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堕天使とすることに(5)挿絵とすることで

 馴染みになりつつある宿屋の丸椅子に、座っているベラとシリア。その二人の近くに立つ僕とその妻だと現れたツインテール天使少女。いや、正確にはツーサイドアップとビッグテールを兼ね備えてみましたテールだろうか。それは置いといて……セルビアもいる中、この状況は落ち着いて話ができるためにセッティングされたものだ。

 関係ないが、ここのところ、外に出てはすぐに宿に戻るという悪循環が続いているような気がする。


「……えと、それで、サンデーさんだったかしら?」


 ベラはツインテ少女に、問い掛ける。


「違うよ、天使ベラルーシ。確か、サタデールじゃなかったかな」


 問い掛けに口を挟むシリア。


「――――――どっちも合ってないよ!? 何でわたしの名前そんな曜日じみてるの!? わたしはサルデーニャだよ!」


 猛抗議するサタデーニャ。違うな、サルデーニャか。


「――――――まぁ……無理もないよね。皆、最初は間違えるもの……」


 デーニャの両サイドに結び垂らされた髪が、心なしかぱたりとしおれている。


「……どうでもいいけど、君はいつまで堕天使クロアチアに引っ付いているのさ」


 デーニャはこの場所に来るまでに、ずっと僕の腕にくっ付いていた。それを気にして、シリアは不満そうに声を漏らす。


「――――――別にいいじゃない。わたしの旦那様だんなさまなんだから」


 ギュッと腕を抱きしめるデーニャ。


「誰かと勘違いしてるんじゃないのかな……堕天使クロアチアも君のことをよく分かってないようだし。それに……天使サルデーニャには他にも詳しく説明してもらうことが」

「――――――あっ、いけない。『コダマシテール』切ってなかった……!」


 シリアを横目にデーニャは何かを確かめるようにアーと喉を唸らす。


「……コホンッ、説明をだね――――――」


 シリアは一つ咳払いをしてから、デーニャの方を見つめ、自分の言葉を言い掛けた。


「ん――――――これでよしっと」


 喉の調子でも確かめ終わったのか、デーニャは安心したような様子を見せる。


「……ふーん。天使“お”サルデーニャは人の話が聞けないみたいだね!」


 そうシリアが言った瞬間、デーニャの身体がビクついた。


「え、おサ………ル? ふふふ……どうやら貴方は、わたしに言っちゃいけないことを言ってしまったようね……! 人の恩を踏みにじるような悪口、流石はお子様シリアルっ!」

「お子!? あはは……君には言われたくないな! ついでに、人を加工食品みたいに呼ばないでよ!」


 ふと、頭に響き渡っていたデーニャの声が現実味を帯びていることに気づいた。小型マイクを所持していて、急に電源でも切ったのだろうか。

 いや、それどころじゃないな。ベラシリア戦だけでなく、シリアデーニャのバトルもあるのね。

 シリアは立ち上がり、デーニャと犬のようにガルルッといがみ合っていた。


「あの、お二人とも! 気を落ち着かせて!」

「そ、そうよ、天使同士で口喧嘩なんて品がないわよ! この私のように清純、可憐かれんに、上品でありなさいな」


 争いの制止に入るセルビア。一人だけ場違いにも自分の胸をポンポンッと叩いて鼻を高くするベラ。

 しかし、シリアとデーニャの口論は止まらない。


「天使おサルデーニャが堕天使クロアチアの妻だと言うなら、間違っても最初の紹介でクロアチアの妻とは言わないはずだよ! 夫の本当の名前を語らないなんておかしいじゃないか」


 堕天使クロアチアの名付け親と言うのも変だが、シリアが関わっているのは確かだ。もし、デーニャが嘘をつき、騙そうとしていたとしても、真相はより複雑さを増すだけだろう。


「この世界で貴方達がそう呼んでるから合わせたんじゃない。旦那様だんなさまが何と呼ばれていようと好きにすればいいし、関係ないわ! 天界ではわたしの旦那様だんなさまであったことには変わりないもん! っていい加減わたしをおサルおサル言うのやめなさいってばシリアル! 傷つくんだからぁ!」


 キーキーと鳴きわめくデーニャ。

 シリアを大男ブルガーから助けた時、初めて聞いたデーニャの大人びた声と気丈さのうかがえるイメージ――――――。今とでは大きく異なり、もはやキャラ崩壊している。色々と怪しいが、同じその声で的確な指示をして事態を収束させたのも、また彼女だ。二重人格、双子、裏の組織による記憶操作と考えられるものはある。

 だが、簡単なことだ。デーニャは本当に妻という立場で、天使の特殊能力を授けてくれる立派なサポーター天使なんだ。ただそれだけなのだろう。それでいいやもう面倒だしややこしいのキライ頭痛がする。


