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俺とお前。  作者: 水晶
2/9

出会い

 いきなり俺の悲しい愚痴から始まったので、読んでいる人はさっぱり分からないはず…――。

 

 なので、俺と変態との出会いを振り返ってみよう――…俺的には振り返りたくはないんだが。


 ああ、もう本当に最悪的な出会いだったよ。


 あの日はきっと俺の厄日だったに違いない――…そう思い込まなければ、明るく生きていけない…否、納得できない―俺の道が脱線させられたのだから。









 こちコチコチ。


 時刻は午前七時半を回っていた。


 いつもはすっきり朝に目覚めることが出来るはずの水城は、しかし、今日は何故か…なかなか布団から抜け出せなくて、もぞもぞとしていた。


 さすがにもう起きなくてはと、起きなければ遅刻すると分かってはいるのだが――。


 何故水城が時計も見ずにそんなことを思えるのかというと、カーテンの隙間からさんさんとした朝を告げる光が入っていたからで…。


 ああ、もう嫌だなぁ…と再度布団に潜り込んだとき、部屋に無機質な音が鳴り響いた。


 ――ジリジリじりじりリリリィィいぃ……ンぅ〜〜!!


 セットされていた目覚まし時計が無神経にも騒ぎ出した。


 「…………………ッぅ〜〜!!」


のろのろと腕だけを伸ばして、目覚ましを止める――が。


 ジリジリリリぃぃいいぃぃ……ん。


 再び叫びだした。


 「…………………〜〜っうるさっいなぁあぁぁあああああああっ!!!」


 低血圧でもなく、更にどちらかというと朝に強いはずの水城は自分でも驚くくらい早くにキレた。


 がばりと勢いよく上体を起こすと、何も考えずに枕元においてある目覚まし時計をがしっと手のひらでわしづかみにして、思い切り振りかぶって投げると、そのまますばやく布団に潜り直す。


 がっしゃーん――…。


 何かが破壊された音だけが室内に静かに響き渡った――破壊されたのはもちろん言わずとも知れた哀れな目覚まし時計で。


 それは見事にドアに命中し、ドアにかすかな傷を作った。


 ドアは一応無事だが、水城と三ヶ月ともにした時計は無残にもバラバラで、ところどころに部品の一部が散乱している状態である。


 「ん〜…?なん…だ」


 その最期の衝撃音に完全に覚醒した水城は、こしこしと眠い目をこすりながら上体を起こして最初に見えた光景に、目を剥いた。


 「…うっわぁ!?ぇ、何これ…え。またか、また俺が壊したのか……?」


 あれだけ派手にやっておきながら白々しいのにもほどがある。


 だが、この水城は寝ぼけて壊しているためにそれを言えない。


 しかも、どやらこれが初めてではないらしく、この少年は本当に寝起きが良いといえるのであろうか悩ましいところだ。


 まぁ、兎にも角にも主人想いな目覚まし時計を犠牲にしても尚、寝ていられるほど神経も図太く出来ていないので水城はしゃきっと起きだした。


 ――帰りがけに新しい目覚まし時計を買ってこよう。














 「いってきまーす」


 水城が現在家として暮らしているのは10階建のマンションだ。


 7部屋ずつ一段階に配置されているので、合計で70はある。


 水城は三階の302号室で、三つ上の兄・露人つゆとと二人暮らしで住んでいた。


 ちなみに、一つ上の階の401号室には一つ上の18歳の姉・木芽このめと、16歳の妹のせりが住んでいる。


 もうあと2人兄弟がいるのだが、今年高校受験で大事な時だと実家に居座らされていた。


 双葉ふたばあずさは双子の男の子で、高校受かり次第で同じ部屋に住むことになっているが、水城は家が狭くなるので来なくていいと思っている。


 水城は家で散った目覚まし時計を供養してから身支度を整えると、兄が出て行った後の家をのろのろと出た。


 何故のろのろと出たのかというと、既に遅刻の覚悟が出来ているからで。


 だから、鼻歌でも歌いながら水城はエレベーターに乗り込んだ。


 エレベーター内には、一人の男がいて、年齢は外見からで察するに22くらいだろうか。


 推測年齢22の男は、水城が今まで生きてきて目にしてきた男たちと違って、成人男性独特のむささが感じられず、しっかりと筋肉はついてそうだが、細く体にフィットした服を身に纏い、筋肉質ではないことがわかる。


 それとエレベーターに乗り込んで、一番に目に入ってきて驚いたのがその男の顔だった。


 水城の家族は、水城も込みで揃いも揃って美形ばかりで、そこらにいる中流の美形を見ても、美形慣れのせいで誰かに目を奪われるということは一度としてなかった。


 むしろこちらが振り返られるくらいだったので、一度は自分も振り返るほどの人をこの目で拝んでみたいと思っていたが、まさか、こんなところでその人に出会うとは正直のところ微塵にも思いはしなっかった。


 決して美女のような艶かしさはないが、それとはまた別の意味の艶かしさがこの男から漂ってくる。


 いうならば…そう、大人の男の色気というのだろうか。


 あっちの世界の住人でもなく、更にあえて言うなら、これまでの人生に女っ気が全くなく、女に興味をあまり示さなかった水城でさえも、男の放つ何かに当てられそうで無意識に身を引いてしまう程であった。


 水城は三階からこの箱に乗り込んだが、そのときには既にいたので、この男はそれより上の階から乗ったいたと考えて妥当だろう。


 容姿端麗という言葉がぴったりなその男はエレベーターの手前のほうにいるので、水城は後ろでその背を自由にじっと見つめていた。


 何の揺れもなく、ただ静かな振動音と下へくだる振動だけを感じながら、視線を男から一点に定めたままいると、その男が視線に気づいたのか…水城を振り返った。


 水城はずっと見ていたという後ろ暗さからばっと目をそらした。


 「………」


 「………?」


 振り向いた男は何も言わず、今度は先程と反対に水城が男に見つめられている。


 水城は仕返しかと悪態をつきかけて、しかし次の瞬間目を見開くことになった。


 男がふいに体をかがめたと思ったとき、その自分を初めて見惚れさせた綺麗な顔が近づいてきて『あ…』と、何か柔らかなものを唇に感じた。


 それが何か理解するのにはそう時間はかからなかったが、この状況は信じられず混乱させられる。


 やけに長い時間に感じられたが、実際は一分くらいだったのだろう…長い口付けが解かれ、一番初めに耳にした音は、エレベーターの扉が開く機械音で、次に入ってきたのは水城のこれからの人生を狂わせるきっかけの言葉だった。


 「…お前を抱かせろ――」


 水城の大きな瞳がこれ異常ないほどに見開かれた。


 一瞬の出来事に頭は何とかついてきていたが、本能的にやばいと、思った。


 そして、たった今目の前の名さえ知らぬ秀麗な男から発せられた言葉に冗談かと笑いかけたのに――…。


 「お前を抱かせろ…どうすればお前を抱ける?」


 簡単に逃げ出せないよう腰をぐっとつかまれて、再度耳元でささやかれた台詞に水城はものの見事に固まってしまった。


 そして、ポツリと薄く開いていた唇から頭に浮かんでいた言葉が無意識に漏れた。


 「嘘…だよな?」


 掠れがかかったやや聞き取りにくい声だったにもかかわらず、きちんと返事が返ってきた。


 にっこりと、目眩がしそうなくらい憎らしい笑みとともに…。


 「俺は冗談は言わないよ」


 ――…いいえ。むしろ大いに冗談であって欲しいです。


 背中をひんやりとした何かが伝った。

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