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異質とすることに(3)

 宿のレストラン一階。一つのテーブルを囲み、全員が静まり返る。そこで沈黙を破ったのはベラだった。


「……あれは、私じゃないのよ?」


 部屋にいた時のあでやかな雰囲気とは打って変わり、冷静に釈明するベラ。


「っ……もうその話はいいんだよ、天使ベラルーシ」


 静かなトーンで言葉を返すシリア。


「でも二人にあんな……」

「――――――うっ、ちょっと思い出すからもう黙って……!」

「いつもの私じゃなかったのは確かだけど……意外と良い感覚だったのもあるような……」

「それは困るよ!?」


 一瞬のうちにシリアは取り乱す。


「んー。でも、シリアル……ずっと変な声出してた」


 デーニャが挑発する。


「だ、出してないから! 少し、天使サルデーニャに釣られただけ……」

「じゃあ、出してるじゃん」

「っお互い様だようるさいな!」


 数分前に起きた出来事。ベラが起こした行動から、可愛い天使二人には分け隔てなく、愛でるような癖をお持ちの方かもしれない。世間一般で言うところの愛でるとは、少し変わったやり方だった気がするが、それに巻き込まれた訳で、足つぼマッサージをするつもりではなかったらしい。残念――――――待てよ……。なぜ、僕まで標的にされたんだ……?


「ま、ベラルーシが堕天使化してたってことは、すぐ気づいたわ。シリアルの時とは時差や姿に違いがあったみたいだけど」


 続けて、デーニャから話された内容に、ベラたちは当然驚く。


「でも、それはクロアチアが影響して起こる現象だったよね? 突然……天使ベラルーシの“雲”で二人とも引っ張られて帰ってくるし、天使サルデーニャはいつの間にか、クロアチアの部屋にいるし、誰が色々と説明してくれるのかな」

「待って、私、堕天使化してたの? 別にあの時、クロから何かされた覚え……あっ、ほっぺた触られたの覚えてるんだけど!?」


 いやいや、それだけでなるのか。あと今更ながら、少し後ろめたいから、それ以上詳しく言わないでほしい。


「え……何で触る必要があったんだい? そっちもなぜ触られる状況になっているのさ!」


 シリアが詰め寄ってくる。ベラの方にも同様にシリアが問い詰める。


「それはあれよ? すごく怖かったとか、クロのこと考えたら、なぜか涙が出てきたとかではないから! あんなので私が安心するとでも思ったのかしら……っ! 単なる触りたがりよ、うんうん」

「触りたがりはいつものことだよ。あと最初のは、何についての言い訳なんだろう……」


 この黒髪ロング騙したな……。やはり、からかってたか。


「でも、旦那様だんなさまの溢れた力で堕天使化なんて可能性はないよ。わたしがいないのに旦那様だんなさま自身が力を使えるとはまだ思えないもん」

「じゃあ、他にどんな原因があるのよ……」


 心当たりがあるとすれば、異質な空気感を漂わせ、羽根の鎧を身に付けていたアイツが関係しているのだろう。その風貌から人間じゃなかったのは明らかだ。奴の近くに誰よりもいたベラなら、間近に影響を受けていたはず。しかし、ブルガーも厄介な人物であるだけに背後にいる奴の存在が恐ろしい。ブルガーと奴との関係性が気になる。


「天使ベラルーシ、君はレストラン内にいるつもりじゃなかったのかい。クロアチアを手伝うなら一言伝えてくれればいいのに。二人ともどこで何があったのさ……元はと言えば、天使“消えサル”デーニャが宿にいないから二人とも探してたんだし」

「何よその余計な名前!? 全っ然、上手くないわよ! わたしは縛られたシリアル達と違って、精霊の力も持ってるし、天界にも自由に行き来できるんだから、常に下々の者が暮らす地上にいるわけないでしょお!」

