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〖act.12〗傭兵、魔法使いに因縁を語る

 

 ルーツィアの初作戦から三ヶ月、何度かの作戦行動もあったが()()()()()()()を過ごしていた栗栖(クリス)とルーツィアは、A・C・O(エコー)のディビジョンSのオフィス、その士官室(オフィサーズオフィス)に居た。


「良く来たなクリス、そしてルーツィア嬢」


 重厚な執務机に座って出迎えたのはディビジョンSの司令官(コマンダー)サミュエル・グエン中佐である。


「お呼びでしょうか、グエン中佐」


 栗栖は背筋を伸ばし敬礼をし、グエン中佐はそれに答礼で答え「楽にしたまえ」と(うなが)す。一方のルーツィアは姿勢良く起立していたが決して敬礼をする事は無く、真っ直ぐグエン中佐の方に視線を向けていた。


 ルーツィア自身の扱いはA・C・O(エコー)では「客人(ゲスト)」として扱われており、ルーツィアが敬礼をしなくとも何ら問題はなかった。因みにグエン中佐を含めた上官達はルーツィアを呼ぶ際は何故か「嬢」と付けるのが(なら)わしになっていた。


「それでどうかな、ルーツィア嬢。()()()()()()()には慣れたのかな?」


「心遣いありがとうございます、グエン中佐。おかげさまで毎日充実しています」


 グエン中佐の問い掛けににこやかに答えるルーツィア。(かつ)て栗栖が美の女神(ビーナス)と表現した通りの美貌のルーツィアから笑顔を向けられて嫌な男性は居るはずも無く


「う、うむ、それなら何より」


 グエン中佐は少ししどろもどろになってしまい、見かねた栗栖はさり気なくフォローする。


「それで何かあったのでしょうか? 中佐」


 栗栖の台詞を受けグエン中佐は咳払いをひとつすると


「うむ、実は『深緑の大罪(グリーン・シン)』の動向が判明した」


 それを聞いた栗栖の顔が(こわ)ばる。


深緑の大罪(グリーン・シン)』──それはテロ集団の名称であり、特定のテロリストの名称でもあった。前身は環境保護団体なのだが「地球上全ての人類は文明を捨て自然に回帰すべきである」と言うスローガンの元、一部の過激な思想に感化された信奉者(シンパ)により産み出された怪物である。その掲げる思想とは「人類は地球上に蔓延(はびこ)(がん)であり文明は唾棄(だき)されるべき異物である。この地球を生かす為に人類は抹殺されるべき」と言う偏見に凝り固まった「自然至上主義」なのだが、自分達の理想の為に自然環境を破壊する航空機や船舶や陸上兵器を使った無差別攻撃をも(いとわ)わないなど、矛盾に満ちた行動をとる狂人の集団だ。


「──深緑の大罪(グリーン・シン)ですか」


 そして栗栖とは因縁浅からぬテロ集団でもある。


「それでその動向と言うのは──」


「うむ。クリス、君がルーツィア嬢と遭遇した()()()()を覚えているかね? あの時君が回収してくれたパソコン(PC)のデータの解析結果が出て、奴等の次の活動が幾つか明らかになったのだ。詳しい情報は引き続き情報部で精査しているが、近々行われるテロ活動のひとつを阻止する事が決定した。近々我々のディビジョンに発令される」


 グエン中佐の台詞を聞いて栗栖の顔が引き締まる。


「わかりました。準備し待機(スタンバイ)しておきます」


 敬礼をするとルーツィアと共に士官室(オフィサーズオフィス)を後にする栗栖。何か言おうとしたルーツィアは栗栖の(かつ)てないほどの真剣な面持(おもも)ちを目の当たりにして、言葉を掛けられずにいたのだった。





「ねえクリス……?」


 長い廊下を歩きながらルーツィアが何やら思い詰めている様な栗栖に声を掛ける。だが栗栖は答えず歩みも止めない。


「ねえクリス?」


 少し語気を強め再度呼び掛けるルーツィア。すると栗栖は立ち止まり


「──ルーツィア」


「なに?」


 ルーツィアの方を見ず言葉を掛ける栗栖に少し不機嫌気味に答えるルーツィア。


「──さっきグエン中佐は話していた『深緑の大罪(グリーン・シン)』な、あれは俺にとって仇なんだ」


 だがルーツィアは答えない。ただ沈黙して聞いているだけである。それに構わず栗栖は話を続ける。


()()は十年前、俺の姉を()()()()()なんだ。十年前……俺がまだ日本に居た頃、俺と姉は(つつ)ましくも幸せに暮らしていた。だがある日、俺と姉が暮らしていた地方都市でテロが起きたんだ。俺と姉はそのテロに巻き込まれ、姉は俺の目前で殺された。(かろ)うじて生き残った俺は姉の生命や大勢の生命を、ささやかな幸せを無惨にも奪ったテロを憎んだ。だから俺はA・C・O(ここ)に入った。俺から何もかも奪ったテロを根絶する為に」