「私はシリアルじゃないっ――――――うわ!?」

「おサルじゃないもんっ――――――あた!」


 二人の勢いの隙を見て、ベラがすかさず浮いている二つの『綿あめ』を両者の顔にボフッと優しく当てる。


「はいはーい! そっこまでだわ。私もサルデーニャに訊きたいことあるんだから」

「天使ベラルーシ、私はまだ納得してないよ」

「シリアはさっきのこともあるわ、まずは座って休むことね」


 ベラがそう言うと、うぐっとシリアは後ろめたそうに声を出し、静かに丸椅子に座った。


「さてと、サルデーニャ。さっきのシリアに起こった出来事は何なのかしら? 堕天使が何か関係してるのよね?」


 ベラの質問に対し、デーニャは一呼吸置いてから、口を開いた。


「別に隠すような秘密でもないし、話してあげる」


 ゴクッと誰かが唾液を飲み込む。


「わたしの旦那様だんなさまは、『ヤットシャベレール』の装着適合者で堕天使の能力が発動できるの。その能力はまだ今の旦那様だんなさまには完全に使いこなせず、不安定。だから、わたしが使う精霊の能力『コダマシテール』を発動させる。この能力で不安定さを上手く反響させることで、能力を制御できる。ある程度、抑えることはできるけど、完璧じゃないわ。シリアルが堕天使化したのは、大男との一戦で、旦那様だんなさまが黒い羽根――――――黒翼飛ばしを発動させた時に、あふれ漏れ出た力が、シリアルにきっかけを与えたんでしょ――――――とまぁそんな感じでいい?」


 デーニャは淡々と滑らかに説明した。そのため、最後の部分くらいしか覚えてない。


「そういうことね……全っ然、理解できなかったわ! でも、それほど心配するようなことでもなさそうじゃない。それに、あんなことが頻繁に起きるなんてありえないわ。解決よ解決! 後はどうでもいいじゃない?」

「天使ベラルーシ、お気楽すぎだよ。肝心の堕天使クロアチアとの関係性は分からないままだし……」


 ベラはシリアにまぁまぁとなだめていた。


「でも、傍から見たら、仮に堕天クロさんの妹でも、それほど違和感はありませんよね」


 セルビアが微笑ましそうにこちらを見て言った。


「いも!? それはわたしが幼く見えるからなの……? ぐぬぬぬぬ、旦那様だんなさま……! 今すぐお部屋に行って二人だけの時間が必要かも……! 事実さえ作ってしまえば……デヘヘ」


 見ればデーニャの口元は緩んでいた。いきなりグイッと腕を引き寄せ、耳元でささやいたかと思えば、僕をどこかへ連れて行こうとする。


「ちょっとクロ! どこ行くのよ」

「天使おサルデーニャ! 良くないよそういうの!」


 当然、ベラとシリアには声を掛けられるわけで。このまま、また進行しない話に巻き込まれてしまう。


「なな、まだ言うの!? シリアルのお子様ランチ!」

「どんな侮辱だよ! 君が堕天使クロアチアから離れれば、言わないさ!」

「ねぇ、シリア? やっぱりクロのことが――――――」

「ち、ちちち、違うよ!? 違うから!」


 ベラシリアデーニャの話の攻防、そこに参加して仲裁するような勇気はない。

 今はセルビアさんだけが、事態を収束させてくれることに期待するしかないな。あ、ついでに祈りの視線でも送っておこう。


「あの~、皆様方。先ほどから堕天クロさんが私を卑猥な目で見てくるのですが……」


 ちょっと? そんな風に見た覚えはないよ?


「なんですってぇ!? 犯罪じゃない!?」

「堕天使クロアチア! どうしていつもいつも君は女性によこしまな視線ばかり!」

旦那様だんなさま……わたしもそういうのは逮捕級だと思う……」


 本議会の議題は全会一致で可決されま――――――って待てやオルァ!?


「――――――というのは冗談です。皆様にお話があって」


 セルビアは笑みを浮かべる。


「何よ、もう……早くそれを言いなさいよね。日常茶飯事なんだから疲れちゃうじゃない」

「なんだ、冗談なんだね……でも、前科がね」

「知ってたよ……! 旦那様だんなさまはそこまで不埒ふらちじゃないって信じてた……!」


 つくづく失礼だなちくしょう。


「あの、サルデーニャさんも加わるということで、皆様の通貨コインが底を突いて、マイナスになるのですが……また受注してもらってもよろしいですか?」

「あ……」

「……そういえば」


 ベラとシリアは口を開いて唖然とし、思い出したような顔をする。 


旦那様だんなさま?」


 デーニャに関してはどこまでこの世界での生活知識を持っているのか、見当がつかない。

 とりあえず、明日からは落ち着いた使命を果たす日々が、今度こそ本格的に始まる。






 ――――――と信じたい。


挿絵(By みてみん)

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