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DICE  作者: 火水 風地
2/10

開始されるのか?

 ダイスについて俺が知っている事は恐らくは彼女の知っていることに直結するだろう。たぶんその逆も同じことだと思う。


 「ダイスが本当に行われるのかはっきりと言えないけれど、開始日時は明日のはずだから一日待てば分かるんじゃないかな」


 「そ、そうですよね」


 彼女はその端正な顔に一時、作り笑顔を浮かべてから沈み込むようにゆっくりと顔を伏せていった。


 明日まで待つとはいっても、俺にとって苦しむ妹のためになにもできない一日というものは耐えがたいものであった。その日々に終止符を打つために俺はここに来た、ということを俺はもう一度深く頭に刻み込んだ。


 「私、ひいらぎ真理まりっていいます」


 彼女はしおれた花のように伏せていた顔を、こちら側に傾けてそう言った。彼女の顔を初めて直視した俺は、その瞬間に自らの想い出の中から大切な人物を引き上げた。


 今のやつれた妹の容姿とは被ることはなかったが、彼女、柊の容姿は俺の妹が病にむしばまれる以前の姿にうりふたつだった。


 「…………」


 「ど、どうかしましたか?」


 よく聞けば声も少しだけ似ている気がする。どうして今まで気付かなかったのだろう。いくらしっかりと見ていなかったにしてもそれはおかしい。……もしかしたら既に俺の中での妹の姿は柊のように健康的なものではなく、病で窶れてしまっている苦しげなものにすり替わっているのかもしれない。


 「あの、本当に大丈夫ですか?」


 「え……ああ、うん。大丈夫」


 俺は暫く思考に浸ってしまっていたらしく、柊の言葉が耳に入ってこなかった。彼女はそんな俺を気遣うように整った眉をほんの少し寄せていた。


 「あの、貴方のお名前は……」


 「ああ、ごめん、俺は長谷川はせがわっていいます」


 彼女は俺の名前の先をうながすように、ただ頷きながら黙っていた。


 「下の名前は……瀬理阿せりあ


 「なんてお呼びすれば……」


 「長谷川でいいよ。あの名前嫌いだからさ」


 「そうですか、じゃあ長谷川さん、私のことは真理と呼んでください」


 「あ、うん」


 そう返事を返してしまったが、とてもじゃないが初対面の人をさん付けなしで呼ぶことはできない。それは置いておいても俺には柊に確認しておきたいことがあった。無論、ダイスのことでだ。さっきはそのことについては訊かなくても変わりないと思っていたが、やはり何かしていないと気が落ち着かない。


 「……柊さん、でいいかな?」


 「え、あ、はい、いいですよ。それでなんです?」


 俺はダボダボとしたジーンズのポケットから、ダイスについての情報を書き込んだメモ帳を颯爽と取り出す。


 「ダイスについて確認したくて……」


 「……そうですね、そうしておいた方がいいと思います」


 彼女は木箱の上から跳ねるように降りると、俺の真正面にそそくさと来た。一人だけ座っているというのもなんなので俺も木箱から降りることにする。


 「ダイスっていうのは参加する人が賭けの対象になるゲーム……賭けごとなんですよね?」


 木箱をきしませつつそれから降りた俺に、柊はそう問い詰めるよう訊いてきた。


 「うん、詳しいことはメールには書かれていなかったけど、そうだったと思う」


 小柄な彼女は、それに比例する小さな顎に手を添え、考え込むようにしながら言葉を紡ぐ。


 「それで、そのダイス……たぶんサイコロゲームのことですよね? それをクリアできたら【大金を手に入れれるかもしれない】んでしたよね?」


 なんだか尋問されているような気になってきた。それでも、汚れた風に長い髪を遊ばせている柊の声は柔らかいものだった。


 「そう、【手に入れれるかもしれない】んだよね。どういうことなんだろう?」


 当然の疑問を口に出した俺は、無意識に首を捻っていた。


 「……たぶん、クリアした人にだけ大金を手に入れるためのチャンスが与えられるというのと、クリアする上で何か条件を満たした者にだけ大金が与えられるのと、どっちかだと思います」


 「それと、始めからそんなものないっていうのもあるね」


 自分で言ったことが余りにもネガティブすぎたということに気づいた俺は多少後悔したが、悪い意味で捨て切れない可能性、も言っておくべきだと思い直した。


 「どっちの意味でですか? 賞金が出ないっていう意味でですか? それともダイス自体が始まることのないゲームだという意味でですか?」


 彼女の気に触ってしまったらしい。


 「ごめん……それでも、そういうことも考えておかなくちゃ……君、柊さんも僕と同じように時間を無駄にできないんだろう?」


 「……はい。でも、私はダイスは絶対に開始されると信じてますし、賞金も絶対に用意されてると思います」


 彼女のその早送りの発言には明確な自信が溢れ出ていた。今にも消えてしまいそうな程勢いのない街灯の光に、うっすらと照らされた彼女の瞳からは決意の色が見て取れた。


 


 

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