12話:パスワードと戦い
神島竜騎は部屋に1人になった。
「パソコン……」
机にあるパソコンを見る。
患者の名前と能力リストがずらりと並んでいる。
「脳の共有率、83%」
表示されている、リミット。
100になれば、共有された脳とどこかにいるフェリーアを使い、何が起こるかは分からないが、たくさんの犠牲者がでる。
「くそっ、やってやる!」
一方、単崎将が創り出した四次元球体の中。
「ほぅ、『アウト』のリーダーはこんな力を」
獅子鹿央は驚くでもなく、しっかりと力を出せるか確認している。
「おい、女」
単崎が隣にいる園生美咲に声をかけた。
「邪魔すんじゃねぇぞ。てめぇは後だ。先にあいつらを潰すぜ」
歓喜の声を今にもあげそうな単崎に、美咲はゾクッとした。
確かに、鹿央の強さは知っている。
その彼が認める『ダウン』のリーダーも相当だろう。
そして、単崎もだ。
おそらく『日本学園』の最強たちが集まっている。
(私じゃ、太刀打ちできない……)
自分もたいそうな力を持ってる。
クラスはψ。
学園内トップ20には入る。
しかし、美咲の『時間転送』は戦闘向きではない。
(見てることしか、できないのか――――)
美咲は唇を噛みしめた。
「フェリーア!!」
部屋で叫んでも、虚しく声が響くだけ。
パソコンをどう触っても、画面のパーセンテージは止まらず増え続けている。
「くそっ!」
あと12%。
どうする……。
解除ボタンを触れてもパスワードを入れなければ止められない。
パスワードではないと分かっていても、とにかく何かを打ち込む。
出てくるのはエラーの文字だけ。
(パスワードは何だ……?)
落ち着いて考え直す。
これまでに出てきた単語といえば、『装置』や『部品』、あとは個々の能力の名称。
パスワードらしき言葉は思い浮かばない。
「くっそぉ!!」
もう残り5%を切っていた。
美咲は蚊帳の外になっていた。
単崎は1対1で鹿央と戦っている。
相手にチーム意識はないらしい。
協力するべく陣野光秀が動く気配はまったくない。
「ぐっ……」
単崎が再び鹿央を吹き飛ばす。
簡単な話、単崎の力が鹿央の『硬度強弱』の能力により、皮膚の硬度が強、単崎の殴る力を弱にして防いでも、単崎はそれを上回っている。
「おらおらどしたァ!?」
どんどん攻撃回数が増える。
途中、右拳が鹿央の左頬にヒットした。
「ぐあぁっ!!」
単崎の拳はめりこみ、鹿央を吹き飛ばす。
「なるほどなぁ……。てめぇの力、視界の範囲内でしか発動できねぇのか」
「……!」
単崎は早くも鹿央の弱点を見つけた。
「パスワードは何なんだ!?」
竜騎の慌てる姿をあざ笑うように、エラーの文字は出続ける。
考えろ――――。
竜騎は言い聞かせた。
「『装置』、脳、『部品』、フェリーア、『振動する白翼』……」
そういえば、フェリーアの白翼を前に一度見たことがある。
真っ白い、天使のような翼。
たくさんの白い羽が、フェリーアの静かな羽ばたきに連動して舞い散った。
「まさか!」
竜騎は画面をみた。
すでに1%。
「パスワードは……、『白翼』だ!!」
竜騎はエンターキーを素早く押した。
「間に合え!!!」
画面は真っ暗になり、どうなったのか分からない。
竜騎はただ、祈るばかりだった。