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〖act.11〗初作戦と技術者達の饗宴

 

「──【蒼炎徹甲槍(フレイム・ピアシング)】」


 ルーツィアの言霊(ことだま)と共に生み出された蒼炎(そうえん)の槍は、束の間(テロリスト)達の隠れている倉庫に向かって飛び、重い鉄製の扉に命中する! 燃焼温度1,900℃超、爆発エネルギー20,000ジュール超の炎の槍に只の鉄の扉が耐えられる訳もなく、呆気なく穿(うが)たれ内部で爆炎が()き散らされる!


「──突入(チャージ)!」


 栗栖(クリス)の短い掛け声と共に、大穴が開いた扉から小隊が突入し同時に銃撃の音が響き渡る! (すで)に他の3つの出入口は全て分隊が配置されていた。


A地点(アルファ)、突入地点確保(ホールド)。敵勢力無力化!」


 床にはテロリストが数人(たお)れている。(ほとん)どは突入時の銃撃で生命を落としていたが何人かは【フレイム・ピアシング】の爆炎で吹き飛ばされ絶命していた。


B地点(ブラボー)C地点(チャーリー)D地点(デルタ)、各分隊突入開始!」


 栗栖達が先陣を切って突入したのに合わせる様に他の出入口からも分隊が突入を開始した。


安全確保(クリア)!」


 小隊が倉庫に突入して十数秒後、安全が確認されて栗栖が銃を水平待機姿勢(コンバットレディポジション)で構え先導し、その後をルーツィアが上向き待機姿勢(ハイレディポジション)に銃を構え入って来た。


 栗栖は個人防御兵器(PDW)のFN P90を主兵装(メインアーム)に、FN Five-seveN自動拳銃を副兵装(サイドアーム)としていて、ルーツィアはCZ SCORPION(スコーピオン) EVO3A1サブマシンガンをメインアームに、ベレッタPX4 ” ストーム ” サブコンパクト自動拳銃をサイドアームとしていた。


「先行した分隊が会敵しました──敵勢力(およ)そ30。支援要請!」


「直ちに二分隊を支援に向わせろ」


「了解──」


 そこまで栗栖が指示を出すと不意に銃撃音が響き同時に「敵襲!」の声が響く!


 咄嗟(とっさ)に倉庫内に乱雑に積まれている荷物の影に身を隠す! ルーツィアはクリスの背後で身を潜め、他の隊員も同様に物陰に身を潜めながら素早く展開している! そして──


攻撃開始(アタック)!」


 栗栖の掛け声と同時に全員が一斉に反撃に転じる! 隊員達のM4A1(アサルトライフル)が火を噴き、5.56mm弾が次々とテロリスト達に撃ち込まれて行く! 栗栖とルーツィアも応戦し、P90から5.7×28mm弾が、スコーピオンからは9mmパラベラム弾がばらまかれた!


 そして数分間の銃撃戦を経て──テロリストの勢力は駆逐されたのである。





「ふぅーっ」


 スコーピオンを下ろして深く溜め息を吐くルーツィア。それでも()ぐに撃てる様に下向き待機姿勢(ロウレディポジション)を取っている。その間にもインカムは絶え間なく作戦の進捗(しんちょく)と戦果を告げていた。どうやら今回の強襲作戦は成功したみたいである。


「お疲れ」


 栗栖がルーツィアの肩をポンッと叩いて短い(ねぎら)いの言葉を投げ掛ける。周りでは続けて慌ただしく事後処理が始まっていた。


「初めての実戦はどうだった?」


「うーん、少し緊張した……かな。あと、銃に慣れていないから動きづらかった」


「そうか……」


 ルーツィアはそう言うが栗栖から見ると、初の実戦にも関わらずルーツィアは良く動けていたと感じていた。それこそ老練者(ベテラン)と思えるほどに。


(確かルーツィアは、人を(あや)める「覚悟」があったな)


 以前、ルーツィアとの会話でそんな事を聞いたのを思い出した栗栖。その「覚悟」があるからこそ戦場で萎縮する事無く()()()動けたのだろう。


「兎に角、まだ作戦継続中だ。警戒は(おこた)るなよ?」


「了解っ」


 栗栖の言葉にルーツィアはひとつ頷くと周囲へ警戒を(めぐ)らす。


 そんなルーツィアを周りの隊員達は注目の眼差しで見つめていた。今回作戦に参加した隊員達にはルーツィアの事は事前に話されていたが、やはり目前で行使された魔法術(マギア)に皆んな度肝を抜かれていたのである。