「なっ……! せっかく心配したのに何さその態度! やっぱり君は気に入らない!」

「わたしだって、旦那様だんなさまとシリアルが密かにイチャイチャしてるの気に入らないんだから!」


 いがみ合いが始まる中、ベラが手を出し、割って入る。


「ねぇ……私はシリアから酒場に行けって言われて行ったのよ? 忘れたの?」

「……? そんなこと言った覚えないよ? ずっとセルビアの近くにいたけど」

「え、嘘。怖いこと言わないでよ……冗談のつもりかしら」

「怖いこと言ってるのは君の方じゃないか……本当にそれは私だったの?」


 宿を出る前、ベラが酒場に来るような素振りはなかった。あのタイミングで来るとしても、恐らく、セルビアが目を覚まし、いつもの頼まれ事でもされたとしか考えられなかったが……それなりに時間も経っていたし、セルビアが起きててもおかしくはない。


「あれはシリアだったわよ……。髪も短かったし、落ち着いた言い方だったけど、会話してたし……。胸だって……あれ、少しサイズダウンしたかしら?」

「……サイズダウンって何さ」


 目の前の誰かが偽物であった場合の対処となると難しいかもしれない。そんな機会はないと思うが、判断基準は重要だろう。人格、顔つき、声質、身体的特徴、雰囲気、動作等を正確に見極められるものかどうか。世の中には本当に姿形が良く似ている双子や三つ子、もしくはそれ以上とたくさんいる。人に限らず、生命あるものすべてに言えることかもしれないが、やはり、瞬間的に端から見ただけでは見分けがつかない。性別や個体差があればまだ判断しやすいが、同姓で身体も大差ないとなると本人に確認せざるを得ない。

 今だって、両手でクロスして隠されては余計に分からないものだ。


「クロアチアもどこ見てるのかな」


 おっと、見過ぎた……。


「……バカ」


 シリアが顔を背ける。反対にテーブルの方へ姿勢を傾け、ベラが声を上げる。


「そういえば、サルデーニャっていつも両サイドに髪結んでるけど、下ろしてみたらシリアに似てるんじゃないかしら?」

「っ――――――!」


 突然、名指しされて驚いたのか、デーニャがベラに向き直る。


「そ、そんなわけないじゃない……姉妹でもないのに」


 ほそぼそと話しつつ、自分の頭に両手を置き、隠すデーニャ。


「でも、髪とか瞳の色以外は大体、似たような容姿よね」


 デーニャはこれまで何度か、勝手に僕のベッドで寝ており、その度に下ろされた髪は見てきたが、シリアに近い特徴は確かにある。


「どうかな。明らかに天使サルデーニャは妄想が激しくて、品性もないんだから、似てないと思うよ」

「シリアルこそ、何で判断してるのよ!? 外見の話してるのに!」

「ほら、今、鳴き喚いている時点で違うのさ――――――って急に抱きつかないでよ!?」

「似てるか似てないか、身体に直接訊いてやろうじゃない! この辺とかこの辺とか!」

「ふやぁあッ!?」


 堕天使化していたベラとほぼ同じ行動をシリアにするデーニャ。怒りに任せて起こしている行動か、距離が縮まってきたことによる戯れなのか、いずれにしても、この形成は固いものになるだろう。目の保養になるとかこういう展開が好ましいとかは全然思ってないよ?


「あっ、旦那様だんなさま! 明日、わたしと“黒翼飛ばし”習得のためのトレーニングしよーね!」


 え、コクヨク……飛ばし? さらっと訓練トレーニングって言わなかった?


「話しながらっ、触らなくても、いいんじゃ――――――ひぅ!?」

「シリアル、弱いとこ多い~!」

「はぁ、はぁ……違、っうよ、さっきっ、天使ベラルーシが、おかしなこと、しなければ!」

「――――――わ、悪かったわよ……。お詫びに、あの、私もそこに加われば……許してくれたりする?」


「「……え?」」


「じょ、冗談よ! 仲良さそうなのが羨ましかっただけ……だから。……ちょっと本気でそのリアクションのまま何も言わないのやめてくれる? ……冗談だってば! ……二人してひどいんだけど!?」


 ベラに対し、シリアとデーニャが一歩、後ずさりしたまま動かなかった。きっとまだ、堕天使化の影響が抜け切れてないのだと信じたい。

 それにしても、セルビアが全く姿を現さないのだが。僕のこと誤解されたままだこれどうしよう……。

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