勇者参戦
全く、面倒なことになったとつくづく思う。
僕は戦うのは嫌いだ。
スポーツで試合するのも嫌だし、ゲームで人と戦うのも嫌いだ。
なんというか……勝ち負けがあること自体が嫌いなのだ。
そもそも、平和な国日本で生まれ育った僕には魔王と戦う、もとい戦争をするのはかなり酷な話だ。
だいたいそんな経験すらない。
脳内で超能力系ダークヒーローを気取っていても現実は違う。
僕だけでも拒否させていただきたい。
「なぁ、みんな」
む、その声は……委員長?
「なぜ、僕たちはこの戦いに巻き込まれたと思う?」
いつもはあまり前に出るような性格じゃないのに……何かあったのか?
「僕たち勇者は。伝承によると、すごい力を持っているらしいんだ。ですよね、王様。」
こくり、とうなずく王様。
「僕たちは、この戦いに参加する理由なんてないと思う。少なくとも、僕は思った。だけど、だけども、僕らは。強大な力を持っているらしいのに。この国を、この世界を見過ごしていい筈がない」
なぁ、みんな? と続ける、委員長。
ああ、そうか。そうだよ。
委員長はあまりしゃべるような性格でもない。
だけど、正義感だけはかなり強かった。
僕は、不良に絡まれたことがある。
不良に絡まれていた生徒を助けようとして、逆に絡まれた。
もちろんボッコボコにされた。
一応反撃したけど、あんまり意味はなかった。
三対一では、当然だ。
そこに、委員長が先生をつれてやって来た。
あのとき、委員長が気づかないふりをしていたら、僕はさらに怪我を負っていただろう。
以外にも、たよりになる人なのだ。
そんな委員長が、目の前の困っている人たちを気にかけない訳がない。
「僕は、この戦いに参加する。前の世界では、持っていなかった力を、困っている人たちを助けるために……ここで使う……。僕は、前のような非力な僕じゃないんだ。みんな、僕に力を……いや、命を預けてくれ」
委員長は、前の世界では絶対に言わなかっただろう言葉を、力強く言った。
「みんな、お願いだ……」
ここまで言った委員長を、蔑ろにするやつはいなかった。
戦いに参加するかなんて、言わずもながだ。
「全く、しょうがねぇな!」「へへ、委員長にそこまで言われたら、なぁ?」「みんな!この世界を魔王から守るわよ!」「「「ウオォォォォ!!」」」
「み、みんな…!」
委員長の目から涙が流れる。
……なにこれ。茶番?
そう思ったけど、みんなやる気がありそうなので一応僕も乗っかっておく。
「……なんだこれ」
「みんな回りの雰囲気に酔ってるね……」
「私、戦うのはちょっと……」
「ハァ……。ダメだこりゃ」
藤堂、蒼井、神崎さん、鈴野さんは納得いかないようだった。
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「それでは、まず勇者さま方のステータスを確認したい。心のなかでステータスと念じてみてくだされ。もしできないようでしたら、声に出すことでも発動するであろう」
ステータス?
この異世界にはステータスという概念が存在したのか。
(ステータス)
心のなかで念じてみたが、なにも起きない。
だが、回りのクラスメイトはそうでもないようだった。
「うおっ」「え、なんだ、変なのが出てきたぞ」「なんか数字が書いてあるように見えるけど…」
みんなの前に自分の能力が、数字となって表示された。
ゲームみたいだ。
例えば、藤堂なんかだと…。
ワタリ・トウドウ Lv.1
[戦士]
筋力 1800
体力 1800
頑強 900
魔力 100
器用 50
敏捷 900
幸運 100
称号 勇者
みたいな感じである。
高いのか低いのか分からないが、とりあえず魔力と器用は低いんじゃないか。
そう思って、王様の方を見る。
が、王様は感心したような顔で藤堂のステータスを見ていた。
「ほう、これはなかなか…」
「このステータスって高いんですか?」
藤堂が王様に訪ねる。
「高いなんてレベルの話ではないぞ、トウドウ殿。普通の人間が二桁、良くても三桁程がステータスが一般的であるのに対し、まさかLv1でこの強さとは…。ほとんど化け物といっても遜色ないですな」
「そ、そうなのか?」
自分の手を見つめてにぎにぎと開けたり、閉じたりしている藤堂。
まぁ、自分の体にそんな力があったと言われたら気になるよな。
ちなみに、王様の隣に座っていた女性は欠伸をしていた。なにあの人、いる意味あるの?
と、ここでチラリと、藤堂がこちらを見る。
「お前は見ないのか?」
「へ?」
おっと、そうだ僕はまだ自分のステータスを見ていなかった。
念のため、もう一度心のなかで念じてみる。
(ステータス)
……なにも起こらない。
まぁいっか。別に不自由はないし。
なんで発動しないか気になるけど。
「ステータス」
僕のステータスが表示される。
ナツキ・ハルハラ Lv1
[魔法使い]
筋力 50
体力 30
頑強 50
魔力 100000
器用 100
敏捷 50
幸運 100
称号 勇者
僕はスッ転びそうになった。
10.29
いろいろと修正