異世界にだって予防接種はあります!
魔物と戦う主人公の使い魔、魔物を爪で切り裂き噛みくだく。
そんな使い魔って病気に感染しないの?と思い、書いてみました。
【第4作目】
「フェン、この後一緒に街へ出かけようか」
朝食後、勇者ロランがそう言うと、巨大な白銀のフェンリルは耳をぴくりと動かした。
『散歩か?』
「まあ、そんな感じだ」
『肉は?』
「帰りに買ってやる」
『行く』
即答だった。
ロランは内心ほっとする。
今日は年に一度の使い魔向け狂犬病……ではなく、『魔獣感染症予防接種の日』である。
もちろんフェンリル本人には秘密だ。
なぜなら。
コイツは注射が大嫌いだからである。
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予防接種の特設会場に近づくにつれ、フェンリルの鼻がひくひく動き始めた。
『……妙だな』
「何がだ?」
『使い魔が多い』
確かに会場の前にはドラゴンの幼体やら巨大トカゲやら、ケルベロスやらが列を作っていた。
中には飼い主に抱きついて震えているグリフォンまでいる。
フェンリルは目を細めた。
『祭りか?』
「そうそう、そんな感じ」
『楽しそうではないな』
ギロリ。
鋭い視線が勇者を射抜く。
ロランは冷や汗を流した。
さらに数歩進んだ瞬間。
フェンリルが立ち止まる。
鼻先がぴくぴく動く。
『この匂いに覚えがある』
「え?」
『……消毒薬』
ロランの顔が引きつる。
「な、なんだ?」
沈黙。
風が吹いた。
木の葉が一枚ひらひらと舞った。
『予防接種だな?』
「はい」
フェンリルは全力で反転した。
「待てぇぇぇっ!!」
勇者が飛びついて首を掴む。
しかし相手は神話級魔獣フェンリル。
白銀の巨体は弾丸のように走り出し勇者を引きずる。
だが。
「捕獲班、緊急展開!」
ぱあっと周囲の茂みから緑色の影が飛び出した。
エルフの看護師たちである。
全員が熟練者だった。
「魔法障壁、右側封鎖!」
「転移門展開!」
「逃走ルート遮断します!」
鮮やかな魔法連携であり、もはや軍隊のようだった。
『離せぇぇぇ!!』
フェンリルは泣きそうだった。
『我は終焉を喰らう神狼ぞ!』
「はいはい」
『魔王幹部を倒したこともある!』
「そうですねー」
『ちゅっ注射だけは嫌だぁぁぁ!!』
「はいはい」
看護師たちは慣れた様子で応じる。
完全に子供扱いである。
「フェン、頼む。すぐ終わる」
『嘘だ!』
「一瞬だ!」
勇者とフェンリルの言い争いが続く。
その時だった。
会場が一瞬、静まり返った。
看護師たちが一斉に道を開ける。
「先生、お願いします」
コツ……コツ……
杖をつきながら現れたのは、老齢のハイエルフ医師だった。
長い白髪、豊かな髭。
千年くらい生きていそうな風格。
彼は静かにフェンリルを見た。
「今年も来たか」
低い声でニヤりと笑みを浮かべた。
『帰る!』
即答した。
老医師は懐から一本の注射器を取り出した。
細身の水晶製。
だが。
先端で神々しく光っている。
キラァァァン。
『ひっ…』
フェンリルの後ろ脚が小刻みに震えた。
上擦った声で
『ロラン…』
「なんだ」
『わっ我は…健康だぞ?』
「知ってる」
『びょっ病気など…しておらぬ…』
「予防だからな」
『運動もしている』
「うん」
『好き嫌いもなくなんでも食べているぞ』
「うん」
『では…必要なかろう?』
「必要なんだよ」
老医師が一歩近づく。
フェンリルが一歩下がる。
もう神狼の威厳など欠片もない。
完全に診察台を嫌がる大型犬だった。
耳はぺたん。
腰は引け。
目はうるうる。
『せっ、先生…』
「なんじゃ?」
『今年は無しということで…』
「駄目じゃ!」
『来年2本打つと言うのは…』
「駄目じゃ!!」
そして。
老医師が微笑んだ。
怖い、とても怖い。
優しい笑顔なのに怖い。
歴戦の魔王すら震えそうな笑顔だった。
「よい子じゃ」
『わっ我はフェンリルだぞ!?』
「よい子じゃ」
『ぐぬぬ…』
看護師たちが押さえる。
勇者が頭を撫でる。
老医師が手際よく動く。
シュッ。
「終わりじゃ」
『……え?』
フェンリルは瞬きをした。
「もう終わったぞ」
『終わった?』
「終わった」
『本当に?』
「本当に」
フェンリルは呆然とした。
数秒後。
『……痛くなかった…』
「だから言っただろ」
『……』
「ほら」
『……』
「帰りに肉だ」
『肉!』
一瞬で機嫌が直った。
意気揚々と会場を出ていくフェンリルの後ろ姿を見送りながら、看護師のエルフが呟く。
「毎年この攻防ですね」
「毎年だね」
「世界を滅ぼせる魔獣なのに」
「注射だけは…駄目ですからね」
その頃。
帰り道。
フェンリルは胸を張っていた。
『見たかロラン!』
「何をだ?」
『ちゃんと逃げずに受けたぞ!』
「いや、ものすごく逃げたぞ」
『最後は受けた』
「まあな」
『褒めてもよいぞ』
「偉かったよ」
『うむ!』
尻尾をぶんぶん振るフェンリル。
そんな姿を見て、勇者は笑うのだった。
来年もたぶん同じ騒ぎになるだろう、と。
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犬を飼っている人にさされば良いかな~。
よければ、他3作も見てください。
①・コンビニ「アクマート」へようこそ!
②・魔王を倒した剣ですよ!没収ですか…
③・伝説の装備を手に入れたら「Version 12.4」って書いてあったんだが




