9話:無力と最強
換気扇を通り、そこの通路を行くと、秘密の二階の部屋にたどり着いた。
「この扉の向こう」
躊躇なく、園生美咲は扉を開け放った。
「ちょ、いきなりかよっ」
神島竜騎もそれに続いた。
そこは一つの部屋。
物置のようにも見えるが、生活するための最低条件は整っている。
「てめぇらなんなんだ?」
ギロリとこちらを睨んだのは少年。
中学生にしか見えないその少年から、考えられないオーラが滲み出ている。
「私らは『ドロップ』。まぁ、彼は一応まだ関係ないけどね。私は園生美咲」
「『ドロップ』だと? ほぉ、俺たち以外の少数グループってわけか」
少年はふっと笑う。
「俺は単崎将。『アウト』のリーダーだ」
リーダー。
つまりトップだ。
(嘘だろ……。いきなり一番強いやつに当たっちまったのか!?)
竜騎はかなり焦る。
リーダーなんて、どのグループでも化け物レベルに違いない。
「美咲、退こう!」
竜騎は美咲に声をかけたが、まったく返答をしない。
「退くだと? 甘っちょろいなぁおぃ……。逃がすわけねぇだろうが!!!」
ぱっ、と景色が変わった。
周りには何もない。
床すら何もない。
まるで、四次元の中にいるようだ。
「なんだこれは!?」
竜騎は叫んだ。
バランスもとれない。
下がどこで、上がどこなのか、それすら分からない。
「てめぇ、何者だ?」
「私は『ドロップ』副リーダーだよ」
「はぁ、なるほどなぁ。どーりで後ろのガキとは違って顔色一つ変えねぇわけか」
あきらかにあちらの方が年下だ。
しかし、そんなことを言っているひまもない。
「俺の能力は、なんでしょおか!?」
人体が出せる力をゆうに越え、とてつもないスピードで美咲に向かう。
「くっ……」
どこを蹴るともなく、トンと足先でたたいた。
『時間転送』(タイムトランス)。
あらゆる時間を切り取り、転送する力。
美咲は消えた。
実際は自分の時間のみを切り取り、未来に飛んだだけだ。
単崎の攻撃は空をきり、後ろに回られた美咲を見る。
「はっ、こじゃれた能力だな」
もう2人の視界には、竜騎は入っていない。
そもそも、このような異世界状態の空間で、何を何から錬成できるかも分からない。
「ガキ、お前の『素材錬成』は知ってるぜ。お前の力は、この空間じゃ使えねぇよ」
さも竜騎の考えていたことを読んだかのように言った。
「あんた、強そうだな。ここで殺しちまったら楽しみがなくなるなぁ……。そのガキ連れて、さっさと逃げろ」
なぜか、単崎は逃がすと言い出した。
逃がすわけないと言った前言を、楽しみ一つだけで覆した。
「そぉだ。あんたの力だけ知っちまったら不公平だな。俺の力は『限界の調整』だ。次会ったら、必ず……」
単崎はにやりと笑って言った。
「殺すぜ」
「っ……」
美咲の力で、竜騎たちは外へ出た。
ビルに入る前に戻したようだ。
「あの単崎とか言う奴、どんだけ強いんだよ……」
竜騎はため息をついた。
「上出来だったよ。情報が得られたしね」
「俺、なんもできなかった」
「まぁ、リーダー相手に戦えってのも無理でしょ」
確かにその通りだ。
「竜騎は、フェリーアをしっかり守りなよ」
竜騎は頷くしかなかった。
そして、あまりの無力さに腹が立った。
(強くならなきゃ、守れない)
竜騎は強くなりたい理由が、また一つ増えた。