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残念天使とすることに挿絵とすることで

 ふと外から、ポツポツポツと小さな音がしていることに気付く。音は建物や地面にねているようで反響していた。

 部屋の窓ガラスには無数に付着した液体の粒。一つの粒と別の粒が合わさって、大きさを増していく。やがてそれは下へと伝い、流れていった。

 その繰り返される光景と鳴り止まない音に、物思いに眺め、ふける。


 すると、遠くからタッタッと走って来ているような足音がした。次第に音が部屋の前に来たと思ったその時、扉はバンッと粗暴に開かれた。


「クロ……! はぁ、はっ、少し、付き合って、もらおうかしら……!」


 そこには、雨で濡れたベラがいた。彼女の長い黒髪や着ているワンピースから水滴が落ちる。

 軽く息切れを起こして、かがみながら上体を膨張したり収縮させたりしている。宿屋の外にでも出掛けていたんだろうか。


「スゥー……はぁ。すごい濡れちゃったわね、これ」


 姿勢を戻したベラと向かい合う感じになる。染み込んだ雨により、彼女の身体に服が張り付いて、肌色が薄く見える。

 つまり、色々とスケスケなわけである。下着のラインとか白色と肌の境界線とか、白には白の組み合わせとこだわりでもあるのかな!


「な、何? ぼーっとして……あっ!?」


 事の重大性に気付いたらしい。うんうん、無自覚にもそうやってアピールしちゃ勘違いしちゃうよ。危ない危ない。


「っこんのぉスケベクロォォォ!」


 いいぞ! エンジェルズストレートパンチの炸裂だぁ! いや、スケベクロー! の方が必殺技っぽいな――――――って痛っタァ゛ア゛ア゛!?


「今、乾かすからもう少しのた打ち回ってなさいよ!」


 顔面の激痛にうずくまる僕を尻目に、ベラは自身の『綿あめ』に包まれる。彼女の身体を覆い隠すほどのサイズに変化し、小刻みに揺れている。暖気のような風も感じた。




「……さて、これで問題ないわね」


 瞬く間に姿を現したベラ。服は透けてなく、ちゃんと乾いているようだ。

 『綿あめ』が本当に便利なのは分かるが、問題ないわけないよね? しっかり一発決められたよ?


「さっさと起きなさいクロ! アンタの力が必要なの! 付いてきて!」


 いろいろと不平不満は持ちつつ、ベラに連れられるまま、外に出た。




 歩いてから数十分ほどを掛け、着いた先は酒場のような場所だった。内装は高く広々とし、周りには、たるで出来たイスとテーブルがいくつも置かれている。ちなみに道中の雨はベラの『綿あめ』が、傘のように広がり、防いでくれた。しかし、だとすると、部屋に入ってきた時、彼女はなぜ濡れていたんだ。息を切らし、傘として使う余裕がないほどの理由でもあったのか。

 降りしきる雨とまだ正午近いせいか、客は少ない。そんな中、真ん中の席に一人、くつろぐ男が見えた。力仕事を主にしているのか、格闘家のような風格と体つきだった。ガラス製のジョッキを片手に酒を飲み、テーブルの上はガラクタみたいな物で散らばっていた。

 そこにベラは近づき、その男を見下げる。男が見上げ、ベラの姿を確認すると、笑いながら口を開いた。


「おぉう、小娘。はっは、連れてきたかぁ、助っ人とやらを」

「ええ、今度はクロが相手よ!」


 まさか、あの男とベラに接点があるとは思わなかった。それにしても体格差が違い過ぎる。あの手の大きさはベラの腕とか首とか一捻ひとひねりにできるぞたぶん。空に果てたブルガーほどではないものの恐ろしい。

 それにしても助っ人だか相手だとか何の話をしているんだい。


「クロ! 早くここに座って?」


 こちらを手招きし、男の座る向かい側の椅子に座れとベラの真顔から伝わってくる。

 ん、これから何されるの、帰りたい。


 恐る恐る警戒しながら席に腰掛ける。テーブルの上のガラクタをよく見ると、レンチやハンマーなどの工具や収納するための工具箱が置かれていた。その中でも一際目立つのが、銅製で厚みのある数枚のメダルだ。手のひらに丁度、収まりそうな大きさだが、何に使う物なんだろう。


「へっへ、お兄さんもメダルが気になってるな? このオレが作ったんだ。趣味の一つだが、出来は悪くないだろう?」


 男は野太い声で得意そうに話す。


「まぁとりあえずは、始めるとするか。心の準備はできてるかい?」


 え、何の?