「あ、あの!」


 そんな中、一人の若い隊員がルーツィアに声を掛けて来た。


「ルーツィアさんが使った先程の炎は、超能力(サイキック)じゃなくて魔法(マホウ)だと聞いたのですが……発火能力(パイロキネシス)とは何が違うんですか?」


 若い隊員は率直な疑問を口にする。(ちな)みにパイロキネシスとは(パイロ)念動力(テレキネシス)と言う2つの言語が由来のサイキックで、接触非接触を問わず能力者の周囲にある物体を燃焼させる能力の事である。原理としては能力者の念動力(テレキネシス)で対象の物体の分子活動を励起(れいき)させて発火させるのだ。


「うーん、そうしたパイロキネシスとかとは違うわね。そもそも私の【フレイム・ピアシング】は──」


 そう言って以前シモーヌ・ヘルベルク博士にしたのと同じ説明をするルーツィア。若い隊員は「な、なるほど……」と驚きつつもその内容を理解したみたいである。


「その辺にしておけ。まだ作戦中だぞ」


 栗栖はルーツィアに質問した若い隊員と、いつの間にか周りに集まっていた他の隊員達に苦笑いを浮かべた顔で注意を(うなが)す。


「あ! す、すいませんでした! クリス中尉!」


 若い隊員は姿勢を正して敬礼すると撤収作業に戻っていき、集まっていた隊員達も慌てて散って行く。あとに残された当のルーツィアは「何か不味(まず)かったのかしら?」とキョトンとしていたのである。


 魔法術(マギア)の話になるとつい夢中になるルーツィアであった。





 入隊試験合格後、一ヶ月の試用期間(トライアル)を経て正式に入隊となったルーツィアと共に栗栖は原隊復帰を果たしていた。そして復帰後初の任務が今回の強襲作戦だったのだ。


 米国第六位の人口を誇る都市の近郊に集結しつつあったテロリスト達を叩くのが今回の目的であったが、二小隊80名のうち負傷者7名、テロリスト104名中98名射殺、身柄拘束6名と言う戦果を挙げた。


「2人ともまた随分暴れたね」


 ディスプレイに映る報告書(レポート)に目を通しながら、シモーヌは栗栖とルーツィアに言葉を掛ける。その顔は(たの)しげであった。


「別に暴れた訳じゃないんだが」


「そうよ。()()()していただけなんだけど」


 そう否定する栗栖とルーツィアが居るのはメディカルセンター地下の研究区画(ラボラトリーセクション)の奥、シモーヌの研究室である。


 実働部隊に入隊したとは言え、ルーツィアはシモーヌの研究協力者と言う立場であり、ルーツィアの護衛役を(にな)っている栗栖もまた、原隊復帰を果たしたとは言え研究協力者の一人に名前を連ねていた。


「まあクリスは兎も角、ルーツィアさんが()()と言う事は無いと思うんだが……」


「何か今、何気に失礼な事言わなかったかしら?」


 シモーヌの物言いにクリスより早く突っ込み返すルーツィア。勿論栗栖もそれは感じていたが。


「失礼、悪気は無いんだよ。クリスはそれが仕事だし、ルーツィアさんに(いた)っては()()()()だから魔法術(マギア)を行使するのが普通かと思ってね」


 ルーツィアの突っ込みにそう言い直すシモーヌ。その言いぶりには全く悪びれた様子を感じさせず、栗栖もルーツィアも物言いたげな視線をシモーヌに向けるのだった。





「そう言えば」


 不意に何かを思い出したみたいに言葉を(つむ)ぐシモーヌ。


「そんな事より今日はルーツィアさんに用事があったんだよ」


「私に?」


 そう言うとシモーヌは机の上に置かれていた保存袋(スライダーパック)を手に取り、ルーツィアに示す。


 透明な保存袋の中には銀色に輝く直径15センチ程の金属の円盤が収められていた。


「技研の知り合いに頼んで手に入れた集積回路(IC)に使われているシリコンウェーハさ」


「これがそうなの!?」


 成程あれはシリコンウェーハだったのか、と思う栗栖はルーツィアがシモーヌに「集積回路(IC)に使われている素材が知りたい」と言っていた事を思い出した。


(シモーヌの奴、忘れてなかったんだな)


