欲しいからだが、それは()()()()()()()()()()。2人とも期待しているぞ」


「「はい!」」


 栗栖は最敬礼をしルーツィアは笑顔で答える。それを見て頷くグエン中佐は栗栖の肩に手を掛けると


「いいかクリス、決して無理をするな。命を()しめ、いいな?」


 そう告げると肩をポンッと叩き作戦会議室(ブリーフィングルーム)を出て行く。


「……有難うございます、グエン中佐」


 敬礼をしながらその背を見送り栗栖はポツリ呟いた。そんな栗栖にルーツィアが言葉を掛ける。


「良い人よね、中佐って」


「ああ」


「中佐も言ってたけど……無理しないでね、栗栖」


「しないさ」


 心配そうなルーツィアに笑顔を向けて答える栗栖。


「これは始まりに過ぎない。『深緑の大罪(グリーン・シン)』を壊滅させるのが俺の目標だからな」


「そうね……お互い頑張りましょう!」


 栗栖の決意に満ちた目を見てルーツィアも頷く。


 色んな人達の想いを飲み込み、これまで小競り合いを続けていたA・C・O(エコー)と『深緑の大罪(グリーン・シン)』が本格的な戦闘に突入する初戦がいよいよ始まる。



アサルトライフル (ヘッケラー)& (コッホ) M27 IAR

全長840mm/ステック延940mm/銃身長420mm/重量3600g

口径5.56mm/使用弾5.56×45mmNATO弾/装弾数30発


次回更新は二週間後の予定です。


お読み頂きありがとうございます。

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