1話:少年と力
「くおらぁっ!!」
「ぶっとばすぞぉ!!」
後ろから数名の不良どもが、幾多の罵声を発しながら追ってくる。
「あーもぉーっ!」
その前を走るのは、少年の名は神島竜騎。
「くそっ、しつけぇなぁっ……」
竜騎は走るのをやめ、走り来る不良どもに向く。
「ぶっ潰せぇっ!」
相変わらず叫んでいる。
ふぅ……
竜騎はため息をつき、両手を前に突き出す。
右手はパー、左手はグー。
「両手に無の具を煮る力を!」
そして右手で左手を覆う。
「『素材錬成』!!」
ぱちんっと音がなり、竜騎は左手のグーを開く。
すると、次々に不良達が倒れた。
「ったく、面倒だな」
息を整え、家に帰るべく歩き出した。
『能力開発区』。
その名の通り、各人の能力を開発する区だ。
竜騎が通う『日本学園』の者は皆、開発区へ一週間に1回行くことが義務づけられている。
もちろん持つ能力の力の向上のためもあるが、他にも不備、欠陥がないか、能力の使用に対する反動がないか等、定期的に検査するためである。
基本的に竜騎は毎週水曜日に行っており、今日は水曜日。
日本学園がある、学習区からかなり開発区が離れているため、バスを利用するとかなり時間がかかるので、竜騎は電車を利用して行くことにしている。
「はぁ、面倒だな……」
正直毎週行う必要がないと感じている竜騎は、ため息をついた。
《次はー、開発区。開発区です。お出口はー、左側になります。お降りの際はー、足元にご注意下さい》
のんびりした車掌の声が、いつも通り電車内に響いた。
「さっさと終わらせるか」
小走りに開発区の開発局へ向かった。
「竜騎君入ってらっしゃい」
待合室で待っていると、いつも見てもらっている人に呼ばれた。
別に病院ではないが、言ってみれば主治医のような人である。
「さっさと終わらしてくれよ、寒川さん」
白衣を着た、長身の女性が出てきた。
彼女の名は寒川晴美。
能力支部の上層部の人間らしい。
なぜらしいかというと、本人が言うだけで、竜騎が実質確かめたわけではないからだ。
「はいはい、じゃ始めるわよー」
昨日と同じように両手を前に出す。
「両手に無の具を煮る力を!」
これは言霊であり、言わずに能力を使うと少し本来より力が劣るため、必ず言っている。
「『素材錬成』!」
今竜騎がいるのは、四方を正方形の青いタイルで囲まれた部屋。
目の前にはダーツで使うような的がある。
竜騎の能力である、『素材錬成』は右手で触れたものを素材にし、左手で錬成したものを使用する。
不良にしたのと同じように、素材は空気、錬成したものは空気砲である。
左手のグーを開くことで発射する。
竜騎の撃った空気砲は、的の真ん中を射抜き、粉々に粉砕した。
「OKよ。いつも通りね」
その的の上、透明ガラスのむこう側に測定室があり、そこに寒川がいる。
「てことは、力は上がってないのか?」
「そゆこと。いたって今までと同じクラスφ(ファイ)よ」
クラスφ。
持つ能力の大きさに応じてクラス分けされる。
つまり能力のランクである。
10段階になっていて、1から順に、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、δ(デルタ)、ε(イプシロン)、υ(ウプシロン)、φ、χ(カイ)、ψ(プサイ)、ω(オメガ)と割り当てられている。
竜騎はクラスφ、つまり7である。
けっこう高能力であるが、竜騎は不満らしい。
毎度向上していないことにイライラしている。
「そんなに簡単に上がるものじゃないわよ」
寒川に言われるいつものセリフ。
「ちっ、分かってるよ」
部屋からドアを乱暴に開けて出た。