二話
「なんだ嬢ちゃん。俺ら今大事な話中なんだけど」
女だと分かり、舐めてかかっている。それを感じ取ったのか、怒り出す女の子。
「女だって舐めてかかってたら痛い目みるわよ!」
あ。これは駄目なパターンだ。心の中で飛馬は呟いた。どうやら彼女に頼るだけではこの窮地は抜けられない。
「へぇ、じゃあ痛い目見せてみろよ。どんな事が出来んだ?」
小柄な男が挑発する。向こうにも駄目というのは分かられているようだ。
「ま、魔法よ!」
うーん。魔法。確かにファンタジー世界なら有り得るだろう。よく見たらそれっぽい格好をしている。何とかなるかもしれない。飛馬は少し期待する。
「ほらほら、早くしろよ」
さらに小柄な男が煽る。ほかの二人も彼女の方を見ている。先程とは違って明らかに警戒の色が強い。緊張感が路地裏を包む。
「そこまで言うなら見せてあげるわ!」
少女が手をかざす。瞬間、暗闇の中に光が弾ける。が、それ以外何ら変わりなく、そうこれは、「光った」だけに過ぎなかった。
けれど抜け出すチャンスだ。男三人は俺より光源に近かったためにまだ目が良く見えていないようだ。飛馬が前を塞ぐ獣人を押し飛ばして路地裏を飛び出す。
「逃げるわよ、ついてきて!」
走り出した女の子を追う。まだ三人組は追いかけて来ていなかった。
少し先にある噴水広場で二人とも足を止めた。
「ありがとう。助かったよ」
「ふぅ、なんとかなってよかったわ」
「助けてもらったのは凄くありがたいんだが、なんで攻撃しなかったんだ?」
疑問を口に出す飛馬。それに対し少し狼狽えながら答える少女。
「ほ、ほら。いくら悪い人でも、怪我させたら危ない、じゃない?」
「でもあんな自信満々に魔法使える宣言しといてそれは無いんじゃないか?」
「う、うるさいわね!」
明らかに怪しい態度。そこにトドメを刺すように飛馬が言う。
「もしかして……攻撃する魔法、使えないの?」
「ゔっ」
どうやら図星のようだ。その事実を知った途端、飛馬の中の疑問は怒りへと変わった。
「なんでそんな危ないことしたんだ!」
「え?!なんで怒るの?!」
原因不明に見える怒りに驚く少女。しかしその理由は単純だった。
「女の子なんだから自分を大切にしろ!」
飛馬の正義感がここでも出たのだ。助けられたのならまだしも、助けられた身でそんなことを言う飛馬にモヤモヤする少女だった。