〖act.1〗黒雪姫と魔法使い
銃器を使う主人公の話を前から描いて見たかったので、書きました。
素人の表現なので実際の銃器の取り扱いとは異なる場合が多々ありますので予めご了承ください。
遠くで爆発音が二度聞こえる。
数瞬の間を置いて銃声が前方から響き渡る。
「どうやら始まったらしいな……」
男は手にしたFN F2000の銃把を握り直し、頭の中でマガジンの少なくなった残弾数を思い浮かべながらポツリ呟く。
二人一組の相棒はここに来る迄に敵勢力の攻撃を受け、既に戦線から離脱していた。
《……キロ、こちらはアルファ。聞こえるか》
インカムに戦闘指揮所から通信が入る。
「こちらはキロ、どうぞ」
壁に持たれながらインカムのマイクに短く言葉を返す男。
《CCDは予定通り突入。EP及びOBJに変更無し。突入後直ちにEXFIL》
「了解」
《其方は準備良いか、【黒雪姫】?》
「──相棒が不在だが問題無い。何時も通りだ」
インカムの向こう側が不意に自身のコードネームで普通に呼び掛けて来た事にも動じる事無く淡々と返事を返す。
《では30秒後に作戦開始。時計を合わせる……3……2……1》
【黒雪姫】と呼ばれた男は左腕に嵌めた腕時計を合わせると、右腰に下げたホルスターに入れた自動拳銃のH& K USPに軽く触れて確認して時計のカウントを見つめる。
(……26……27……28……29……GO!)
【黒雪姫】は姿勢を低く取り突入目標のドアに駆け寄り、ノブに手を掛け施錠されているのを確認するとツールを取り出し、手際良く解錠作業をして身体をドアの壁側に隠し静かにドアを開ける。
そのまま5秒カウントしてFN F2000を構えつつ室内に飛び込むが室内は無人だった。囮部隊は上手く敵を引き付けてくれているらしい。
用心の為FN F2000のマガジンを手早く装填済弾倉と交換すると、周辺に注意を払いながら部屋の隅にあるパソコンの操作卓に近付き、電源を入れると腰のポーチからUSBメモリースティックを取り出し、USB端子に差し込みキーボードを操作し始める。やがて防壁を抜けて目的のファイルを見つけると、すぐさまメモリースティックにバックアップを取る。
本来なら外部からハッキングすれば直ぐに必要な情報を取れるのだが、敵達は一世代前のパソコンをインターネットから隔離した完全スタンドアローンで使用しているので、彼等はこんな面倒な事を仕込んだのだ。しかもご丁寧に複数の防壁に護らせていると言う周到さである。
やがて目的のデータファイルを全てバックアップし終えると【黒雪姫】は腕時計を見やる。作戦開始から10分も経っていないのを確認すると、メモリースティックを抜きパソコンの電源を落とすとインカムで完了報告を入れる。
「アルファ、こちらはキロ。作戦完了。R S R。どうぞ」
《こちらはアルファ。1分後に制圧射撃を開始する。どうぞ》
「了解」
戦闘指揮所との短いやり取りのあと、きっかり1分後に部屋の向こう側から一段と激しい銃声が聞こえ始め、【黒雪姫】と呼ばれた男はその部屋に来訪した時と同じ様に混乱に紛れ部屋を後にした。
【黒雪姫】は注意深くそして素早く廊下を集結地点まで最短距離で移動して行く。敵は全て囮部隊に集中しているらしく、後退するには好都合である。
嘗ては総合リゾート施策で建設されたリゾートホテルだが、中にはカジノも入っていた。もっともカジノフロアは下層である1階から4階フロア迄で、あとはホテルやレストラン、ショッピングモールにアミューズメントパーク、果ては国際会議場にプールまで整っていたが今は廃墟となり、敵達にとっては都合のいい隠れ家となっていた。
作戦対象だった20階のエレベーターホールに出ると5つあるエレベーターのうち、壊れてドアが開いている1つに近付く。エレベーターシャフトを覗き込むと昇降用のメインワイヤーの1つにカラビナと下降器具を手早くセットし、FN F2000を背中に回すと一気に下層に降下する。降下した先にあった籠を蹴り破ると中に入り半分開いていたドアを開け、1階の広いカジノフロアに出た。
(あと少し)
【黒雪姫】は頭の中で独り言ちた。
速やかに集結地点の玄関のロビーに向かうべく、打ち捨てられたバカラ台や壊れたスロットマシンの間を駆け抜けようとした次の瞬間、【黒雪姫】の目前のバカラ台の上の空間の一点が何の前触れもなく光り始めた!
