はじめてのせんとう
気付いたらブックマークついてた!
つけてくれた人!ありがとうございます!
「どこからでもかかってきなさい」
藤堂を挑発した。
そして、その言葉通りに、藤堂はどこからでも打ってきた。
「ガァァアッ!」
頭を、首を、右肩左肩を、右腕左腕を、胴を、手首を、太ももを、足首を。
それらを全て別の方向から打っている。
切り上げるように、降り下ろすように、横に薙ぐように。
が、しかし、それらは全てビルさんの剣で弾かれてしまっていた。
「いい動きです!」
「ハァッ、ハァッ。……っち、全然当たんねぇ!」
「いえいえ、最初でここまでできるというのも、なかなかいませんから」
流石にこのままではいけないと思った藤堂は、攻め方を変え、突きを繰り出す。
「ハァッ!」
「っと」
が、そんなのは想定済みだというかのように、藤堂の突きを簡単に弾いた。
「クッ!」
そのせいで、藤堂は体勢を崩してしまった。
「がら空きですよ」
「グゥッ!」
そこを、木刀で、前のめりになっている藤堂の脇腹を、殴る。
殴られたら反動で、藤堂は床に転がった。
「す、すいません。手加減しようとしたのですが……」
「なめんなぁぁっ!」
「えっ!?」
脇腹を殴られたはずの藤堂は、殴られたらことをものともしないかのように、すぐさま上体を起こした。
そして、木刀を上から下へ降り下ろす。
が、ビルさんは、紙一重でそれを避けていた。
「くっ!」
「そんな棒切れいくら打ったって、少しもダメージになりゃしないぜ!」
嘘、である。
実際はかなり痛いはずだ。
その証拠に、藤堂は少し脇腹を庇うよう構えていた。
「ふふっ、なるほど。流石勇者様です」
ですが、と続ける言葉を待たずに、藤堂はビルさんの懐に入っていた。
そのまま、その持っている木刀を振り上げるのかと思いきや、
「グハッ!」
気づいた時には、藤堂は飛ばされていた。
「やはり武器の扱いは不慣れですね。はっきり言って、素人です。まぁ、最初でここまで扱えれば、かなりいい方なのですがね」
このままでは、私もすぐ追い抜かれますかね……と、ビルさんは言う。
で、当の藤堂はというと……
「シッ!」
ビルさんの場所まで一瞬で移動し、今度は横に振り払うように木刀を振り払う。
「おっと」
それを、ビルさんはバックステップでかわす。
「まだまだ勝負は続いてるんだよなぁ!」
「……これ以上続けるというのなら、少し手加減が出来なくなりますよ?」
これまでにないような威圧を放つ、ビルさん。
あれ?ちょっとヤバくない?
なんか二人共ヒートアップしてきてません?
「「ハァァッ!」」
「ちょちょちょっ!ちょっと待って!」
が、僕の声なんて聞こえてませんよと言うかのように、戦い続ける二人。
ヤバい、このままじゃ本格的にヤバい!
「コラァァァッ!」
と、そんな二人を止めるかのように、いきなり闘技場の中央に現れ、戦闘を止めさせる女性。
彼女の外見は、まさに美人と言った顔立ちで、流れるようなブロンドの髪を持っていた。
さらに、あの召還された時のような、魔法使いのローブを着ていた。
「ちょっとビル!なに、素人相手に本気出そうとしてるのよ!いくら勇者だからって死ぬわよ!」
「ご、ごめんよ。ライちゃん……」
「ら、ライちゃん言うなぁー!」
「だって、僕を相手にしてあそこまで粘ってきた戦士なんて久しぶりだから……」
「あんたがかなりのバトルジャンキーだってことを知っているから私が来たんでしょうが!」
「ご、ごめんなさい」
慌てて土下座しだす、ビル・レオナルドさん。
なんか、イチャイチャしだしたんだけど何あれ? 爆発させていいの?
「あ、あの。いきなり現れましたが、誰ですか
貴方?」
未だに困惑気味の藤堂が、戸惑い気味に問う。
「ん?ああ、僕の幼馴染みでこの城に魔法使いとして仕えている、ライラック・ライナーちゃんです」
「だから、ちゃん付けはやめてって、言ってるでしょ!」
「だって、小さい頃から一緒だったんだからさ。いきなりやめてって言われても簡単に変えられないよ。大体僕が王国の騎士になるって言ったときも…」
口調すら変わった状態で旧友との話に興じているビルさん。
この二人を見て、隣から怨念の籠った舌打ちが聞こえてきたような気がした。
「「「チッ」」」
訂正、聞こえてきたようだ。
「全く、いつもいつもライちゃんは僕のことばっかり構ってさ。そんなんじゃ、いい男見つけることすら出来ないよ」
「あ、あんたがいるからいいもん…!」
「へ?何か言った?」
「な、何でもない!」
「「「チィィッッ!!」」」
さらに訂正、怨念の他に殺意と嫉妬と呪いが籠っている舌打ちだった。
「俺は一体どうしたらいいんだろう?」
この二人を前にしていた藤堂が、手持ちぶたさになっていた。
「あ、すいません。トウドウくん。合格です。まぁ、合格不合格ないんですが」
「確かに、ビルを相手にあそこまで粘ったのって、久しぶりに見たわね」
「ね、だから言ったでしょ」
「得意気にするな!」
「ごめんなさい!」
なんだろう。あの二人を見ていると、ほっこりする気分と同時に殴りたくなる衝動に狩られるんだけど、なんだろうこれ。病気かな?
(大丈夫だ。夏樹。俺も今そんな感じの気持ちだ)
(こいつ、脳内に直接……!)
そんな風にイチャイチャしている二人を見ていると、
ゴーン。
というような、鐘の音が聞こえた。
「この鐘は、一日の朝、昼、夕方の三回に鳴らされます。では、今日はこれで授業は終了して、明日から頑張りましょう」
あ、やっと終わったんだ。
「これから夕食になりますので、勇者様方はライちゃ…ライラックさんから部屋を聞いて、そこでお待ちになってください。時間になったら呼びにいきます」
僕らは小学生よろしく、はーい、と間延びした返事で答えた。
というか、これでやっと一日が終わったのか。
かなり濃い一日だった。
さてと、さっさと部屋にいって休もう。
僕は、少しボーッとなった頭で、そんなことを考えていた。