点夜線夜1
深夜になり、いつものようにバイクにまたがり、散策に出かけた。今日は可部の奥までやって来た。
バイクのガソリンを入れるために、セルフのガソリンスタンドに寄り、近くにコンビニがあったのでついでに寄った。
パンを買って、店の前で食べていると、見知らぬ狸に話しかけられた。
「今晩は、ご主人。月の綺麗な夜ですね」
「そうだね」
「ところでご主人、わたくしお腹が減っておりまして、その、あの、その」
そう言って今僕の食べているソーセージパンをちらっと眺めてきた。
「そうか、お腹が減っているんだね」
「そうなんです、お腹が減っているんです」
「欲しいのかい?僕が食べているパンが」
「その、もしご主人がよろしければ、頂きたく思います」
僕は少し考えて、断る程好きな味のパンではなかったので、3分の1程食べかけていたパンを狸にあげた。
「ありがとうございます!ご主人はいい人だ!」
そう言って器用に口に咥えたまま会釈して、
「それでは有難く頂きます」
と言って立ち去ろうとした。
「ここで食べて行かないのか?」
と僕が尋ねると、狸は可愛いらしくくるりとこちらに頭を向け、
「いやあ、家で子供が待っておりますので」
と答えて、それではと今度こそ立ち去った。
もっと早く教えてくれれば、子供たちの分まで何かあげられたのに、と思ったが、すでに狸は闇の中に消えていた。
まあいいかと思い、僕は散策を続けた。