400号室へ。
「……」
何か、間違ってはいないだろうか…。
水城はごくりと息を飲んで部屋に鞄だけを投げ入れると、一度大きく深呼吸をしてからゆっくりと玄関を出た。
私服に着替えるのは面倒くさくて、私服に着替える時間さえももどかしくて制服を纏ったままエレベーターに乗り込んだ。
行き先は四階の400号室。
姉と妹の住む部屋の隣に奴は住んでいるのだという。
あんな変態が隣に住んでいてよく何の被害も被らなかったものだ。
なんだか理不尽な気持ちになる。
(一つ下の俺はこんな目にあっているというのに…)
いわゆるセクハラというやつを男から受けている。
これって訴えられるのではないだろうか…?
そんなことをふと思う。
が、それほど悪い奴ではなさそうだし、余り事を大きくしたくはないのでしない。
第一色々面倒だ。
そんなことに考えをめぐらせていると。
ウィーン…。
無機質な機械音が響いてエレベータが止まり、ついで静かに扉が開いた。
水城はここでまた一つ息を大きく吸い込んで息を吐き出す際に肩の力まで抜いた。
そして、だらんとみっともなく下がった肩を引き締め、いざ行かん!とばかりに力強い足取りで男のいる部屋への第一歩を歩みだした。
水城にはそこまでの勇気と覚悟がいったのだ。
そりゃ、あんだけ全開で冗談でもないような感じで迫って来られたらさすがの鈍感でも危機感は覚えるだろうて。
いや…水城が鈍感かどうかはまた別としてだな…。
どきどきどきどきどきどき……――。
「……」
おそらく心臓が口から飛びだしそうとはこのことを言うのだろう。
恐る恐ると伸ばされた指は軽くその感触を確かめて、ゆっくりとためらいがちに恐々とそれをプッシュした。
ピンポーン…。
「――……!!」
今更なのだが押した後で、『ああ、押してしまった』と目の前の扉が開く前にあわてて身を翻してしまいたい衝動に駆られる。
水城の勇気と覚悟はエレべーターを降りてすぐの部屋に行くまでにどうやら完全に萎えてしまったらしい。
なんて情けない話なのだろうか。
(…うわぁああああああああ…――!!)
内心大パニックである。
そんなこんなで水城の心境は混乱状態にあるなか、ドアは開いた。
ガチャリと。
「……っ!!?」
そこからでてきたのはもちろんあの男なのだが。
その姿に…水城は目を剥いた。
「…いらっしゃい」
「いらっしゃいって…お前、なんで上裸っ?!」
「なんでって…決まってるだろ。水城をこの肌で直に感じ取るために♪」
「な…!」
その瞬間、やっぱり開けていいことはなかった――そう思った水城だった。