 普段はルーズ気味なシモーヌにしては良く忘れなかったと、変な感心をする栗栖。一方のルーツィアは興奮気味に「触ってもいいかしら?」とシモーヌにおずおずと聞いている。


「勿論構わないさ。これはルーツィアさんに渡す為に(ゆず)ってもらったんだから。コイツは純度イレブンナインと言う代物さ」


 聞かれたシモーヌは笑いながらそのまま保存袋ごとシリコンウェーハをルーツィアに手渡す。


「わぁ、ありがとうシモーヌ! これで実験出来るわ……ってイレブンナインって何?」


 喜んで受け取ったルーツィアはシモーヌが言った意味不明な単語の意味を問い(ただ)す。


「あーっ、イレブンナインってのは純度99.999999999パーセントと言う意味さ。ほら今言った通り9が11個並んでいるだろ?」


「へぇ?! そんなに純度が高いのね!」


 シモーヌの言葉を聞いて感心するルーツィア。


「まあここまで純度が高いと電気は(ほとん)ど通さないんだけどね。通常はその表面に()()()を拡散させたり金属を蒸着させたりして電気回路を形成するんだけど……」


「うーん、私は別に電気回路を作りたい訳じゃないから、そう言うのは良いわ。むしろこのシリコン自体に用事があるんだし」


 そう言うとルーツィアはシリコンウェーハを保存袋ごと左掌(ひだりてのひら)に載せると、右掌(みぎてのひら)(かざ)す。


(これは──解析(アナリシス)か?)


 その仕草で以前ルーツィアが見せた魔法術(マギア)の事を思い出す栗栖。そしてルーツィアは目を閉じ言霊を(つむ)ぐ──


「──万物(ばんぶつ)を見透すセラフィエルの瞳よ、諸物(しょぶつ)(ことわり)を示せ──【解析(アナリシス)】」


 右掌に生まれた複雑な文様の円環(サークル)が左掌のシリコンウェーハを透過して行き、ルーツィアは(おもむ)ろに目を開けると


「凄いわクリス! このシリコンって「マナ」との親和性が凄く良いみたいなの!!」


 栗栖に向かい物凄く興奮した様子で話し掛けてくる。


「それってそんなに凄いのか?」


「ええ! これを使えば高性能な【魔力変換機(マギア・コンバーター)】を造る事がきっと出来るわ!」


 ルーツィアの説明によると、このシリコンウェーハはルーツィアが知っている素材と比べてもマナの親和性、つまりマナをどれだけ吸収・蓄積するかが恐ろしく優れていると言う事であり、それには流石に栗栖も驚きを禁じ得なかった。


 それもそのはず、そもそもシリコン──珪素(けいそ)とは地球上で二番目に多い物質で普通の石や硝子(ガラス)にも含まれている()()()()()()()なのだ。


 その珪素──シリコンを「知らない金属や未知の素材」と言ったルーツィアの暮らしていたリヴァ・アースでは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()構成物質が違うのかも知れない、と栗栖は考えていた。


(まあ、そこは専門家であるルーツィアやシモーヌが考える事だが)


 シリコンウェーハを()ねくる様に角度を変えながら(なが)めて、「この親和性なら【言霊回路(ランゲージ・サーキット)】は……」と(すで)に頭の中であれこれ設計図を引いているルーツィアを見ていて思わず苦く笑う栗栖。


 ふと、シモーヌがやたら静かなのを(いぶか)しみ、どうしたのだろうと栗栖が視線を向けると、完全に硬直状態で突っ立っているシモーヌが目に入った。


「どうした、シモーヌ?」


 そうした栗栖の呼び掛けに我を取り戻したみたいに再起動したシモーヌは


「い、い、今の魔法術(マギア)は一体何なんだい?!?」


 とルーツィアでは無く栗栖にいきなり噛み付いて来た。


(本当にシモーヌもルーツィアも似た者同士だな)


 自身を質問の嵐に巻き込むシモーヌと、1人で呟きながら自分の思考に没頭するルーツィアを見て、何とも言えない気持ちになる栗栖であった。



PDW(個人防御火器)FN P90

全長500mm/銃身長263mm/重量3000g/口径5.7mm/使用弾5.7×28mm弾/装弾数50発


自動拳銃FN Five-Seven

全長208mm/銃身長112.5mm/重量645g(空)/口径5.7mm

使用弾5.7×28mm弾/装弾数10/20/30発


サブマシンガンCZ SCORPION EVO3A1

全長670mm/銃身長196mm/重量2770g/口径9mm/使用弾9×19mmパラベラム弾/装弾数10/20/30発


次回更新は二週間後の予定です。


お読み頂きありがとうございます。

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