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異質とすることに(2)

 いくつもの白い柱と暖色系の光が、周りを囲む。何やら僕は一人の少女と会話をしているようで、二人の暮らしは安穏そうだった。これが夢であることは分かるが、過去の出来事がそのまま形となっている気がした。確かに僕はそこにいて、想像で創られた世界ではない場所。


旦那様だんなさま……」


 下を向き、憂わし気な声のデーニャが横にいた。

 今、僕が寝ている場所は、酒場ではなく宿のベッドのようだ。その上に彼女が、ぺたんと座っている。

 あれからどうなったんだ……誰がここまで。


「……わたし、考えが甘かったみたい……っちぇ――――――あいつら」


 デーニャもいつ帰ってきたんだ……? 事件にでも巻き込まれたわけではなさそうだし、姿が見えなかった理由をここで詮索するのは違うか。


「あっ、旦那様だんなさま起きてたの!? どこか痛く、ない?」


 体を起こすが、薬の作用のおかげで、痛みや傷は完治している。それはそうとベラがどうしているのか気になる。あの時、大きな外傷を受けたようには見えなかったが、倒れてしまった。僕と同じように運ばれ、部屋にいるのだろうか。

 僕は、ベラを探そうとベッドから降りようとした。しかし、後ろからデーニャに捕獲される。


「シリアルはあの天使に付きっきりのはずだし……今なら、わたしに、何してもいいんだよ、旦那様だんなさま?」


 そう言い、小さな身体を背中にすり寄せてくる。

 こっちは寝起きで、その温もりは刺激が強すぎる。早く、デーニャをひっぺがさなくては――――――?

 扉が開けられ、急に現れた人物に言葉を失う。


「あらクロぉ? んっ、こちらにいらしたのね~。わたくし探しましたのよ……すりすり」

「なな、旦那様だんなさまに何して……っ」


 僕を見るなり、胸あたりに指を当て、寄りかかってきたのは紛れもなくベラだった。が、無駄に色気漂う雰囲気と普段の口調ではないことに違和感を覚える。デーニャもこの状況は予想外らしく、小刻みに身体を揺らし、狼狽する。

 ベラ本人のはずだよね? 以前の落ち込みから復帰した時より変容ぶりは激しいが……これが良いのか悪いのか。あと、なぞるように触るの止めてもらえないですかね指。


「――――――っはぁ、はっ、あっ! ここにいた……!」


 いきなり、息を少し切らしたシリアが入ってくる。


「……! クロアチア、起こしたよね? 天使ベラルーシのこと見てたんだけど、さっき起きたと思ったら急に部屋から出ていって……今、連れてくから!」

「んん~、シリアもきたんですの。っもう……」


 シリアが手を伸ばし、捕らえようと近付いたのだが、ベラが僕から離れる。すぐさま、シリアを受け流すように避けたため、二人の位置が入れ替わった。俊敏とも言えるベラの動きにシリアは動揺し、その身が僕の方へと流れ着く。


「あれ……? うわ、ごめんクロアチア。ぶつかっちゃって……」

「し、シリアルまで……! ずるいよ!? わたしも――――――」


 約一名、故意に自分から流れ着いた者もいる。観光地としては天使を呼び寄せ大成功?


「……先にシリア達からでもいっかぁ。ふふ、クロは最後にしますわ」


 ベラが自慢の『綿あめ』を巨大化させ、それをシリアの背中に配置した。と思った瞬間、僕らはベッドに押し戻された。その勢いはシーツ中央にまで及び、実質、三人同時に押し倒されてしまった状況となる。両脇に二人の天使を囲み、距離が近すぎることに動悸が激しくなる。


「天使ベラルーシに押された……?」

「むぐ……あっ、シリアルまで旦那様だんなさまの片腕にいなくていいんだけど!」


 二人が起きようとしている間に、両手を伸ばしたベラが見える。


「シリアとサルデーニャは……どの辺が弱点なのかしらぁ」


 その顔は悦楽で、まるで美味しそうな食材に、心の高鳴りが抑えられないような料理人を見るようである。


「――――――いっ!?」

「――――――ふぇ!」

 

 不意の吐息を両耳から感じる。


「んんッ、クロアチアの前なのにっ、そんなとこっ、はぁっ! うっ、こっち、見ないでぇ!?」


 え。


「そこっ、旦那様だんなさまだけのっ、うぅっ、あっにゃ!? やぁぁっだめぇ!」


 ……? 何されてるの?