 そこまで言い切ると自嘲的(じちょうてき)に笑い


「結局、俺のやろうとしている事は単なる復讐なんだ。だから俺は正義とか言わないし言えない。ただ俺みたいな()()()()()を増やしたくないだけなんだよ」


 寂しげに(うつむ)き自らの心情を吐露する栗栖。


「クリス」


 不意にルーツィアが栗栖の名を呼び、顔を向けた栗栖の目とルーツィアの視線が重なった。瑠璃(ラピスラズリ)紫水晶(アメジスト)の瞳が真剣である。


「例えその思いも願いも復讐心から来ていても、誰もそれを(とが)める事なんか出来ない。その()()()()()()人として当然の思考だもの。人の理念なんて復讐心と虚栄(きょえい)心から生まれるものなんだから、決して恥じる事じゃないし否定されるべき事じゃないわ。私だって今の地位に登り詰めるのに虚栄心があったしね」


 そう言うと今度はルーツィアも自嘲的に笑う。


「それに今の思いは大切にすべきだと思うわよ? ” 例え偽善でも続ける事が善行である ” とも言うしね!」


 それも束の間、わざと陽気な口調で栗栖に言葉を投げ掛けるルーツィア。


「……例え偽善でも続ける事が善行である、か……」


「そうよ。何もしないでいるより、偽善でも何か人の為にする方が(はる)かにマシでしょ? まぁ私の世界(リヴァ・アース)の言葉なんだけどね」


 ボソリと(つぶや)く栗栖を(いつく)しむ様に見つめながら(さと)す様に話すルーツィア。栗栖は彼女の瞳を(しばら)く見つめていたが、フゥ……と息を吐くと


「そうだな……ありがとうなルーツィア。気が楽になったよ」


 吹っ切れたみたいに明るい表情でルーツィアに感謝の言葉を(つむ)ぐ。


「どういたしまして♡」


 つられてルーツィアも笑顔で応じる。その表情は何処(どこ)か嬉しそうである。


「さて、それじゃあ行くとするか!」


「そう言えば何処に向かっていたのかしら?」


 パンッと両手で自らの頬を軽く叩き、先に向かって歩き出そうとする栗栖にルーツィアが尋ねる。


「ん? A・C・O(うち)装備管理官(イクイップメント・マネージャー)の所さ」


 今度はルーツィアの問い掛けにちゃんと答える栗栖であった。





 本社ビルのエレベーターに乗り地下1階まで降りる栗栖とルーツィア。2人が向かった先は堅牢(けんろう)(ドア)が備えられた部屋。


 栗栖がドアに備え付けられている読取機(リーダー)社員証(ID)(かざ)すと鍵が開き、2人がドアを開け中に入ると幾つのも棚が奥に並んだカウンターに1人の中老の男性が居た。栗栖は辺りを見回しているルーツィアはそのままに男性に声を掛ける。


「やぁD.D」


「ん? おおクリスか。今日はどうしたんだ?」


 D.Dと呼ばれた男性は栗栖に気付くと精悍(せいかん)な顔に笑みを浮かべながら話し掛けて来る。そしてルーツィアの存在に気が付くと


「ほう? こんなむさい所に女性が来るとは珍しいな。クリスの彼女か?」


 ニヤリと笑い茶化(ちゃか)してくる。


「えっ? ええっ!?」


 急に茶化されたルーツィアは珍しくわたわたしている。そんなルーツィアに栗栖は


「D.D……悪ふざけし過ぎだぞ。ルーツィア、彼はディーノ・ダスティン、D.Dは愛称(ニックネーム)だ。A・C・O(エコー)の装備管理官で、うちでは古株の一人だ」


 とD.D──ディーノ・ダスティンを紹介し、続けてディーノに


「D.D、彼女が()()ルーツィア・ルードヴィヒ。異世界(リヴァ・アース)から来た大魔導師様だ」


 とルーツィアに手を向けて紹介する。


「ほう?! この子がルーツィアか?! なかなかの別嬪(べっぴん)さんじゃないか!!」


 紹介を受けたディーノ──D.Dはルーツィアの美貌を目の当たりにして、その容姿を賞賛する。言われたルーツィア(本人)は「そ、そんな別嬪さんだなんて♡」と満更でもない様子である。