「!!」
それを見た瞬間、【黒雪姫】は思わずFN F2000を光に向けて構える! 周りにあった僅かな明かりが次々消えて行き、それに伴い空間の光が輝きを増して行く!
(周りの光が集まっている……?!)
FN F2000のウエポンライトの灯りが目の前の光に吸い込まれるのを見た【黒雪姫】は、その事実に驚愕した! 何が起こっているの全く解らないが、異常事態である事は確かである。
そうしている内にも光はどんどん光量を増してきている。状況は確実に悪化している──そう直感した【黒雪姫】はインカムで戦闘指揮所を呼び出す!
「アルファ。こちらはキロ。緊急事態発生。繰り返す、緊急事態発生──」
そこまで言った時、光量を増し膨張していた光が急に収束し、一瞬の間を置き無音の爆発を起こした!
「ぐっ!? くぅーーーーー!」
至近距離での爆発による衝撃波をモロに受け、吹き飛ばされる【黒雪姫】! FN F2000を抱えたまま後ろに転がると咄嗟に床に伏せた! 頭の上を爆風が駆け抜けて行く!
《こちらはアルファ。キロ、応答せよ。【黒雪姫】どうした?【黒雪──》
インカムの向こうから盛んに呼び掛けてくる声に一瞬途切れた意識が覚醒する。爆風が過ぎ去ったのを確認してそろそろと身体を起こす【黒雪姫】。
辺りのスロットマシンやルーレット台が綺麗に吹き飛ばされ、爆心地の真下だったバカラ台は跡形も無くなっていた──が、その残骸の上に有り得ないモノが存在していた。
「女……だと……?」
そこに倒れていたのは間違い無く若い女だった。FN F2000を直ぐに撃てる様に構えながら慎重に近付く【黒雪姫】。歳の頃は21、2歳頃か? ウエポンライトの灯りに照らされたのは腰まであるプラチナブロンドの長い髪、眉毛も睫毛も髪と同じプラチナブロンドで、つんと鼻筋の通った美女であった。
気を失っている様子の女にゆっくり銃口を近付けて軽く触れる。どうやら罠の類いは無さそうなので、手袋を脱いで口元に手を翳し呼吸を確認する。そして今度は手を肩に触れて軽く身体を揺さぶる。
「おい……おい君……」
2、3回揺さぶって見たが反応は無く集結時間まで時間も無い事もあり、【黒雪姫】は少し乱暴に女の身体を再度揺さぶる。
「おい君! おい!」
「ウ、ウーン……」
今度は反応があり女は身動ぎをする。インカムからはさっきから引っ切り無しに安否確認の呼び出しが聞こえて来ていた事に今更気付いた【黒雪姫】は
「こちらはキロ。民間人救出。繰り返す民間人救出。どうぞ」
と短く応答すると反応を見せた女に対し「君、君!?」と更に身体を揺さぶる行為を繰り返した。すると女の反応が段々顕著になり、そして
「ん……んむぅ? あれ? こ、ここは……?」
漸く意識が覚醒した女は大きな瞳をパチクリさせると首を左右にキョロキョロして
「えっと……確か【セラフィエルの瞳】を発動させてアカシックレコードにアクセスしようとして……カバラ値の設定を間違えて…………それで……って貴方は誰かしら?」
口元に手を当て訳の分からない単語をブツブツ呟いたと思ったら、漸く目の前の【黒雪姫】に意識を向けた女。
(ネイティブな日本語だ……)
外観とは不釣り合いな程のはっきりした日本語を話す女に【黒雪姫】は驚く。
「ねぇ、ここは何処なのかしら? クレティアの賢者機関は何処にあるの?」
