堕天使とすることに挿絵とすることで
昼を過ぎた頃、石畳で舗装された道を歩いていた。そこはレンガ造りの家々が立ち並ぶ。
「私は天使 Syria、君の悩みはなんだい?」
僕は金髪ショートヘアの小柄な少女と出会った。
その天使は、大きめの黒パーカー、膝までの黒デニムスカートに身を包む。
至って普通の格好だ。
「あら! あなたも天使なのね!」
声を高々に上げ、もう一人の天使は嬉しそうに後ろから顔を出す。
彼女の白いワンピースは目立ち、空中に浮かぶ『綿あめ』が揺れる。彼女もまた天使と名乗る。
「え、君も?」
シリアは水色の瞳で『綿あめ』を気にしつつ、尋ねる。
「私は天使 Belarus。まぁ今は悩める人を救済するかどうか迷っている最中ってとこよ」
聞かなければ名乗りもしない天使ベラルーシの名を、密かに知った僕に彼女は気づかない。
「ふーん……でも君は天使じゃないよ」
「え、なな、なんですってぇ!?」
呆れ気味の天使シリアは直球を天使ベラルーシに投げつける。
しかし、空中に浮かぶ『綿あめ』といい、宙に舞って登場した事実といい、説明はどうつけよう。
「まぁそんなことはどうでもいいのさ、彼の悩みを解決することが優先だよ」
そう言って、シリアは僕に視線を向ける。
「どうでもよくなぁーいぃぃぃ! ほら、これ見て! 天使の必須アイテム!」
ベラはブレスレットをシリアに見せつける。
「それは何? 普通はロザリオや十字架だよ」
「ナニソレェ!?」
数珠を手にガクガク震えはじめる彼女をよそにシリアは言葉を続ける。
「君の名前は?」
僕の名前を名乗る時が来たようだ。今初めて人物として認識された気がする。
ちょっとした胸の高鳴り。何かが始まる予感。口を開き、僕は答えようとした。
「――――――まって」
その時、シリアが顔を少し歪めて言ったのが見えた。出しかかっていた声を思わず呑む。
「私が決めるよ」
ホワッツ――――――?
「あなたは今この時から、堕天使 Croatia。よろしくね」
シリアは握手のつもりなのか、手を差し伸べた。
強制的に名前を授けられ、これ以降の異論を認めない雰囲気になってしまった。ここは黙って従っている方が賢明なのだろうか。しかも堕ちてるのね……。
頭の中で困惑しつつも握手をしようとした。
「あ、触らないで」
シリアの顔は一瞬で形相を変え、こちらを睨む。
どう握手しろと。
「待ちなさいよ……」
ベラがシリアの肩を掴む。
「こいつが堕天使ですって……。どこからどう見ても面白みのない平凡な顔つきで女性との関わりがなさそうな草食丸出しの皮〇ぶり男のどこが――――――!」
まてまてまて最後なんつった――――――!? どういう意味! 意味!
「――――――まさか……堕天使と呼ばれる所以って、そういうことだったの!?」
「やっと気づいたんだねベラルーシ、私は嬉しいよ。君を天使ベラルーシと認めるよ」
「うそ! ほんとに!? やったぁ! 待って、私は最初から天使よ!?」
ベラはシリアに抱きつき、喜びと悲しみを身体で揺らし、揺らされるがままのシリア。
「こ、こほん、んん、さぁ! 堕天使っクロアチア! あなたの悩みはっ!」
ウーン、君達デース。