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01


朝早く、エプロンに身を包み。朝食をつくり終わると、左海は近崎の寝室へと向かう。

「おいっ、朝だぞ。起きろ」

 ゆさゆさと近崎の体を揺するが、彼は軽いうなり声をあげると寝返りをうった。

「お前は、学校だろ。ほら早く」

「うぅ、あと二時間……」

「それじゃだめだろ。ほら起きろって」

 寝返りを打って、うなり声を上げている近崎は起きる様子はまったくなく。左海は、ため息を一つつくと耳元に口を近づけ、ふっと優しく息を吹きかける。

「ひゃっいっ!?」

「やっと起きたか、朝だぞ」

 ベットから近崎は飛び起き、息を吹きかけられた耳を手のひらで。かゆそうにごしごしと擦る。

「お前は、相変わらず耳が弱いな」

「分かってるなら勘弁してくれよ・・・・・・」

「起きないお前を起こすには、これが手っ取り早い。それとも」

 顔を近づけ、耳元で小さく呟く。

「それとも、いたずら。してほしかったの?」

 その言葉を聞き、近崎は顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。

「まぁ、冗談だがな。どうだ、目は覚めたか?」

「もうバッチリ・・・・・・目が覚めました」

 ふっと左海は笑うとドアから部屋を出ようとする。

「近崎、お前。顔を真っ赤になんかしちゃって。女好きの癖に子供だな」

 いたずら子のような笑顔を見せて、左海は部屋から出ていく。左海が出て行くのを確認すると、大きくため息をつく。普段は、絶対に言わない女性のような口調で言われ、からかわれていると分かっているのに顔を赤くしてしまい、少しばかり恥ずかしくなった。

「まったく、これがギャップ萌えってやつか。女って本当におっかねえな」

 まだ若干、近崎の頬はほんのりと赤く染まっていた。



 近崎は、食事を終え。少しあまった時間、くつろいでいると少しばかりそういえばと一つ思いつく

「そういえばさ、俺って今何歳なの?」

「ん? そういえばいくつだっけ?」

「はっ? いや、左海ちゃんが俺は10代後半だからって」

「いや、お前のその顔。童顔だから。正確には私にも分からん。ってか忘れた」

「忘れたって。長く俺と一緒にいたなら覚えといてくれよ」

まったくと近崎は言うと、ソファーに横になる。それを見た左海は、食器を洗うのを中断するとソファーへと歩き。上から近崎の頬をつねた。

「寝ようとするな、さっさと学校に行ってこい!」

「ひだだっ! わひゃった! わひゃったからっ!」

その言葉を聞き、左海は頬から指を離す。凄い力で引っ張っていたのが分かるように。つねられた頬は赤く染まっていた。

頬を近崎は、撫でると上から見下ろしてくる左海の視線に押され、ソファーから起き上がりカバンを取る。

「ったく、左海ちゃんは。俺の母さんか」

「誰が年増だとっ!」

「そんなこと言ってねぇ!」

低身長な左海は、本当は首を締め上げてやりたかったが。身長差のため、仕方なく断念し。ぐるるると狼のようなうなり声をあげるのに留まった。

「帰ったら覚えていろよ」

「はいはい、いってきます」

ガチャと縦に長いドアノブに手をかけ、学校へと向かった。玄関には、先程の怒気をあげていた左海の姿はなく。左海は、少しばかり寂しそうにドアを見つめている。

「母親か……。ふっ、じゃあ子供の帰りを待つ母親らしく家事でもするか。まずは、洗濯と」

左海の容姿も相まって、その姿は母親というよりは父親の帰りを待つ健気な娘の姿にも見えた。



左海に見送られ、近崎はいつもの道すがら。正直、学校だるいなと思いながら歩いていた。

すると後ろからドンッと何かがぶつかる。

「うおっ!」

「よっす、元気か? 至道。っとその顔は、元気じゃないな? よし、ここはもう一発景気付けに食らっとけ!」

「馬鹿野郎っ! いきなり魔力を放ってくる馬鹿が、どこにいるんだよ!」

「ははっ、何いってんだよ? 目の前にいるじゃん」

ニカッと白い歯を見せ、親指をグッと立てた。

少年の名前は、眩玲一まばゆいれいいちという。体つきは、中肉中背という感じで。筋肉をつけすぎず、つけなさすぎていない。ちょうど良い体つきをしていた。眩という名前とは違い、黒髪をしている。

