O田原提灯マン改めナナシ -4
O田原提灯マン改めナナシ
AM:8:45
晴れの日も雨の日も、会社に向かうサラリーマンの群れで
ごった返すO田原駅構内。
男が一人、O田原駅の提灯のオブジェの下に立つ。
O田原提灯マン認証しました。
コンピュータ音声がメットの中に響く。
さあ、出勤だ。
男の姿は提灯のオブジェに吸い込まれる。
ジャンバーを脱いで、ロッカーから取り出したヒーロージャージに着替える。
スタンバイOKだ!
一日で一番充実している瞬間。
ローカルヒーローとしての一日の始まりだ。
AM:9:00
さて、今日もスケジュールが真っ白。
通信ランプが点灯していた。
ん?通信が入ってる珍しいな。
「えっと、これだっけ?」
もどかしい手つきでスイッチを入れる。
「やあ、ヒーロー生活には慣れた?」
人懐っこい笑顔でモニタ越しに語り掛けてくる青年。
こいつの名前は龍門。
俺をヒーローの世界に導いてくれた男だ。
「まあ、なんとかやってるよ」
頭を掻きながら答えた。
ブラック企業を退社して無職だった頃に、里帰りしていた龍門にばったり出会った。
子供の頃に近所に住んでいて、俺とは違って秀才だった。
俺は多くの友達の一人としか思っていなかったが、こいつは俺の事を無二の親友扱いで正直照れ臭かった。
龍門は友達少なかったのかな?
積もる思い出に花を咲かせた後、ヒーローにスカウトされたという訳だ。
「お前の推薦があったから、ヒーローになれたようなもんだ」
しみじみそう思った。
龍門はヒーローのバックアップ組織の装備開発部の次期幹部候補ってとこだ。
出世街道ばく進中ってとこか。
「でも、先代のO田原提灯マンの東さんの指導を完走して本当にヒーローになるとはね」
メガネを拭きながら龍門は多少呆れ顔だった。
「東さんか、シゴキ半端なかったな」
俺がおじいちゃん子じゃなかったら、三日と持たなかったろうな。
ヒーローになるには、ヒーロー養成所を卒業してヒーローになるのが今の主流だ。
師弟制度を利用する奴は今時皆無だ。
師弟の人間関係が煩わしくて選択肢にも上らないんだろうな。
面接の時に地元希望したのが悪かったのかな。
「あれ、一人?」
殺風景なヒーロールームを見渡して龍門は言った。
「一人だけど、何か?」
龍門の問いに俺はオウム返しに答えた。
「いや、アシスタントさんいないなーって」
不思議そうに龍門は言った。
「アシスタント!」
思わず俺は椅子から飛び上がった。
「あー、アシスタント使わない主義なんだ。昔から一匹狼って感じだったもんね」
悪戯な笑みを浮かべて龍門は言った。
「おい、アシスタントなんて聞いてないぞ!」
俺は思わずモニタに食ってかかった。
「ああ、なんだ申請してないのか?」
龍門は事情を察しているのにとぼけて聞いているようだった。
「申請すんの?」
俺はかなり鼻息が荒かった。
「分かった手配しとくよ、何か希望は?」
笑いを堪えながら龍門は言った。
「アシスタントって、やっぱ女の子だよな」
俺は知らず知らずのうちにかなり声がでかくなっていた。
「ご期待に沿えるようにするよ」
耳を押さえながら龍門は答えた。
「サンキュー!!」
俺は何時の間にかでっかいガッツポーズをしていた。
珍しく明日が来るのが楽しみだ。
PM:17:00
今日も一日平和に終わった。
帰るか。
何時ものようにヒーロージャージを脱いで、ハンガーにかけロッカーにしまう。
通勤ラッシュが始まる前に帰宅の途についた。
2017.01.11