(()()()()()別嬪って言うんだな)


 ルーツィアの呟いた台詞に変な感心をしながら栗栖は軽く咳払いをすると


「あーっとな、次の作戦に備えて装備を整えておこうと思うんだが……頼めるか?」


 今日ここ──装備管理局を訪れた本来の目的を告げる。


「成程な……確か近々大きな作戦が発令されるとか聞いたがそいつか?」


「ああ、恐らく一二(いちに)週間ぐらいで発令されると思う」


 さっきまでの暢気(のんき)な様子から一転、真面目に栗栖とやり取りをするディーノ。そこは流石に専門家(プロ)である。


「そうすると……ちょっと待てよ……ふんふん……クリスは前回FN P90を使ったのか。今回もそれで行くのか?」


 ディーノはカウンターの上のディスプレイを操作して確認しながら尋ねてくる。


「いや、今回は()()()()()()()持っていこうと思うんだが……出来ているか?」


「おぅ、それなら調整済だ……ちょっと待ってろ」


 そう言うとディスプレイのタッチパネルを操作するディーノ。すると背後の棚からけたたましい機械音がして、床に備えられていた運搬ロボットが奥の()()()()()ディーノの所に移動してくる。


 移動棚を背負ったロボットがD.Dの前で止まると棚の扉が開き、中から一丁の銃が姿を(あらわ)した。


「よし……と、コイツが頼まれていた代物だ」


 棚から取り出した銃をカウンターの上にゴトッと置きながらディーノが話し始める。


「デザートテック社のブルパップアサルトライフル「MDR」セレクティブファイアモデルだ。作動方式はショートストローク・ガスピストン。フレームはポリマー製で.300AAC Blackout弾用にバレル・ボルトヘッド・マガジンウェルアダプター等は換装してある。勿論ホロサイトも含めた調整は終わっているぞ」


 ディーノの話を聞きながらMDR(アサルトライフル)を手に取り、色々と感触を確かめる栗栖。そして「うん、なかなか手に馴染むな」と高評価を口にすると持ち出し表(キャリーアウト)にサインをする。そしてルーツィアが前回使用したCZ SCORPION(スコーピオン) EVO3A1サブマシンガンも出して貰い、同じ様にキャリーアウトにサインをする。


「そうだ、ルーツィア。ベレッタを出してくれ」


 栗栖は(おもむ)ろにルーツィアに声を掛け、ルーツィアは言われた通り腰のホルスターからベレッタPX4自動拳銃を抜くと「はいっ」と栗栖に差し出した。受け取った栗栖は自分のホルスターからSIG(シグ) SAUER(ザウエル) P229R自動拳銃を抜き取るとカウンターに置き


「すまんがこちらもメンテナンスを頼めるか? クリーニングはしてあるんだが一度ちゃんと見てもらいたい」


 ディーノにメンテナンスを頼む栗栖。ディーノは二丁の拳銃を手に取るとカチャカチャと動作確認(チェック)をして


「ふん……大体一時間半って所か。それで良いなら直ぐにやっておくが」


 簡単な見積もりを口にする。


「それで構わない。その間、俺達は隣りの試射室でアサルトライフル等(コイツら)の試射と微調整をしておく」


「了解。試射室(ファイアリングレンジ)の鍵は開いているから自由に使ってくれ」


 栗栖の言葉に手をヒラヒラさせて返事を返すディーノ。話しながら(すで)にルーツィアのベレッタを分解していた。


(相変わらず手早いな)


 それを横目に見ながら渡された銃を持ち、ルーツィアを(うなが)して隣りの試射室に向かう栗栖。


「銃の調整も良いけど、私もいい加減魔法術(マギア)の鍛錬をしたいわね……」


 試射室に向かいながらルーツィアがそんな事を呟き


(ルーツィアも少しストレス発散させないとな)


 と明日にでも別棟の射撃場(シューティングレンジ)を借りる算段をしておこうと思う栗栖であった。



アサルトライフル デザートテックMDR

全長665mm/銃身長409mm/重量3310g/口径7.62mm/

使用弾.300AAC Blackout弾/装弾数30発


次回更新は二週間後の予定です。


お読み頂きありがとうございます。

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