「いやいや、金持ちと覚えの悪い俺らにとっちゃ。魔法よりも遥かに使い勝手の良い最大の武器だと思うんだ」

「なら、そんな危ないものを後ろからいきなりやるなよ」

「ははっ、大丈夫。お前だから」

彼らの会話の通り、二人は仲良しであり今の近崎にとっては、唯一の親友と呼べる人物と呼べる人物であろう。

二人は、じゃれあいながら学校に向かっていると学校近くの踏み切りで遮断機が降り、立ち止まる。

「はぁ、俺も簡単に魔法が使えるようになりたいぜ。いいな~」

「なら、あの中央時計塔にでも行けばいい」

近崎が、指差した場所には大きな時計塔がそびえ立っている。時計塔には、魔法を料金によって強制的に習得インストールする装置がある。学校に通えば、授業料はかかるが。様々な魔法を習得することができるが、覚えの悪い人間はなかなか習得することができない。

そのため、覚えの悪い人間にも魔法が使えるようにと製造されたのが時計塔である。

「だから金がかかるんだって。火の魔法なんて一つ習得インストールすんのに十万だぞ」

「なら、真面目にやるしかないさ」

その時、ふわりと風がなびく。

風に運ばれ、春を感じさせる桜の香りが。近崎の鼻孔をくすぐった。

香りのする方に向くと、そこには近崎と同じ曲ヶ丘高校生の指定の制服に身を包んだ。一人の少女が立っていた。

絹のような黒髪、雲のような真っ白な肌、まだ成長途中でありながら大人への成長を思わせる体つき。そんな一人の少女が立っていた。

すかさず、近崎は自分の頭の中にある。学校中の女子と照合するが。やはり初めて見た顔だった。

とりあえず声をかけようとするが、近崎よりも数倍早く玲一が動く。

「君、見たことないけど。何年生?」

「えっ? えっと、今日転校してきたので……。あの。その人とは知り合いですか?」

「へっ? 俺?」

少女は、近崎を指差し。玲一に尋ねるとそうだけどと答えた。すると少女は、肩に掛けていたバッグを漁ると中から手紙を出し。それを玲一に預けると遮断機が上がり、少女は一礼すると駆けていった。

「おい、至道。あの子と知り合いか?」

「いや……。身にも覚えは」

ないとは言えなかった。無くしてしまった記憶の中にもしかしたら彼女に関することがあったかもしれない。そう思うと肯定することは決して出来なかった。

「どうした? 至道?」

「いや、なんでもない。それよりさ、その手紙」

「んっ? あぁ、お前宛てみたいだしな」

ほらっと渡された封筒には、近崎至道さんにと書いてあった。自分の名前が書かれていることから、やっぱり過去の自分。覚えていない時に知り合った人物だと感じ、封筒をあけると綺麗な文字で、体育倉庫で待っていると書かれていた。

「なっ! ラ、ラブレターだとっ! 絶滅してなかったのか」

「いや、そんなに驚くことないだろ。紙とペンは未だにあるんだから」

「いやいや、今なら魔法とかもあるし! そんなものに頼らずとも」

「魔法がほとんど使えないお前が言ってもな」

「ってか、ラブレターを転校初日に貰うとか……。やっぱり知り合いじゃねえか! 吐け、いつ知り合った!」

「ぐうぉぉっ! し、知らない……」

ヘッドロックをきつくかけられ、近崎の首がきつく締まり。呼吸ができず、顔が青ざめていく。

「ほら、吐け! 吐くんだ!」

「うっ……あ」

ガクリと力なく。だらりと両腕を垂らす。

「あっ、しまった! おい、起きろ! 起きろ至道!」

両の頬をベチンベチンと強い力で叩かれている近崎をあの少女は、物陰からこっそりと見ていた。

少女は、物陰でふっと笑みを浮かべた。

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