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『オプショナルミッション』とすることに(2)

 大浴場の掃除という大掛かりな作業を終えた。半分以上はベラの『綿あめ』のおかげだが。

 『オプショナルミッション』をこなしたことで報酬の入った小さな袋をシリアがお姉さんから受けとる。さらに嬉しいことに、広々とした浴槽にお湯が溜まり次第、僕達は特別に風呂に浸かっていいらしい。お礼だからとお姉さんは言うが、その親切心は天使顔負けである。今後も天使たちには、優しさも踏まえて見習ってもらいたいところだ。

 しかし、大浴場は兼用の男女入れ替え制。で、真っ先にベラとシリアは入浴しに行ってしまった。一応、配慮のための浄化装置と掃除は徹底しているけど、二人が入った後に一人が入るぐらい大丈夫でしょうとお姉さんは言う。

 浄化なんてとんでもない。結構ですそのままで。装置のすごさより感じるものがありますから。別に変な意味じゃなくて、ほら、天使の効能が付加されて疲れが取れやすくなる的なあれだ。


 というわけで、うるさいのがいないのを確認し、すかさずお姉さんを見つめる。

 するとお姉さんは、はっとして気づいたかのように自分のことを名乗る。


「申し遅れました、セルビアとお呼びください」


 にこやかな笑みと巻き髪が揺れる。うん、セルビアさんに心も揺れる。

 おっと、ここは僕も自己紹介したほうがいいよね。

 コホンと咳払いをし、喉の調子を確かめる。良好。息を吸い、声を出す。


「その人は堕天使クロアチア、私は天使シリアで、こっちが天使べラルーシ」


 ――――――出せませんでした。

 颯爽さっそうと現れ出て、軽やかにお役を奪うのはシリア。ベラも一緒だ。お風呂から上がったようで、二人から花のような良い空気が鼻をかすめる。

 ん、早くないか君達。せいぜい浸かるぐらいの時間しか経ってないぞ。


「それにしても、天使ベラルーシのその雲は便利だね。髪や身体を一瞬で洗うなんてさ。おまけに服の洗濯、きっちり乾かすまでできるなんてね。本人とは大違いだよ」

「一言多いわよ、シリアさん? 素材が揃ってれば簡単な話だし、一回でもこの私に感謝することを知らないのかしら。あ、それとアンタのも洗って乾かしといたわ。勘違いしないで。臭いのが近くにいるのはごめんだからよ」


 あの『綿あめ』はもはや何でもありなのかもしれない。巨大化でもするんだろうか。

 ポンッと畳まれた衣服を渡される。しかも温かい。体操服を着ていたままだったが、いつの間にそんなことを。ちなみに、体操服を用意したのはセルビアさんであり、本人が趣味で取り寄せたものでもあるらしい。


「あの、すみません。堕天使だとか……天使だとかっていうのは?」


 セルビアさんが不思議そうにシリア達に尋ねる。

 そうだよ、やたらに公言していいもんなのかそれ。


「嘘はついてないよ、天使が虚偽な発言をするとでも思っているのかな」


 シリアは笑顔で答える。

 どうしよ嘘にしか聞こえない。


「そ、それは、私……なんて数々の失礼を! すみません! 申し訳ございません!」


 セルビアさんは平謝りする。信じてしまったらしい。


「まぁ、そこまで謝らなくてもいいわ。自由だもの。私達」


 ベラは微笑む。君は確かに自由そうだと思うよ僕は。


「……でも、どうして、天使の皆様がこうしてここにいらっしゃるのですか?」

「事情があるのさ。この街に降りたのは――――――」


 シリアがセルビアさんに事情を説明する間に、入浴を済ませてくるとしよう。






 ――――――再び、綺麗な身を取り戻し、大浴場の扉を開ける。

 しかしながら、天使の入った後のお湯というのが神秘的だ。


「アンタの下着も洗っといたわ」


 ギャアァァァー! 女の子!?

 ってベラか! いやいやなんでしれっといんの! 下着? あぁ―――僕のね。


「私に感謝するのね、服着たらとっとと救済しに出掛けるわよ」


 そう言ってベラはその場を後にする。

 あんまり……そういうのは気にしない性質たち

 何と言うか、あの天使様は残念なのか、欲深いのか、お人好しなのか。ともあれありがたい。


 下着を穿き、いざ、使命を果たす時――――――。

 そして、グショグショに湿った感触。





 ウワァァァキモチワルイ!

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