そんな【黒雪姫】の驚きにはお構いなく何事かを尋ねて来る女。とにかくここから早く後退しないといけない【黒雪姫】は女の質問には答えずFN F2000を背中に回し腰を落とすと、「失礼」と一言告げ片腕を背中から、もう片腕を腿の下から刺し込んで、両腕の間に座らせる様に抱え上げる──所謂お姫様抱っこである。
「キャッ?! な、何を──」
「暴れたら落ちるぞ。怖かったら俺の首に手を回して」
短い抗議の声を上げそうになる女に向かい、端的に話す【黒雪姫】。女は落ちたくない一心で【黒雪姫】の首に手を回して身体を密着させて来た。それを確認した【黒雪姫】は
「アルファ、こちらはキロ。対象確保。直ちに集結地点に向かう。どうぞ」
戦闘指揮所にインカムで報告すると女を横抱きにしたままゆっくり走り始めた。女は怖々と辺りに視線を送り、その視線を【黒雪姫】に向けて来た。
「君、名前は?」
駆けながら女に問い掛ける【黒雪姫】。女は【黒雪姫】を真っ直ぐ見据えると
「……ルーツィア。ルーツィア・ルードヴィヒ」
としっかりした口調で答えた。
「ルーツィアか……ここは戦闘区域内で危険だ。このまま安全圏まで退避する」
そう言ってカジノフロアを徐々にスピードを上げて駆けて行く。
「…………ねえ」
「何だ」
「良く解らないんだけど、私は助けられている訳よね?」
「そうだ」
女──ルーツィアは【黒雪姫】と短く言葉を交わすと自分が置かれている状況を飲み込んだみたいであった。そうしているうちにもカジノフロアが途切れ、ロビーへの廊下に差し掛かる。
「ねえ……」
再びルーツィアが話し掛けて来た。
「私を助けようとしてくれている人の名前を、私はまだ知らないんだけど?」
「…………」
【黒雪姫】は一瞬躊躇う素振りを見せ、ルーツィアは気まずそうに尋ねて来る。
「ひょっとして他人に自分の名前を名乗っちゃ駄目な人?」
「いや……そうじゃ無いんだが……」
【黒雪姫】はコードネームを名乗るべきか本名を名乗るべきなのか悩んだだけである。
「俺の名前は黒姫栗栖。A・C・OディビジョンS所属の隊員だ。コードネームは【黒雪姫】」
結局両方名乗る事にしたのだが、ルーツィアは怪訝そうな顔で
「クロヒメクリス? 変わった名前ね。それにエコーとかディビジョンとかって何?」
意味が分からないとばかりに頭を振る。【黒雪姫】──黒姫栗栖は立ち止まると
「いや、栗栖が名で黒姫が姓なんだが…… 。それにエコーは俺が所属する民間軍事会社の名前だ。ディビジョンとは所属部局名だな」
今度は少し噛み砕いた説明をルーツィアに話す。
「う、うん」
ルーツィアは目をパチクリさせるとわかったとばかりに首を縦に振る。
「兎に角、急ごう」
ルーツィアが納得したみたいなので再び駆け出し始める栗栖。遠くで銃撃音が聞こえて来るのを耳にし、ルーツィアを連れて行く頃にはその音が止んでいる事を期待しながら。
これが自称【稀代の大魔導師】ルーツィア・ルードヴィヒと【黒雪姫】黒姫栗栖との最初の出会いであった。
アサルトライフル FN F2000
全長694mm/銃身長400mm/重量3600g/口径5.56mm/使用弾5.56×45mm NATO弾/装弾数30発/
自動拳銃 H&K USP
全長195mm/銃身長108mm/重量770g/口径9mm/使用弾9×19mmパラベラム弾/装弾数15+1発/
次回投稿は2週間後を予定しています。
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