「クロ、私のためにも頑張りなさい」


 え、だから何を?


「掛けコインを決めてテーブルの上に置いてくれ。まずオレはこいつを出そう」


 男はそう言うと、片手を工具箱に伸ばし、大きな手には似合わない小さな布の袋を前に置いた。どこかで見たことのある袋だが、誰かの持ち物だったような……。


「くっ、あれを最初に取り返すのよクロ、アンタに懸かってるわ! 待っててね、私の全財産……!」


 やはりお前のか。


「どうしたお兄さん。やるんだろ? 早く掛けコインを出してくれ。勝負が始まらんぞ」


 僕は男に、片手を広げ、待ってくれと言わんばかりに合図した。続けてベラに説明しろという視線を送る。


「……な、何よ、しょうがないじゃない! コインが増えると思ったんだから。負けちゃったけど……」


 ベラは威張りつつも、軽く落ち込み、ブツブツ言い始める。

 こうなった経緯として話を聞いていれば、ベラはこの場所にセルビアの頼まれ事で、事前に注文したお酒を宿に持っていく使命を担っていた。その時、この男に話しかけられたのは言うまでもなく、なぜか、自分の所持していた通貨コインを失う羽目になった。それが悔しく取り返そうと、わらにもすがる思いで僕の下に来たらしい。


「おい、話はまだなのかぁ? 別にしないならしないで、そろそろ次の町に移動したいんだが……」


 男がしびれを切らし始める。


「ちょーおっとっ待ちなさいよ!? せっかく密かに集めてた私のコインなのよ!? なくなるのを黙って見過ごすことなんてできないわ!」


 すかさずベラは、工具を片付けようとする男を止める。


「クロ、お願いだから私のコイン取り返して! 泣き寝入りだけは嫌なの! ねっ?」


 両手で服を掴み、懇願してくるベラ。

 取り返すにしてもだ、僕からすれば争う必要のない戦いなわけだし、意味はない。うーん、まぁ今回は残念でしたということで――――――。


「わ、わかったわよ……タダでとは言わないから! えと、そうね……この美少女天使ベラルーシの肩もみをさせてあげるなんてどうかしら?」


 よし帰ろう!

 僕は席を立ち、雨の降る外へと足を動かす。


「冗談よ冗談だったの! だから帰らないでクロっ! うぐぐ、待ってって!?」


 ガシッと後ろからベラに抱き付かれ、彼女の二つの膨らみが背中に当たっているのがかすかにわかる。でも、僕は屈しない。なぜならあのベラだから! 負けてなるものかと! 帰って飯食って寝るんだと!


「っ――――――もうじゃあクロが決めていいから! アンタの望むものでいいから! 見捨てな――――――って、いない……?」


 よし席に戻った。

 適当にコインを出しておいて、さぁ何をすればいいんだ? やっぱりこのメダルを使うのかな……。


「……っこんの変態、私に何させる気……」


 男は酔いの回る顔でこちらを見て、ニヤつく。


「お前らの痴話喧嘩を見るのも悪くはないがよ。正直、こうして賭け事をしてるのは別に、資産を増やしたいわけでも、借金があるわけでもないのよなぁ」


 それを聞いてベラが男に駆け寄る。


「あらそう! だったら、さっきの勝負はナシってことにしてもらってもいいわよねっ?」


 え? お話がチャラになるの?


「ところがそうはいかない。勝負は勝負! オレが勝ちで小娘は負けだ。賭けるものがあってこそ楽しいものなんだなぁ」


 それを聞いた途端、ベラが憮然とした表情で頭を抱え、震え始めた。


「助っ人を呼び、この勝負には勝てる……。その代わりとして無抵抗な純白の美少女天使はその助っ人に襲われ、けがされ堕ちていく……嫌ぁぁぁぁぁ!?」


 くっそこいついきなり人聞きの悪いことを。しかも既に決定事項みたいになってるけど、勝てると決まったわけではないのだが。


「あー……小娘はともかく。お兄さんは何も聞いてないようだからなぁ、もう一回、勝負のルールをお兄さんに説明してやらぁ」


 男から説明された勝負の内容。使うのは全部で七枚あるメダル。表には文字が彫られている。七枚あるうちの六枚は上部に『Soldierソルジャー』という文字が、メダルの形に添って、弧を描くように彫られていた。中心は兵士のモデルで、下部にはA、B、Cと兵士が三種類、各二枚ずつで計六枚となっている。残りの一枚は『Leaderリーダー』という文字と、指導者らしきモデルが彫られていた。裏はすべて同じ花の模様だったわけだが、これらには上下関係なる強さが男から条件づけられた。