「二人ともそんな可愛い声で鳴かれたらぁ、わたくしまで良い気分に――――――」


 ベラの謎行動は止まらないようだが、いったい……。


「天使ベラ、ルーシぃ、本当に君は、にゃに、やって!? 手、離しって!」

「とか言ってぇ。ほら、サルデーニャはこんなにも正直な反応ですのよ?」

旦那だんなさまにっ、はしたないとこぉ見られっ、ゾワゾワが、止まらないっ!」




 うん? もしや……二人は“足つぼマッサージ”でもされているのではないだろうか。なるほど、道理で。シリアたちの表情は緩み、身悶えるほどベラが上手いとは知らなかったが、これは期待できる。











 やがて、言葉を発することが少なくなってきた彼女らを見つめるだけの時間に、心の虚しさが訪れる。

 いや、なんか仲間外れ感がね? だからと言って同じように混ざるのもおかしい気はするが、というか、この場にいるのが間違ってる出て行っていいかな?


「シリア~、今どんな気分かしらぁ?」

「っん――――――はぁ、はっ、はぅ」


 一仕事終えたベラはまだ余裕そうに問いかけるが、シリアからのはっきりした返答はない。


「サルデーニャはどうですの?」

「デへへ、もっ……とぉ」


 デーニャに関してはなぜか衣服まで大きく乱れている。

 あれ、足ツボだよね?


「攻略ですわ。それじゃあ、お待ちかねのクロにぃ――――――そっ……と」


 仰向け状態の体の上にベラが跨る。同時に衣服の裾がめくれ上がっていったため、目を逸らす。

 それにしても……随分と支配的なマッサージだ。


「ああっクロ、これっ、凄っい……! 見かけによらずって、感じっですの。疲れが溜まってるのかしらぁ」


 何してるんだこの天使さんは。僕への足ツボは? 見た感じ、本人自身の腹部か脚の付け根? そこら辺のマッサージしてて、こっちは何も感じないぞ。足を触っているわけでもないし、どゆコト?


「何ぃクロ? その物欲しそうな視線っ」


 ベラさん? 足ツボはこちらですよ!

 僕は彼女の足を掴み、親指でグッと押す。


「ん――――――ぎっ!?」


 跨っていた身が踊るように飛び跳ね、ベラの声が漏れた。しかし、力が足りなかったようで、一向にマッサージをしてくれる心意気を見せない。


「っふふ、勝負するの?」


 そう言われ、自分の中で何かが吹っ切れた瞬間だった。




 いや、勝負以前にそっち何もしてないよね? 押すけど。


「あッくぅ!? うぅ……ごめっ、んっは、はぁ」




 待たされた挙句、何もされない地獄って……。


「待っ……て、わたくしが、うっ、悪かった、からぁあ!?」




 なぜ僕だけされないのかな。足ツボでなくとも背中とかでも良いんだけど。


「こ、降参、んんッ!? ――――――はぁ、はぁ、しま、すぅ」




 結局、この場にいる天使だけ、得をした状況が看過できないのだけれど。ベラはどうすればいいと思う……ってあれ?

 僕の上で知らぬ間に、ぐったりと寝ているベラ。そして真横には、体を震わせるセルビアが……。


「あの……クロさん。いったい何を、なされているんですか……!」


 えっと……ベラには僕が直々にマッサージして、両隣で寝ている天使たちはベラがね?


「……この、スケベクロ――――――っっっ!」






 部屋内に響き渡るのは、何とも奏での良い平手打ち音であったのだった。

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