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俺とお前。  作者: 水晶
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 「ギャー!ギャーッ!触んな、馬鹿。あほッ!!」


 「も〜兄ちゃん、うるさいよ。その色気のない叫びはどうにかなんないの」


 双葉が水城を押し倒した状態で目を眇め、「この状況で、その叫びはないんじゃない?」と、不満も露に頬を膨らませる。


 「なるかーっ!!なってたまるか!」


 水城がぎゃーぎゃーと、双葉の下でわめく。


 が、双葉はそれを無視して、クスリといやな笑みを浮かべた。


 「まぁ、叫ぶ子を黙らせるのも好きだけどなぁ。てゆーか、色気のない叫びを上げる子をいたぶるのが得意♪…なーんてね」


 「!!」


 言っちゃったーッ!!


 こいつ言っちゃったよ!


 コイツ、本物だ。


 真正サディストだ。


 双葉の本物さを示す台詞を聞いた途端、水城の体がぶるりと震え、全身に鳥肌が立った。


 なーんて…と落してたけど、双葉がそれを言うと正直洒落にならないと水城は心底思う。


 「兄ちゃんは顔だけは可愛いからなー。いつか絶対誰かに襲われるタイプだよね?気をつけないと、そのうちホントに通りすがりの奴にでもテーソウ奪われちゃうからねー…って、何。その顔は…――まさか!もう襲われてたりするの…?!」


 「え…ま、まさか!あるわけないじゃん!!」


 一瞬、あのエレベーターでの一件が頭を掠ったが、そんなことは口が裂けてもいえない。


 むしろこの状況で、この弟にだからこそ言えないと言ってもいい。


 水城がぶんぶんと、首を横に振る様子をじっと見て、双葉は不機嫌そうに眉を顰めた。


 「…兄ちゃんはさ、大体無防備すぎるんだよ」


 「無防備ってお前…――俺のどこを見て言ってんだよ」


 「今だよ、今。こうして弟の僕に簡単に組み敷かれているところ」


 「……」


 じろりと、据わった目で不遜な態度を改めない双葉を水城は睨む。


 だが、やはりというかなんと言うか…――。


 サディスト双葉にはそれはちっとも効かず、むしろ更に喜ばさせる始末で。


 にやっと口元が緩んで、いたずらっ子のような無邪気で、その実無邪気じゃない笑顔を近づけてこられて、水城は今度こそヤバイと思った。

 

 「ぎゃはーっ!!」


 キスされる――と、目をぎゅっと瞑るが、だが、水城の開いた口から漏れるのは先ほどと変わらない色気のカケラもない叫び。


 双葉の息の暖かさを感じるくらいに距離が縮まったとき、唐突に部屋のドアがガチャリと開けられた。


 「え……?」


 目の前の光景を信じられないとでもいうような声が、ぴたりと双葉の動きをとめた。


 「…な、にしてるの、双葉…」


 部屋にやってきた人物の二言目に発した声がかすれて聞こえて来たが、双葉の体が上にあり、そのためそれが邪魔で表情がよく見えない。


 水城はそろりと目を開けて、反射的に入り口のほうを上目でみやると、そこにいたのは青い顔の弟、梓だった。


 梓は双葉と双子の弟で、性格は一言で言うと…泣き虫。


 十五の男が、泣き虫、である。


 しかも、超がつくブラコン。


 これってどうだろうか?と、本人は何も思わないのか、指摘したところでそれは一向に直ろうとはしなかった。


 それが今、この状況にやってきた。


 果たしてこれは水城にとって幸か不幸か――双葉にとってはドアが開いた時点でたとえ誰であろうともう完全に不幸――。


 じーっと、そのままの状態で水城と双葉が梓を凝視していると、梓の青い顔は徐々に赤くなっていき、しまいには涙がポロリと潤んだ瞳から零れた。


 そして、水城と双葉をびしっと指差してわめきだした。


 「双葉が水城兄と浮気してるー!!僕だけって言ったのに、やっぱアレは嘘だったんだー!」


 「はっ!?梓に何言ってんの、お前!」


 「…秘密。」


 「秘密って…僕とのことを無かったことにしようとする気なんだね!?わー、双葉なんかもう嫌い…大っ嫌い!愛してるなんて浮気者の言葉を信じた僕が馬鹿だったぁ…!」


 「ちょ、梓!何言ってくれてるの、お前!兄ちゃんに聞かれたじゃないかッ」


 「え?何、なんだ?何が…何を…――」


 その場に座り込み泣き喚く梓と、その梓の言った台詞に焦る双葉と、突然知ってしまった衝撃の事実に混乱する水城。


 それはいわゆる修羅場…に近かった。


 「おー、露人いるかぁ?」


 と、そこへまた誰かやってきた。


 開けられたドアの中へひょっこりと顔をのぞかせ、水城たちを見るなり目を軽く瞠る。


 「お前ら、誰?…てか、何してんの?……あ。そこの組しかれてるお前、久しぶり」


 「は?……って、あんたはエレベーターの男っ?!」


 「うわっ、やな呼び方」


 「「え?兄ちゃん知り合い?!」」


 ひらひらと笑顔で手を振る男をねめつけながら、水城は梓の泣き声も遮るほどの大声で叫んだ。

 

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