 1、Aの兵士はCの兵士より強い。

 2、Bの兵士はAの兵士より強い。

 3、Cの兵士はBの兵士より強い。

 4、同じ兵士同士は同じ強さで引き分け。

 残りの指導者・・・が彫られたメダルはどの兵士のメダルよりも強い存在ということらしい。

 流れとしては、先攻後攻を決め、まず先攻側が目を閉じる。後攻側は、メダルをすべて裏にして、好きなように配置する。準備ができたら先攻側は目を開け、メダルを一枚裏のまま選ぶ。次に後攻側が目を閉じ、先攻側が配置する。お互いがメダルを取ったら、表にし、勝敗が決するというわけだ。


 つまりは、メダルの強さ勝負である。しかし、こんな運任せみたいな勝負でなぜベラはコインを全部失ったんだ……。

 僕はベラの方へ顔を向けた。


「……え! まさか前払い制とか言わないでしょうね……?」


 何の話だ、違う違う。身構えないで。まず、どんなコインの賭け方をしたのか説明が欲―――。


「その小娘は、一発勝負でこの袋ごと賭けた挑戦者だ」


 そういうことか、把握できた。


「さぁルールも知れたところで、始めようかぁ。お兄さんから先攻でもオレは構わんぞ」


 ここはお言葉に甘えるとしよう。僕は目を閉じた。メダルを移動させる音がしている。


「いいぞぉ、目を開けて選べ」


 目を開け、中心に寄せ集まるメダルを確認する。特に思うことはなく、手前の右のメダルを選んだ。


「次はオレだな」


 男は顔を上に向ける。僕はメダルを上から持ち、移動させる。一呼吸置き、作業を終える。


「もういいな? よし……なるほどな……ん、こいつにしようか」


 男はこちらを見て、選んで良いことを確認すると、一つ一つのメダルを丁寧に触る。その動きが止まったかと思うとサッと取っていった。


「勝負だ」


 そして、メダルを見せる。こちらが表にしたメダルはAの兵士。相手がCの兵士ならこちらの勝利、Bか指導者のメダルならこちらの敗北だが。

 

「オレの――――――勝ちだなぁ」


 相手のメダルは指導者・・・だった。呆気なく賭けていたコインを持っていかれる。


「嘘でしょクロ! アンタ何負けてんのよ!?」


 いやいや、どうしろと……。


「お兄さん、二回戦はどうするよ」

「……チャンスはあるはずだわ! クロ! リベンジ!」


 男は満悦そうに、欠伸あくびをする。

 確かに、このまま大人しく引き下がるのも釈然としないし、ちょっとこれ面白いかもしれない。

 ポケットにあるだけのコインを全部出し、再戦を求める。


「いいねぇ、オレの掛けコインはさっきと変わらん。次の先攻はオレから行かせてもらおうか」


 男はまた上を向く。先ほどと同様の手順を踏んでから、自分のメダルを取る。今度は相手側に近い位置のメダルを取ってはみたものの、出たのはCの兵士。

 気になる相手のメダル。




「くくっ――――――すまないな。またしても、指導者・・・のようだ」

「クロでも勝てないなんて……」


 負けた。なるほど全然、面白くないぞこれ。全財産を失った。

 ……まぁ元より多額に持っていたわけではないし、傷は浅い。こんなもんだろう。

 とりあえず、どこかで一からコインを稼がねば。


「はっはっは。二人とも、優雅な一時ひとときをありがとう」


 男は工具を片付け、その箱を持ち、席を立つ。


「――――――チート、不正行為よ! 一回も勝てないなんておかしいじゃない! きっとメダルに細工でもしたに違いないわ!」


 ふと、ベラが気付いたように声を上げる。

 悪あがきにも無理がある気がした。仮に不正が事実であったとしても、そう簡単に男は認めないだろう。証拠を求めてくるはずだ。それとも、ベラには秘策のようなものがあるのだろうか。


「……確かにオレは不正しているなぁ」


 あれ、認めちゃったぞ。


「不正でなければ、小娘の時も足して三回・・も指導者は出なかったろう。だが、惜しかったな小娘。そいつを勝負の最中に指摘出来れば、まだ良かったんだがな」

「ふっふーん! そ、そんな都合の良い話が通じると思ってるのかしら?」

「ほう、ではどんな不正だったのか、説明してもらおう」

「それは、メダルよ。えと、メダルが……」


 ベラは何とか続けようとするが、言葉は出てこない。まぁそうなるよね。


「それが分からなければ、この辺で失礼するぞぉ。あー……最後に小娘に一つ。もう少し優秀な助っ人を見透かせる勉強をしておけ。じゃあなぁ」


 男は大きな片手を上げて、気怠けに振る。この場から去っていくその男の後ろ姿をベラは黙って見ていた。

 うん? 最後、遠回しに役立たずって侮辱され……いや、否定できなかったわちくしょう。


「な、何だお嬢ちゃんは?」


 店の前で男が声を発する。見ると男の前には少女が立ち塞がっていた。


「ねぇ、クロ。あれサルデーニャじゃないかしら?」


 幼い顔立ち、茶色の両サイドに結ばれた髪、奇抜な格好をした女の子。間違いなく、デーニャだ。


「――――――あなたは、私の旦那様だんなさまより、格下よ」


 直接、心に話しかけているような感覚に陥る。デーニャの『コダマシテール』だ。最近だと、警察官の人間に対し、使っていたことを確認したばかりだ。


「オレは、あの男より格下……確かに」


 また変な暗示かけてないですかね。


「――――――もう一度、今度は真剣に」

「……はい、勝負します」


 面倒なことになるぞこれは。

 店を出た男は、再び元の席に戻ってくるという、何とも妙な行動をする。メダルを出し、ベラと僕のコインをテーブルに置く。

 状況理解のできていないベラが、嬉しそうに声を掛けてくる。


「ふ、ふふ、何が何だかわからないけど、まぁいいわ! 今度こそ勝ちなさいよね!」


 待て待て、こっちは一文無しの状態なのに、そこは問題ないんだろうか。


「先攻は君からで頼む……」


 男は構わず、メダルを動かし始める。メダル自体も表な状態で指導者・・・が丸見えだった。

 もうフェアとかルールとか暗示をかけられると気にしなくなるのか。デーニャを見ても、微笑むだけで、何もしない。

 僕は一応、見えてないフリをしつつ、そっとバレないように指導者・・・のメダルを取る。

 この時点でこちらの勝利は確定したも同然。


「次はオレ……頼む」


 男はゆっくり顔を上げた。メダルは特に動かさなかった。やがて、男はCのメダルを取っていく。

 相手にこちらのメダルを見せた。男の表情は変わらず、静かだった。




「勝敗はついた……持って行け」


 男は僕たちのコインと自分の集めたであろうコインの袋を渡してきた。

 真っ先にベラは自分の布製の袋を取る。


「やればできるじゃないクロ! 本当に良かったわ!」


 安堵の表情を浮かべるベラ。


「まぁ、その一応ね、感謝しておくわ。ありがと……ね」


 ベラはそう言うと急に恥ずかしくなったのか、頬を赤らめたが、笑顔を見せた。

 相手が相手だけに、不意打ちを食らった。伊達に美少女やってない。

 しかし、デーニャがいたから勝てたのであって、僕自身の実力ではない。いつだって、僕は何もやっていない。だから、きっと勘違いしてはいけない。


挿絵(By みてみん)


 その後、デーニャが能力を解除した後も、男は席から動かずにいた。

 結局、男の不正がどんなものだったのか謎のままだ。今回はお互い様だと、勝手に解釈をして、男のコインの袋は置いてきた。

 半分は後悔を残しつつも、三人で降り止まない雨の中、宿に帰ったのだった。




 ちなみに、ベラがお酒の調達を忘れて帰ったのは言うまでもない。

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